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10.相手の家だとキャラが変わるのは当然


「なるほどの……そんなことがあったのか」


 村長が俺の話を聞いてうーんと唸り声を上げた。ここはエマおばさんとゲインおっちゃんの家。俺とセリス、そして、大の男が三人いると若干狭い気もする。ちなみに、おばさんとアンヌさんはもてなしの料理を作ってくれている所。


 俺はセリスと一緒に地べたに座ってこれまでのことを包み隠さず話した。いや、軽く言ったけど3時間くらいかかったからね?正直、話疲れたってレベルじゃねぇ。


「気に入らん……まったくもって気に入らん」


「そうだな。気に入らない」


「おうよ。俺も二人と同意見だ」


 ゲインおっちゃんとティラノさんも渋い顔をしている。そんな三人を見てセリスは困惑しているみたいだけど、絶対お前が心配しているようなことじゃねぇぞ?


「「「お前にこんな美人な奥さんができることが気に入らん!!」」」


 ヒュッ……。


 息ぴったりで三人が言った瞬間、何かが眼前を横切った。見ると、よく尖れた包丁が見事に壁に突き刺さっている。冷や汗を垂らしながら三人がキッチンに顔を向けると、聖母のような笑みを浮かべたアンヌさんが立っていた。まじで怖い。


「いい加減にしないと、少ない村民が減ることになりますよ?」


 戦慄。まさにそれ。俺の事じゃないのに、俺まで股間が縮みあがる。


 俺を含めた四人の男がガタガタと震えていると、エマおばさんが焼き菓子をもってこちらにやって来た。


「私的にはアルカちゃんに会ってみたいけどね。クロの子供なら私達の孫みたいなもんだし」


「そうね。この年でおばあちゃんになるとは思っていなかったわ」


 アンヌさんも嬉しそうにくすくすと笑っている。


「さぁ、セリスさんどうぞ。大したものじゃないけどね。このへんでしか取れない木の実を使ったタルトよ」


「あ、ありがとうございます!いただきます!」


 セリスは緊張しながらも、ちゃぶ台に置かれたタルトに手を伸ばした。そんなに緊張することないのにな。結婚の報告をする時も「クロ様に嫁がせていただきます、セリスと申しましゅ!」て思いっきり噛んでたし。優秀なセリスにしては珍しい。そんなセリスを見てデレデレと鼻の下を伸ばしていた村長達はアンヌさんの氷の視線で身も心も震えあがっていたけど。あの目はクソの役にも立たないどこぞのヴァンパイヤの邪眼よりも効果がある。


「お、おいしいです!こんなおいしいタルトを食べたのは初めてです!」


「そう?そう言ってもらえると嬉しいわ。でも、そんなに緊張することないのよ?クロムウェルの奥さんになるんなら私達の家族になるってことだし」


「そうだぞ!この家を自分ちだと思ってくれていい!クロムウェルはくたばれ」


 おっちゃんがグッと握りこぶしを見せながらニカッと笑った。変な語尾がついていた気がするが気にしないことにする。俺も久しぶりのエマおばさん特性のタルトを頬張る。ん、んまい。これを食べると帰ってきた気がしてホッとするわ。


 エマおばさんが出してくれたタルトを食べ終わると、お茶を飲みながらの雑談タイムになった。


「それにしてもお前が魔王軍になぁ……」


 ティラノさんがしみじみといった雰囲気で呟く。


「意外?」


「いや全然」


 ティラノさんが軽い感じで言った。うん、この人ならそう言うと思った。


「楽しくやってるみたいだからいいんじゃないのか?なぁ、村長?」


「うむ。だが、手紙くらい出さんかこのバカ者」


「しゃぁあねぇだろ?俺はこっちの世界だと死んだことになってるんだから」


 唇を尖らしながら俺は答える。ないとは思うけど、万が一その事が知られたら面倒くさいことになるだろうが。もう既に色々と手遅れだけど。


「そういや、さっきロバート大臣が来ていたみたいだけど」


「あぁ、なにやら村にある勇者の遺物が目当てらしい」


「聞いてたから知ってる。で?どうするつもりなの?」


「子供のお前が心配することではない!……と、いつもの儂なら言うんじゃがもうお前は子供ではないからの。さて、どうしたもんか」


 村長はゆっくりとお茶をすすった。はっきり言って、あの豚がこのまま黙って引き下がるとは思えない。近いうち、下手したら今夜くらいになんらかの手段をとるだろ。


 俺が撃退してもいいんだけど、それだとみんなが俺と関わり合いがないっていう言い訳が使えなくなっちゃうんだよな。それに、こんかいあの豚を退治したところで、また別の奴らが来るだけだろうし。俺がこの村に生まれ育ったのは間違いないわけだし、根本的な解決にならねぇ。


 ……手がないわけじゃないんだけど、村のみんなが納得してくれるか自信がねぇ。あとあいつも。


「大丈夫ですよ」


 難しい顔で考え込む俺にセリスが優しく声をかけてきた。俺が顔を向けると、ニッコリと笑みを返してくる。こいつにはお見通しってわけか。


「……なんだか長年寄り添った夫婦みたいね」


 アンヌさんが少しだけ茶化すように言うと、セリスは顔を真っ赤にさせ俯いた。それを見た男性陣の顔が一様にだらしなくなる。……あんたら、いい加減学習しろっつーの。


 俺は咳ばらいを一つ挟むと、エマおばさんから拳骨を喰らっている三人に真面目な顔で向き直った。


「みんな……魔族領に来ないか?」

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