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9.最後まで責任が持てないなら、最初から育てようとするな

「ふぅ……ようやっと泣き止んだと思ったら寝ちまいやがった」


 腕の中で寝息を立てるアルカを起こさないよう優しく抱き上げると、俺はセリス方に顔を向けた。と、思ったらなぜかセリスは俺に背を向けている。なにしてんだこいつ?


「おい」


「えっ、あっはい。なんですか?」


 慌てて振り返ったセリスの顔を見て、俺は目を丸くした。


「えっ……お前何泣いてんの?」


「な、泣いてません!」


 いや目真っ赤ですやん。目の色ダークブルーなのに周り真っ赤とかホラーですやん。俺が呆れたように笑うと、セリスはムッとした表情を浮かべる。


「なんですか?なんか文句ありますか!?」


「いや……セリスのそういう顔、初めて見たなって」


「なっ……!!」


 顔を真っ赤にするセリスを見ながらニヤニヤと笑う俺。いやいや、こいつが秘書になったときにはどうなることかと思ったけど、意外といじりがいがありそうだな。堅物だけど。


 セリスは頬を膨らませながら、不機嫌そうな顔でプイっとそっぽを向いた。照れ方が若干古臭いぞ、セリス。


「さて、と。フェル……とと、魔王様に言われた仕事も終わったし、さっさと戻ろうぜ」


「あっ……一つ聞いてもいいですか?」


「ん?なに?」


 なんだよ、改まって。俺は早く戻って天井に巣食った蜘蛛の巣を撤去しなきゃならねぇんだ。朝はセリスのせいで完全に頭からとんじまったからな。気になって昼と夜しか眠れねぇ。

 つーか何もじもじしてんだよ。そんなに聞きづらいことを聞こうとしてんのか?俺はロリコンじゃねぇぞ?


「……なんで見ず知らずの魔族の子供にここまで?」


 へっ?そんなこと?身構えて損したわ。


「お前が言ったんだろ?この子はまだ子供だって」


「そうなんですが……この子は魔族、あなたは人間ですよ?助ける義理があるとは思えませんが」


 ははーん……そういうことか。根本的に俺とセリスの考え方がずれてるってことだな。


「魔族とか人間とか関係ねぇよ。親を失った奴がいるなら周りが助けてやる。それだけだ」


 少なくとも俺は村でそう教わったし、実際にそうされてきた。自分がしてもらったことを俺はやっただけだ。そうやって世界はまわっていくんだよ。あれ?今俺カッコいいこと言った?


 セリスは少しの間俺の顔を見つめていたが、身体の力を抜くようにフッと小さく微笑んだ。


「魔族も人間も関係ない、ですか……変わっていますね、クロ様は」


「うるせぇよ。別に変っちゃ……ん?」


 あれ?今こいつクロ様って言った?


「なにしてるんですか?早く戻りますよ。その子の事をルシフェル様に相談するんでしょう?」


「あ、あぁ。そうだな」


 そうだった。流れに身を任せて俺が守る、とか言っちゃったけど、俺って魔王軍の指揮官なんだよね。アルカの面倒なんか見れるわけもねぇわな。

 まぁ、アルカを育ててくれる人を探して俺がバックアップしてやればいいだけの話か。里親探しは我らが魔王様に全て委ねることにしよう。


 俺はアルカを抱きながらセリスの肩に掴まり、魔王城へと帰っていった。



「なるほろねぇ……ほんなことはったんか……」


 もぐもぐとケーキを食べながらフェルがアルカを見つめる。とりあえずケーキ食うのを止めろ。

 フェルの部屋に来る前に目を覚ましたアルカは、緊張した面持ちで俺の隣に立っている。その手はしっかりと俺のコートを握っていた。

 フェルは紅茶で口の中のケーキを流し込むと、アルカに笑顔を向ける。


「大変だったねぇ、アルカ。でも、大丈夫。僕は魔王様だからアルカのことを大切に育ててくれる人を探してあげるよ?」


 おぉ!流石は魔王!俺が頼むまでもなかったな!これでアルカも一人寂しく生きていくことはないだろう。

 だが、アルカは表情を曇らせ、首を左右に振った。


「ん?アルカは新しいお父さんとお母さんを望んでいないのかな?」


 アルカは再び首を振って否定する。どうしたアルカ?目の前の男が胡散臭くて信用できないのか。それは分かる。非常に分かるが、そこは腐っても魔王。いや、腐ってる魔王が力になってくれるぞ?


「クロ……今失礼なこと考えてたでしょ?」


 ジト目を向けてくるフェルから何食わぬ顔で目をそらす。この短期間にお前がやった所業を考えれば当然の事だ。


 そんなことを考えていると、アルカがゆっくりと俺のことを見上げた。


「……アルカはパパと一緒がいい」


 パパ……パパ?パパってなんだっけ?食べ物?

 少し意外そうな表情を浮かべたフェルがアルカに優しく問いかける。


「アルカ……パパはアルカの村を襲った人達と同じ人間だけどいいのかい?」


 おい。さらっと俺をパパ認定するんじゃねぇよ。そんな老けてねぇっつーの。人間だけどもさ。

 アルカは激しく首を左右に振ると、フェルの顔をまっすぐに見つめる。


「パパは……パパは人間だけどそんなの関係ない!!だってパパも言ってたもん!魔族とか人間とか関係ないって!!」


 あぁ、それは言ったねぇ。っていうかアルカ起きてたんだ。狸寝入りを決めこんでいたとは、中々に骨のある子じゃねぇか。


「アルカはパパと一緒にいたい!!」


 アルカが必死に俺の足にしがみついてくる。えっ、なにこの子、めちゃくちゃ可愛いんですけど?死ぬほど撫でまわしたいんですけど?

 だがアルカよ、俺は一応魔王軍の指揮官なのだ。この多忙な身に子供を持つことなど魔王が許しはしない。


「だったら、パパと一緒に暮らすといいよ」


 即答かよ。まぁ、初めからわかってたけどさ。でも、これだけは言っておかにゃならん。


「アルカ」


 俺は膝を曲げ、アルカの視線まで目線を下げる。


「俺は魔王軍の指揮官だ。だから家を空けることもしょっちゅうあるかもしれない。それでもアルカは寂しくないか?」


「パパと一緒なら何でも耐えられる!パパと離れる方が寂しい……」


 やだ、なにこの子?子供ってこんなに可愛い生き物だっけ?俺は思わず目の前にいるマイエンジェルを抱きしめた。


「よし!これで今回の仕事は一件落着かな?めでたしめでたしで良かったじゃないか」


 うーん、なんとなくフェルの手のひらの上で踊らされているような気がしないでもないが、まぁ今回はこんなかわいい娘ができたんだこれで良しとしよう。


「じゃあ今からは自由時間ってことでいいか……いいですか?」


「ん、いいよ!」


 そうと決まれば、早速家に帰って昨日の掃除の続きをせねば!アルカの部屋も片付けなくちゃならないし、大変だぜ!ってアルカの服とかベッドとか買うお金がねぇ!!……ってか魔族領にお店とかあんのけ?


「フェ……魔王様、給料とかってないんですか?」


「給料は月単位で払っているんだけど……そうだよね。アルカの物が必要だよね。今回の報酬はお金じゃなくて物でもいい?セリスに頼んでアルカに必要なものを買って来させるよ」


 ほうほう。それは嬉しい提案だ。魔族な上に女の子だなんて、何が必要なのか俺には皆目見当がつかないもんな。セリスが買って来てくれるなら間違いないだろう。

 俺が目を向けるとセリスは笑顔で頷いた。


「任せてください。秘書として職務を全うします」


 あ、あれ?なんか最初と反応違くない?


「お、おう、助かるわ」


 若干戸惑いながらも、俺は頷いて答えた。ま、まぁ、セリスもこう言ってくれてることだし、今回は魔王の言葉に甘えるとしよう。

 セリスは俺と同じように腰を落として目線をあわせると、優し気な笑みをアルカに向けた。


「私がアルカに必要なものを買ってきてあげますからね。アルカはクロ様と一緒にお家のお掃除をしていてください」


「うん、わかった!パパと一緒に頑張る!」


 おーおー癒しだな。アルカの身体からはマイナスイオンがでまくりんぐ。俺もセリスも顔が緩みっぱなしだぞ。


 でも、うちの娘は癒すだけが取り柄じゃないんです。ちゃんと爆弾を投下することもできるようです。




「早く帰ってきてね、()()!」




 その一言で俺とセリスの笑顔が凍り付く。楽しそうに笑っているのはフェルとアルカだけ。

 そんな俺の心に浮かんだ言葉は一つ……どうしてこうなった。



 翌日、俺とセリス、そしてアルカの三人は再び村に戻ってきていた。


 目的は二つ。


 一つは生き残りを探すこと。……だが、これは正直絶望的だろう。人間達が恐怖の対象である魔族を取りこぼすとは思えない、俺が人間だからよくわかる。


 だから、二つ目の目的が本命だった。


 それは犠牲になった魔族達の墓を作ってやるというもの。


 その話を昨日した時、セリスは驚いていたが、フェルは笑顔で快諾してくれた。本当ならアルカを連れてくるつもりはなかったのだが、本人が強く希望したので仕方なく一緒に連れてきた。

 自分と苦楽を共にしていた仲間達の成れの果てを見るのは辛いことだと言うのに。本当に強い子だ。


 俺達は一通り村の中を歩き回る。予想どおり、村で息をしている者は誰一人としていなかった。


 魔族の死体は村の中心に集め、一気に埋めてしまおう、という事になったので俺とセリスは手分けして死体を運んでいく。


 そして、ある家まで来た時、俺に着いてきていたアルカの足がピタッと止まった。


「パパ……ママ……」


 その言葉だけで全てを理解する。俺は二人仲良く寄り添うようにして生き絶えている夫婦に目を向けた。

 刀で首元を斬られているな。首から血を流している以外、外傷がないのが不幸中の幸いか……そんなわけねぇよな。


 俺は二人に手を合わせ、丁寧に担ぎあげるとアルカの方に声をかける。


「大丈夫か?」


「……うん」


 アルカは俯きながら、俺の服をギュッと握りしめた。俺はあえて何も言わずに二人を運んでいく。


 村人の死体を集めたところで、俺は地属性魔法により適当な大きさの穴を掘った。そして、その中に犠牲となった魔族達を葬っていく。


 魔族の死体を穴に入れ、上から土をかぶせた。アルカがどうしても、というので木で作った十字架をアルカの手で立てさせる。


 出来上がった簡素的な墓に三人で手を合わせた。目を瞑って黙祷を捧げていると、隣から囁くような声が聞こえる。


「パパ……ママ……アルカはこれから頑張って生きていきます。だから、アルカの事をお空で見守っていてください」


 少しだけ震えているけど、芯のある声。それを聞いた俺は心の中で決意を固める。


 アルカは責任を持って俺が育て上げます。おこがましいとは思いますが、安心してお眠りください。


 話したこともない、顔を見たのも今日が初めての相手に、俺は一方的に誓いを立てた。



 そんなこんなで嫁もいないのに娘ができました。ハックルベルのみんな、俺は父親になります。俺が村のみんなから受けた愛情をそのままアルカに注ぎ込むから、俺達のことを温かく見守っていてください。

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