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12.誰かの家に来たらまずノック


「親父は当分戻らないって言っただろうが!さっさと帰りやがれ!」


 シッシッ、と門番の男が面倒臭そうに手を払う。いつもと同じ反応すぎて、若干安心感すら覚えるわ。


「それは昨日も聞いたが、もう一週間だぞ?いい加減帰ってきてもおかしくないだろ」


「親父はお前みたいに暇じゃないんだ。一月ぐらい戻らない事だってザラなんだよ」


 門番の男が俺の顔を見ながらバカにしたように鼻で笑う。えっなに?俺が暇そうに見えんの?もしそう見えるなら、どっかのバカ虎が全然帰ってこなくて仕事にならねぇからだろうが!

 この筋肉ダルマ、完全に俺の事を舐めてるだろ。やっちゃっていいかな?やっちゃっていいよね?


「クロ様」


 俺が魔力を練り上げようとした瞬間、後ろに控えるセリスが怖い顔を向けてきた。よ、よーし!もう少しだけこの筋肉ダルマに猶予をやろう!俺は心が広いからな!

 セリスはゆっくりと前に出ると、筋肉ダルマと向きあった。


「こちらも遊びで来ているわけではないんです。ライガが戻る明確な日時を教えるか、ライガ不在の『サバンナ』を視察させるか、どちらか選んでください」


 落ち着いた声ではあったが、逆らい難い口調でセリスが告げる。セリスも大分鬱憤が溜まってるんだろうな。俺も筋肉ダルマも若干タジタジだぞ。


「ア、アンタが凄んだどころで変わらん!親父が戻る日なんてわからねぇし、親父がいない間は他所者を『サバンナ』に通すわけにはいかねぇ!」


 それでも流石は勇敢な獣人族といったところか。セリスにビビりながらもきっちりと門を死守しやがった。ちょっとだけ見直したぞ。俺なら2秒でその場を離れる自信がある。


「……そうですか」


 威圧はしても実力行使には至らないのが理性的な俺の秘書。セリスはため息を吐きながら後ろに下がると、口を閉ざした。こりゃ、今日もダメな感じか。


「出直すしかねぇみたいだな」


「ようやく理解したのか!最初からそう言ってるっていうのによ!」


 こいつ……俺の時は強気に出やがって。気持ちはわかるが、納得いかねぇ。

 俺は舌打ちをしつつ、踵を返し歩いて行く。セリスも黙って俺の後についてきた。そんな俺達に勝ち誇った表情を浮かべながら、筋肉ダルマが声をかけてくる。


「ったく、無駄な時間を取らせやがって……。指揮官だかなんだか知らねぇが、余計なことに首を突っ込まねぇで、家でおとなしくガキのお守りでもしてりゃいいんだよ!脆弱な人間なんかに滅ぼされるような情けねぇ種族の憐れなガキのなっ!」


 ピタッ。


 俺の足が止まる。


「……セリス?」


 俺が顔を向けずに話しかけると、セリスはすぐに返事を返した。


「愚かすぎて何も言えませんね。止められないのもわかっていますし、止める気もありません」


 よし、お目付役のお許しを得た。


 俺は静かに振り返ると、門の方へと歩いて行く。


「な、なんだよ!?」


 警戒心を露わにした筋肉ダルマを無視して、俺は門の前に立つと、一気に魔力を高めた。


「て、てめぇ!な、何するつもりだ!?」


 ん?なにって、他人の家に入る時はまずノックするのが常識だろ?


 俺はなにも言わずに門の前に手をかざす。組成するのは地属性の一種(ソロ)上級魔法(トリプル)


「"誰かいませんか?ノック・ロック・ノッカー"」


 現れた巨大な岩の拳に筋肉ダルマは目を見開いた。俺が手を動かすと、岩の拳も俺の動きに合わせて、手の甲を門の方へと向ける。


 ごめんくださーい、誰かいませんかー?


 ドォォォォーン!!


 おっと、力加減を間違えてドアごとぶちのめしちまった。失敗、失敗。


 大して悪びれることもなく、俺はスタスタと歩いて行き、敷居を跨ぐ。


「ちょ、待ちやがれっ!」


 そんな俺を引き止めようと、筋肉ダルマが慌てて俺を追おうとするが、その前にセリスが立ちはだかった。

 セリスは無言で氷のような視線を筋肉ダルマにぶつけると、颯爽と俺の後に続く。あれ?もしかしてセリスさんも怒ってらっしゃいます?


「な、何事だ!?」


 初めの方はポカンっとした表情で見ていた奴らがこちらに駆け寄ってくる。俺はそいつらを一瞥しながら『サバンナ』の様子を眺めた。

 うーん、思った通りなんの面白みもない場所だな。なんかいたるところに布が当てられた丸太が植えてあって、紐で囲われた四角いリングが沢山あるだけだ。まじでこの種族は自分を鍛えることにしか興味がないらしい。


 門番の筋肉ダルマが集まってきた仲間達に事情を説明している。それを聞いた奴らが顔をしかめて、俺とセリスを睨みつけた。


「指揮官とはいえ、随分不躾なんじゃねぇの!?」


「これが人間のやり方かよ!?」


「舐めんじゃねぇよ!殺すぞ!?」


 なにやら外野が騒がしくなってまいりました。マッスル自慢の野郎どもがいきり立っているが、俺には関係のない話だ。


「うるせぇな。視察にきただけだろうが。ギャーギャー喚くな」


「視察?虐殺の間違いですよね?この種族は脆弱な人間の手によって滅ぼされた方が良いと思いますが」


 おこだよ!セリスさんがめちゃくちゃおこだよ!アルカに関して、最近は専ら俺より沸点が低いセリスさんが激おこだよ!


「滅ぼすだと?下等な種族の分際で言ってくれるじゃねぇか!」


 いや、俺は言ってないんだけど。なんでみんな俺の方しか見てないの?なんでセリスとは目もあわせようとしないの?


 まぁ、俺もおこだからいいんだけどな。


「別にそんな気は無いけどな。かかってくるなら相手になってやるよ」


 俺は人差し指を立て、牙を立ててる猛獣どもに向けてクイクイと動かす。おうおう、清々しいくらいの殺気を全身に感じるぜ。これはお祭りの予感か?


「―――何してんだ?お前ら」


 まさに一触即発のこの場でドスのきいた声が響き渡る。その瞬間、俺に向けられていた無数の視線はそちらへといき、凄まじい緊張感が辺りを包んでいった。ただ一人俺だけが射殺すような目でこちらを見ているライガにゆったりと目を向ける。

 

 とりあえず、あれだ。


 今まで会ってきた街の長の中で、一番ファーストインプレッションが悪いな。


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