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9.久しぶりの相手に会った時に名前がわからなかったら素直にあきらめろ


 弱肉強食の地・ゴアサバンナ。


 強さが全てである地。力の無い者は強き者の糧となり、この地で生きて行くことなど、到底叶わない。


 そんな殺伐とした街だとばかり思ってたけど。


「……割と普通の街だな」


 俺はゴアサバンナを見渡しながら拍子抜けしていた。率直な感想は一時代前の街並みだ。


 広さはアイアンブラッドと同じくらいか?だが、建物の種類が違う。アイアンブラッドでは土や石灰、粘土や樹脂などを混ぜ合わせた特殊な素材で作られた頑強な建物だが、この街の建物は土のみで固められた四角いものがほとんどだ。どっかの遺跡に来たみたい。


「そう……ですね」


 俺の言葉に、隣に立つセリスは曖昧な態度で答えた。


「ん?なんか腑に落ちないのか?」


「いえ、ゴアサバンナは他の街に比べて訪れることが少なくて……一度か二度くらいしか来たことがないので詳しくわからないんですよ」


「そうなのか?」


「はい。長がライガということもありますが、獣人族の役割は資材調達ですからね。諜報や人間達との流通をメインとしている私達悪魔族は、ほとんど関わることがないんです」


 なるほど。だから、物作りに従事しているデュラハン族や精霊族が街で目につくのか。ゴアサバンナまで資材を取りに来ているんだな。魔人族の姿も見えるのは、こっちは食料供給のためだろう。


 つーか、肝心の獣人族の姿がほとんど見当たらないんだが?


 さっきから街中を適当に歩いて、結構な数のお店は見かけるが、獣人族の店員が見当たらない。街を歩いている者も、それらしい奴はちらほら見かけるけど、その人数では獣人族の街とは到底思えない。


「なぁ、本当にここは獣人族の街なのか?全然いないけど」


「間違いないはずです……ですが、クロ様の言う通り、獣人族の者が余りいませんね」


 セリスは眉を寄せながら首を傾げた。俺が今まで行った街は、確かに他の種族もいたが、その街の種族が大半を占めていた。ここまで見当たらないってのは、もはや不自然さすら覚える。


「あそこにいるのかな?」


 俺は街の中心にある石造りの巨大な円形の建物に目を向けた。だが、セリスは首を左右に振ってそれを否定する。


「あそこは確かコロッセオと呼ばれる施設だったと思います。お城にある闘技場のようなものです。あの場で獣人族同士の戦いが催されると思いますが、それでもここまで獣人族がいないのは異常です」


 はぁ……自分達の街に闘技場を作るとは相当だな。ライガの考えそうなことではあるが。となると獣人族はどこにいるんだ?


「おっ!とびきりの美人にその冴えない面はセリス様と指揮官さんじゃねぇか!」


 俺が考えを巡らせていると、後ろから野太い声がかけられた。って、冴えない面って俺のことか?よし、ぶっ飛ばしてやる。

 俺が顔を顰めながら振り返ると、見覚えのあるオーガの男がこちらに手を振りながら近づいて来た。誰だっけ?確かフィッシュタウンで面識があったような……。


「えーっと……ダニエルか?」


「そうだよ!久しぶりだな!」


 ダニエルは俺たちのもとまで来ると、抱えていた大きな荷物を地面に降ろす。よかった、名前あってた。


「お久しぶりです、ダニエルさん」


「セリス様は相変わらずの美しさだな!まったく、指揮官様が羨ましいぜ!」


「ふふっ、ありがとうございます」


 豪快に笑うダニエルに、セリスが少し頬を赤らめながら微笑みかけた。あの時とは関係性が違うから、セリスが褒められると素直に嬉しいな。だが、声がでかいのはいただけない。耳がキンキンすんだよ。


「二人がここにいるってことは、ゴアサバンナの視察か?」


「そうだよ。ダニエルは魚の配達ってところか?」


「あぁ!」


 俺が置いてある荷物に目を向けると、ダニエルはニカッと笑って力こぶを作った。だが、すぐに眉を顰めて指で顎をなぞる。


「ていうか、視察ならここじゃなくて『サバンナ』に行かなくていいのか?」


「『サバンナ』?」


 なんだそれ?俺が隣に目を向けると、セリスも知らないようだった。


「なんだ、セリス様も知らないのか。まぁ、この街に来ることなんてないだろうからそれもしょうがねぇか。ほれっ、あそこ見てみろ」


 ダニエルが指差した方へと顔を向けると、少し離れた所に極太の丸太が隙間なく敷き詰められているのが目に入った。なんだありゃ?


「あのバリケードで囲まれた場所が『サバンナ』って言われる場所だ。あの中で資材調達に行ってない獣人族達が集まって、日々訓練してるんだよ」


 あー騎士団の鍛錬場みたいな感じか。あいつらは城の中で訓練をしてたけど、城なんかないから獣人族は訓練する場を自ら設けたってわけか。


「つーことはあそこに行かないと獣人族に会えないって事か」


「そういう事だ。長のライガ様はいるかわからないけどな。あの人はよく狩猟部隊を率いて外に行っちまうからな」


 落ち着きがないあいつらしいな。まぁ、いない時の事は後で考えるとして、今はその『サバンナ』って所に行ってみるしかねぇな。


「とりあえず『サバンナ』って所に行ってみるよ。サンキューな」


「おう!たまにはアルカちゃんも連れて魚でも食べに来いよ!」


 ダニエルはそう言うと、荷物を抱えてどこかへと歩いて行った。ふむ、ガサツだがいい奴には違いない。ただ、俺のことを冴えない面だと言ったことは許してないからな。


「ダニエルさんに会えて助かりましたね」


「そうだな。早速行ってみるぞ」


 そう言いながら俺が歩き出すと、セリスは頷き後ろについてきた。

 『サバンナ』か……一体どんな感じなんだ。騎士団と同じように色んな身体を鍛える器具が置いてあるんだろうな、それこそ脳筋なら泣いて喜ぶような。残念ながら俺には無縁の話だ。


 ダニエルと話した所から30分くらい歩いたところで、目的の場所に辿り着いた。あれだな。遠目から見たときはふーん、って感じだったけど、いざ目の前に丸太の壁が現れると威圧感が半端ないな。丸太の先が鋭利に尖ってるし、どっかの蛮族かよ。


 『サバンナ』へと入る門らしきものを見つけたので、俺はそこに立っている二人のマッチョな男のうち、近い方に声をかけた。


「『サバンナ』の中に入りたいんだけど?」


「あー?誰だてめぇ?」


 ……随分態度悪いな。トップがあれだと下も程度が知れるってもんだ。

 俺が声をかけた男が訝しげにこちらを見てくる。もう一人の男が俺の隣に立つセリスを見て何かに気がついた。


「おい……あれ」


「っ!?……ってことはこいつが例のやつか」


 男達の目が怪しい奴を見るものから警戒するようなものに変わる。俺も有名になったもんだ。セリスのおかげで正体に気がついてもらえた気がしないでもないが。


 セリスに気がついた男は門の隣ある小さな出入り口から中に入っていき、もう一人の男が俺達の方に向き直った。


「……今日は親父はいない。お前らを通す意味はないな」


「意味があるかないかは、お前が決めることじゃねぇけどな」


 俺がつまらなさそうに言うと、スッと男の目が鋭くなる。こういう奴は沸点が低くて本当に困るな。


「まぁ、そう怖い顔すんな。ライガはいつ頃帰ってくるんだ?」


「俺達の仕事は資材の調達だ。十分な資材が集まるまでは帰ってこねぇ」


 つまり、わからないってことか。こいつは面倒臭いことになったな。さて、どうすっか。


「セリス」


 俺が意味ありげに視線を送ると、少し悩んだようであったが、セリスは何も言わずに首を横に振る。強行突破はダメ、ってことか。

 確かに、ただでさえライガとの関係はいいとは言えないからな。そんなことしたら本当に視察どころじゃなくなる。


「そうか、ならしょうがねぇな。また来るわ」


 俺は軽く肩を竦め、あっさりと踵を返す。門番の男は返事をしなかったが、その目が俺を睨みつけているのをビシビシと背中に感じた。バカめ、お前のションベンくさいガン飛ばしなんて屁でもねぇわ。セリスの氷の微笑みアフェクション・スマイルを受けてきた俺が動じるわけねぇだろ。


 俺はいつまでもこちらを睨んでくる男を無視して、セリスを連れてさっさとこの場を後にした。


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