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7.カタカナって似てる形多いよね

個人的にすごい好きな話

 景気づけとばかりに酒を飲みまくった俺は、ギーに案内されながら若干千鳥足で街の中を歩いていく。隣にいるボーウィッドはまだ心配そうに俺を見ているが、なーに問題なんて何も起こらねぇだろ!この街じゃ日常茶飯事なことだしな!


「ここだ」


 ギーの声に反応し、目を向けると、俺たちの戦いには巻き込まれなかったのか、かなり豪華な建物がそこにはあった。照明魔道具がこれでもかと散りばめられており、夜だというのにかなり目がチカチカする。


「ここがお前らに壊されてなくてよかった。チャーミルでもトップクラスに評判のいい店だからな。見た目的にも技術的にも」


 技術的とはどういうことなんですかね?小一時間くらい問い詰めたい。


「とりあえずクロはローブから顔を出すなよ」


 ギーの言葉に、俺は被されたローブ越しに頷いた。なんでも、俺はこの街で有名人だから姿を隠して移動した方がいいって言われてな。知り合いに見られてセリスに報告でもされたら、明日の朝日は拝めないだろう。


 いや!これはセリスのためなんだ!笑って許してくれるだろう!……でも、バレないように最善は尽くしていこう。


 俺があれこれ自分に言い訳をしているうちに、受付を終わらせたギーが戻ってきた。


「待たせたな。この店でもとびきりの女を指名しておいたぞ。名前はセリーヌちゃん」


「セリーヌちゃん……」


 名前からしてエロ可愛い。しかも、女にうるさいギーがとびきりだと言っているんだ、いやが応にも期待は高まるってもんだ。


「じゃあ、俺達はこの辺で帰るから」


「……兄弟……またな……」


「おう!男になって帰ってくるぜ!」


 サキュバスのお姉さんに手を引かれながら、俺は二人にサムズアップをした。ギーもボーウィッドもサムズアップを返してくれたが、やっぱりボーウィッドの表情は晴れない。大丈夫だ、ボーウィッド。この店の個人情報保護力を信じろ。


 少し歩いたところで、使う部屋を指示される。案内された部屋に入り、一人になったところで、俺はローブを脱いだ。


 とりあえず高鳴る心臓を抑えるべく、俺は部屋を見回す。魔道具により灯りはともってはいるが、なんとなく薄暗い。だが、それが雰囲気的にグッドな気がしなくもない。

 ちょっとした机や椅子が置かれ、奥には魔道具シャワーの浴室がありそうだ。

 そして、気になるのは部屋の中心にあるハート型のダブルベッド。ふとんも枕も何もかもがピンク。……これは確かにやましい気持ちになる。


 と、と、とりあえず、身体を洗っておくのがマナーだよな。こういう店のルールは知らないけど、絶対飲み屋で汗かいたし、シャワーを浴びるのがエチケットのはず。


 そうと決まれば、早速……と、言ってもお酒と期待で身体が火照りまくってるからお湯なんか使わない。頭から水をかぶって落ち着かなければ。

 しばらく滝行をやったけど、煩悩は一切消えていかなかった。むしろ妄想が膨らみすぎて鼻血出るかと思ったわ。


 備え付けのタオルで身体を拭き、裸で待っているべきか一瞬迷ったのちにさっきまで着ていた服を着ると、俺はベッドに腰掛けた。


 全くと言っていいほど胸のバクバクがおさまらない。俺はこのまま死ぬんじゃねぇか。いーや、まだ死ぬわけにはいかないんだ。


 いーか、クロムウェル。今日はスポーツの指導を受けるんだ。やましい事なんて何一つない。だから、興奮する事なんてないんだ。あくまで冷静沈着。そして、セリスのために教えを乞う事を念頭におけ。


 そ、それにしても遅いな。結構長く冷水を浴びていた気がしたんだけど、思っていたよりも早く浴び終えちゃったのかな?とりあえず座して待つしかない。

 確かセリーヌちゃんだっけか?どんな子なんだろう……見た目も大事だけど、中身も大切だよな。優しく教えてくれる子ならいいけど……まぁ、ギーがとびきりの女って言ってたくらいだから、見た目は心配する事ないだろ。

 ところで、なんて呼べばいいんだ?セリーヌ?セリーヌちゃん?いや、意外と名前を呼ばずにお前とかのがいいのかな?

 やばいやばい。どんどんテンションが上がってしまってる。楽しむのが目的ではない、スキルアップが目的なのだ。だが、一応身体は懇切丁寧に洗ってきた。


 トントン。


 ドキーンッ!!


 突然のノックの音に呼応して、俺の心臓が弾けかける。


「ど……どうぞ」


 声が裏返りそうだったので、ボーウィッドの声真似で返事をした。よし、緊張していないように聞こえたはずだ。流石はボーウィッド、いなくても優秀な男よ。


「失礼します」


 柔らかい声と共にゆっくりと扉が開けられる。そして、入ってきた女性を見て俺は思わず息を呑んだ。


 それはあまりに美しい女性であった。


 セリスのようなウェーブのかかった金色の髪。

 セリスのような美貌を兼ね備えた顔。

 セリスのような美しい佇まい。

 そして、セリスのようなわがままボディ。


 ここまで綺麗な女性はセリス以外に見たことがない。





 ………………………………ていうかセリスじゃね?




「チェンジで」


 脳を介さずに言葉が出た。だが、セリーヌちゃんの笑みが深まったのを見てすぐに後悔する。


 俺は光の速さで床に降り、足を揃えて正座になると、深々と地面に頭をつけた。


「どうしたんですか、お客様?ベッドの上で踏ん反り返っていてもかまわないんですよ?」


「いえ、このままの姿勢でお願い致します」


 穏やかな声色なのに何故か鳥肌が立つ。頭なんかあげられるわけがない。

 つーかセリーヌってそういうことかよ!確かに「ヌ」と「ス」って似てるよねー、こりゃ一本取られたわー……って、やかましいわっ!


 やべぇよやべぇよ。かつてないやばさだよ。どれくらいやばいかってまじでやばい。


「あの……セリス様は何故このような場所に?」


 沈黙に耐えられなくなった俺が恐る恐る尋ねてみる。もちろん、顔面は地面に擦り付けたままだ。

 セリスはすぐには答えなかった。だが、顔を見ることはできない。そんな事をしてしまったら、俺の弱小の心臓が活動を停止してしまう。


「…………お爺様がかなりアルカの事を可愛がってくださっているようで、アルカと一緒に私も夕飯をご馳走になっていたんですよ」


 なんと抑揚のない声。音楽で言ったらずっとドの音を弾いてる感じ。オクターブすらない。


「そろそろ小屋に帰ろうとしていたのですが、屋敷にギーとボーウィッドが訪ねてきましてね。面白い話を聞かせていただいたので、たまらずこちらに来てしまいました」


 ……あの緑のハゲは絶対に許さない。絶対にだ。


 呼吸が乱れる。動悸を感じる。冷や汗が吹き出す。身体が震える。手足が痺れる。全力で俺の身体は自分の死期を悟っている。


「そういえば、ギーから二つ、ボーウィッドから一つ言伝を預かっています」


「言伝ですか……?」


 まさかボーウィッド……こんなにも愚かな俺に救いの手を差し伸べてくれるというのか?地獄の釜に片足どころか全身浸かっている俺を助け出すというのか?いや、ボーウィッドなら希望が僅かにある!ギー?なにそれ?美味しいの?


「まずはボーウィッドから『……力になれなくて済まない……』」


 兄弟ぃぃぃぃぃ!!おまえでも無理だったのかぁぁぁ!!

 地獄から抜け出すためにたぐり寄せた一筋の糸すら、あっけなく切れてしまった。


「続いてギーの言伝です。『俺たちの妹分を泣かせた罰だ、甘んじて受けろ』」


 ……妹分ってフレデリカの事だよな。


 あの卑怯者めがっ!反則だろっ!!それを言われたら文句言えねぇじゃねぇか!!


 ちくしょう……それが理由ならギーを恨むに恨めねぇよ。義理堅いやつだとは思っていたが、俺が気分で交わした兄弟盃を大事にしてくれてるとは。そんなん知ったら八つ当たりできなくなるっつーの。


「それともう一つ、『惚れた女がいるのに他の女にうつつを抜かしてんじゃねーよ。あと、俺より先に幸せになるとか、なんかムカつく』だそうです」


 前言撤回、あの緑の害獣はこの世から抹殺するべし。


 だが、それには一つ問題がある。


 それはギーよりも先に俺の方がこの世から抹殺されそうだ、という事だ。


「では……伝える事も済みましたし、私と少しお話ししましょうか?」


 俺は微笑を携えながら静かに近づいてくるセリスを気配で察しながら、土下座をしたままこの世界に別れを告げた。


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書籍化に伴い、特設ページを作っていただきました!下記のリンクから足を運んでみてください!
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