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3.待ち時間は妄想を膨らませるスパイス

 結局、セリスが気に入ったダブルベッドを購入した俺達は、ついでに部屋に置くタンスや机を買って小屋へと戻って来た。食器とかはセリスがここでご飯を食べるようになった時に用意してあったからな。必要なのはそれぐらいなもんだ。


 帰ってきた俺はすぐさま買ってきたものを二階へと運んでいく。とはいっても、収納魔法に入っているから重労働ってわけじゃないけどな。

 セリスの指示を受けながら、どんどん家具を置いていく。元々俺の部屋に置いてあったものも、全部二階へと運び入れた。今更同じ部屋をどうこう言うつもりはない。それよりも、もっとヤバい事になったからだ。


 その後はいい時間になったということで、いつものように三人で夕飯を食べたのだが、正直記憶が曖昧だ。ってか、ダブルベッドを買ってから、今日の就寝の事で頭がいっぱいで、他のことなんか考えている余裕がない。ご飯を食べながらアルカと話したことすら覚えていないとか、我ながら重症だと思う。


 そして、気がついたらベッドに横になっていた。まじでそれまでの記憶がない。さっきまで、引っ越し作業をしていたような気が……あっ、でも風呂に入ったような気がしないでもないような。


 俺は布団にくるまりながら、とりあえず爆音を鳴らしている心臓を落ち着かせる。確か今はセリスがアルカとお風呂に入っているところだ。女性はなんだかんだ風呂上がりとか時間がかかるから、それまでに平常心に戻らなければ。


 それにしてもアルカとお風呂か……いつもは俺と入っていたのに、セリスが来たからその回数も減るんだろうな。なんとなく寂しいぜ。ここの風呂は結構広いから今度三人で……。


 いやいやいや!俺はバカか!?そんなん理性を保てるわけねぇだろ!!


 落ち着け俺!全ての煩悩を解き放て!いや、解き放っちゃまずいだろ!打ち消せよ!セリスは風呂に入っているだけだ!別にやらしい事でもなんでもないだろ!

 それに、あいつがここの風呂を使うのは初めてじゃないじゃねぇか!ほら、あいつがオーガの街でべろんべろんに酔っ払った翌朝。俺がシャワーを浴びようと浴室のドアを開けたら裸のあいつが……………………鼻血出てきた。


 やべぇよやべぇよ。思いのほか舞い上がってるぞ。いや、舞い上がってるっていうのか?とりあえず血圧が上がっていることだけは確かだ。顔が火照ってどうしようもない。


 オッケー、一旦クールになれ。この状態でセリスが来たら俺は狼になりかねない。そして、そのまま去勢コース真っしぐらだ。それだけは避けねばならない。幸い時間はまだある───。


「お待たせしました。もう寝てしまいましたか?」


 と、思っていた自分の浅はかさを小一時間説教したい。


「あ、あぁ、いや、ちょっとうつらうつらしてたかな?流石に引っ越し作業は疲れ……」


 俺はセリスの方に目をやり、そのまま姿勢で硬直する。

 風呂上がりのセリスは白いレースのネグリジェ姿であった。別にスケスケのエロいやつではなく、上品なセリスらしい寝間着なのだが……なんだか新鮮で、見てるだけで頭がボーっとしてくる。


「どうしました?」


 セリスが不思議そうに首をかしげるのを見て、俺は慌てて視線を逸らした。やべぇなんてレベルじゃねぇ。こんなの耐えられるわけがない。


「……なんでもない」


 極力素っ気ない感じで言って、俺は寝返りを打ってセリスに背を向ける。これ以上見てるのはあかん。幻惑魔法ならぬ魅惑魔法にかけられる。


「失礼します」


 セリスは静かにそう言うと、ゆっくりと布団の中に入ってきた。セリスの甘い匂いと、洗い立てのシャンプーの匂いが合わさって最強に思える。とにかく萎えるようなことを考えねば。裸のギーが一人、裸のギーが二人……なんか気持ち悪くなってきた。


「……明日、フレデリカのところに行ってみたいと思います」


 俺が目に見えない敵と戦っていると、セリスが小さな声で呟いた。その声を聞いただけで、俺の中のやましい気持ちやらなんやらが嘘のように消えていく。

 俺はゆっくりと仰向けになると、目だけはセリスの方に向けた。セリスは覚悟を決めたような顔で天井を見つめている。


「一人で大丈夫か?」


「……少し不安ですけどね。ですが、クロ様と二人で行くわけにはいきません」


 まぁ、そうだよな。俺だって振られた相手に会うには、少し心の整理をつける時間が欲しい。フローラさんのは例外だ。あれは告白であって告白ではない。


「ただ、少し残念ですね。長い間いがみ合ってた彼女と、最近ようやく仲良くなれたと思ったのに……」


 セリスは困ったような顔で笑った。その顔を見ていると、胸が締め付けられるようで、俺は思わず無言でセリスの手を握る。


「クロ様……」


「大丈夫だ。フレデリカを信じろ」


 俺にはこれくらいしか言えない。振った張本人が何を言おうと、無責任な発言にしかならないからだ。でも、フレデリカはこんな事でセリスと距離を取るような奴じゃないと俺は思ってる。

 その思いが通じたのか、セリスは微笑むと、俺の腕に身体を寄せてきた。そして、包み込むようにその腕を抱きしめると、俺の肩におでこを添える。


「はい……私もフレデリカを信じています」


 少しはセリスの不安を取り除けたか?俺にはこれぐらいしかしてやれない。

 責任は俺にあるし、本来は俺がどうにかするべきなんだろうけど、今回は俺の秘書に任せる他ないんだよ。


 まぁでも、セリスならなんとかしてくれるはず。俺はセリスの事も信じているからな。


 ……なんか安心したら眠くなってきた。左腕にセリスの温もりも感じるし、ここに来て引っ越しの疲れがどっと来たな。俺の瞼が必死に閉じようとしている……これは……限界……。





「クロ様?」


 しばらく腕に抱きついていたセリスは、クロが何も言わなくなったので、試しに名前を呼んでみたのだが、特に反応はない。


「寝てしまったのですか?」


 静かに身体を起こし、クロの顔を見やる。予想通り、気持ち良さそうな寝息を立てていた。


「やっぱり何もしてきませんでしたか。……少しは期待していたんですよ?」


 セリスは拗ねたように笑いながら、クロのほっぺたを優しくつまむ。クロは口をもごもごさせただけで、起きるそぶりは全くなかった。そんなクロを見て、セリスはクスリと笑う。


「疲れが溜まっているんでしょうか?……色々ありましたものね……」


 つまんでいた指を離すと、慈しむようにクロの頬を撫でた。


「焦っても仕方ありませんね」


 セリスはクロの頬に軽く口づけをすると、少しだけ顔を赤くしながら、先ほどと同じようにクロの腕に自分の身体を密着させる。


「……おやすみなさい」


 誰に伝えるでもなくそう囁くと、セリスはクロの香りに包まれながら、そっと目を閉じていった。


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