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2.お偉いさんの雑談は耳を傾けたくなる

 残された幹部三人は、消えたクロを思いながら笑みを浮かべる。


「やっぱりクロはああでなくっちゃ。それでこそ私の好きな人よ」


「なんだよ、大胆発言だな。まぁ、前半には俺も賛成だ」


 衝撃の告白にもかかわらず、なんとなく察していた二人にさして驚いた様子はない。


「……元の兄弟に戻ってよかった……」


 ボーウィッドがしみじみとした口調で言うと、二人が笑いながら頷いた。


「本当よね。確か身体が入れ替わる魔法を使われたんでしょ?」


「あぁ、セリスがそう説明してたな。しかも、どうとでも対処ができたっていうのに、あのバカはどっかの部屋のベッドで一日中寝てたらしい」


「当然よ!クロをどうこうできる人なんてルシフェル様ぐらいだわ!」


「……ベッドで寝ていたっていうのは、実に兄弟らしいな……」


 突如としてクロを襲った異変。その事件が収束した日にセリスから事情を聞いた三人は、詳細を把握していた。


「それにしても、アルカが戦えるっていうのには驚きだな。どれくらいやれるんだ?」


 ギーが二人に尋ねかける。可愛いアルカの姿しか見たことがないギーには、戦っている姿など想像もつかなかった。二人は顔を見合わせると、一様に微妙な表情を浮かべる。


「……戦っている姿を見てみればわかる……」


「そうね、ちょっと人が変わったみたいになるわね」


「まじか……それは見てみたいような、見るのが怖いような」


 二人の態度にギーが若干引き気味になる。幹部二人が口を濁らせるとは、アルカはあの小さな身体にどれほどの実力を兼ね備えているというのだろうか?


「おうおう、最近無駄に仲のいい幹部三人組じゃねぇか」


 ギー達が話していると、後ろからバカにしたような声が聞こえる。見なくても声の主はわかるのだが、三人が一応そちらに目を向けると、そこにはニヤニヤと笑っているライガが、腕を組みながら立っていた。


「あら、ライガじゃない。何か用?」


 フレデリカが冷たい視線を向けると、ライガは顔を顰めながら鼻を鳴らす。


「あのゴミみたいな人間とつるんでいるようなやつらに用なんかねぇよ」


「……そうかい。なら、さっさと闘技場にでも向かえばいいだろ」


 ギーがあくびをしながら、闘技場の方を指さした。その態度にライガの目がスッと細まる。


「残念だぜ、ギー。お前が闘技大会に出るんなら喜んで俺も出場してやったのにな」


「そういうのは興味ねぇんだわ。お前は参加すればいいじゃねぇか。お山の大将にはおあつらえ向きの大会だぞ?」


 まさに一触即発の空気。そんな二人の間に何も言わずにボーウィッドが立ちはだかった。


「ボーウィッド……」


 ギーの呟きにボーウィッドは首を左右に振って応える。ギーは肩を竦めながら軽く息を吐いた。


「兄弟に止められちまったら言うこと聞くしかねぇな」


「ちっ……」


 ライガは舌打ちすると、最後に三人に鋭い視線を向け、城の中へと入っていく。その後ろ姿を呆れたように眺めながら、ギーがボーウィッドに話しかけた。


「相変わらずクロの事目の敵にしてるんだな、あいつ。つーか、ボーウィッド。止める相手間違ってんぞ」


 ギーが横に目を向けると、憤怒の形相でライガを睨んでいるフレデリカの姿があった。身体中からは今にも爆発しそうなくらい魔力を滾らせている。


「……フレデリカは止められる気がしなかったからな…………ギーもそう思ったからわざと挑発したんだろ……?」


「ばれてたか」


「……お前らしくなかったからな……」


 おそらくあのままギーがライガをスルーしていたら、怒り心頭のフレデリカとライガの戦いが勃発していただろう。それを防ぐために、ギーは先手を打ったのであった。ボーウィッドはそんなギーの意を汲み、仲裁することで、ライガをこの場から退場させた。


「もう……あなた達二人、余計な事してくれたわね」


 やっと怒りが収まったフレデリカが、二人に苦虫を噛みつぶしたような顔を向ける。


「余計な事って、お前あのままだったら感情のままに暴れていただろうが」


「えぇ!それの何が悪いっていうのよ!幹部会の時といい、あのバカはクロの事を悪く言いすぎなのよ!一度痛い目に合わせてやらないと気が済まないわ!」


「……それは兄弟の本意じゃないだろう……」


 ボーウィッドが静かに告げると、フレデリカは不満そうに唇を尖らせた。


「もしそうだとしても、私の気が収まらないわ」


「……兄弟がライガの街に視察に行けば、あいつも変わるはず……」


「……それには全面的に同意するけど、なんだか納得がいかないわね」


 フレデリカが大きくため息を吐く。ギーは楽しそうに笑っていた。


 しばらく城門でクロとセリスの帰りを待っていると、残りの幹部二人が現れた。


 巨人のギガントは、他の魔族を踏みつぶさないよう慎重に歩いており、ヴァンパイアのピエールは相変わらず奇抜なマントに身を包みながら、こちらに近づいてくる。


「おぉ。ギーにボーウィッドにフレデリカ。元気そうだなぁ」


「よっ」


「ギガントも相変わらずね」


 笑いながら声をかけてくるギガントに、二人も笑顔で挨拶を返すが、ボーウィッドだけは何も言わずに手を上げてそれに応えた。


「ギガントも街の奴の戦いを見に来たのか?」


 ギーが尋ねると、ギガントは残念そうに首を横に振る。


「オラは闘技場にはいがねぇんだ。身体がでけぇから他のみんなの迷惑になっちまう。それでも一応、魔王様には挨拶しようと思ってここに来たんだぁ」


「別に迷惑になるとは思わないけど?」


 フレデリカが優しく言うと、ギガントは困ったように笑った。


「フレデリカは優しいなぁ。でも、オラがいなけりゃ入れる奴も出てくる。だから、オラは今回観戦しねぇ」


「そうなの?残念ねぇ……」


「じゃあ、オラは行くんだなぁ。三人ともまたなぁ」


 ギガントは大きな手を振ると、身体を小さくしながら城門をくぐっていく。三人はその壁のような巨大な背中を見送ると、なぜかこの場に残ったもう一人の幹部に目を向けた。


「ピエールも来たんだな」


「神の導きに従ったまでだ」


 とりあえず話しかけてみたギーは、早くも二人の方に目を向け救援を求める。だが、フレデリカもボーウィッドも違う場所を見ていて、ギーと目をあわせようとしない。

 心の中で恨み言を言いながら、仕方なくギーはピエールに向き直る。


「あー……お前んとこの奴らは闘技大会に参加しないのな」


「我々の種族が扱うのは闇の力。他の者達とはあまりに隔絶した力を有しているのだ」


 ヴァンパイアの力は強大だ。だから、ピエールの言っていることは至極まっとうな事なのだが、どうにもその口調の方が気になってしまう。


「そ、そうか。それなのに来るなんて偉いな」


「切磋琢磨した者達が鎬を削る武の祭典。我が凍り付いた心を溶かすに値するか……見物だな」


 そう言うと、ピエールはその場から消えた。おそらく、転移魔法で城内に入ったのであろう。残された三人は何とも言えない表情を浮かべている。


「そ、そういえばクロ達遅いわね」


「そ、そうだな!なんか指揮官としての大事な役目とか言ってたな」


「……十中八九、嘘だろうな……」


「間違いないわね。どうせろくでもないことを考えているとは思うんだけど」


「だが、今回はセリスも一枚噛んでんだろ?なら、そうそうバカなことはできねぇだろうよ」


 クロがセリスに頭が上がらないことは周知の事実。ギーの言葉に二人が頷いた。


 そんな話をしていると、噂の片割れが戻ってくる。


「あれ?待っていてくださったんですか?先に行っていても良かったんですが」


「どうせ俺達は幹部席で見ることになるんだ、一緒に行けばいいだろ。で、クロはどうした?」


 ギーがセリスの後ろに目を向ける。だが、そこにクロの姿はない。


「クロ様は……指揮官としての仕事をしに行きました」


「えっ、それ本気で言っているの?」


 フレデリカが呆れたように尋ねるも、セリスは顔色一つ変えずに首を縦に振った。


「えぇ、当然です。嘘を吐く理由がありませんからね」


「いや、そうは言ってもよぉ……ん?なんだ?」


 突然、城門の周りが静かになる。不審に思った三人が、他の魔族が見ている人物に目を向けた。


 そこにいたのは全身真っ白な装束に身を包み、顔に紺色の仮面をかけた男。目元までのものなので鼻と口は見えているが、人物を特定するには至らない。


「誰だ、あいつ?結構、長いこと魔族領にいるけど、俺は知らねぇぞ」


「私も見たことないわね」


「……俺もだ……」


 三人には全く見覚えがなかった。そんな三人にセリスが淡々とした口調で告げる。


「彼は悪魔族のホープです。……少し奇妙な恰好はしていますが、実力は確かです」


 白ずくめの男は城門にいる全ての魔族の注目を集めながら、堂々とした足取りで進んでいく。そして、受付の前まで行くと、何も言わずに佇んだ。


 自分の目の前に立った変な男に目を泳がせながら、マキはぎこちない笑みを浮かべる。


「あー……参加希望ですか?お、お名前と種族を教えてください!」


 皆が耳を傾ける中、白ずくめの男は静かに口を開いた。


「……悪魔族、メフィスト。名前はミスターホワイトだ」


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