第1話:大魔王に拾われました。
大魔王である女性のエリザベート・フォン・エルネシアは、ルーンベル大陸の中央都市ルビルトで、各種族間との和平交渉と、大魔王の納める領域と領地の現状報告等の会議を終え、漆黒の馬車で彼女の納める領地エルネシアへの帰路についていた。
「ねー!セシリー、マリー」
馭者を勤めている執事の格好の、大魔王軍参謀のセシリア・レシカと、横に座っているメイドの格好をした、戦乙女のマリーベル・レシカの姉妹に声をかけた。
「「なんですか、エリザ様」」
後ろを振り返りながら馬車の建屋内を覗き込みながら聞きかえした。
そして、はぁ!と盛大にため息を吐いたマリーベルだった。
「どうしたの、マリー?」
マリーベルの様子に不思議に思い、聞き返したセシリアであるが、マーベルがエリザにあきれて語った。
「また、誰も見てないと思って、なんて格好してるですか?」
エリザは、会議で着用していた豪勢な服を脱ぎすて薄いシャツとホットパンツ姿で、馬車内の長椅子を倒し広げ寝転んでいた。
この馬車は、外見の見た目よりも内部は、空間魔法で広く設計されており内部での居住が可能になっていた。
「すっごく退屈なんだけど、どうにかならない」
「あら、あら、エリザ様・・」
「どうにもなりません。おとなしくしていてください」
セシリアが何か言おうとしたが、割り込んでなかばあきれ気味で、マリーベルが言い放ち、大丈夫ですかこのアンポンタンな大魔王は、と思っていた矢先。
「セシリー、馬車を止めて」
突然馬車の後方扉を開け放ち、森の中にラフな格好のままエリザが飛び出して行った。
「なっ、どうしたのですかエリザ様?」
慌ててエリザに返答したセシリアだったが、凄い勢いで飛び出して行ったので反応が遅れ、慌てて馬車を停止してから。
「マリー、エリザ様の後をすぐにおいかけて」
セシリアよりお願いされたので、慌てて飛び出したエリザの後を追いかけた。
エリザが突然飛び出して行った理由は、彼女が馬車内でゴロゴロしていたら、微かに悲鳴と赤ん坊の鳴き声が聞こえたからであり、直ぐに身体を起こして間髪入れずエリア探索を行った。
すると弱々しい2人と力強い生命力の1人の人族の反応と、その近くに多数の魔獣の反応があったからだ。
急いでその場所に駆け出していたら、その反応のあった3人に近づくにつれおかしな事が起こっている事に、エリザが気付く。
『なにこの反応、弱い魔獣が消えているけど、どういう事?』
近くにいた多数いた魔獣も、上位種をのこし反応が消えうせており、先ほど弱々しい2人の反応が正常化しているのに対し、先ほどまで力強い反応1人が弱々しくなってきているのを不思議思いながら、その場所に急いで向かった。
なぜこのような行動に出たかと言うと、大魔王と言っても物語でもよくある殺戮と世界征服を企むという事は一切無く、ただ一族の長で又は、種族の王の頂点に君臨する王と言うだけであり。
エリザ本人も大魔王など言われているが、自愛と平和を愛してるので、もし困っている魔族や人族、他種族がいたら出来るだけ助けだすということをやっていた。
そして、問題の場所にやってきた。
すぐさま壊された荷馬車に近づき、状況を確認したエリザがその光景を見て驚愕を覚えた。
そして、一瞬信じられないと思った。
なにせ、小さな赤ん坊2人を抱え込んでうつぶせに倒れ、気を失った少女の背中の服には、獣か何かに引き裂かれた跡がある。
しかし少女の背中には傷跡が無く、1人の赤ん坊が少女の腕の横から、両手を空に上げ結界を張っていた。
もう1人の赤ん坊は、すやすやと安心して寝息を立てていた。
よく覗いてみたら泣いていた後が頬にあった。
そしてその結界の周りには、なぜか魔獣の魔石と素材の一部の角や牙が沢山落ちていたのだ。
「なに、この状態は?」
不思議に思っていたが。
まだ、荷馬車の付近に魔獣が、数十匹いたので、急いでエリザは、魔王の波動で追い払う行動に出たと同時に、マリーベルがやってきて魔獣の討伐を行った。
魔王の波動を受けて数匹の弱い魔獣は逃げ出していき。
ある程度強い魔獣は距離をとったが、逃げずにこちらを警戒して赤ん坊と少女を狙っていたが。
「エリザ様、流石に凄いですね。一瞬で魔獣を蹴散らすなんて」
マリーベルがそう言って、残った魔獣を狩っていった。
「違うのマリー、私が来た時には、魔獣の大半は消えていたのよ。」
エリザがそう言って、マリーベルが、『はいっ?』と思いどう言うことだろうと、おどろいた顔をしていた。
そして結界を張っていた赤ん坊が使って力が、生命力を魔力変換してから使用しているのに気が付き、急いで赤ん坊を抱え上げ、結界をとかせようとしたと同時に。
「あっ、エリザ様いけません」
マーベルに言われて、『はっ』としてエリザは、赤ん坊の抱え上げた手を放してしまった。
「「あっ」」と二人が声を上げた。
なぜなら赤ん坊を落としてしまったと思ったからだ。
しかしこの思いは、杞憂に終わったなぜかと言うと。
赤ん坊は、エリザが抱え上げ手をはなしてしまったと同時に、エリザの身体、とくに胸付近にひしっとしがみ付いていたからだ。
これにはエリザとマーベルは、目を白黒させ驚いている。
「エリザ様に触れて、ひきつけを起こさない子なんて初めて見ました。しかもこの子男の子ですよ。弱っているのに死なないうえ、必死にしがみ付いている」
マーベルが不思議に思い語りながら、少女ともう一人の赤ん坊の女の子を抱え上げた。
「一番驚いているのは、私なんだけど?」
エリザは語りながら赤ん坊を抱きなおした。
そしてだいたい今までの子供達は、初見ではひきつけを起こし泡を吹き気絶するはずなので。
今までエリザは、まともに子供に触った事がなかったからである。
とくに男性は、近づくだけで泡を吹き倒れるか、態勢があっても膝を折りひれ伏すという結果になっていた。
それはエリザの大魔王と言われる根源である魔力の巨大さと、身体から漏れ出す王の覇気と魔素によるもので、子供好きであるがこの身体のためどうしようも無いとあきらめて、考えないようにしていた。
「なのになぜ、この子は平気なのかしら?」
しがみ付いた赤ん坊を再度抱き上げ顔を除き込んでから、回復魔法をかけると安心するようにスヤスヤと、安らかな顔をして寝息をたて眠りについていた。
「あらっ、この子の魔力が回復しだした。えっ、私から魔素を吸収している?」
エリザが自分の魔素を吸収して魔力を回復しているのを、感じて不思議に思っていた。
何せ、自分の魔力は、通常の魔力と違い毒にも等しい魔力なのだから、ましては聖なる魔力を放っていた赤ん坊がこの魔力を吸収するとは考えられなかったのだ。
この世界の魔力には、複数存在していた。
魔素の濃い魔力、聖なる力の聖光気、精霊の力による霊気、体内にある気の気功などの複数ある。
魔力はその性質上同じ性質の魔力か、身体の内部で生成される魔力でないと吸収、補充できないのだ。
だがこの赤ん坊は、エリザの魔素の吸収を行い。
その上エリザの腕の中で安らかに眠っている。
後に、この赤ん坊は天より授けられし勇者の因子を持っており、後に勇者の称号が発現するが、決してその勇者として人々、特に人族の領域の為使命をはたす事はなく、この魔族の領域でその力を使うのであった。
また、勇者の最大の使命である邪なる者を討伐はおこなうが、大魔王を討伐すると言う事がなく、逆に大魔王のために己の力を使う事になってしまう。
何せこれから、大魔王がこの赤ん坊をそだて上げていくのだから・・・・。