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第二章 奴隷になった少年

 ダーン!


 十才の少年クロは奪ったライフルを撃って、自分の事を殺そうとしている者たちの頭をふっ飛ばす。


 ショウビたちと別れる前に、あらかじめヒイラギから力を吸収していたクロは、その力を視力と腕力にまわしているので、狙いが外れる事はない。


 クロはこの森で、すでに十人近くの者を殺していた。


 だがまだ二十人以上いる相手の方も、休む事なく銃を撃ち、その弾がクロの皮膚を貫き、肉や内臓や骨を削って、血を奪いながら身体の外へ抜けていく。


 その傷をヒイラギの力で再生しながら、クロは機械のように淡々と射撃を続ける。


 本当はこんな銃撃戦などやめて逃げればいいのだが、クロは主人であるショウビから、そこで待っていろと命令されている。


 もしもその命令に従わずに逃げてしまえば、ここに戻って来たショウビが怒ってクロを放ったまま、ヒイラギと二人だけで、どこかへ行ってしまうかもしれない。


 そんな事になれば、クロは生きる目的を無くしてしまう。


 今のクロが、まだなんとか生きようとする意志を持っていられるのは、ヒイラギを守るという使命があるからだ。


 ヒイラギを連れているショウビと合流できなければ、その使命を果たせなくなってしまう。


 相手の一人がクロに銃弾を撃ち込みながら、大声で叫ぶ。


「とにかく撃ち続けろ! 悪魔と合流される前に、吸収している力を使い果たさせるんだ!」


 どうやらここに集まっている者たちは、ヒイラギの身体に触れていなくても、あらかじめ吸収していれば、その力を使える事を、ちゃんと知っているようだ。


 しかもその力を吸収しておける量はそれほど多くなく、使い続ければ、やがて無くなってしまう事も知っているらしい。


 確かにこのまま撃たれ続ければ、普通の人間でしかないクロは吸収している力を使い果たして、そのうちに身体を再生できなくなる。


 そうなる前に主人であるショウビが、ヒイラギを連れて戻って来てくれなければ、クロは死ぬだろう。


 だがクロは、ふとそうなった方が楽なのではと思ってしまう。


 死ねば、もうこんな苦しみからも解放される。


 その時、一発の銃弾がクロの片目を貫き、脳をごっそりと削って、血と骨の破片をまき散らしながら後頭部を抜けていく。


 グシャァ!


 いくらヒイラギの力を吸収していても頭を撃たれれば、それが再生されるまで、なにもできない。


 動かなくなったクロを見て、まわりにいる者たちは勢い付く。


「今だ! 近付け!」


 再生されかけるたびに頭を撃って、それを妨害しながら、その者たちはクロへ向かって茂みをかき分けて行く。


 そしてクロのそばまで来た者たちは大勢で、その頭を銃床でつぶし続ける。


 十才の少年を囲んで、その頭をつぶし続ける、その者たちの行為は、明らかに常軌を逸しているが、みんなクロの事を本当に悪魔の手下だと信じ込んでいるから、誰一人その行為が異常だと気が付かない。


 すると突然、クロの頭をつぶしている者たちの腹が裂け、内臓がドロッとあふれ出す。


 腹を裂かれた者たちは頭を失ったクロの身体のそばに倒れ、苦しみながらも、すぐには死ねず叫び続ける。


「グエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 それを見たまわりの者たちは恐怖に駆られ、四方八方へライフルを撃ち始めて、あたりは騒然となる。


 ブウウウウン!


 そんな、うろたえる者たちの間をプロペラが回るような音が通り過ぎ、同時にその音の近くにいた者たちの腹も裂けて内臓があふれ出す。


 その中の一人が、その音を発するなにかを目で追って、木々の間にヒイラギと手をつないだショウビがいるのを見付ける。


 この時のヒイラギは、ショットガンで撃たれてボロボロになった血まみれのバスタオルを巻いただけで、ショウビもついさっき頭をふっ飛ばされていたので上半身が血まみれだ。


 七才と十四才の二人の少女は、容姿が美しいだけに、かえってその不気味さが際立っている。


「いたぞ! 悪魔だ!」


 その声で、ヒイラギとショウビがいる事に気が付いた者たちが、一斉に二人に向けて銃を撃ち始める。


 しかしショウビは、自分が撃たれるのには構わずに、身体の後ろにヒイラギを隠しながら、ヒイラギとつないでいるのとは反対の手の人差し指を立てて、戻って来た『切り裂きの輪』を指の上に一瞬とどめてから、残っている者たちに向けて再び放つ。


 ショウビもクロと同じく普通の人間なのだが、ヒイラギと手をつないでいる時は、たとえ頭に銃弾が当たっても一瞬で傷が再生するので、その動きには全くよどみがない。


 放たれた『切り裂きの輪』は、ゆっくりと、しかし確実に木々の間をすり抜けて、まだ立っている者たちの腹を裂いていく。


 そうやって、そこにいた者たち全員の腹を切り裂き終ったショウビは、ヒイラギを両手で抱き上げてクロのそばに跳ぶ。


 クロは頭の脳幹がおさまる部分が破壊されていたので、身体の方は腐って崩れ、飛び散った脳幹の細胞の一つから、ようやく頭が再生できたところだ。


 内臓をあふれさせながら、まだ死にきれない者たちのうめき声がまわりに重なる中で、ショウビはクロの再生途中の頭を拾い上げて、ヒイラギのボロボロのバスタオルを巻いた胸に押し付ける。


「クロ、この人数を相手に一人で銃撃戦をやるなんて、お前はバカか?」


 ヒイラギの身体に触れたクロは、その力ですぐに全身を再生させて、裸で地面に立ちながら謝る。


「すみません、お姉さま。ボクが無茶でした」


 クロは主人であるショウビに、ここで待てと命令されたから、それに従ったのだが、そう言い返したりするほど愚かではない。


「ですがお姉さま。次からは水浴びをする時のボクにも、魔物の武器を持たせてください」


 今回は水浴びをしている最中に魔物たちが現れてしまったので、クロは魔物の武器を持たないまま、ショウビたちと分断されて、ここで待つはめになったのだ。


 もしも魔物の武器を持っていれば、魔物と戦いながらショウビたちを追う事もできたし、その時に現れた人間たちも簡単に抹殺できただろう。


 ショウビはヒイラギの肩を抱き寄せながら、ちょっと考える。


「それは、そうだな。私だって奴隷であるお前を失いたくはない。次からは気を付けよう」


 それからクロは、腐ってしまった、もとの身体から服を脱がせ、それを着た後で、ヒイラギの手を握って力を吸収させてもらう。


 まだ七才なのに心が完全に死んでしまったヒイラギは、クロが触れても、なんの反応も示さない。


 それどころかヒイラギは、もうどんな傷を負っても声一つ上げなくなった。


 ヒイラギがこうなったのは、魔物のせいではない。


 人間たちのせいだ。


 だからクロは、自分と同じ人間たちを殺すのをためらわない。


 そしてヒイラギの手を握りながら、さっき自分が死ねば楽になれると思った事を恥じる。


 確かにクロは人間だから、ヒイラギに触れていない時は、死ぬ事ができるだろう。


 けれど無限の命を持つヒイラギは、どんな目にあっても死ぬ事ができず、その苦しみはずっと続く。


 そんなヒイラギを守るために、クロは、なんとしてでも生き続ければいけないのだ。

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