獣人の国の定食屋
はじめまして、初めて小説を書きました。
【アルファポリス】でも載せています
これはとある国の一軒の定食屋のお話
そのお店には誰でも食事処と分かるマークと、
誰にもにもわからない文字でこう書かれている。
【食事処 鈴】と……
「あ、いらっしゃいませ!!」
女性が店に入ると黒髪の青年が店内によく通る声で歓迎する。
「うん、可愛いリン君に会いたくて今日も来ちゃった!!」
「もう、男に可愛いなんて止めてくださいよ、今日も日替わりで良いですか?」
リンはいつもの様に言ってくる客を軽く流しながら注文を聞く、
客もそれで良かった様でそれでお願いと言って来た。
普通の定食屋と変わらない普通の会話、ただ普通じゃないのはその客の頭部には猫のようにピンと伸びる耳があり、その臀部には左右にゆるゆると揺れるしっぽがあること。
そうここは獣人の国、そこらを見れば猫の耳を持った人や犬の尻尾を持った人など、
身体のどこかに獣の一部がある人が溢れている。
ただ一人定食屋のリンを除いて……
「リン君もえらいよね、男の子なんだし働かなくても大丈夫なのに
どうしてそんなに頑張ってるの?」
客の一人が一生懸命働いているリンを見てそう問いかける。
「そうなんですけど、
僕は元々この国の住民じゃなかったし、お世話になった人に恩返しがしたくて……」
そう、この国、そしてこの世界では男性の数が少なく
男性には毎月生活できる最低限のお金が国から支給されるようになっている。
やろうと思えば男性はずっとニートの様に生活する事もできるのだ
「そうなんだ、でも私達はそのおかげでおいしい食事と可愛いリン君に毎日会えるからラッキーだけどね!!」
ねぇみんな!っと客の女性が店内に問いかけると店内に居た客が全員食事する手を止めてそうだ!!っと手を上げる。
「僕も皆さんに会えてすごく幸せです!!」
リンがそう答えると店内にきゃー!!っと嬉しそうな客の黄色い悲鳴が響く。
リンはこんなにみんなに受け入れてもらえて幸せだと思いながら、
そろそろ#あのひと__・__#が帰って来るなぁっと考えていた。
リンがそう考えていると、
チリンッっとドアにつけてある風鈴の音と共に長い銀髪、そして同じ銀色のイヌミミとフサフサとしたしっぽをした女性が入ってきた。
「リン!!ただいま!!」
銀色の長い髪が窓から差し込んでくる日の光を浴びて輝いていてその美貌も相まってまるで女神の様に美しいとリンは思った。だがその美貌より先に目に付くのはその女性の二倍はあるであろうかと見える銀色の剣。
ところどころに血がついているのが生々しい……
「お帰りなさいカノンさん、今日はどうでしたか?怪我はしてませんか?」
リンは笑顔で出迎え、そして怪我がないかカノンと呼んだ女性の身体を見ながら尋ねた。
「怪我はしていないから安心しろ!それに今日は大物をヤッてきたぞ!!」
カノンは目を細めリンに微笑んでそういうと店の外に行くようにリンを促した。
カノンに言われて店の外に出たリンが目にしたのは
自分の数倍はある黒いイノシシの化け物だった。
「うわぁ……こんなでかいの良く狩れましたね。やっぱり上級冒険者ってすごいですね。」
リンは若干引きながらも、イノシシの化け物を見てこの程度のリアクションで済んでいる自分を慣れて来ちゃってるんだなぁっと内心苦笑しながらカノンを賞賛する。
「このブラックボアはうまいからな、リンに料理して欲しくて狩ってきたんだ。」
「カノンさんが頑張ってくれたことだし、僕も腕によりをかけて調理しますね!!」
カノンがブラックボアを見ているリンの肩に手を置きながらそういうと、リンはどう調理するか考えながらカノンの方を向いて笑いかけた。
「さぁ、解体と運搬は業者に任せてるから店に入ろう」
微笑みながら言うカノンを見ながら
リンは昔も似たようなことがあったなぁっと思い出していた。
この世界に来たときにリンは森の中でイノシシに襲われそうになっている所をカノンに助けられて、その後も衣食住を助けられ、【食事処 鈴】 の開店のための費用まで出してもらっていた。
「(この人には助けられてばっかだなぁ……)」
リンはいつも自分の事を助けてくれて気にかけてくれるカノンにいつしか恋愛感情を抱いていたが、しっかりと恩返しをするまでは告白をしないようにすると自分で決めていた。
「さぁ、ブラックボアの前にリンの店で何か食べようかな!!」
「あぁ、その前にカノンさん、朝渡したお弁当の箱出してください。」
何にしようかとお品書きを手にするカノンにリンはストップをかける。
「あぁ、おいしかったよ。また明日もお願いね。」
お礼を言いながらカノンが渡してきた弁当箱を受け取るところっと何かが転がる感触がしたのですぐに箱を開けると、リンはまたかとため息をついた。
「カノンさん!!野菜だけ残すのはダメだって何度も言ってるじゃないですか!!」
「いやぁ、そのぉ……っあ!
食べようとしたまさにその瞬間にブラックボアに襲われたんだよ!」
「苦しすぎる言い訳はやめてください!!ちゃんと食べるまで料理は作りませんからね!!」
毎度毎度言っても絶対野菜を残してくるカノンにリンは怒りながら言う。
「あぁ分かった、だけどブラックボアとの戦闘でケガというほどでもないんだが、
腕が軽く痺れていてね。できたらリンが食べさせてくれないか?」
「え?そうなんですか?分かりました!でもちゃんと全部食べてくださいね!!」
ガタガタッ!!!!
店中の客が立ち上がり驚愕の眼差しでリンとカノンを見つめる。
「ん?皆さんどうかしたんですか?」
「あぁ、たぶんいい大人が野菜を残して怒られてる事にビックリしたのさ。
恥ずかしいから早く食べさせてくれないか?」
「あぁ、そうだったんですか。
分かりました、はい、あーんしてください。」
納得したとばかりに笑顔でカノンの口に野菜を近づけるリンにあーんと口を開けながら、
周りの固まっている客にリンに気づかれないようにドヤ顔をするカノン。
客はそのカノンの顔を見てハッと我に返り、皆歯軋りをしながら手から血が滲みそうなほど拳を握り締める。
獣人が食べ物を食べさせてあげるのは
家族や恋人にしかしない愛情表現だということを、リンが知るのはまだずっと先のお話……
読んでいただきありがとうございました。
初めて小説を書いてみたので、感想や評価、アドバイスなどをいただけるとうれしいです。