百合でロリショタコンってもうどうしようもありませんよね
本日二話目です。
「私、女ですから無理です。」
まごう事なき事実。
執事服を身に纏い、淡い藤色の髪をベリーショートにし、身長が170センチあろうと、私は女なのだ。
「さぁ、行きますよ。」
網に入れたまま引きずる…このまま帰ったら衣装係のアイリス姉さんに怒られるな…担ぐか。
担ごうとお嬢様に向けた手をガッと掴まれた。
ウイングカラーシャツの首元に結わいてある赤いリボンを引っ張られる。
グェ、締まる締まる……
「貴方が女とか関係ないわ!愛があれば問題なし!」
「大有りですね、お嬢様。私ノンケです。ノーマルです。」
「あら、私だって女の子が好きな訳じゃないわ。シランだから好きなのよ。貴方がこんな風にしたんだから責任とって頂戴。」
「私がお嬢様を目覚めさせたみたいな言い方やめてくれません?」
いつからこんな不毛な関係になったのだろうか…。
昔は普通の主従関係を築けていたのに。
私の家、オーキル伯爵家はリリウム公爵家に昔から仕えている使用人一家だ。
爵位を持ちながら領地などは与えられずリリウム家に尽くすために日々精進している。
私もその一人。
先ほど怒鳴っていた父ヒスイはリリウム家現当主アウツラム=シス=リリウム様に、母のカトレアは奥様のブランカ様に、そして私シランがアルメリアお嬢様にそれぞれ仕えている。
後、兄がいるのだが今はここにいないので割愛する。
あぁ、さっき名前の出た衣装係のメイド、アイリス姉さんは母の妹で私の叔母にあたる。アイリス叔母さんと言ったら殺されかけたことがあるのでアイリス姉さんと呼んでいる。
私とお嬢様が出会ったのは5歳の時だ。
本来はメイドとして仕えるはずだったのだが、親バカの現当主アウツラム様により私は男として育てられるハメになった。
曰く、俺の可愛いアルメリアに男は近づけられない。
曰く、しかし男性への免疫がないのも結婚のためにも困る。
曰く、免疫をつける為に女に執事をさせよう。
曰く、あ、それいいんじゃね?よし、それで行こう!
それで行こう、じゃねぇよ。
何がいいんだ。何も良くねぇよ。
おかげで本来アルメリアお嬢様に付くはずだった兄はクビ。
お鉢が私に回ってきた。
慌てたのは私の父と母。
いきなり娘をメイドではなく執事に育てろと言われたのだ。慌てない訳がない。
それでもプロと言うべきか、我が両親はやってのけた、やってのけてしまった。
…あまりの英才教育のせいで私が一時期自分を本気で男だと思っていた事があったのだがそれは置いておこう。
そんな訳で私はお嬢様に5歳から今15歳までの10年間、仕えている。
執事として。
ここで誤算だったのは女だからお嬢様が私を好きになるはずがないと思っていたのに、まさかまさかの百合に目覚めるというとんでも展開になってしまった事だろう。
「…というかお嬢様は私が好きなのではなく、男が嫌いなのでしょう?」
「当ったり前じゃない!男なんてケダモノよ!汚物よ!最悪だわ!」
「そんな事ありませんよ、世の中には素晴らしい男性も沢山いらっしゃいます。」
「何言ってんのよ!あんなの幻想だわ!」
「…弟のロゼウム様は大好きではありませんか。」
「ロゼウムは別よ!私の可愛い可愛い弟ですもの!」
「あ、あそこに愛くるしい少年と少女がっ!!!」
「なんですって!?少年と少女がセットで…ハァハァ…っていないじゃない!」
「お嬢様、今のは本当に気持ち悪かったです。」
訂正。
百合どころではなくショタコン、ロリコンに目覚めました。
一瞬で恍惚とした表情になられたお嬢様は危ない絵面だった。
誰か私にあの頃の純粋無垢なアルメリアお嬢様を返してください。
「おい!お嬢様は見つかったのか!?」
「確保いたしましたよ。今お連れしております。俵担ぎで。」
「最後のは余計だ!お前はちっとはお嬢様を敬え!」
「心外ですね、執事長。私はお嬢様を敬いお慕いしておりますよ。…知覚できませんが。」
「それは敬ってないのと同義だろうが!」
「なんですって!?シラン、私のことを慕っているの!?では、今すぐベットに行きましょう!私たちの愛を深めるのよ!」
「「お嬢様は黙っていてください。」」
「うっ…」
…はぁ、今の所これが旦那様にバレていないから良いものの…バレたらクビか…素晴らしいな。
「とにかく、アイリスの元に連れて行け!その後お前はラインベルト様をお迎えする為の最終チェックだ!」
「畏まりました。では行きますよ、お嬢様。
風の精霊よ我にその恩恵を 風精ノ翼」
「待って、私は高いところがぁああ!!!」
「お仕置きです。」
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「シラン!全く貴方は!」
「なんですか?アイリス姉さん。ちゃんとお連れしましたよ?」
「連れてくる方法が悪いと言っているの!アルメリアお嬢様は高いところダメなのに、空飛んでお連れするって何考えてるのよ!」
「私の手を煩わせたお嬢様に少々痛い目を見ていただこうかと思いまして。」
「ああ!シラン貴方、本当に可愛くないわねぇ!
ちっちゃい頃『あいりすお姉ちゃ〜ん』とか『わたしがあるめりあおじょーさまを守るんです!』とか言っていたシランはどこ行っちゃったの!?」
「その時の私は血迷っていたんですよ。」
懐かしい黒歴史だ。
呪いか何かが掛かっていたのだ。
もう二度と私はあんな間違いは繰り返さない。
「では、私は執事長に呼ばれておりますので。…お嬢様、逃げられると思わないでくださいね?」
「…貴方が飛ぶから気絶しちゃってるわよ…。」
大丈夫ですよ。お嬢様タフですから。
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「貴方のシラン来ましたよ〜。帰っていいですか?」
「しばくぞ、バカ娘。」
「冗談ですって、執事長。真面目に仕事してるでしょう?私。」
「お前の真面目は真面目と言わん。
コホン、ラインベルト様へのお土産、食事会の料理、食器の確認をして来なさい。私は客間のセッティングをして来ます。それまでに出来ていなかったら…分かりますね?」
「はい。」
お仕事モードになった我が両親は怖い。
ミスしたら死が待っていると思え、我が家の重い家訓の一つだ。本当にやめて欲しい。
えーと、ラインベルト様はワインが好きだったな…。
特に自分の領で生産されている物が好み。
ナーシサス公爵領があるのはカモミール地方だから、カモミール地方原産の物をチョイスして…。
予め予習しておいた内容を引っ張り出しワインセラーからお目当を探す。
ラッピングはナーシサス公爵領の特産品の果物を模したリボンで。
昨日打ち合わせした通りだし、お土産はオーケー。
次は厨房。
客人が来るとあっていつもの和やかな空気はなくピリピリした肌を刺すような鋭さを感じる。
邪魔にならないよう、進行状況を確認する。
料理長の寡黙で仕事人なホリー兄さんに任せておけば大丈夫だとは思うが…。
ホリー兄さんはアイリス姉さんの旦那様だ。
二人は職場結婚らしい。
厨房もオーケー。
出す食器を磨く。
毎日磨いて綺麗ではあるが、客人に出す直前にもう一度磨く。
私達の働きはリリウム公爵家の品格を表す。
私達が生半可な仕事をしては国でNo.2の宰相の名が廃るというもの。
旦那様は王を支える宰相様だ。
我ながらとんでもない家に仕えてると思う。
ん?そんなお偉いさんの娘にあんな扱いしていいのかって?
バレたらクビだって?
バッチこい。カモン、クビ。
私はあのお嬢様から解放されるなら万々歳だ。
この仕事クビになっても生きていける自信がある。
文字通りのクビになる可能性もあるが、その場合は他国に逃げる。
「お嬢様の支度終わりました。」
アイリス姉さんの声が流れる。
どうやら着替え終わったようだ。
「起きてます?」
「ええ、お空、地面が遠い〜とか呟いてますが、起きてます。」
「そうですか、それは良かったです。」
「何も良くないんだが…?シラン…。」
「頑張って成功させましょう、お見合い。」
「おい、話を逸らすな!聞け、シラ────ブチン
魔道具はオンオフがある。
説教は後で聞きます、執事長。
さぁ、成功させよう、お嬢様の記念すべき100回目のお見合いを。