現実は正しく受け止めましょう
二作目です。
暇つぶしにどうぞ。
「初めまして、本日からアルメリアお嬢様にお仕えさせていただきます。シラン=シス=オーキルと申します。よろしくお願い致します。」
「貴方が私の執事?ふふ、お父様とお母様にもいたから私も欲しかったの!私は知ってると思うけど、アルメリア=シス=リリウム!今日からよろしくね、シラン!」
金色の眩い髪と明るい桃色の瞳。
愛らしい笑顔を浮かべて天真爛漫に自己紹介をした。
これが、私とアルメリアお嬢様との出会いだった。
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…懐かしいですね。初めて会ったあの頃が。
共に過ごした幼少期が。
優しく可愛らしいアルメリアお嬢様に出会えたことは私の一生の思い出です。
貴方様に仕えられると知った時天にも昇るような気持ちでした。
「はぁ…またか…。」
私はティーセットをテーブルの上に用意し、魔道具を取り出した。
この魔道具はリリウム公爵家の使用人全員に配られておりお互いが離れた場所にいても連絡を取ることができる優れものだ。
魔道具の設定を使用人全員に伝えるように変更し、私は声を発した。
「お嬢様が脱走なさいました。」
「「「またですかぁ…」」」
使用人達の呆れた声を聞き流し、部屋を出てお嬢様が逃げ込みそうな場所を探す。
「…何度目ですか、アルメリアお嬢様を逃すのは…」
怒りでブルブル震えた声が流れてきた。
執事長兼私の父であるヒスイ=シス=オーキルの声だ。
業務中は他人の如く接しよ、というのが我が家のルールなので常時敬語…
「…3桁越えたあたりから数えるの止めましたね。」
「お前は…今すぐ見つけろ!!!」
のはずだが、御立腹なのか敬語をかなぐり捨てた。
「あんまり怒ると血管ブチ切れて禿げますよ。執事長。」
「減らず口をっ!!!!いいから探せ!クビにするぞ!」
「え、本当ですか!?では、今すぐ荷物まとめます!!」
「なんで喜んでるんだお前は!何としても見つけるんだ!これ以上、旦那様に迷惑はかけられん!」
「ハイハイ、分かりましたよ。」
うちの父親は仕事となると人格変わるな。
怖い怖い。
旦那様に迷惑ってあの親バカっぷりなら娘の迷惑なんて喜んで受けそうだけど。
リリウム公爵家自慢の広大な迷路庭園を駆け抜ける。
はー本当に昔の可愛げのあったお嬢様は何処に…。
「よう!シラン!」
「ああ、ロータスか。お嬢様こっちに来た?」
庭師のロータス。
私の数少ない友人で同僚だ。
若くしてリリウム公爵家の庭の管理を一任されている。一人でこのだだっ広い庭園を管理するなんて馬鹿げていることをやってのける優秀な男だ。
「来たぜーこのまま城下町の方に行くつもりなんじゃねーの?」
「止めろよ。」
「俺が?無理無理。アルメリアお嬢様のアレ、知ってんだろ?」
「まあな。」
「頑張れや、シラン。応援しなくもなくもないぜ?」
「それ、結局応援しないってことだろ。」
「あははは〜んじゃま、いってら、俺も仕事戻るわ。」
「ああ。多分なんとかする。なんとかならなかった場合は執事長になんとかしてもらう。」
「…お前そろそろ本当にクビになるぞ。」
「そうなったらとてもとても嬉しいな。」
再度ため息を吐いて去っていくロータス。
「あ!迷路の道昨日弄ったから順路変わってるぜ〜」という爆弾を残して。
定期的にその姿を変える迷路庭園。
なんて傍迷惑な話なんだか。
そこまでこだわらなくても良いだろう。
確かに客人のウケはいいが、使用人からしたら迷惑以外の何物でもない。
「アルメリアお嬢様〜どこにいらっしゃいますかー。」
こんな風に呼びかけて出てきてくれたら嬉しいことこの上ないんだがな…。
これで出てきたらわざわざ脱走はしないだろう。
…仕方ない。背に腹は変えられない。
「アルメリアお嬢様〜今すぐ出てきてくださらないと、お嬢様の趣味の悪いコレクション焼き払いますよ〜ファイアボー…」
「やめて頂戴!それは国宝級の価値があるのよ!というか趣味の悪いコレクションって何よ!貴方、曲がりなりにも私の執事でしょう!」
「はい、確保ぉ!」
「きゃあ!」
バサァとお嬢様目掛けて網を放り素早く口を縛る。
「任務完了。」
「任務完了、じゃないわよ!もっとロマンチックな捕まえ方をして頂戴!」
「一応聞きますけど、例えば?」
「そ、それは勿論、お姫様抱っこで、かけおちに決まってるじゃない!」
「何馬鹿なこと言ってんですか、そんな事したら私指名手配されて極刑ですよ、極刑。」
「そんなもの愛の力でどうとでもなるわ!」
「お嬢様からの一方的な愛だけでどうにかなる程旦那様は甘くありません。」
「一方的じゃないわ!シランも私のことを…」
「戯言はそこまでです。帰りますよ。」
「いやよ!!!私は帰らないわ!
焼き払え!火炎侵食!!!」
…あの、お嬢様、それは火炎の極大魔法です。
そんなん使ったらこの辺り一帯が焼け野原になります。
「あれ?な、なんで燃えないの!?」
「むしろ、天才魔導士として持て囃されているお嬢様に魔法対策してない訳ないじゃありませんか。」
「まさかこの網、魔封繊維で出来てるの!?卑怯よ、シラン!」
「当然の対策かと。」
対策してなかったら、私死にます。
テンパったら、極大魔法放つ癖なんとかなりませんかね。
ロータスがお嬢様を捕まえられない理由がこれだ。
無理に捕まえようとしたら明日には庭がなくなっていることだろう。
「さぁ、帰りますよ。早くしないとお相手の方が来てしまいますからね。」
「いやぁ!」
「何がそんなに嫌なのですか。今回のお相手の方はナーシサス公爵家の跡取り、ラインベルト様ですよ。家格も釣り合いますし、好青年と噂の素晴らしい方ではありませんか。」
「お見合いなんて嫌よ!私はシラン、貴方が好きなの…。」
網の間から手を出し私の裾を掴むアルメリアお嬢様。
桃色の目に涙をいっぱいにためて見上げていた。
絶世の美女に口説かれるというのは世の男性の夢なのだろうな…。
私は腰を下ろしお嬢様と目線を合わせ諭す。
「お嬢様、現実をご覧ください。」
「いやぁ…。」
「お嬢様、貴方様はリリウム公爵家のご息女で御座います。素晴らしい方と結婚して国の為に生きねばならぬのです。」
「私、公爵家なんて肩書きいらないわ…。シランがいいのぉ…。」
「駄々をこねないでください。というか、私がいいとか良くないとか以前に」
すぅと息を吸い込み一拍。
今まで何度も告げた事実をお嬢様に再度告げる。
「私、女ですから無理です。」