光と闇の寓話
瑠璃2と瑠璃8のある日の会話
光と闇の寓話
総ては闇であった。
闇に包まれていたのでは無い。
闇そのものだった。
やがて、闇のカケラが一片の光となった。
闇の中の小さな光。
光は隣の闇のカケラを叩いた。
(おきてごらん。遠くが見えるよ)
その声に誘われて、もう一片の闇が光となった。
(遠くったって……あれは僕たちの光じゃないか)
(そうかな? 誰かの光じゃないの?)
(じゃ、別の誰かに見て貰おう)
更に隣の闇の一片をおこそうと叩くと……会話を聞いていた総ての闇が起き出した。
(遠くの光?)
(誰か居るのか?)
(オレにも見せろ)
次々と闇が弾けて光となり、総ては光に包まれた。
光だらけとなって、遠くどころか隣のカケラも見えなくなった。
やがて、光は塊って幾つかの色になった。
色同士も集まって幾つもの色の粒になった。
その中で4つの色だけが手を出した。
青い手と赤い手と白い手と黒い手だけが粒から周りに伸びていた。
同じ色の手が互いに結んで、色の粒が集まり出した。
色は重なり、灰色の塊になった。
灰色の塊は飛び回り、挨拶を交わした。
(こんにちは)
(さようなら)
灰色の塊から白い手と黒い手だけを出して、握手をしては分かれていった。
やがて、握手をしたまま互いの周りを回り出し、楽しげに踊り始めた。
それを見ていた他の塊も、手を取合い、踊り始めた。
踊る塊から光が飛出し、他の塊を引寄せた。
光は塊を集め、2つの塊り踊りに別の塊を引寄せ、3つの塊で踊り始めた。
3つは4つとなり、4つは5つとなった。
やがて塊は26個と56個の大きな輪舞となった。
途端に……踊りの輪は弾けて、塊達を撒き散らした。
何故か塊は、幾つかの踊りの輪のままに弾け飛び、踊り疲れて一つの大きな
塊になった。
大きな塊は辺りを見回した。
まだ踊り続けて光り輝く集まりと、踊り疲れて光を失う集まりがあった。
光り輝く集まりの周りをぐるぐる回りながら、大きな塊はただ、ただ懐かし
げに光の集まりを見つめていた。
一瞬、集まりが弾け、光を一際、撒き散らかして消えて行った。
残ったのは自分と同じ大きな塊。
近くに来た大きな塊と挨拶をし、手に手を取って別の塊へと飛んで行った。
物凄く大きな光の乱舞。
幾つもの輪舞が忙しなく行き交う集まりの周りで2つの塊は踊りながらその
光景を見つめていた。
どれだけの間、見つめていただろう?
その物凄く大きな集まりにも弾ける時が訪れた。
(ああ。また何処かへ旅立とう)
(今度は小さな集まりがいいな)
(どうして?)
(小さな方が長く踊っているよ。大きい集まりはすぐに弾けてしまう)
(そうか。そうしよう)
だが、それは適わなかった。
その物凄く大きな光の集まりは弾けなかった。
いや、弾けたのだが、飛散らなかった。
踊り疲れた塊達は互いに重なり、眠ってしまった。
光も出さず、踊りもしない灰色の塊達は、ただ重なり続けていく。
灰色は重なり続けて、色を増し、黒くなり……やがて闇の塊となった。
闇の塊は黒い手だけを周りに伸ばし、灰色の塊を集め始めた。
大きな塊も小さな塊も……
だが……
塊は引寄せられはしたが、闇の塊に引込まれる事はなかった。
ゆっくりとした輪舞の動きが闇の塊に引寄せられる事で、凄まじい回転となり、引離す力となって呑み込まれるのを防いでいた。
引込む力が引離す力となって……ただ、塊達は闇の塊の周りを回るだけ。
大きい塊は砕け、小さな塊も砕け、……元の26個と56個より小さな灰色の輪舞に戻っていった。
やがて、輪舞は光り始めた。
闇の大きな塊の周りで一番小さな灰色の塊が輪舞を踊り、その踊りが光を放った。
(どうなるのかな?)
(たぶん、あの闇に呑み込まれるよ)
(それまで……ただ待つの?)
(それまで……踊り続けるのさ)
だが、闇の塊は小さな灰色の塊達が踊るのを拒んだ。
(踊るな)
(踊り疲れたんだ)
(もう踊るな)
(その踊りを止めてやる)
闇の塊は黒い手を伸ばして、灰色の踊りに絡みつき、踊るのを止めようとした。
しかし、小さな灰色の塊が放つ光が黒い手が絡みつくのを拒んでいる。
(ええぃ)
(その光も止めてやる)
闇の塊は総ての黒い手を伸ばして小さな灰色の塊の全ての踊りと総ての光を止めようとした。
黒い手は伸び続け、周りに集まる小さな塊の総てを掴もうとした。
たが、小さな灰色の塊達は踊りを止めず……その総てを光へと変えようとしていた。
突然、闇が姿を変えた。
黒い手の全てを伸ばし、総ての小さな灰色の塊を掴もうとした為に、その光の全てを捉えようとした為に、小さな灰色の塊が光へと姿を変えた為に、黒い手が千切れ飛び、闇の塊が光の塊に変ってしまった。
周りに残っていた小さな灰色の塊は突然の光に驚き、黒い手が千切れた為に、周りへと弾け飛んだ。
(どうしたの?)
(どうなった?)
小さな灰色の塊は周りを見渡した。
小さな灰色の塊の周りで、光が集まり、色々な粒となり、色々な粒が集まって灰色の塊へと姿を変えて行く。
闇の大きな塊は、元より少し小さな光の塊となって、その光を放ちながら、踊り始めた。
(闇が……光に変った)
誰もが驚き、ただ見つめるしかなかった。
光の塊もやがて白い手を繋ぎ合って踊るのを止め、小さな光の塊となり、灰色の小さな塊の周りで色々の粒へと姿を変えて行く。
(ああ。そうか……)
(なにが?)
灰色の小さな塊は、隣の塊に言った。
(また、始まったのさ)
(何が?)
(新しい……踊りつづける世界が)
闇は光へ、光は闇へと変る。
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「ねぇ。このテキストデータってなんだろうね?」
「さぁね。私達、瑠璃達の全てにある記録。この世界のどこにも無い寓話」
「Lapis Lazuliさんから引き継いだのかな?」
「たぶんね。私達は瑠璃オリジナルのコピーだから、瑠璃オリジナルが持っていたモノは全員が持っている……ま、何かの記録なんだろうけど……」
「この世界のどこにも無いんだよね? 似たような話も」
「そ。敢えて言うとしたら……」
「したら?」
「『物質の記憶』かもよ」
「何それ? それより、今日の御主人様の夕食は何にするの? 瑠璃8」
「ん〜と。寒くなったから……おでんにしようか?」
「じゃ、大根と薩摩揚げと玉子と……」
「いけないっ! 瑠璃2っ! 早く買物に行こおっ!」
「どしたの?」
「早めに卵をうであげないとぉぉぉぉ……」
「まってよぉ。私がどの卵かを選ぶんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ」
(外伝3 終了)
ニフティのFSFにUPしていた101人の瑠璃シリーズの外伝を纏めたモノです。
外伝としては3話目になります。
宜しかったら、感想などいただけると有り難いです。