ファースト・リトル・レディ 4
瑠璃99の物語
9.決意の選択
翌日の移動も困難を極めた。
予期せぬ方向からの砲撃。行く先々に在る、各種ブービートラップの罠。
単純な落とし穴や、遥か高所に張られたトラップ線。まるで瑠璃9達の背の高さを知っているかのような。そして、崖。幾多の断崖。更には遥か地下に在る鍾乳洞への入口を思わせる竪穴。自然地形の急峻さと人の手による罠が密林をまるで迷路のように変貌させていた。
先頭を行く瑠璃93が、前方に複雑に張巡らされた罠を見つけ、何度目かの停止を余儀なくされた瞬間に瑠璃99が敵の通信を傍受した。
「(!)……すぐに砲撃が始まります。後退っ!」
「(瑠璃99っ! 赤外線で会話しろッ!)」
「瑠璃93っ! 指揮官は私ですっ! 今後の暗号による赤外通信への変換は停止っ! 平文での会話を優先しますっ! 後退っ! 早くっ!」
瑠璃99の指揮に従い、後退を始めた瞬間に敵の砲撃が始まった。
後退する方向へも砲撃はあったが、大半はトラップに囲まれた場所への砲撃だった。そして数十分後、砲撃が止んだ時に瑠璃99は全員に指示を出した。
「皆さん。敵は私達の位置を判っています。ならばそれを前提に行動します。宜しいですか?」
「(具体的には?)」
「瑠璃98。会話は平文で音声にてお願いします」
「(……用心の為だ)」
言い返したが、瑠璃99の表情は硬い。まるで、その中の意志を鋼に変えたかのような眼差し。
「(……判った)それで? 具体的には?」
「援軍を要請します。その後、オプションの集合ポイントへ向かいます。敵のトラップが在ると思われる位置は敵の確認信号の発信で大まかには判りますから、その位置を避けて進みます。現在までの砲撃のタイミングは複雑なトラップが施されて、こちらが後退を余儀なくするように行われていますから」
「そうすれば砲撃を避けられる?」
「瑠璃97。そういうことです。我々にトラップを突破されるのを恐れているのか、トラップを分解する事による新たな武器の入手を恐れてのことかは判りませんが、兎に角、砲撃はトラップが置かれている場所に集中しているのですから」
「慌ててトラップにかかる事を期待しているのでは?」
「瑠璃92。その可能性は高いと思います。ですが、こちらの位置を把握しているのにも関らず、精密な砲撃は行われていません。従って、今は、その可能性を低いと判断します」
矛盾した返答が事態の困窮さ……一筋縄では行かない現状を顕していた。
「で? 具体的な援軍は? 万平連へか? 奴等は、越境しては来ないぞ?」
問質した瑠璃90に微笑んでから、瑠璃99は静かに強く応えた。決意を顕すかのように。
「援軍は本部、瑠璃11参謀長へ要請します。援軍が到着するまでに必要と予想される時間は約12時間。私達はそれまでに援軍とのオプションの合流ポイントへ移動します。宜しいですか?」
全員が頷くのを確認し、瑠璃99は遥か上空を周回している低軌道衛星へ通信を送った。
「待機している瑠璃9シリーズの出動要請を行う。この要請を決して違えなく処理される事を望む。なお、援軍に瑠璃3シリーズは除外する。合流ポイントは万平連のオプション・ポイントF1……」
通信は平文でしかも万全を期すかのように3回行われた。
そして行動の説明を改めて将軍達にも行い、移動を開始した。
深夜となって、二つの月が昇り、密林の中にぽっかりとあいた湿原。その中央に瑠璃99が空を見上げ立っていた。周囲に動く人影らしき動きは、将軍を警護するアンドロイド達だろう。時折、集音マイクに入って来るのは瑠璃99の声。背に担ぐ箱の中の将軍と何やら会話しているのだろう。
「……すみません。会話の内容までは判りません」
「了解。了解。他の瑠璃9達は?」
「見えません。離れて警戒しているのかも?」
「ふん? ならば、警戒せねばならんな。だが標的を手に入れれば他は構わない」
「反撃されませんか?」
「将軍が落命すれば、奴等の次の行動は退却。そう指示されている……筈だ」
「そう簡単に……ひっ!」
反論する部下の胸元を掴み、不敵な笑みを月明かりに浮かばせるのは……ゲリラの首領としてダーク・ルビーと呼ばれていた男。にたにたと笑いながらも人の魂を凍りつかせるかのような冷やかな視線が部下の口を塞いだ。
「瑠璃9達といえど所詮はアンドロイド。事前に条件を明示された場合には従わざるを得ない。どんな無様なウィルス・プログラムでも処理して自らを消去するパソコンのようにな」
他の部下達も睥睨して沈黙させた首領は今一度、双眼鏡で瑠璃99を見、そして最終作戦の開始を指示した。
「対戦車ライフル用意。目標、黒き人形の背の箱。あの中に将軍が居る。続けての作戦は……」
ジロリと横の部下を睨む。怯え視線を合せようともしない部下の様子を楽しんでから言葉を続けた。
「……判っているよな?」
「はっ! 攻撃の指示をっ!」
部下の態度を満足げに眺めてから首領は再び双眼鏡を構えた。
月明かりの下、瑠璃99がゆっくりとその位置を変えている。まるで小さな円を描くかのように。そして絶好のタイミングが訪れた。対戦車ライフルから見て真横。背の防護箱だけを的確に撃抜くタイミングが。
「……撃て」
静かに発せられた凍りつくような攻撃指示の声にまるで指が凍りついて、引絞られたかのような静かな射撃。空気の壁を破壊する発射音を残し、飛去った弾丸は瑠璃99の背の箱だけを確実に破壊した。
吃驚したかのような瑠璃99の顔。瞬時に動きを凍らせた警護アンドロイド達。
飛散る箱の残骸。その中に居た人間は瞬時に自身の死をも理解できぬままに命を破壊されただろう。
その風景を楽しんでから、首領は部下に次の指示を発した。
「照明弾。他の瑠璃達は逃げるに任せろ。あの一体だけを確実に捕まえるっ!」
瞬時に数発の照明弾が射出され、深夜の湿原を怪しく浮かび上がらせる。
対戦車ライフルの砲撃音と続けて荒々しく叩き起こされた密林の鳥や獣達が逃惑い、瑠璃99とゲリラ達の間の視界を遮ったが、それも一瞬。
まだ風に浮かぶ照明弾は湿原の中央に立尽くす瑠璃99と警護アンドロイド達を照らし続けていた。
「ようこそ。ワルキューレ。おっと正式名称は瑠璃99。コード名はレギンレイヴ……だったかな? ようこそ……我等の罠の宮殿の壇上へ。我々の迷宮は楽しんで頂けたかな?」
拡声器を使い、1km近く離れた瑠璃99に場外れな歓迎の意を顕す敵に瑠璃99は一瞬、面食らった。が、すぐに反論した。
「これが貴方達の罠の宮殿? 随分とお粗末な宮殿ですのね?」
強がる瑠璃99の反論を笑って首領は受流した。
「ははは。そうか? まぁ、テーブルと椅子は用意していない。すぐに準備するので、すまないが暫くはそのまま立って居てくれ」
「お構いなく。すぐに立ち去りますわ」
「そう邪険になさらずに。これでもレディの扱いには馴れているつもりだがね」
素早くマイクを外し、小さな声で部下に確認する。
「他の瑠璃達は?」
「確認されません。先程の獣達の騒ぎに乗じて退却したモノと……」
「ふん。了解。流石に戦い慣れしている機体はさっさと退却したか……くくく」
マイクを握り直し、首領は瑠璃に絶望を告げた。
「すまないが、椅子を6脚、用意するつもりだったのだが、1脚でいいようだ。君の御仲間は無情にも君をさっさと見捨てて、既に退却なさったようだ」
その言葉を凍った顔で受流し、瑠璃99は応えた。
「人数に間違いがあります。ここにはまだ、警護アンドロイドさん達が居ます。仲間の瑠璃9達を除外なさったとしても椅子は6脚は必要です」
精一杯の反論に首領は思わず笑い出した。まるで、人生そのものを楽しんでいるかのように。
「警護アンドロイドだと? そんなモノ達は木偶人形、アルファT2のOEM品。利用するだけ利用して捨ててしまうような人形をもてなすつもりはない。それに6脚だと? 君はまだ将軍が生きているというのかね?」
瑠璃99と4体の警護アンドロイド。残る一つの椅子の意味は将軍に違いない。
ゲリラの反論に瑠璃99は言葉を濁した。
「もう1脚は……すぐに判ります」
「はははははは。強がるのもそそれまでだ。おとなしく我々に捕まってはくれないか? いや、手荒な事はしない。君の身体を少々、調査したいだけだ。調査が終了し次第、君を御主人様の手に返す。約束しよう」
瑠璃99の言語処理回路が敵の言葉に虚偽の可能性を否定する。だが、瑠璃99はすぐには応えなかった。
「首領。何故、壊さないのです? 捕まえるのはそれからでも……」
「なるべく、無傷でとの上からの指示だ。それに嘘を言っては彼女に嫌われてしまう。彼女の最終目標は帰還すること。それだけは間違い無い。それを利用して……我々の目的をスムーズに達成するのだよ。わからんのか? この美学が? ん?」
部下の箴言を凍った視線で却下し、首領は小声での部下との会話を打切った。
「どうかね? 出来るだけ柔らかいベッドを用意しようじゃないか? できるならば、速やかに投降して貰えると我々としても時間を節約できるのだがね?」
その言葉に身を走る悪寒を覚え、瑠璃99は自分の存在する理由を再確認した。今、此処に居る理由を。そして、夜空を見上げ、援軍の存在を……まだ到達していないという事実を認識した。
覚悟を決めて……事実を受入れた。
10.悪意の謀略
「確認したい事があります。応えて頂けますか?」
「どうぞ。なんなりと」
驚く部下達。何故にそこまでする必要があるのか?
不満の気配を察して首領は瞳だけを横に投げ小さな声で説明した。
「この質問が終ったら、彼女は投降する。その為の質問だ。自分自身を納得させる為のな。判ったら次の準備を進めていろっ!」
「逃亡阻止ですね?」
「……判り切った事は聞くな。と普段から言っているはずだが?」
凍てつく視線で部下の不満を一掃し、首領は造り笑顔でマイクに向かった。
「……で、質問はなんだね?」
「アナタ方の目的は何です? 拉致してからも将軍を生かしていた意味は?」
(確かに……それはそっちの立場では理解できんだろうな。部下達も訝った。……流石に一筋縄では行かないようだ)
口端を歪ませ、闇の気配を漂わせてから首領は応えた。何一つ包み隠さずに。
「そうだな……。ざっと数えて目的は3つ在る」
「3つ?」
その数字に、言葉に瑠璃99は相手の只ならぬ業を感じ取った。
「そう。まず一つは……将軍の地位の失墜だ。栄光在る英雄が易々と名も無きゲリラに捕まり、生恥を晒す。これ程に人気を失墜させる出来事は在るまい?」
「将軍の……将軍へ寄せる希望はそのようなモノでは失いません」
即座の反論に首領は舌で唇を舐めてから、心の底からの歪んだ笑みを浮かべて応えた。
「……そう。それは我々の誤算だ。将軍への人気は衰えるどころかますます盛んになっている。まぁ、それも……」
言葉を止めて瑠璃99の背後に飛散った箱の残骸を見つめ……言葉を続けた。
「……死んでしまえば終りさ」
凍りついた相手の顔をその瞳……ズームレンズで捉え、瑠璃99はたじろいだ。
「……残り2つは?」
「もう1つは……ゲリラの殲滅」
「え!?」
相手が言った意味を……予想もしなかった言葉に瑠璃99は戸惑った。
「どういう意味ですか?」
素直過ぎる質問の言葉を首領は楽しんでいた。まるで極上の料理を楽しむかのように。ゆっくりと時間を置いてから応える。
「如何なる国にも反政府勢力……いや政府に反感を持つモノが存在する。で、ラムダ政府……の関係者から依頼されたのさ。反政府勢力の一掃を」
瑠璃99はまだ相手の言っている意味が判らない。沈黙が彼女に許された反論。だが……その反応も相手にとしては美味なる晩餐に過ぎなかった。
「信じられないかね? 我々は時間をかけて反政府勢力の中心人物を育て、危険分子達を……この国の政府にとっての危険分子達を集めたのさ。そして……そそのかした。将軍の拉致をね。まぁ、流石に手早くできなかったので我々がちょっとだけ手伝ったがね。御判りかな? 君達が襲って壊滅させてくれるのも我々のシナリオ通りなのだよ? そうそう。君達は実によくシナリオ通りに演じてくれた。主演女優賞を差上げたいくらいだ」
相手の歪んだ笑顔を確認し、そして自分達の行動を想い出し、瑠璃99の腕は怒りに震えていた。
「そんな……そんな事を……」
「考えていたんだよ。そして、彼等は逃げ散ったよ。これで彼等に残るのは敗北感と失望感だけだ。暫くは反政府勢力もおとなしくなるだろう。それもこれも……返す返すも君達のお蔭だ。感謝する」
首領は立上り、手を軽く叩いた。部下達も侮辱の拍手を続けた。瑠璃99にとって侮蔑の拍手が。
「……残る1つはっ!?」
即座に応えず、怒りに震えている瑠璃99の声を首領はゆっくりと楽しんだ。
……邪悪な至福の表情で。
「もう1つはっ!?」
悲鳴に近い声で繰返された質問の声の余韻をじっくりと楽しんでから首領は応えた。
「……君の鹵獲」
「私のっ!?」
「そう。これでも我々は……少なくとも性能的には君達と同じモノを造る事ができる。だが、どうしてか、我々の技術者、科学者達が今ひとつ能力に欠ける所為か……。能力的には遥かに劣るモノしか出来ない。そこで……」
首領は勝誇ったようにさっと腕を高く上げ、そして、ゆっくりと下ろして、瑠璃99を指差した。
「君達のどれか1体を捕える事にしたんだ。……戦利品としてね。特に君の……君達を動かしているシステムとプログラムのコピーが欲しい。それだけだよ。ハード……つまりは君自身の身体には何の興味も無い。御判りかな?」
瑠璃99は総てを理解した。相手の布陣を見た時に感じた不合理さ。いい加減な砲撃。そして自分達の位置を確認するあの……
「あの……長波帯の電波は……私達の位置を確認していたのですね」
その言葉に首領は感心した声を返す。
「ほぅ。判っていたのかね? そう。君達の位置はちゃんと把握していたよ。その警護アンドロイド達に仕込んだプログラムでね」
その言葉に警護アンドロイド達は驚きの表情を浮かべた。
「ほら。その木偶人形の派生品達は理解も記憶もしていないだろう? 将軍に麻酔を嗅がせ、寝こんでいる間にそいつらにこちらの指示プログラムを忍ばせた。我々に自分の位置を送信するプログラムをね。受信アンテナは……この台地の端々に置いて在る。我々は君達の動きを手に取るように判っていたのさ。まぁ……数十分間隔でだがね。発信アンテナは御想像どおりにその木偶人形達の長い縮れた髪の毛を利用させて貰ったよ。そして、ついでに君達に……いや、将軍にしがみ付いて離れないように『言葉』と『行動選択』も入れておいた。なぁに、現場でそんな難しい事はしていない。中のチップ……言語処理チップと行動選択チップを取り替えただけさ。我々の望む行動をするようにね。くっくくく……。不思議に思わなかったのかい? 時折、そいつらにしては出来過ぎた『言葉』を言っていたのを。何故か瞬時に行動するのを。それは総て我々が性能アップしてあげた結果なんだよ。御判りかな?」
首領……敵の言葉を無表情のままに受止める瑠璃99。絶望感に包まれ、崩れ落ちる警護アンドロイド達。
「さぁ。これで質問は終ったかな? では、約束通り、投降して貰えるかな?」
敵の言葉を受流し、瑠璃99は武器箱から剣……片腕に長き剣。もう片腕に鉈のような短剣を、そして、さらに1つの腕で両刃の斧を取出した。
「(私の言ったとおりでしたね……ごめんなさい)」
共通赤外線信号での瑠璃99の謝罪に警護アンドロイド達はその前に跪いて、首を振った。
「(いいえ。私達が……私達の存在が将軍の身を危うくしていただなんて……)」
「(我が存在を……否定する行動を私達がしていただなんて。約束通り……)」
「(どうか、この身を……破壊して下さい。それが私達の謝罪……)」
「(あのモノ達に……もう二度と辱めを受ける前に……警護アンドロイドとしての誇りを……持っている……この瞬間に……早くっ!)」
「(……判りました)」
瞬時に振られる剣と斧。乾いた金属音を辺りに残して警護アンドロイド達は……湿原に倒れ落ちた。
瑠璃99の行動を首領は誤解し、侮辱の言葉を投げた。
「ほぅ。怒りに任せて壊したのか。まっ構わんがね。残してくれたらプログラムをそっくり入れ換えて慰めてやろうと思っていたのに。君にも『怒り』という感情が在るのだな? いや、逆恨みか? くっ……くくくくく」
確かに瑠璃99は怒りに震えていた。自分を……いや、警護アンドロイド達を侮辱する敵に。
「……判っていました」
静かな怒りに震えながら瑠璃99は反論した。自身の……いや、警護アンドロイド達の名誉を守ろうとするかのように。
「彼女達から信号が発せられたのは判っていました。昨夜……あなた達からの返信を要請する電波が届かない状況で彼女達が……電波を発しましたから。……だから、彼女達を……将軍を説得して、別行動を提案したのです」
「なにぃ?」
首領は瑠璃99の言葉が信じられなかった。いや、信じたく無かった。自分のこちらの思惑通りに事が進んだと信じていた。だが……今、語っている瑠璃99の言葉はそれを打砕いていく。亀裂を入れていく。
「……最初は彼女達は聞入れませんでした。念の為、音声では違う言葉を言いながら……あなた達に聞かれている事を前提に会話しながら、彼女達を将軍から引離し、それから……説得したのに。さっきも……さっきまでずぅっと説得していたのに。もし違っていたら……必ず彼女達を将軍の元へ連れていくと約束したのにっ! あなた達は……っ!」
長剣を首領に向けて言放つ。
「侮辱するのもそれまでです。彼女達は立派にその存在を証明しました。将軍を……将軍の身を安全に逃す事を成し遂げたのですっ!」
「なんだとっ!?」
まだ首領は瑠璃99の言葉を理解しなかった。いや、理解したく無かった。
「……将軍は生きています。今日の昼から別行動をしています。今頃は……」
不意に瑠璃99は空を見上げ、そして満足げな顔を首領に向けた。
「今、連絡が通信衛星から届きました。将軍は無事に逃れました」
「嘘だっ! 万平連の平和維持軍は国境を越えては来ないはずだっ!」
慌てる相手に瑠璃99は溜飲を下げた。ほんの少しだけ。
「万平連は動けなくても……シグマ国が動かなくても、シグマ国の民衆達は動きます。そして……」
「……そして?」
「デルタ国軍も……国境を越えて将軍を迎えました。私達はシグマ国境ではなくデルタ国境を目指したのです。シグマ国の民衆に動かされたデルタ国軍の動きを……知っていましたから。将軍が両国にとって掛替えの無い英雄だと。最初から知っていましたから」
「う……ぐぅ」
首領は忘れていた。彼女達が何一つ外界から情報を得る手段がないと決めつけていた。
「私達がいつまでも万平連の要請に従い、無線封鎖を行っていると信じていたのですか? いつまでも指示通りに最初の合流点を目指すと信じていたのですか? オプションにあったこの場所に、万平連からの援軍が来る筈の無い……矛盾に満ちた作戦に、素直に向かうと信じていたのですか? ……私達にも『判断』する能力が在るのです。状況を判断する能力が、『心』が在るのです。アンドロイドそのモノを侮辱する貴方には到底理解できないでしょうけどね? 愚かなゲリラさん」
瑠璃99の人間じみた侮蔑の言葉に首領の怒りは頂点に達した。
「黙れっ! 黙れ、黙れ、黙れぇぇっ! ……ならば、最後の目的は達してやろう。……確実に」
「……無理です。貴方は私達を何一つ理解していない」
「理解しているさ。……今、証明してやる」
首領は歯ぎしりしながら、指を鳴らした。瞬間、部下の一人が構える対戦車ライフルが火を噴いた。
次の瞬間、瑠璃99の左後ろの脚が吹飛ぶ。
姿勢を維持しようと踏ん張る他の脚も続けざまの砲撃に、撃砕かれ、瑠璃99の身体は重力の手に囚われるままに……湿原に倒れた。
それでも……敵の意志を挫かんとばかりに、瑠璃99は3対の腕を使って立上ろうとする。が、続けて撃ち放たれた弾丸が瑠璃99の腕を、胴体を、腹部を打抜いた。
(さよなら……皆さん。瑠璃9チーフ。瑠璃90サブチーフ。瑠璃11参謀長……。御主人様……一目、御会いしたかった……)
瞬間。瑠璃99の最後の意志が……最後のプログラムが稼働させて、瑠璃99の意識は消えた。
「はははははは。どうだ? 手も足も出まい? 知っているよ。オマエ達は破壊され、行動不能になると自らシステムをシャットダウンして『眠り』につく。ははははははは。我々は部品のオマエを……そのプログラムが詰まった頭部だけを持帰れば、最低限の仕事は済むんだよ。残念だなっ! はははははは」
もう何も聞く事の無い瑠璃99に向かって首領は高らかに笑い続けた。
自らの思惑どおりに進まなかった事実を無視するかのように……
ニフティのFSFにUPしていたモノです。
感想など戴けると有り難いです




