固体ヘリウム電池 2
私は瑠璃19。固体ヘリウム電池について解説するよん。
……そろそろ進めてもいいかなん?
この研究、Hvy-Gd原子が製造時に造り上げたこの分子構造が解明されてから
一気にHvy-Gd原子の研究が進んだんよん。
Hvy-Gd原子核が異常に大きい『繭』のように歪な構造だという事。
それは一本の『糸』が巻付いて造り上げたという事。
その『糸』とは陽子1個に中性子3個の節が積上げられて造られている事。
『糸』の両端がすぐ近くに位置して、端と端とを繋げているのが重中性子だという事。
『繭』の『糸』が振動し続けている事。
そして崩壊する時は……
Hvy-Gd原子が崩壊する時は次のようなプロセスにより行われていると推定される。
まず最初に安定している時『糸』の両端を結びつけている重中性子は『糸』の上を移動し続けている。
崩壊は重中性子の中に過剰に『糸』が取込まれる事で開始される。
重中性子は自身以上の質量と情報を保つ事ができない。
過剰な『糸』から電子が放出され、ヘリウム原子核となった『糸』の『切れ端』がα線として放出される(電子はβ線として放出される)。
重中性子は次々と『糸』を取込み、『切れ端』を放出し続ける。
自身が最後の『切れ端』となるその時まで……(『崩壊する原子』より)
んでね、人工的に崩壊を止める実験をした時に、最後のHvy-Gd原子核の崩壊形態が判明したんだよん。
あるγ線を照射するとHvy-Gd原子核は崩壊を停止する。それはHvy-Gd原子核の中にある重中性子を含むヘリウム原子核(α線)が放出される事に因り、原子核の『糸』を切離す機構が破壊されるからある。
だが、残った原子核は奇妙な形で『凍結』されていた。『糸』が『針』となり、異常なまでに細長い原子核として残るのである。そしてその『針』の両端に重中性子が観測された。(『人造原子の謎』より)
ん? どういう事かってん? それはねん。……えーと、どの本が詳しかったかなん……。これかなん? ……ちがうん。ありゃん……この下の本? ……んしょっ。
きぁあぁぁぁぁぁぁ……
……あぅうぅぅ。書籍流が発生してしまったん。
おっ! これこれ。この本の中の『Hvy-Gd原子核を取巻く異説 巨大グルーオン仮説』が真実に近いとされているんだよん。この本ではこの仮説を唱えた科学者へのインタビューという形なんだけどねん。そのまま伝えるねん。
「Hvy-Gd原子核から重中性子を叩き出す行為は、新たな重中性子を原子核の中に創り出すのです。まるで原子核の中からクォークを取出そうとしても、取出すエネルギー(クォークを繋ぎ止めるグルーオンを引き千切りる程の力)が原子核の中に取出すクォークと同種のクォークを創り出すというグルーオン仮説との同種の作用があると結論づけると判りやすいでしょう」
「それはあなたのファミリー得意の実験装置で見つけたのですか?」
「いいえ、確認できたのは崩壊停止原子核、針のように固まった原子核の両端に重中性子の存在を示唆する観測結果と、その原子核中の中性子の数が2つ少ないという観測結果から導き出される極めて自然な結論なのです。もちろん、この観測を得る為には義兄の造る極めて精度の良い実験観測装置とそれをまるで使いこなした楽器のように操り、大量の実験を処理する我が妻の実験によるところが大きいことは否定致しません」
「この仮説について奥さんはなんと?」
(暫し天を仰いで)
「『おめでとう』と言ってくれました。二人とも。それが彼女と……義兄との最後の会話です」
この言葉をもってこの章を閉じる。なぜなら、この後に記すべき言葉は彼の慟哭だけであるのだから。(『異才達の記録』より)
……彼の奥さんは、あのアブサン・リー原子力発電所をとめた主任技師の娘さん。そして彼がこの仮説を学会で発表していた時に実験装置が暴走して……。
後を追うように数年後に亡くなった彼の墓は彼の奥さんとその兄と一緒に並んでいるんだよ。そしてその墓には……『針』となったHvy-Gd崩壊停止原子核の図形が刻まれているんだよん。
『Hvy-Gd原子核の謎を追い、戦い続けた家族』という言葉と共に……
彼等のファミリーが唱えた幾つもの仮説は長い間、仮説としてのみ評価されていた。それは余りにも精緻に造られた実験装置にのみ確認されたという事が大きく響いた。だが、追試が出来つつ在る今日では彼等の仮説は次々と証明されつつ在る。(『早過ぎた仮説 〜失われた才能達〜』より)
まとめるねん。
巨大クラスター分子状態ではHvy-Gd原子は安定して崩壊する事が判明している。が、これを何らかの手段により、通常の分子構造(安定核種であるGd原子核は六方最密構造の白色の金属結晶となる)では、通常の放射性元素と同じく半減期をもつ崩壊を行う。この時の臨界量は数百gと推定されている。半減期は10秒。ただし、半数が崩壊するまでには元素生成後、約2日を必要とするが、生成後約24時間は安定しており、崩壊しない。
ちなみに巨大クラスター分子状態では全減期は約2ヶ月である。
崩壊を停止させる事ができるが、その時は針状の特殊な原子核として安定する。停止時には残存する中性子の内、約1/3がベータ崩壊を行い、陽子となる。なお、この崩壊停止原子核を取巻く電子軌道はチューブ分布を示す。マカロニ状態の電子雲の中心に針状の原子核が存在する状態である。無論、電子マカロニの両端は電子雲で塞がれている。(『奇妙な原子』より)
こんなとこかなん?
んでねん。いまでは安定してこのHvy-Gd元素を使用する大出力の原子力発電も可能なんだけどねん。……ある議定書がそれを阻んでいるん。
アメジスト・プロトコル。(アメジスト議定書)
アブサン・リー原子力発電所事故とメール・アイランド原子力発電所事故を重く見た万国平和連合会はアメジストシティーで緊急会合を開催。Hvy-Gd原子を用いる原子力発電(10万kw以上)を永久に停止する事を取り決めた。また、1万kwから10万kwのモノは研究目的に限る。(万平連公立図書館HPより)
この議定書によりHvy-Gd元素を使用する大規模商用原子力発電は道を閉ざさされてしまったのん。
ん? アブサン・リー発電所の破壊された炉心が凍結されていたのは何故かってん?
それは崩壊停止Hvy-Gd原子核の研究で判ったんよん。
崩壊を停止したHvy-Gd原子核(当然ながら陽子数はGdには足りないが、極めて異質な特徴(針状の原子核構造等)を持っている為に『崩壊停止Hvy-Gd原子核』と呼ばれる)に崩壊を促すある波長のγ線を一定時間、一定量以上、照射すると再び崩壊する。が、それは崩壊という表現は適当では無い。数ミリ秒で総ての核子を放出して崩壊するのである。いうならば『爆壊』というべきモノである。さらに特徴的なのは、爆壊時に放出されるα線(正確には計測時にはヘリウム原子となっている)が極めて低温だという事である。計測した温度は絶対零度に極めて近い。この現象を諸外国では『ハーデス・ウィンドゥ』、『ハーデス・バースト』等と呼んでいる。また、この現象から崩壊停止Hvy-Gd原子核を『固体ヘリウム』と呼ぶ研究者もいる。これは放出する核子やα線を『気化』したように比喩したモノである。一般にはこの『固体ヘリウム』という誤解を生む呼び名が浸透しつつあるのは安易と言わざるを得ない。
(『新しく小さな扱い辛いエネルギー』より)
んん? なんでそういうことが起きるかってん? それはこのHvy-Gd原子が出来た『場所』に戻るんだよん。んでねん、一番判りやすいのは……
この『崩壊停止Hvy-Gd』と呼ばれる原子はβ線の吸収材としては極めて良好な性質を持っているといえる。だが、問題となる現象はα線の照射実験で確認された。この極めて異質な原子はα線(ヘリウム原子核)を吸収して自らの原子核に取込むのである。結果として針のようなHvy-Gd原子核は『成長』し続ける。限界を迎えるまで。限界は崩壊停止Hvy-Gd原子核の原子量が256を超えた瞬間に訪れる。それは文字どおり『蒸発』と言うに相応しい。総ての核子が一瞬にして放出される。疑問を抱かずにいられないのはその時の放出される核子の温度である。水を吸収材として使用すると瞬時に凍結する。まるで『蒸発』する自身の運命に抗うようだ。まるで私達のように。わかるか? 自身の運命に抗うのは人間だけでは無い。原子核という総ての物質の根源でさえ抗う時があるのだ。私のこの身が凍結され砕かれようとも私は貴女を受入れる。待っている。(『物理研究者達の手紙』より)
何の手紙か判るん? まぁ、それはプライバシーに関することだから置いといて……で、ねん。この原子に対する風評は……
Hvy-Gd原子核は核融合炉での不可思議な実験により偶然に創り出された。その『場所』は水素原子4個を融合させてヘリウム原子核1個を創り出そうとして造られた場所である。だが、この奇妙な原子は最終的にヘリウム原子核1個を水素原子4個に分解させるのである。これを皮肉といわずに何というべきだろうか! 当然ながら期待されたエネルギーは放出されず、吸収されるのである。残されるのは絶対零度近くに冷却された炉材が残るだけなのだ。さらに!途中で放出されたヘリウム原子核も放射能を放出して水素原子に崩壊し、周りを凍りつかせるのだっ! 地獄のような冷たさにっ! 残るのは凍土の荒野だけなのだぁっ! これこそ科学の崩壊の象徴である。科学は最後に崩壊しも死のみを残すのである。いまこそ科学を捨て……(ある新興宗教家の論説より)
この論説には明らかな間違いが多いんだけど、引用しているのは事実なんだよねん。そして世間の風評もこの言葉に近かったのさん……。あんなに持上げたのにねん。「真実は事実の中には無く、常に産み出される。まるでゴシップ記事のように」っていう批評家の言葉が在ったけどねん……
結局、Hvy-Gdは小規模な原子力電池、しかも工業分野でのみ使用される『電池』として使われる事になったんよん。ロボットや荷役機械の動力としてねん。
現在ではHvy-Gd元素は広く『工業用電池』として使われている。一般的な諸元としては出力は約1,000kwのモノが主流であり『固体ヘリウム電池』、『256He電池』、『Hvy-Gd電池』等と呼ばれている。
各社が競って高効率の熱電素子を開発しているため、現在では1,500kw級のモノが普及しつつ在る。将来は5,000kwのモノも可能だという。しかし、それには更なる技術革新が必要だろう。(『汎用ロボット雑学』より)
これは私達が『増殖』し始める頃の本だねん。今は3,000kwクラスが多く使われているんだよん。……私達は使って無いけどねん。うふふん。私達が使っているのは「相転移炉」だよん。これはねん『重中性子』の研究によって世界に先駆けて私達だけが実用化しているんだよん。
その原理を教えろってん?
それは次回までの秘密だよん。
ヒント? ……んじゃね。
命題
「質量がマイナスとなる物体に質量がプラスの物体を衝突させた時にエネルギーは保存されるか? 保存されるとしたらどの様な式となるか? さらにこの物体の運動・停止エネルギー方程式はどの様な形となるか? また、この2つの物体の挙動はどの様になるか?」
わかるん? 「エネルギーは必ずプラスの値をとる」とするのがキーだよん。
んでね、これの式を分解すると虚数エネルギー物理学が導かれ、空間跳躍が可能となる理論が導かれるんだよん。
虚数物理学ってん?
1の平方根はん? 1だよねん。立方根はん? これも1だよねん。でも、複素数を使ったら? 1の平方根はん? 立方根の解は幾つあるん? つまりってん? もし……「1」の質量を持つ球と「−1」の質量を持つ球をくっつけたら何になるん? 質量0だよねん? ちょっと触っただけで光速で飛んで行く事になるよねん? そんなモノは存在しないってん? んじゃ、風呂桶に水を張ってテニスボールを浮かべたら? テニスボールでいっぱいになって動けなくなるよねん。でも、ボールに穴を開けて水を入れてちょっとだけ空気を残したらん? まだ入るよねん。そして沈みかけたボールと浮かんでいるボールはあまり干渉しないよねん。そいで、現実には物質と干渉しないニュートリノというモノが在るよねん? 干渉しないけどいっぱい在るよねん? それでってん? 浮かんでいるボールもちょっと沈んでいるよねん? 沈んでいるボールもちょっと浮かんでて……水面が世界を分けているよねん? んでねん、……もし、『水』を抜いてしまったらん? 沈んでたボールが浮いてたボールを押し上げて……うぷぷぷ。
これが相転移炉のごくゴクごく極、簡単な説明だよん。
結論としては……現実に存在する総ての物質は虚数振動をしているという事さん。
今までの『振動』とか『歌』とかも虚数振動と……これ以上は秘密だよん。
ん? そっちの世界には重中性子が存在しないのん?
そいじゃ、空間跳躍は無理かもねん。
んじゃね〜〜〜〜ん
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なお、作中の書籍名は総て創作であり、現実に同名の書籍が在ったとしても、全く本作との関係はありません。
念のために申しますが、現実世界の物理学と相容れない箇所が何箇所もありますが……気にしないでください。
ニフティのFSFにUPしていた101人の瑠璃シリーズの外伝を纏めたモノです。
宜しかったら、感想などいただけると有り難いです。