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十六夜埠頭の騒乱? 2

 瑠璃世界でのとあるコミケの一風景……

 さらには昨今のロボットとアンドロイドの普及に伴い流行り出した違法改造された軍事用ロボットやアンドロイドのレプリカで行われる模擬戦闘。無論、そういう趣旨の大会もある。だが、それらは幾度となく司法関係者から取締まれられたが為に制約が厳しく、単なる遊びのレベルに留まっていた。それに反発した輩達のパフォーマンス……つまりはそういう制約を一切無視し……花火をバラして手に入れた火薬や、無制限に圧力を上げ捲ったエア・ガンを流用した軍事用ロボットのレプリカによるバトル大会を勝手にコミック・マーケットの会場の広場で開催する輩。

 既に彼等の中では暗黙の了解として認識されるまで勝手に実行し続けている不埒千万、傍若無人な輩達であった。

 その……夜が明けたならば暴れる事だけを楽しみにしている輩達の集まりの中に、2体のアンドロイドが向かっていった。



「つまり、こちらの方々を大人しゅうさせるんがウチらの役目どすぇ」

「軽かったりィな。そんなんで次の作戦に参加できるんか? だったら、さっさと〆ちまったらいいんだろ?」

「そんな……すぐぅに腕力に訴えるんは野暮といぅものどすぇ」

「いいんだけどさ。その怪しげな古都訛りは何とかならんの?」

「あらぁ。このイんトネぇションが旦那衆に……」

 ぱきっ

「あ゛ーーーーーー」

 悲鳴を上げたのは違法改造の軍事用ロボットの整備をしていた輩。

 二体のアンドロイドが無造作に割り込んで来たのを呆気にとられて、その進行方向に部品を置きっぱなしにした為に、あっさりと踏みつぶされたが故の悲鳴だった。

「何するんだッ! この野郎ッ! ロケット発射口を開けるヒンジピンが割れちまったじゃねェかっ!」

「すんまへんなぁ。でぇもぉ? そない大事なモンだったら地面に置きなさらんで……」

 謝りながらもチクリと反論するのは瑠璃54。瑠璃達の中で和服を着用するために発熱を抑えた低出力用試験的機体であると同時に外商部……単純にいえば水商売で稼ぎを上げる部門である瑠璃5シリーズの1体。瑠璃達の中でも線が細く華奢に見える機体である。

「踏まれて困るモンだったら地面に置くなって素直にいやぁいィじゃないか」

 周りを気にもせずに瑠璃54に小言を言うのは瑠璃47。これも水商売……ま、一言で言えば所謂、「女王様」と呼ばれる職種に付いているアンドロイドである。その機体は元を正せば瑠璃9に繋がる高機動性の実験的試験機体。瑠璃達の中で瑠璃9達の次に長身でごつい容姿を誇り……いや、もっともグラマラスな肢体をレザーボンデージドレスに包んでいた。

「野暮やなぁ。そないにストレートに言わはったら、怒られますぇ」

「言わなくてもさぁ、怒ってると思うんだけど」

 疲れたような流し目で周囲を見るように瑠璃54に促す瑠璃47の手には、既に黒光りする鞭が握られている。

「あらぁ。皆さん、そないに楽しげに怒りなさらんでも……」

 確かに……2体を取囲む輩達は標的が出来たと喜んでいるように見える。

「……ま、結論は判ってんだからさァ」

 鞭をびしっと引絞って、言放つ。

「さっさと壊して、終ろうぜっ!」

「そんな品のない……あらぁ」

 突然、飛掛かって来た輩をひらりと躱し、瑠璃54の細く、しなやかな指先が輩の首筋に触れた途端っ!

「ギャひぃぃぃ」

 輩は全身を引きつらせて瑠璃54の足元に崩れ落ちた。

「ひゃあ。電圧が高過ぎましたかぇ?」

 瑠璃5達の指先、綺麗なマニキュアで飾られた爪先には電極が仕込まれ……単純にいえばスタンガンと同じ機能が在る。

「旦那衆には丁度いい電圧でマッサージできるんどすけどなぁ。そないに急に来られては、なかなか好みの強さは判りませんぇ。お許しを……」

「何いってんだかね。電圧なんて……」

 ひゅんと振るわれた鞭が輩達の後ろに置かれていた……無論、瑠璃47達にそのロケット砲の照準を合せていた違法改造ロボットに巻付き……一瞬の電気火花を散らして暴発させた。

「このぐらいかけないと効かないんだよっ!」

「そないにかけはったら、黒コゲになりますぇ」

 びっ

「その加減は接触時間で合せんだよっ」

 びびっ

「電気は一瞬で伝わりますぇ? やはりこうしてちゃんと掴まえてから……」

 びびびっ

 何人目かの輩が白目を向いて倒れ落ちる。……何故か嬉しそうな表情のままで。

「気色悪ィ。よくそんな奴等を触れるね」

「それこそが旦那衆への『愛』というもンどすぇ。ほぉら、こないな風に……」

 二体で……有り体に言えば掛け合い漫才のような会話をしながら、飛び掛かる醜悪なコスプレの巨漢達を倒していく。特に瑠璃54は舞い踊るようにひらりひらりと躱しながら、その首筋に一瞬の電撃を加えていた。

「ぎゃうごっ……へへへ。流石に電圧が低くなってきたようだなぁ? ん?」

 何故か、電撃攻撃を耐えた巨漢の一人が指を鳴らし、瑠璃54を見据える。が、瑠璃54は相手を無視して自分の指先を見つめていた。

「おかしおすなぁ。電圧は下がっておへんけどなぁ……あらぁ。まにきゅあが剥がれましたわぁ。嫌やわぁ。折角ぅ綺麗に塗れましたんに……」

「オラぁッ! 無視すんなっ! げぼっ」

 飛掛かった輩をひらりと躱し……その鳩尾に肘鉄をめり込ませる。

「まぁあ、電撃が効かへん御方も居られましょうから……」

 そのまま、くるりと体を入れ換え、輩の背後に回ると懐から取出した白銀色の扇子を開くとそのまま輩の後頭部に撃ちつける。

 開いた扇子は当然、衝撃で閉じる。その過程の鈍く重い衝撃が輩の意識を失わせた。

「このとおり、古典舞踊を披露致しますぅに、ゆっくり御眠り頂きましょうぇ」

 事実……古典舞踊の型は武術に通じる動きもある。瑠璃5達はそれを自分自身の護身術としての体系化を終え、当然、熟練していた。

「まどろっこしいねっ! おい。そこの御前もそう思うだろう?」

 指差されたのは……騒ぎの外から、高圧エアガンの銃身にボウガンの矢を詰めようとしていた……見るからに根暗そうな輩だった。

「ひ……死ねぇッ! 化物ォッ!」

「何だってぇッ!」

 瑠璃47が近づこうとするより早く、コントローラーのスイッチが入れられ、高圧空気がボウガンの矢を瑠璃47に向けて発射された。

 が、その矢は瑠璃47の鞭の一振りで捕えられ、次の振り下ろしで地面に突刺さった。

「オイ。さっき何て言った?」

「ひぃ……ひぃっ」

 冷たく静かに怒る瑠璃47のピンヒールが軍事用ロボットのレプリカを蹴り上げた。その決して薄くは無い防御鋼板に穴を開け……数m程、吹飛んでから、動きを止める。さらにそのロボットに鞭が振り下ろされ、電撃の火花を散らして二つに割れて爆発した。

「危ない玩具は卒業して、アタシと遊んで見たらどうだい? それに……」

 再びピンヒールが輩に振るわれ……コントローラーを粉砕した。

「ひぃぃぃぃ……」

「アタシを呼ぶ時は『バケモノ』じゃなくてね……」

 重ね持った鞭を輩の首に一回りかけて、冷たく言った。

「『女王様』と御呼びっ!」

 輩の首にかけた鞭越しに首投げを決められた輩は綺麗な弧を描いて、気絶している輩達の山へと着地した。……しっかりと気絶しながら。

「あら? もう終ったのかしら?」

「へぇ。このとぉり。時間もまだありますぅからお茶でも立てますぅ?」

 その投げた輩が東門の最後の一人だった。



4.北門にて

 その頃……

 西門の勇者、東門の勇者、南門の勇者と呼ばれ、それぞれのグループからも一目置かれる輩達が陣取っているのは北門。

 北門はもっとも最寄りの駅に近く、またその上空に高速道路が通って居た為に雨露もしのげる環境。そして、近くの派出所、民家やマンションにも近い為に警官達の監視の目も厳しく、軟弱な気の(あるいは一片の良心を持っている)輩は避けている場所。当然、居るのは検挙、摘発お構い無し、御意見無用の猛者(?)だけが陣取り、夜通し騒ぐのが年中行事。

 だが……

 何故か、この夜の北門は異様に静かだった。



 夜が明け……近くの駅の方向から二人の少女が駆けて来る。背に異様に膨らんだディバック。両手には重そうな紙袋をさげて……

「サヨリぃ。待ってェ」

「コヨリっ。早く、展示販売時間は朝イチからなんだからっ!」

「売残っても、いいじゃない。昼のコスプレ・パーティに間に合えばぁ……」

 どうやら参加者。しかも既に首からさげている通行許可証は作者グループ用の特別通行許可証だった。

「駄目よっ。いつもジャンカー達に昼ごろにはめちゃくちゃにされるんだからっ。その前に売り切って、その前に踊り捲るのよっ。この……セブン・ブライダーズの衣装……で……え?」

 サヨリと呼ばれた少女は、何故か立止まり……辺りを見渡した。

「どしたの? きゃいっ」

 コヨリの口を塞ぎ、物陰に隠れる。

「……どしたのよ」

 あたらめて尋ねるコヨリを振向かずにサヨリは呟いた。

「抜かったぁ……ここはもう北門だぁ」

 物陰から辺りを注意深く窺う二人。いや……一人。

「それが?」

 もう一人は能天気に聞き直す。

「だからっ! いつもここの門の前にはジャンカー達が屯してんのよっ!」

「でも居ないよ?」

 確かに……ちらっとでも視界に入ったら、脇道に避けるつもりで走って来て、いつの間にか北門が見える位置まで来てしまっている。

「変だねぇ。こもった体臭や、キツいコロンとか火薬の匂いも……きゃあっ」

「きゃアァァァぁぁぁぁ……あ……あれ?」

 二人が悲鳴を上げたのは、急に何かが頭上から落ちて来た故。

 あっけに取られたのは……それが白い糸でぐるぐる巻にされた……彼女達の言うジャンカー達の一人に間違い無い故。

 そして、その糸巻きジャンカーは空中で数度ゴムひもに吊られたように撥ねていたが、動きが落着くと、はらりと糸が解けて地面に落ちた。

「きゃあぁっ!」

「えーと。なんだっけ? ここは……何処だ? お嬢ちゃん達」

 生気のない、ぼーっとした表情のジャンカーは震えて抱きしめ合っている二人の少女に尋ねた。

「カイ国コミック・マーケット冬の陣、『十六夜埠頭の卵』Ver.3.1415ですっ」

 問われるままに、正直に応える少女達。

「んー。何だかは判らんが……近づいてはいけないモノのような気が……」

 何故か……その生気のない顔に、嫌いなモノを食べたような嫌悪な表情を浮かべて、ふらふらと少女達が来た方向、つまりは駅に向かって歩き去った。

「なんなの?」

「さぁ……きやあ、きゃあぁぁぁ」

 悲鳴を連続して上げたのは上からぼたぼたと、先程と同じく糸巻きジャンカーが落ちて来た所為。そして、同じく会場の方を見上げて、心底から嫌そうな顔をしては、ふらふらと立ち去っていった。

「……なんなの?」

「さぁ……あれ? 何あれ?」

 コヨリが上を見上げて、サヨリに問掛けた。

「何って……高速道路の陸橋だろ? 何が見えたの?」

「なんか……腕が5、6本ある綺麗な女の人……」

「腕が5、6本ある綺麗な女の人ぉ!?」

 サヨリはもう一度、上を見上げるが、勿論、何も見えない。

「何、矛盾した事、言ってんの? 腕がそんなにあったら気持ち悪いじゃない。アンタ、ホラーマニアに宗旨替えすんの?」

「やーよ。そんなの。趣味じゃないモン」

「だったら、さっさと行こう。なんだか知らないけど、ジャンカー達は少なくとも減ったみたいだからさ」

「あー。待ってよ」

 立ち去る二人の少女を、高速道路の陸橋の橋げたから手を振り見送る瑠璃66が居たことは、誰も知らなかった。

 ただ……一人の少女は心に決めていた。

「(そうだ。次の『春の陣』で今見たのをフィギュアにしてみよっと)」

 それが瑠璃6達に在る決心を強いる事になるとは知らずに……



5.会場にて

 その日のコミック・マーケット、正確に記述するならば『カイ国コミック・マーケット冬の陣、『十六夜埠頭の卵』Ver.3.1415 次は三日月空港跡地での春の陣Ver.1.4142だよ。お立ち会いッ!』という無意味に長いタイトルで執り行われた催し……略してコミケでは異様な光景が……衆目の下に晒されていた。

 普段のコミケでは騒いでいた輩達、ダーティ・マニアとかジャンカーと呼ばれていた輩が何故か広場近くの噴水に集められ、行水していたのである。


 真冬に。


 流石に怪しげな機械でそこそこには暖められては居たがのだが……寒風吹きすさぶ中では風邪を引かない程度の暖にしか過ぎなかった。

「はいっ! ちゃんと洗う。身体中の垢を一つ残らず、洗い落して下さいっ」

 分厚い本を抱えた地味なスーツのアンドロイドの指示に従い、自分の身体を、または仲間の背中を流していた。その傍らでは……

「はっ。さっさと洗うッ! 汚れ一つでも残してたら、この鞭をくれてやるよっ」

 長身のグラマラスなボンデージドレスのアンドロイドの命ずるままに、何モノかの服を一心不乱に洗う、醜悪なコスチュームの輩達。さらに、会場のあちこちでは……

「さっさと掃除っ! ほらっそこにゴミが残っているっ!」

「ちゃあんと働いたら御褒美上げるからネ。ガンバんのよ」

 二人のうさ耳アンドロイドの指揮の元、掃除に勤しむパンクルックの輩達が居た。

 そして中央広場の一角で三味線を爪弾く和服のアンドロイド。その傍らで……何故か大鍋で豚汁を作っている猫耳のアンドロイド。さらにその傍らで何もせずにただ昼寝している同じく猫耳の華奢なアンドロイドが居た。

 そしてその鍋の前には……

『豚汁。御一人様に1杯限り無料御奉仕』と看板が置いてあった。



「なんなの?」

「……なんだか、よくわかんないけど……今日は一日中、平和みたいね」

 ほのかなシャボンの香りと、ゴミ一つない会場に漂う三味線の音と美味しそうな豚汁の匂い。

 近来では稀に見るほのぼのとした雰囲気のままコミケは無事に終わりを向かえたのである。


 その日の夕方……

 誰一人として居なくなった会場で、8体のアンドロイドは安堵の表情で夕日を見つめていた。

「なんとか無事に終了しましたね」

「ホント。瑠璃30姉ぇがキレた時はどうなるかと思ったけどネ」

「えっ!? キレたんですか? それはきちんと減点して頂かないと」

「減点なんてどうでもいいだろ? 作戦終了、それだけでいいじゃないか」

「そうは行きまへんぇ。次の作戦の参加機種を決める試験でありますぅ以上は」

「いいじゃなぁイ? アタシ達が全員ついて行けばいいだけだろ?」

「そんないい加減な」

「アンタだってそのつもりで豚汁作ったんじゃないの? 瑠璃8」

「そうどすぅ。予定にない事をしはって。それもあぴーるでっしゃろ?」

「え……まぁ。そうだけど」

 瑠璃47と瑠璃54のツッコミに口籠って俯く瑠璃8の顔を瑠璃2が覗き込んだ。

「いいじゃないのっ! 皆で行けばいいんだよっ! きゃははは」

 一人で能天気に笑う瑠璃2の笑顔に他の瑠璃達は失笑し、後について立ち去った。



 依頼された事による収入を遥かに上回る支出(主に数千人分の豚汁の材料費)を彼女達の所有者に残して……



 注)小説は架空であり、別世界での決めごとに従い運営されているようですので、この世界での現実のコミケおよびコスプレなどを楽しんで居られるレイヤーの方々、諸団体および関係法令とは一切関係在りません。悪しからずご了承下さい。


 ニフティのFSFにUPしていた101人の瑠璃シリーズの外伝を纏めたモノです。


 外伝としては4話目になります。


 宜しかったら、感想などいただけると有り難いです。

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