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転校初日に異世界召喚!?

注意書き)

この話には『異世界召喚』系列の主人公を実際に巻き込まれた人間が知っていたらと言う目線で書いてあります。

そのためにそれらの作品に対して否定的な文章が多くもあります。

それをあらかじめご了承ください。

決して、私はそれらの作品に対して否定的ではありません。

 私、高杉竜胆(たかすぎ りんどう)は久しぶりに生まれ故郷に帰ってきた。私は6歳の親の仕事の都合で何度も転校を繰り返してきて色々な町を見て来たけど私にとってはこの町が好きだ。

 理由としては極めて単純だ。

 この町に他の町には決してない私の宝物があるからだ。

 その宝物とは幼稚園の頃にとても仲が好かった2人の友だちがいるからだ。

 一人は男の子で少し頼りないけど優しい男の子だった。今でもそうだが、私は多少気が強くて6歳の頃なんて特に女の子らしくなかった。けれど、彼は私のことを『女の子』として見てくれた。それは「女なのに生意気だ」と言うものではなく、ただ単純に彼の私を見てくれた優しさによるものだった。私はそんな彼の言葉に恥ずかしさを感じて素直にはなれなかったけど、内心ではとても嬉しかった。

 で、もう一人の幼馴染は女の子でこっちの方は私と比べたらすごい可愛らしいと思える女の子だった。私と比べたら、本当に女の子らしくて、本当におっとりしててもう一人の幼馴染ともお似合いでみんなに可愛がられていて、まさに天性のアイドルと言った感じだった。

 実は私は彼女に嫉妬していた。

 私は少しナルシストに思えるかもしれないけど、これでも美人だと思えるルックスをしている。長い黒髪は髪質がよく、目は少しきつめだけど黒目がしっかりしていて、顔も小顔で背も割と女子としては高く、手足も長い(ただし、筋肉はあるけど)。だけど、それ以前に気が強くて、女だからって舐められるのが嫌で男子に敗けない様に強さをイメージしやすい武道に打ち込んできた。あと、女の弱さを武器にするのも嫌で出来る限りのことは自分で何でもしてきた。

 まあ、要するに私は弱さを誰かに見られるのが嫌だったのだ。また、いつか自分が女だと自覚して異性に好意を持つことを考えるだけで恥ずかしくて仕方ない。それに私なんて趣味がかなり他人に言うことができないものばかりなのが仮に付き合ってくれる異性がいたとしても受け入れてくれるとは思えないし、むしろ、相手からすれば馬鹿にされていると思われるかもしれない。

 おかげで異性には憧れの女性とか高嶺の花はと見られるけど、「恋人にはちょっと」とも言われている。

 そのため、子供の時の記憶とは言え幼馴染の彼女のあの愛らしさと天真爛漫さは羨ましいとも思ってしまう。

 さてと、私がなぜそんな自己紹介のような思考を続けているかと言えば


「おお……!成功か……!」


「伝説に伝わりし秘法……やはり、効果があったか……!」


「これで我が国は、いや、世界は救われる……!」


 なんか某小説投稿版において、度々使われている主人公以外が勇者()とか、王女()とか、ビッチ幼馴染とか、いじめっ子ざまぁとかの単語がちらつく様な事態に巻き込まれて、しばらく、気持ちを整理するのとなるべくならば目の前の出来事が現実ではないと考えない様にするために心の清涼剤とも言える私の大切な思い出に浸ろうとしたかったからだ。


「よくぞ、来られた……救世主たちよ……!」


 そして、なんか感嘆の声をあげる貴族ぽい人たちの中でも特に一番、威厳のありそうな壮年の男性が感極まるような声で私たちを出迎えてきた。

 多分、あれは王様だと思う。


(……これどう見ても、あれよね……

 勇者召喚、異世界召喚、復讐系成り上がり物語とかのプロローグよね……

 て言うか、転校初日になんでこんな状況に遭うのよ……)


 王様ぽい人の声で私は現実を見ることを強制され、私はあれらの物語のプロローグのテンプレと同時に私の頭の中に今日一日の出来事も浮かび上がってきた。

 今日、私は新しい高校での生活に胸を躍らせていた。両親に聞いたところ、私の2人の幼馴染は私が編入するはずの高校に在籍していたらしく、私はもしかすると、大好きな幼馴染と再会しあわよくば同じクラスになれるかもしれないと言う期待も胸にあった。

 それなのに担任が先に入って、転校生の情報がこれから2年間の高校生活を送る筈のクラスメイト達に伝わり、もう六度目になる転校初日の挨拶をすませようと教室に入った途端、いきなり教室の床になんか青く輝く魔法陣ぽい遠目から見るには神々しくも見えるけど、近くで見ると目に悪そうな眩い光が目に入って目を閉じて、たった瞬き一つの瞬間に私たちは近世西ヨーロッパの王宮のようなまさに王宮とも言える空間に立っていた。

 あと、私たちの周りにはそのイメージに違わない服装や装飾を持つ王侯貴族や近衛兵ぽい人も多数おり、その中でもカイゼル髭を生やした壮年の威厳溢れるおじ様が一際目立った。


(うん、間違いなく『勇者召喚』のパターンに当てはまる出来事だらけだ。)

 

 私はなるべく、自分でも驚くぐらい冷静に考えて導き出した非現実的な結論を否定したかった。

 この手の話には見ていたら痛快なところはあるけれど自分が当事者になったら嫌すぎることが多いのも事実なのが私がその答えを拒絶する理由だ。

 例えば、復讐系主人公とかは私は関わりたくない部類の主人公だ。復讐と言うのは自分も相手と同類の卑劣な存在に成り下がることが多い。

 それにこの手の主人公の主な動機は元の世界でのクラスにおけるイジメとかだけど、よくあることで自分を助けなかったクラスメイトもいじめた主犯格と同罪と思う人間もいる。確かに自分が苦しんでいた時に手を差し伸べなかった他人を恨めしく思う気持ちは理解できる。でも、だからと言って人間がそんなに誰もが勇気を持っている訳じゃない。逆に言えば、自分がその傍観者の立場で自分がいじめられると言う恐怖の中でその人を助けられるかと問われることになる。その勇気を持てる人間なんて限られている。そんな人間まで復讐の対象にするのは大きな間違いだ。

 自分を裏切ったり虐げたりした人間を許せとは言わないけれど、そんな連中のために自分の人生の時間を削るなんてはっきり言えば無駄な労力だと思う。

 それに復讐なんて何もかも失った人間がする行為だと思っているし、それをしなければ前に進めない人間ぐらいしかしない暇つぶしだとも思っている。

 そんなことに時間をかけるぐらいなら、『ヘタレ』とか色々と言われるかもしれないけどその世界に必ず存在する『出会い』によって生まれた新しい人間関係のために生きた方が私は楽しいと思う。

 それに復讐鬼となったそう言った主人公を見ていると痛々しくも感じる。

 他にも片想い系の主人公。別に『片想い』も『恋』も私は否定しないし、私はそれに憧れも持っている。だけど、私が気にいらないのは『想いを寄せているあの子がイケメンと―――』系のフヌケ主人公。その女にとっての幸せが自分の考える幸せと繋がらないことを理解しておきながらもその想いを捨て切れない。その癖に自分から想いを告げることもしないで勝手に「裏切ったな……!」と勘違いして幼馴染の愛している男や幼馴染を憎むと言う自己矛盾。

 人間なんだから、矛盾した気持ちを持つのは間違いじゃないとは思う。だけど、自分がしっかりと想いを告げないで憎むなんてのは卑怯だと思う。それで勝手に相手が裏切ったなんて思うなんて逆恨みも甚だしい。

 私は『告白』がとても勇気が必要なことだとは理解しているし、共感もできる。でも、だからこそ『恋』と言うのは区切りをつけるべきものなんだと思う。

 それに『恋』と言うのはどうしても相手に『幻想』を抱きやすい。そして、その『幻想』に浸っていた分、『現実』を直視した途端に傷つきやすい。でも、それは自分勝手な独り善がりにすぎない。

 『恋』はとても眩しいものだとは思うけど、『愛』がないならそれは妄想でしかないと思うからこそ、私は嫌悪感を感じざるを得ない。

 最後に特に私が気に喰わない主人公は一部の最強系主人公。いや、別に圧倒的な強さの中にカリスマ性と聖人的なメンタルを求めるのは悪いことじゃないと私は思うし、強さに憧れを抱くのは別にいい。中には本当にかっこいい最強系主人公もいるし。だけど、その中で本当に気に喰わないのは『殴られる覚悟もない癖に一方的に相手を殴り続ける系の主人公』だ。

 私はこれでも武道をやってきた。武道の稽古なんて、どれもこれも傍からすればキチガイに見えるものが多い。

 一番、説明しやすいのは剣道とかの防具をつけて武器を扱う武道だ。剣道なんて、稽古と言う鍛練の中で一々自分を痛めつける相手に対して、礼儀作法を重々しくやる行うものだ。

 技の練習なんか、面と胴は防具が厚いからまだいいが、小手と突きは防具の構造上部位が薄いから地味に痛いし、終いには懸り稽古なんて言う相手によっては理不尽な理由で向かい突きを喰らわされるは、道場内を走らされるは、体当たりで壁に追い詰められると言ったことが普通の稽古を毎回の如くやらされる。

 ぶっちゃけると、運動部特有のパワハラがありながらも文句を言われない世界だ。

 でも、それはとても大事なことなんだとも私は理解している。自分が痛みを知るからこそ、相手に暴力を奮う時にどこか躊躇することができる。躊躇なき暴力なんて、どれだけ正義の味方を気取ろうが私からすれば醜い悪だ。

 相手を一方的に殴る最強系主人公なんて、情けなさすぎる臆病者だ。戦いにおいて、綺麗事なんて言うのもどうかと思うけど、痛みを知らないで戦う人間なんて言うのは復讐系主人公が復讐しようとするクズと同じくらいの弱者だと思う。それに自分がそんな卑劣な臆病者になるなんて想像するだけで吐き気がしてくる。

 これらのことを思い浮かべて、自分が主人公になりたいと思う人間なんていないだろうし、こんな物語に巻き込まれるのは絶対に嫌だ。何よりも自分や自分の親しい人間がそう言った物語の主人公と同じように人間としての尊厳を失う物語なんて嫌だ。

 と私が『召喚系物語』が現実になりそうなことに対して悲観していると


「あの……これは一体どう言うことなんですか?

 あと、ここは一体……」


 担任含むクラス全員が現実と夢がごっちゃになり、私はそれに加えてフィクションも混同しそうになっていると、どうやらクラスのリーダー格ぽいイケメンが目の前の王様にテンプレの如く、クラスを代表して恐らく王様であろう人物に事の次第を訊ね出した。


「おぉ……すまん。

 貴公らからすれば、混乱するのは当たり前であるな。

 ここはタウルド王国。ホロウシア大陸の西側に存在する王国群の一角だ。」


 国王らしきカイゼル髭の男はイケメンの質問を聞くと、即座に聞き慣れもしないし、聞いたこともない大陸名と国名を口に出してきた。


「ホロウシア……?」


「おい、タウルドてなんだよ……」


「それ以前に王国て……」


 聞いたことのない地名と18世紀に起きた啓蒙運動や革命の数々や第二次大戦後の民主化教育の影響で私たちにとっては馴染みのない王国と言う単語にクラスは反応しだし、再び騒然としだした。


(あまり、知られてないけど……

 ヨーロッパにはイギリス以外にもスペインとかベルギーにも王室て残ってるんだけど……)


 私は無駄知識が多いことからニュースとかを芸能しか見ないであろうクラスのその反応に茶々を入れた。

 と言うか、これぐらいの茶々を心の中でも呟かない限り、やってられない。


「あの……失礼ながら申し上げますが……

 僕らはホロウシアやタウルドと言った名前を初めて知ったうえに聞いたのですが……」


 イケメン君は今度は先程よりも戸惑いがちだが、なんとか情報を手に入れようと再び男性に対して、国名を知らないことは相手にとっては失礼なことを承知の上で再び王様に対して訊ね出した。

 すると、


「うぅむ……それは……なんと言ったらよいものか……」


 王様は妙に苦い顔をして答えに困っていた。


(あれ……?確か、こう言った話じゃテンプレの如く、王様とかの偉そうな人は嬉々として「勇者として召喚しちゃったテヘペロ(要約)」とか自信を持って言うはずなのに……)


 私は今までこう言った物語の中では王様とかお姫様は「勇者は世界を救うのが当たり前。だから、文句言うな(要約)。」と問答無用な発言を読んでいて、「あんたら王族でありながらも国のために頭下げる覚悟もないのか!」とツッコミをかましたくなる論語とかの儒教系列の本に該当する『君子の教科書』がないか、教育係の顔が見てみたいと言える品性を疑う傲慢な身を弁えない無教養で無能がテンプレだったことから、内心驚いていた。


(もしかすると……良識のある人なんだ……

 ごめんなさい……)


 王様のその顔から滲み出る申し訳なさを感じ取ったことから私は自分を恥じた。

 私は相手のことを知りもしないのに物語のテンプレのイメージが先行してしまい、イケメン君の言う『失礼』とは全く異なる人間として恥ずべきことを無意識にしてしまったのだ。

 だけど、これは同時に希望を抱くことができたとも言える。

 彼の様な人間が国のトップならば、物語のテンプレで巻き起こるであろう数々の悲劇や惨劇を回避することも可能だろう。それに彼の存在は物語のテンプレの崩壊を意味している。

 つまりは仮にこの世界に落ちこぼれ系主人公に相当する人物がいるとして、彼に襲いかかる『裏切り』、『寝取られ』、『復讐』、『いじめ』、『悪堕ち』と言ったある意味、ご都合主義とも言える鬱展開も起きない可能性もありえるのだ。

 私が希望を抱き、イケメン君を始めとしたクラスメイトが王様の答えを待っていると


「父上。

 ここからは私が説明いたします。」


 王様の態度を見かねたのか、クラスのイケメン君とは別ベクトルの金髪碧眼のイケメンで貴公子と言った感じの青年がなんとも高貴な優雅さを感じさせるさわやかな声を出しながら、王様とイケメン君との間に割って入った。


「うわ……工藤君と同じかそれ以上のイケメン……」


「かっこいい……」


 さらなるイケメンの登場にクラスの女子は騒然とし始めた。

 あと、どうやらクラスの方のイケメンは工藤と言うらしい。


「……ヴィルヘルム……すまんな……」


「いえ、父上も無理をなさらないでください。」


 どうやら、息子らしいヴィルヘルムと言う青年の助けに王様はどこか情けなさも感じながらも後のことを託した。


(なんだろう……とても、いい人なんだろうけど……

 王様なんだから少しは威厳を以って応えた方が……)


 私は目の前の親子のやり取りを見て、他人事なのに心配してしまった。

 どうやら、目の前の王様はきっと個人としてはとてもいい人なんだと思う。多分、私たちがこれから知るであろう真実は彼らにとっては国家危急存亡の危機なんだろうけど、赤の他人をそれに巻き込むことに負い目を感じているのだろう。

 いや、無関係な人間をいきなり生命がかかってる場所や出来事に巻き込むのは間違いだとは思うけど、それでもあんな風に申し訳なさそうにされたら憎み切れない。

 そして、王様に役目を後退してもらった貴公子は父の代わりにその役目を果たそうと私たちの前に出て


「では……

 異世界から来た救世主の方々。

 私の名前はヴィルヘルム・プリンツ・タウルドと申します。

 そして、先ほどの御仁は私の父であり、このタウルドの現国王であるカール・ケーニヒ・タウルド陛下であられます。」


「え……異世界……?」


 父親と同じく彼もどうやら無関係な私たちを巻き込んだことに申し訳なさを感じてかそれをどうにか隠しながらこれ以上王室の恥を晒すまいと本来父親が言うであっただろう私たちが求めた答えをさり気なく遠回しにして自己紹介を兼ねて言ってきた。

 どうやら、色々な意味でテンプレ通りでテンプレ通りじゃない出来事に私たちは巻き込まれたらしい。

竜胆さんが『異世界召喚』系の主人公たちに否定的なのは人間が大好きだからです。

不快になられた方々に対して、深くお詫び申し上げます。

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