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魔王軍との遭遇

 今晩もライナス達が不寝番をしているときは話し相手をしていたが、役目を果たして全員が眠ると自分だけになる。そうなると1人で複合魔法の練習だ。先日気づいたことを軸にして周囲にばれないようにこっそりと修行する。たまに息抜きで無詠唱の練習をするものの、全然成功しなくて落ち込むのはご愛敬だと強がってみる。


 (さて、次はどうしようか)


 失敗してばかりの無詠唱の練習を切り上げてからは、今日の出来事や気づいた点などを記録する。それを終えてからは次に何をするか考えを巡らした。ライナス達を含めて見張りの交代はまだ2回しか行われていない。朝まで残り8時間もある。


 (そういえば、オフィーリア先生は今頃どうしてるんだろう)


 俺にとって魔族というとまず思い浮かべるのがオフィーリア先生だ。

 ほぼ露出のない漆黒のゴシックドレスに身を包み、それと同様の漆黒の髪に病的なまでに白い肌の持ち主。そして、人形といえるくらい生気がないように見える絶世の美少女だったな。魔族の歳の取り方がどうであれ、オフィーリア先生はまだ相当若いんじゃないだろうか。

 そんな人──正確には魔族──を最初に思い浮かべるからだろうか、どうしても魔族だからといって敵対心が湧いてこない。直接戦えば印象が変わる可能性は高いが、みんなと話をしているときに出てくる魔族っていうのは、俺にとって魔物の印象と重なってたんだよな。

 だから、魔王と呼ばれるデズモンド・レイズを討つのに抵抗はないけれど、改めて魔族と敵対するのかと問われるとどうしても腰が引ける。

 そんなことをとりとめもなく考えていると3回目の交代が始まった。あと7時間か。




 不寝番の交代は既に5回終わっていた。深夜ということもあって今はとても静かだ。

 俺は相変わらずこっそりと複合魔法の練習をしているが、今のところは何もない。地平線まで遮るものがないので見張るのも楽だ。ここまで見晴らしがいいと、俺みたいに夜目が利くなら逆に捜索サーチは必要ない。隠蔽処理をされていない限り、肉眼の方が遠方まで確認できるからだ。地平線までの距離は約4.5オリクなのだが、図抜けた索敵能力を持つ俺の捜索サーチでも2オリクが限度なことからもわかってもらえると思う。尚、メリッサは500アーテムまで確認できると聞いたことがある。ライナスと同じだが精度が格段に違うそうだ。ちなみに、世間では100アーテム先まで探れたらかなり優秀らしい。

 それはともかく、俺は北から西にかけて重点的に見張っていた。真北は死の砂漠で、北西に魔王軍の拠点があるからだ。


 (あ~、中央山脈での魔物討伐を思い出すなぁ)


 あのときもこんな真夜中に襲撃されたんだっけ。魔法で隠蔽処理を施して近づいてきたんだったよな。

 できれば何事もなく過ごしたいなと思いながら眺めていると、北西側の地平線上に何やら蠢く豆粒が現れた。


 (魔族だとしても、こっちは明かりも点けてないんだし、見過ごしてくれないかなぁ)


 祈りながら現れた豆粒のような影を見ていると、それは少しずつ大きくる。ということは、やっぱりこっちに向かって来ているんだよなぁ。

 幸いまだかなり距離があるんだが、それだけに誰も気づいていない。

 俺は小さな水の球を作ってライナスの顔の上に落として目覚めさせる。


 「うわ、なんだ?!」

 (ライナス、どうも敵っぽい奴が現れたから様子を見てくる)


 顔を拭っていたライナスが、俺の呼びかけに気づいて顔を上げた。


 (敵?! どこに?)

 (北西の地平線上に現れたんだ。こっちに近づいてきているみたいだから、様子を見てくるよ。バリー達は起こしておいて)

 (わかった。しかし凄いな。地平線近くまで捜索サーチをかけられるんだ)

 (まさか、俺は霊体だから夜でも昼のように見えるんだよ。前にも言ったろ?)


 言われて気づいたライナスが思い出したようだ。それを見た俺はそのまま北西に現れた何かに向かって移動する。


 (まだ遠いから近づくまでに時間がかかるな)


 相手は多数の生き物が混じった集団のようだ。この段階で人型だと視認できるのがいくつもいる。巨人ジャイアント系の連中だろう。他には巨人ジャイアントに比べて背の高さが半分くらいしかない影も見える。獣の類いか?

 そして、魔族が絡んでいるなら飛んでいる奴がいるかもしれないが、今のところ何も見えない。まだ飛んでいないだけか?

 移動しながら俺は捜索サーチをかけてみる。範囲が2オリクとわかっているため、これに引っかかったら彼我の距離が2オリクを切ったということがわかるからだ。巨人ジャイアントみたいな目測を誤る原因がある場合は、正確に測れる手段があるなら使うべきだろう。

 ただ、俺の知らない魔物もいるだろうから引っかからない可能性もある。オフィーリア先生や単眼巨人サイクロプスを知っているので、類似の魔族や巨人ジャイアントなら引っかかってくれると思うのだが。


 (あれ、反応なし?)


 遠すぎたのか、それとも検知できない未確認の生き物なのか。何とも言えない不安がこみ上げてくる。

 最初からすぐ近くまで行くつもりだったからいいけど、捜索サーチが空振りするのは面白くないな。

 約1分後、更に距離が縮まる。巨人ジャイアントは輪郭もはっきりと見えてきた。魔物みたいなのも多数いる。俺は巨人ジャイアント、魔族、魔物で再び捜索サーチをかけてみた。


 (1オリクくらい? 近いな)


 さっきは2オリクの範囲外だったようだ。今度は意外と近くて驚く。俺もあっちの集団に向かって移動しているから、相対距離が一気に縮まったのか。

 捜索サーチに引っかかった敵の数を数えると、巨人ジャイアント系が20体程度、魔族系が10体程度だ。肉眼で見たときよりもかなり少ない。あれ、魔物が丸々入っていない?

 互いの距離が500アーテム程度になる頃には、恐らく魔王軍の部隊であろう集団をはっきりと捉えることができるようになってきた。

 巨人ジャイアント系は大きさが3アーテム以上という以外は、大体似たような感じがする。最大で頭2つ分くらい大きさの違う奴がいるが、これは異種族というよりも単に背丈が違うだけなんだろう。ちなみに、単眼巨人サイクロプスはいない。

 次に獣のような生き物なんだが、全てがでかい。虎、熊、猪、狼など多種多様だが、俺達が知っている獣の倍以上の大きさだ。巨人の国から連れてきましたって説明されても信じてしまう自信がある。俺が遠目で魔物と見間違えたのは、この大きさに惑わされたからか。

 そして最後に魔族だが、一見すると人間と変わりない。しかし、全員が似たような意匠を凝らした漆黒の鎧を身につけ、更に馬に乗っている。そのうちの何人かは顔をさらしているが、どいつも病的なまでに色白で美形だ。俺に対する当てつけか?

 少し宙に浮いて相手の数をおおよそで数えてみると80程度だった。半分以上がばかでかい獣というわけか。こっちは160人だから頭数は2対1だ。両軍の質を比較するだけの情報を俺は持ってないので、単純に数の多いこっちの方が有利なんじゃないかと思ってしまう。


 (そういえばこいつら、明かりも点けずにまっすぐ進んでいるな。全員夜目が利くのか?)


 魔王軍の部隊の魔族や魔物は歩みに迷いがない。まるで昼間のように歩いている。こんな連中と夜戦か。厳しそうだな。

 彼我の距離が100アーテムを切ると、風下ということもあって足音や装備の擦過音がはっきりと聞こえる。ということは、防音対策はしていないということだ。


 (そろそろ戻るか)


 相手との距離が50アーテムを切った時点で俺は戻ることを決意する。ライナス達のいる支援部隊までの距離は2オリク半ちょっとである。俺がみんなの所に戻っても、支援部隊とこの魔王軍部隊の距離はまだ1オリク以上あるはずだ。うん、充分用意できるはず。

 そう思って相手に背を向けようとしたとき、突然4人の魔族が空に上昇して行った。うお、ここに来て飛ぶか?!


 (この真っ暗な中、上からも攻撃されるのか!)


 これはまずい。みんな間違いなく地上の巨人ジャイアントやでかい獣に気を取られるはずだから、上から攻撃されるだけで大混乱になるはずだ。

 俺は空中へ浮いて一緒に進んでゆく魔族を気にしながら急いで戻った。




 幸いにして、俺が支援部隊の所へ戻ってきてもまだ魔王軍部隊からの攻撃はなかった。さすがに1オリク以上も離れているからだろう。


 (ライナス、みんな、起きてるな!)


 俺は既に準備が終わって待機しているライナス達に声をかけた。


 (ユージ、どうだった?)

 (やっぱり魔王軍の部隊みたいだ。こっちにまっすぐ向かってる)

 (数はどのくらいだ?)

 (全部で80くらい。内訳は、魔族が10、巨人ジャイアントが20、そしてでかい獣が50くらいだ。ちなみに、魔族は4人だけ空を飛んでいるぞ)

 (距離はどのくらいなんや?)

 (今はここから約1オリク先にいる。方角は北西。飛んでる魔族は下の巨人ジャイアントとでかい獣に歩調を合わせてるみたいだ)


 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。俺はそれに対して必要な情報を伝えた。


 (みんなを起こして準備するべきよね)

 (ちょっと待った。それはもう少し後にしよう)

 (どうして?)

 (そもそも、魔王軍の夜襲を誰が見つけたことにするんだ?)


 俺の問いにローラがはっとする。この4人はともかく、他の傭兵はジャック達でさえ俺のことは知らない。そうなると、不寝番でさえ発見できていない敵を見つけるのに理由が必要だ。


 (いつまで待てばいいの?)

 (メリッサの捜索サーチの捜索範囲は500アーテムだったよな?)

 (それまで待つっちゅーことやな。魔法による遠距離攻撃の可能性を考えると、部隊の全員の準備が終わるまでの時間はなさそうやな……)

 (ユージ、もっと早くてもいいんじゃねぇのか? どうせ暗くて誰もわかんねぇんだしよ)

 (うん、100アーテム先を捜索サーチできるやつもほぼいないんだし、この暗闇じゃ誰も確認なんてできないよ。そんなにメリッサの捜索範囲にこだわらなくてもいいと思う)


 俺が律儀すぎたのか。みんなと相談していると色々な考えが出てきて助かる。


 (それじゃ今すぐみんなに警告を出してくれ。ただし、北西に敵がいることは伝えても、距離は曖昧にしておこう)


 これなら後から言い訳ができる。今回は、メリッサがたまたま起きて捜索サーチをかけたら相手を発見したと言うことにしておこう。

 北西の方角を見ると、相手は先程と変わらない様子で進んできているようだった。捜索サーチで確認をすると既に1オリクを切っている。

 ライナス達は敵襲と叫びながら、ジャック達をはじめ周囲の傭兵を起こして回る。たたき起こされた傭兵達はすぐさまに戦闘準備を整えようとした。

 しかし、一番驚いたのは不寝番をしていた傭兵だろう。何しろ、敵襲があるなら自分達が最初に見つけるはずなのに、背後から敵襲という声が聞こえてきたのだ。そのため、どの不寝番も一斉に背後を振り返ったのを俺は見た。

 俺がライナス達に伝えた情報は、距離以外は短時間で支援部隊全体に伝わる。なので、誰もが北西に向かって意識を向けたのだが、ここで俺にとっての誤算がひとつ生じた。戦闘に備えて光明ライトの魔法が次々と唱えられたのだ。自分達の野営場所から北西数十アーテム先の間に次々と光明ライトを設置して戦いに備えたのである。


 (そうか、魔王軍がすぐ近くまで来ていると思ったのか!)


 奇襲を喰らうのは確かに避けられたが、これだと支援部隊の位置がはっきりとわかるので魔法での攻撃を受けやすくなってしまう。相手はまだ500アーテム先だ。

 そして当然、この動きは魔王軍側に知られる。明らかに連中の動きが速くなった。夜襲を察知されたから強襲することにしたんだろう。


 (敵が進撃速度を速めた! もうすぐ光明ライトにでっかい獣の集団が来るぞ! 巨人ジャイアントは遅れてやってくる!)


 俺がライナスとメリッサに伝えると、2人は広範囲に捜索サーチをかけられるからと手早く説明をして俺の報告を周囲に伝える。

 これで地上の方はみんなで何とかしてもらえるわけだが、問題は空を飛んでいる4人の魔族だ。こいつらは更に上へ移動して暗闇に隠れながらこちらの真上に移動しようとしている。捜索サーチをかけて確認してみると、最低150アーテム以上も地上から離れたところを飛んでいた。人間の魔法使いの能力を知ってるな。これじゃ普通の魔法使いは捜索サーチを使っても魔族を見つけられない。


 (メリッサ、捜索サーチで魔族は引っかけられるか?!)

 (うちはまだ魔族を見たことないから無理や!)


 しまった、そういやそうだったな! と言うことは、上の魔族を相手にできるのは俺だけか!


 (魔族がこっちの真上から攻撃しようとしてる。俺が連中を引っかき回してくる! みんなはジャック達と一緒に地上の奴等を迎撃しててくれ!)

 ((((わかった!))))


 とりあえず伝えるべきことを伝えると、俺は急いで魔族を迎撃するために上へ浮いた。

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