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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
8章 魔王軍との激突

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傭兵になるための面接

 酒場でお互いの近況などを話し合った2日後、ライナス達は聖騎士団の駐屯地を再び訪れていた。今回はジャック達の紹介で騎士団と面接をし、合格すれば傭兵の契約を交わすためだ。

 もう20年もこの地で戦っている王国軍は、基地らしく本格的な建物や訓練場などの施設を持っている。しかし、まだこちらにやって来て日が浅い聖騎士団は天幕を使った仮設基地でしかない。その中で最も大きい天幕にジャックとライナス達4人はいた。


 「この4人が、君の推薦したいという冒険者かね」


 天幕の中央よりも奥に設置された大きめの机と椅子に1人の男が陣取っていた。非常に生真面目そうな風貌をしている。その両脇には部下であろう男が2人並んで立っていた。


 「はい、見た目は若いですが腕は立ちます」

 「ふむ、そうか」


 部隊長のエイベルに応えるジャックはいささか緊張しているようだ。自分の雇い主に仲間を推薦してどんな反応が返ってくるか不安なのかもしれない。


 「私はイーストフォート駐屯地の聖騎士団を任されているジョン・エイベルだ。右隣がデミアン・ケイス、左隣がテリー・ランサム、2人とも私の副官である。さて、それではまずは自己紹介してもらいたい」

 「私はライナスと言います。冒険者で魔法戦士です」

 「俺はバリーっす! 冒険者で戦士っす!」

 「私はローラです。光の教徒で僧侶です」

 「うちはメリッサ・ペイリンです。魔法使いです」


 本当は俺もいるんだが、正体は明かせないので名乗らない。

 一方、エイベル隊長は4人の自己紹介を聞いて少し反応したようだ。


 「君はローラというのか? もしかして、王都やノースフォートで聖女と呼ばれていたのは君かね?」

 「……ええ、周りの方はそう呼んでいらっしゃいました」


 やっぱり光の教徒関係者となると最初に食い付くのはそこか。さて、どんな反応が返ってくるんだろう。


 「ノースフォートで冒険者になったと聞いていたが、本当だったのか。差し支えなければ理由を聞いてもよろしいか?」

 「はい。ここにいるライナスとバリーの2人とは同じ村の出身で、小さい頃に大人になったら一緒に冒険をしようと約束していたからです」


 ローラの説明を聞いたエイベル隊長は真面目な顔を維持したまま頷く。


 「なるほど、同郷の仲間との約束を果たすためですか。しかし、よく教会が認めましたな」

 「そのために教会から提示された条件がありましたが、この2人はその条件を満たしましたのでお許しを得たのです」


 そう言うと、ローラは簡単にいきさつを説明する。もちろん魔物討伐についてもだ。すると、エイベル隊長は更に大きく頷いた。


 「ほほう、噂程度にしか知りませんでしたが、そのような事情がありましたか。メイジャー殿が承認されているというのでしたら、間違いないでしょう」

 「ご理解いただけて恐縮です」


 同じ光の教徒、しかも聖女と呼ばれることもあるローラに関しては比較的すんなりと認めてもらえたようだ。ある意味これは予想通りだ。


 「それで、その魔物討伐で大きな功績を挙げたのが君達、ライナスとバリーか」

 「「はい!」」


 2人は元気よく答える。


 「ローラ殿のお話しでは、現地の領主とノースフォート聖騎士団から感状をもらったそうだが、それは持ってるかね?」

 「「はい!」」


 再び元気よく返事をすると、2人は背嚢から感状を取り出してエイベル隊長の前にある机に並べた。


 「おお、思ったよりも状態が良いな。こういう感状を大切に保管しているというのは結構なことだ」


 独り言とも受け取れるような言葉を発しながら、エイベル隊長は1枚ずつ丁寧に2人の感状を見てゆく。まるで誤字脱字がないか確認しているようだ。

 しばらく全部で4枚の感状を見終わるとエイベル隊長は小さくため息をついた。


 「確かに本物だな。少なくとも聖騎士団の感状は間違いない。そうなると、魔物討伐で単眼巨人サイクロプスを倒したという話は本物か……ああ、ありがとう。感状はしまってくれて構わない」


 言われた通りにライナスとバリーが感状をしまっている間も、エイベル隊長は何やら考え込んでいた。


 「……失礼。それではメリッサ・ペイリンだったね。君は何か実績を示すものはあるかね?」

 「うちはレサシガム出身で、祖父がゲイブリエル・ペイリンって言うんです。その祖父の元で魔法使いとして修行して、四大属性と無属性が使えます」


 うーん、エイベル隊長の質問の意図からはずれた回答なんだが、実はメリッサの実績を示すのは難しい。一応、聖なる大木にまつわる話はあるものの、聖なる大木が伝説として語られているため、本当にそんなことができたのか信じてもらえる可能性が低いのだ。ジルの話だって証明する物がないから嘘扱いされると思うべきだろう。

 だからこういう回答になったわけだが、さて、エイブル隊長はどう判断するんだろうか。


 「ゲイブリエル・ペイリン? ああ、あの魔法使いなのに殴って戦うのが得意という変人、いや失礼、お方の孫なのか!」


 思わず漏れた本音に俺達は苦笑する。やっぱりみんなそう思うよな。


 「エイベル様は、うちの祖父と会ったことがあるんですか?」

 「いや、私はないが、私の父が一緒に魔物討伐をしたことがあるらしくてな、自分達聖騎士と同じように最前線で魔物と殴り合っていた魔法使いの話をしてくれたことがあったんだ」


 メリッサの顔がはっきりと引きつっている。エイブル隊長の両脇に控える2人も理解できないというような表情だ。


 「その……君も、祖父殿と同じように殴り合うのが得意なのかね?」

 「いえ、うちは普通の魔法使いです!」


 慌ててメリッサは首を振る。それを見たエイブル隊長と脇の2人はあからさまに安心した。戦力として役に立つとしても、扱いづらい人材は困るよな。


 「そうか、それは良かった。さて、デミアン、テリー、君達はどう思う?」


 話しかけられた副官2人は一瞬顔を見合わせると、先にケイス副官から口を開いた。


 「はっ、自分は彼らを雇うべきだと思います。理由は、ローラ殿は同じ光の教徒、しかも聖女と呼ばれる程の方であること、ライナスとバリーはノースフォート聖騎士団が認める実力者だからです。ペイリンの実力については未知数ですが、この3人と同じパーティなので、それである程度推し量れると判断します」


 妥当な判断だと思う。実力がないと判断する根拠がないからね。


 「私も雇うべきだと思いますね。理由はデミアンと大体一緒です。補足すると、ローラ殿が本物か一時は怪しいかと思いましたけど、ノースフォート聖騎士団の感状をもらった2人と組んでいるんでしたら、偽物という可能性はほぼないでしょう。どうしても不安でしたら、ノースフォート教会に確認を取れば済むことですし」


 おお、意外なところを見られていたな。そうか、ローラが本人だと証明するものが実はないのか。そういう意味では、ライナスとバリーの持っている感状って実はものすごく重要なんだな。


 「ふむ、特に怪しい点もない上に、実績もあるというわけか。よろしい、君達を採用するとしよう」


 エイブル隊長からその言葉を聞くと、ライナス達4人とジャックが肩の力を抜いた。これでとりあえず、ジャック達と一緒に戦える。


 「実をいうと、最近魔王軍の攻撃が激しくなってきていてね、人手はいくらでも欲しいんだ。特に君達のような身元も実力もはっきりしているような冒険者なら、むしろ大歓迎なんだよ」


 苦笑しながらランサム副官が4人に話しかける。


 「王国軍によると、奴らは雨季でも平気で攻めてくるそうだから、これからの季節も大変らしい。私達は去年の秋からここに赴任したから、その辺りの勝手がわからなくてな。不安を払拭するためにも戦力は多い方がいいのだ」

 「自分は、単眼巨人サイクロプスを倒したという手腕に期待している。正直なところ、奴らは大きいと言うだけで充分に脅威だからな……」


 エイブル隊長とケイス副官も心情を吐露する。どうやらかなり苦労しているようだ。渡りに船だったのかもしれない。


 「それで、契約期間についてなんですが……」

 「おおそうだ、忘れるところだったな!」


 半分以上空気みたいな扱いになっていたジャックが、エイブル隊長に他の採用条件について話し合うように促した。


 「そこのジャックに聞けば、君達4人は期間限定でこの戦いに参加したいそうだな。まずはどのくらいの期間を希望しているのか聞かせてくれ」

 「2ヵ月くらいを目安にしています」


 俺達からすれば、極端な話として、魔族相手にどれだけ戦えるのかさえわかればその時点で止めたい。しかし、受け入れる騎士団としては、それだといいように使われてお終いなので受け入れられる話ではないだろう。そこで、みんなで相談した結果、2ヵ月なら納得してもらえるのではということになった。


 「2ヵ月か……どう思う?」

 「はっ、1回の契約期間としては妥当かと思われます。通常は1ヵ月から3ヵ月程度で契約更新を行いますから」

 「まぁ、実際に彼らの実力を確認していないので何とも言えませんね」


 ランサム副官が言いたいのは、使えるなら引き止めたいし、使えないならそのまま離れてもらってもいいということか。さしずめ、お試し期間と言った感覚なんだろう。


 「そうか。なら、2ヵ月の間だけ君達を雇うとしよう。報酬はジャックのパーティと同じということでいいかね?」

 「はい」


 ライナスが代表して返事をする。それを見たエイベル隊長は大きく頷いた。


 「よろしい。それでは契約成立だ。今から書類を作成するので、できたらそれに署名をしてもらおう」


 エイベル隊長がライナスに話をしている裏で、ケイス副官が書記に契約書の作成を命じていた。


 「では、これから2ヵ月間頼んだぞ」

 「「「「はい!」」」」


 エイベル隊長が笑顔でライナス達に声をかけた。


 「我が聖騎士団の後方待機は本日で終わりだ。明日には最前線へと出発する。お前達はジャックと共に傭兵部隊に戻って出発の準備をするように」

 「傭兵部隊の細かいことはジャックに聞いてくれ。私達の傭兵部隊だと古株だからね」


 ケイス副官とランサム副官が最低限のことだけをライナス達に告げる。

 それに元気な返事で答えたジャックとライナス達4人は、順番に天幕から出て行った。


 天幕から出た5人は、一斉に体の凝りをほぐした。やはり偉い人の前では緊張するようだ。


 「あ~、やっと終わったぜぇ!」

 「やっぱり偉い人の前やと緊張するわぁ」

 「全くだろ。何回会ってても慣れねぇ」


 バリー、メリッサ、ジャックの3人は疲れ切った様子だ。


 「でも、すんなりと受け入れてもらえたわね」

 「メリッサ辺りで何か言われそうな気がしたんだけどな」


 先程の面接を思い出しながらローラとライナスは言葉を交わす。確かに、何か言われるとすればそこだったろうな。


 「聖なる大木のことは、信憑性の薄い話を信じてもらうんが大変やろなぁ」

 「何事もなくてよかったわよね」


 まぁ、何かすんなりといきすぎた気もするが、思い通りに事が運んだので良しとするとしよう。


 「それじゃ、俺達の寝床に着いたら傭兵部隊について説明する。こっちだ」


 ジャックの言葉に頷いた4人はそのままついて行った。

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