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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
8章 魔王軍との激突

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仲間との交流と戦いのお誘い

 約束通り、ライナス達とジャック達は冒険者ギルドで落ち合った。挨拶を交わすと、早速ジャック達の行きつけの酒場へと向かう。

 ライナス達が日没後に繰り出したときにはどこもいっぱいで入れなかった酒場だが、まだ日没までに時間がある今だと席が空いている。しかし、それでも大半の席が埋まっているのはイーストフォートの景気がいいからだろう。


 「うわ、この時間でもうこんなに席が埋まってるのか」

 「空きの席が半分以上あるのは開店したときくらいですからね」


 ライナスの呟きにロビンが答える。


 「いつまでも突っ立ってるのもなんだろ。あっちの席に座ろう」


 ジャックが空いている席にライナス達を案内した。8人なので隣の空き席のテーブルをくっつけて使う。

 店での注文の仕方は『雄牛の胃袋亭』も含めてどこも同じだ。なので最初はジャック達に任せることになった。


 「姉ちゃん! 豚とソーセージを16人前、ハムと鶏を丸々1つ持ってきてくれ!」

 「それと、エールを8人前ね! 一番搾りのやつよ!」

 「鶏ガラのスープも8人分お願いするわね」

 「チーズもお願いします……あ、皆さんはどうですか?」

 「チーズ! 俺も!」

 「それじゃ2人分で」


 流れてきた給仕を捕まえて、ジャック達が慣れた様子で注文していく。途中、ロビンの注文にバリーが食い付いたが、それ以外は何事もなかった。


 「さて、それじゃあんた達の話を聞きましょうか!」


 去って行く給仕からさっさと視線を外すと、ドリーはライナス達に目を向けた。その目はやたらと好奇心で溢れ返っている。


 「あ~、どっから話せばいいんだ?」

 「そんなの、あたし達と別れてからに決まってるじゃない!」


 まだ酒も入っていないのに勢いよく迫ってくるドリーにバリーはたじろぐ。横目でライナスに助けを求めると、「俺に振るのか」と呟いたのが聞こえた。まぁ、最初から語れるのはこの2人しかいないからな。


 「わかったわかった。ドリー、俺達2人で話すから落ち着いて」

 「はいはい、席に着きなさい、ドリー」


 姉に諭されて仕方なく席に座るものの、好奇心が薄れたわけではない。しかし、興味があるのはメイ達3人も同じだ。目の輝きはドリーと大差ない。


 「えっと、最初はノースフォート教会への急使の仕事を引き受けたところからだったな……」


 そうしてライナスを中心とした今までのいきさつ語りが始まった。

 ノースフォート教会でローラと再会したところから本格的な冒険が始まり、中央山脈で魔物討伐に参加したところでドリー達の食いつきがよくなる。ライナスが夜襲を撃退したり、バリーと2人で敵の襲撃を迎撃したりというところで話は盛り上がった。しかし、一番は何といっても単眼巨人サイクロプスとの戦いだ。聖騎士団団長が戦死をする中、聖騎士と一緒に戦って倒したという話はジャック達を引きつけてやまなかった。


 「2人だけで単眼巨人サイクロプスを倒すなんて凄すぎるだろ」

 「4アーテムもある単眼巨人サイクロプスを転ばせる土槍アーススピアなんて、魔法使いでもそういないわよ……」

 「くっ、なかなかやるわね。でも、あたしだってその場にいたら、単眼巨人サイクロプスくらい倒せたわよ!」


 表現に違いはあっても評価してくれた戦士2人と、でたらめな出力に呆れている魔法使いがそれぞれ感想を口にする。


 「私としては、同じ光の教徒である聖騎士団を助けてもらったことが嬉しいですね」


 そんな3人に対して、ロビンだけは穏やかに喜んでいる。

 ただ、俺がやったことについてはライナスの手柄となっているので、客観的に見るとライナスは実力以上に評価されている。ライナスはそれを知っているので居心地悪そうに身じろぎするし、バリー達は苦笑していた。

 ここで注文していたエールがやっと届いた。食べ物の方はもう少しかかるらしい。


 「それで2人は、聖騎士団と領主様から感状をもらったのよね」

 「ああ、以前見せてもろたやつやな」


 ローラが何気なしに言うと、ジャック達は驚いてライナスとバリーを見る。


 「え、あんた達そんなものもらえたの?!」

 「領主軍の危機を救ったから出てもおかしくないが、大したもんだろ」

 「団長が戦死するほどの難敵を一緒に倒したんですから、それくらいは出るでしょうね」


 ジャック達は感心しつつも、その感状を見せてほしいと2人に頼む。すると、そこは気兼ねない仲間なので、2人はすぐに荷物の中から取り出して渡した。

 4人はため息をつく。普通なら感状など一介の冒険者に与えられることはないからだ。


 「はぁ、いいなぁ、あたしもほしいなぁ」

 「今のところで手柄を上げたら、俺達ももらえるかもしれないだろ」

 「ジャック、どれだけ頑張るつもりなのよ……」


 やがて、感状を返してもらったライナスとバリーは話を再開する。今度はウェストフォートでの話だ。

 ノースフォートでローラをパーティに迎えたライナス達は、今度はメリッサを迎えるべくレサシガムに行った。しかし、メリッサの祖父であるペイリン爺さんから、聖なる大木の枝を取ってくるようにという難題を与えられてしまう。そこでライナス達は小森林のどこかにある聖なる大木を探すのだが、ここでも俺の存在は伏せないといけないので、なかなか苦しい話の展開にならざるを得なかった。だんだん面倒になってきたなぁ。


 「その人魚マーフォークの女の子と出会ったのが鍵よね。そうかぁ、魔物にも優しくかぁ」

 「俺達なら間違いなくぶった切ってるか、追い払ってるだろ……」

 「うーん、否定できないわね」

 「水の精霊ウォーターエレメンタルに返り討ちにされている可能性もありますけどね」


 パムと出会ったところの話でジャック達は様々な反応を示す。そしてその反応は、妖精のジルと知り合いになったというところで更に大きくなった。


 「妖精と仲間に!? なんて羨ましい! 今度紹介して!」

 「うわ! 姉さん?!」

 「いやぁ、私も1度お目にかかりたいですね」


 メイが目の色を変えて席から腰を浮かしたのを見てドリーは驚く。いつもなだめ役のメイが興奮するなんて珍しいな。滅多に見ることがないからなんだろう。珍しいと言えばロビンも食い付いてきてる。

 続々と注文してきた料理がテーブルに置かれてゆく中、ローラとメリッサを加えた4人で話を続ける。

 そして、いよいよ聖なる大木との出会いに入ったのだが、ここで問題が浮かび上がった。聖なる大木を復活させた方法をどうやって説明するかだ。俺の存在を伏せる以上、別の手段で解決したことにしないといけない。


 (そうだ、ジルが復活させたことにしよう! それが一番無難だ!)


 他はどうやってもぼろが出そうな展開になると思った俺は、誰も確認のしようがない方法にした。うん、今回は全部ジルに押しつけてしまおう。


 「それで、その聖なる大木の枝から作ったのが、メリッサとローラの持ってる杖なのね」

 「見た目は普通の杖にしか見えないけど?」


 メイとドリーの視線がメリッサとローラに注がれた。


 「確かに見た目はそこいらで売られてるやつと何も変わらへんけどな。これはそういうふうにおじーちゃんが作らせたんや」

 「とても軽くて丈夫なのよね」


 特別なイベントで特別なアイテムを手に入れたということで、メイとドリーは羨ましそうにしている。まぁ、それだけ苦労したんだけどな。


 「そして、王都に一旦戻ってきて、メリッサに観光案内をしたんだ」

 「そこでフランクさんと会ったってわけか」


 ライナスが話を区切ると、ジャックが締める。これでこれまでの経緯は大体話せた。


 「それで、こっちにはどうして来たんですか?」


 次はロビンがこれからのことを尋ねてくる。当然そういう流れになるよな。


 「俺達はこれから、旧イーストフォートに挑むんだよ!」

 「え? あの廃都に?」


 勢いよく言い放ったバリーにジャック達が微妙な顔をする。


 「あんな所に何があるってんだ?」

 「何があるかわからへんから行くんやないか。あれだけの大きな都市やったんやから、絶対何かあるで」


 ジャックの問いかけにメリッサがすかさず答えた。おお、そう言えばこの辺りの受け答えもそのままするわけにはいかないよな。メリッサがうまくぼかしてくれた。


 「でもこれから雨季ですよ。更に言うと、廃都は危険なところですから、充分に調査をしておくべきだと思うんですが」


 ロビンが忠告をしてくれる。なるほど、確かにその通りだ。


 「だから、雨季の間に、私とメリッサで旧イーストフォートについて調べるつもりよ」

 「そんで、ライナスとバリーには、その間の生活費を稼いでもらうんや」


 ローラとメリッサの回答に、メイとロビンは大きく頷き、ジャックとドリーは力なく笑った。頭脳労働者と肉体労働者の差である。


 「そうだ! だったら、ライナスとバリーだけあたし達と一緒に戦わない?」


 全員がドリーの提案に驚く。


 「どういうことだ?」

 「雨季の間だけ、ライナスとバリーがあたし達のパーティに参加するの! そして、その間にローラとメリッサが旧イーストフォートの調査をするのよ!」


 名案とばかりにドリーが顔を輝かせる。1ヵ月の報酬額にもよるが、別に間違ってない提案だとは思う。ただ、なぁ……


 「ドリー、いくら何でもそれは……」

 「どうして? 稼げればいいんでしょ?」


 メイがやんわりと諭そうとするがドリーは意に介さない。


 「ドリー、俺達のやってる傭兵稼業は危険だから報酬が高いんだ。バリー達は廃都に挑むんだから、その前に危険な目に遭うわけにはいかないだろ」

 「あ……」


 ようやく自分の言っていることの意味がわかったドリーは、しゅんとする。まぁ、一緒に戦いたいって思ってくれるのは嬉しいが、さすがに対魔族の戦争はなぁ。以前やった隊商護衛の仕事で遭遇した奴にはだいぶ手こずったし。


 「雨季だけって言ってるが、最前線も雨季は動けねぇんじゃねぇのか?」

 「いえ、それがですね、魔王軍は豪雨の日も関係なく攻めてくるそうなんですよ」


 バリーの質問にロビンが答える。


 (バリー、お前やる気なのか?)


 なんだか乗り気のバリーに俺は声をかける。


 (今のうちにもう1回魔族とやるべきだと思うぜ)


 意外な提案に俺は驚く。そして同時に、他の3人にも精神感応テレパシーで会話ができるように切り替えた。


 (なんでまた?)

 (俺達は魔王を倒す可能性があるんだろ? そんな奴らが魔族を相手にできねぇわけがないだろう。逆に、魔族と戦って相手にならなかったら、魔王を倒すために何か修行する必要があると思う。そういうことは、早いうちに知っておくべきだぜ)


 てっきり魔族と戦ってみたいだけだと思っていた俺は、予想以上にまともな意見をバリーから聞けて驚いた。確かにその通りだ。慎重になるのはいいことだが、自分の力が相手に通用するかを確認しておくのも重要なことである。やるな、バリー。


 「どうだ、みんな。1回魔族とやっとかねぇか?」

 「そうだな……今の俺がどれだけ通用するのか知っておきたいな」

 「どうせだったら、期間限定でみんな一緒に戦わない?」

 「せやな。うちの魔法がどれだけ通用するか見てみたいって、ライナスと一緒やな」


 俺との精神感応テレパシーでライナス達が黙り込んでいたのを緊張して見ていたジャック達は、意外な答えに驚いた。


 「……てっきり断ると思ってただろ」

 「旧イーストフォートの方は別に仕事じゃないし、急ぐ必要はないんだ。ローラの言った通り、短期間なら一緒に戦ってもいいと思う」

 「やったぁ!」


 ライナスの返答にドリーが喜ぶ。他の3人も嬉しそうだ。厳しい戦いだから仲間は多い方がいいんだろう。

 一転して再び賑やかになった8人は、その後も話に花を咲かせた。

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