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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
8章 魔王軍との激突

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必然の再会

 依頼内容はかつて散々やった作業なので緊張することもなく、ライナスとバリーは受付カウンターで引き受け手続きをしようとした。


 「お、見ない顔だね。よそから流れてきたのか?」


 受付担当の若い男が2人を見て興味を示す。


 「ああ、昨日ここに来たんだ。それで、とりあえず日銭を稼ぐんだよ」


 バリーは気軽に答えつつも依頼書を出す。受付担当はそれを手にすると1枚の記入用紙を差し出した。


 「なるほど、生活費は必要だもんな。で、そっちの兄さんもかい?」

 「はい、これをお願いします」


 ライナスからも依頼書を受け取った受付担当は同様に記入用紙を渡す。


 「見た目は若そうに見えるけど、まだ10代かい?」

 「そうですけど……」

 「へぇ、なのにここへ来て仕事が配達とはね。大抵は傭兵になるんだが」

 「そんなに多いんですか?」

 「そりゃ、手っ取り早く一旗揚げようとするなら戦争が一番だからな。生き残れたらだが」


 ライナスは書く手を休めて受付担当と話をした。聞き流しながら書いてもいいんだが、ライナスはきちんと人の顔を見て受け答えする。こういうところは生真面目だなぁ。


 「ここで戦争って言ったら魔族とでしょう? 大丈夫なんですか?」

 「大丈夫なもんか。1回の戦闘で新人は半分が死ぬそうだよ。経験の浅いパーティが長くやっていけるほど魔族との戦争は楽じゃない。それでも頭数は必要だから、年中傭兵志願者を募集しているのさ」


 俺達には関係のない話だが、景気の良い話の裏にはそういった事情があるわけだ。消費するのは物資だけじゃないというわけである。


 「俺達は別に戦争をしに来たわけじゃないんで、直接は関係のない話ですね」

 「いいことだと思うよ。どれだけ長生きできるかわからんが、何も死に急ぐことはないしな」

 「できた! 後は任せた!」


 話の途中でバリーが記入用紙を受付担当に突きつける。その勢いに苦笑しつつも受付担当は用紙を受け取った。


 「よし、それじゃ少し待っててくれ」

 「おう!」


 満面の笑みでバリーは返事をした。

 受付担当が手続の処理を始めると、ライナスは書きかけの記入用紙を埋めてゆく。


 「あれ、なんだこれ?」


 書類を半分以上書き上げたライナスは、受付担当の声に顔を上げる。隣ではバリーが不思議そうな顔をしていた。


 「俺、何か書き間違えてたか?」

 「あーいや、違う。バリーに何かあるようだ。確認してくるよ」


 そう言って受付担当は席を外す。


 「心当たりは?」

 「全然」


 ライナスの質問にバリーは首を横に振った。初めて来た街で初めて冒険者ギルドを利用したばかりだ。心当たりなんてあるはずがない。

 しばらくすると、受付担当が戻ってきた。その顔はにやにやとしている。一体何なのかますますわからない。


 「ほらよ、女からの伝言だ」


 受付担当の言葉を聞いた瞬間、俺もライナスも思いっきり眉を寄せてバリーに顔を向けた。バリーに女? 誰だ一体?!

 手のひらくらいの紙を受け取ったバリーはその中身を見る。そして、目を見開いて驚いた。


 「おお?! ドリーからだぜ?!」


 その名前を聞いた瞬間、俺達も驚いた。なんだってこんなところでドリーの名前が出てくるんだ?




 通常、冒険者には活動拠点というものがある。そのため、依頼によっては各地に遠征することはあるものの、仕事が終わればまた拠点に戻るのが一般的だ。

 ドリー達は王都を中心に活動している冒険者パーティである。よって、何らかの仕事でイーストフォートに滞在している可能性はあるが、普通は王都を拠点にしている冒険者がイーストフォートにまでやってくることはない。


 「なぁ、なんでドリー達はこんなところにいるんだ?」

 「そんなの俺が知るわけないだろ……」


 朝の間に引き受けた依頼をこなした後、ライナス達は4人全員で聖騎士団の駐屯地を目指していた。イーストフォートの北門を出たすぐのところに王国軍の後方基地があるのだが、その一角に聖騎士団の駐屯地があるためだ。

 バリー宛の伝言には、その聖騎士団の駐屯地に雇われているから来るようにとあったのだ。


 「聖騎士団の駐屯地にいるっちゅーことは、そのドリーのおるパーティは聖騎士団に雇われとるんかな?」

 「多分そうなんでしょうけど……聖騎士団が傭兵を雇うなんてことは、あまりないのよね」


 メリッサの疑問にローラが答える。聖騎士団は魔物討伐や盗賊退治などをよくやるが、基本的に全て聖騎士団のみで事に当たることが多い。よって、冒険者を雇うことは基本的にない。例外としては、規模の大きい軍事行動を起こす場合くらいだ。


 「でも、ノースフォートの聖騎士団は大量に冒険者を雇ってたじゃねぇか」

 「あれくらい規模が大きくなるとさすがに雇うわよ。ここにいる聖騎士団も魔族との大きな戦争だから雇ってるんだと思うわ」


 何にしてもドリー達と会ってみないとわからない。

 一行は北門を出ると、聖騎士団の駐屯地を探した。




 聖騎士団の駐屯地はどこにあるかすぐにわかった。旗の紋章が聖騎士団特有のものだったからだ。

 近くにいた警固をしている騎士にドリー達のことを尋ねると、雇った冒険者が寝泊まりしている場所を教えてくれた。

 騎士団が雇っている冒険者の数はそれほど多くないのか、その割り当てられた場所は広くない。なので、ぐるっと一周したところで目的の人物はすぐに見つかった。


 「お、ドリーじゃねぇか!」

 「え?! バリー?! あんたほんとに来たんだ!」


 バリーとドリーはお互いの顔を見て目をむく。しかし、伝言を使って呼び寄せておいて本当に来たんだはないだろう。


 「元気そうだな」

 「ライナスもね! そうだ、みんなを呼んでくるからちょっと待ってて!」


 ドリーは最小限の挨拶を交わすと、すぐに踵を返した。


 「随分と慌ただしいわね」

 「紹介してもらう前に行ってもうたな」


 ドリーと面識のないローラとメリッサは苦笑しながらその背中を目で追いかける。

 しばらくすると、ドリーが仲間の3人を連れてやってきた。


 「あら、本当にライナス達だわ!」

 「おー、本当に伝言が役に立つとは思わなかっただろ」

 「お久しぶりですね」


 メイ、ジャック、ロビンは、三者三様の言葉をこちらに投げかけてくる。いずれも約1年半ぶりの再会だ。


 「よう、みんな、元気そうだな!」

 「はは、当たり前だろ。丈夫さは冒険者の取り柄なんだぞ」

 「すっかり冒険者らしくなったじゃないの、ライナス」


 バリーとジャックはお互いの肩を叩き合って再会を喜んでいる。暑苦しい挨拶だ。一方、メイは以前の子供っぽさが抜けてきたライナスを見て感心していた。


 「あ、みんな、こっちにいるのがローラ、俺とバリーと同じライティア村出身なんだ。そしてこっちはメリッサ、レサシガムでパーティに入ってもらったんだ」


 一通り挨拶を終えると、ライナスはローラとメリッサをジャック達に紹介した。以前別れたときにはいなかった2人に視線が集まる。


 「僧侶のローラです。よろしく」

 「魔法使いのメリッサや。よろしゅうに!」


 自分に注目していたジャック達に向かってローラは丁寧に、メリッサは元気に挨拶をした。


 「俺は戦士のジャックだ。このパーティのリーダーをしている」

 「あたしはドリー! ジャックと同じ戦士よ!」

 「わたしは魔法使いのメイ、ドリーの姉よ。ドリーが何かやらかしたらわたしに言ってね」

 「ちょっと、姉さん!」

 「はは、喧嘩は私の後にしてくれ。私はロビン、僧侶だよ。ローラと同じ光の教徒なんだ」


 相変わらず騒がしい自己紹介だ。


 「しかし驚いたな。どうしてジャック達がここにいるんだ?」


 挨拶が終わると、ライナスが早速疑問に思っていたことを尋ねる。それにはジャックが答えてくれた。


 「お前達が王都から出た後にな、とある聖騎士にスカウトされたんだ」

 「スカウト? 誘われたのか?」

 「そうなの! 酒場で知り合ったフランクさんにね!」


 バリーの質問にドリーが横から割って入って答える。

 ジャックは苦笑しつつ、そこから話を続ける。


 「フランクさんっていうのは、フランク・ホーガンっていう聖騎士のことなんだ」


 その名前を聞いて俺達は驚いた。1ヶ月ほど前に王都で会った聖騎士と同姓同名だったからだ。あいつか。俺には良い印象はないんだけどな。

 そして、俺達の様子を見たジャック達は不思議そうな顔をする。


 「あれ、どうしたんだ?」

 「ああ、いや、俺達が1ヶ月前に王都で会った聖騎士と同じ名前だったから」

 「え、あんた達もフランクさんにスカウトされたの?!」

 「いや、メリッサを連れて王都観光をしていたときに偶然出会ってね。少し話をしただけだよ」


 ライナスの説明に今度はジャック達が驚いた。こんな偶然ってあるんだな。


 「あらそうなの。フランクさんの名前に反応したから、てっきり誘われたんだと思ったんだけど」

 「うちらは別件で来たんや。でも、よう王都からここまで来る気になったな。普通あんたらみたいな王都の冒険者はこっちに来んやろ」


 メイの感想に触発されてメリッサが質問をする。

 そうだ。王都は王都で魔族の侵攻を受けてるんだから、現地に行く手間を考えてもイーストフォートまで来る必要はないよな。


 「それが、フランクさんの口利きで割のいい条件にしてもらったんだ。そこまでされたら行くしかないだろ」

 「報酬が普通の倍なんて夢のようよね!」

 「ドリー、あんたは落ち着きなさい」


 さすがにことあるごとに口を挟むドリーをメイは止めた。

 そうか、報酬に釣られて来たのか。イーストフォートでの戦いも厳しいと聞くしな。それに、イーストフォートは人口が少ないから、他の都市からも引き抜いているんだろう。


 「そうだ。ドリー、どうして冒険者ギルドに伝言なんて出してたんだ?」

 「ああそれね。実は、一旦王都に戻ったフランクさんが急使として先日来たのよ。そのときに少し話す機会があってね、偶然あんた達がこっちに来るっていう話を聞いたんで、ギルドに伝言してたってわけ」

 「せっかくお互いこんなところまで来たんだから、1回会っておきたいと思ってね」


 バリーはドリーとメイから説明してもらう。


 「王都では会えなかったからな、ここで会えてよかったぜ!」

 「そうだ、夕方から非番になるからみんなで飲みに行こう。積もる話もあるだろ」

 「いいわね! あたしもみんなの話を聞きたい!」


 聞けば今も一応勤務中らしい。余裕はあるらしいが、あんまり余計なことをして聖騎士団からジャック達が睨まれてもつまらない。

 そこで俺達は、夕方に冒険者ギルドのロビーで落ち合う約束をして一旦別れた。

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