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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
7章 王都での邂逅

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旧イーストフォートについて

 雄牛の胃袋亭で酔っ払いながら話し合った結果、1日目は個人行動で2日目と3日目はメリッサの観光案内ということで落ち着いた。結局のところ最初に出した案の通りということになったわけだが、酔っ払った後にまともな案など期待できないのでこんなものだろう。

 昼からはアレブのばーさんと会わないといけないので、正午頃に冒険者ギルドで待ち合わせることになっている。そのため、朝は個別行動だ。

 ローラは大神殿に出向いて挨拶回りをするらしい。完全に組織から抜け出していないので、こういう些細なことでもやっておくことは重要だ。メリッサは大神殿近くにある光の教徒の図書館で時間を潰すことにしたようである。本には慣れ親しんでいるので、その気になったら何日でも籠もれるらしい。


 「それじゃ、俺達も行こうぜ!」

 「ああ!」


 ローラとメリッサを見送った後、バリーがいい笑顔でライナスに促した。


 「随分と張り切ってるな」

 「武器の状態を早く見てもらいたいからな」


 ライナスとバリーがこれから行くところは、オスカーが開いている武具屋である。久しぶりに行くので武器の状態を確認してもらおうとしているのだ。一応手入れはしている2人だったが、やはり機会があるなら専門家に確認してもらいたいと思うのは当然だろう。


 「お前の戦斧バトルアックスの状態が気になるよな」

 「そうなんだよな。ちゃんと見立てて買ったつもりなんだが、本当にその見立てが正しいのか不安でよ」

 「それよりも、あれだけ魔物に叩きつけて痛めてないか不安にならないのか?」

 「え? 戦斧バトルアックスってそういうもんだろ?」


 微妙に問題視しているところに違いがあるものの、自分達の商売道具の話なので盛り上がる。

 そうして話している間にも、2人はしっかりとした足取りで進んでゆく。そして、これといって特徴のない武具屋にたどり着いた。


 「こんにちは」

 「うっす!」


 2人が中に入っても店の主人以外は誰もいなかった。相変わらず閑古鳥が鳴いている。


 「……久しぶりだな」


 ライナス達に視線を向けたオスカーは、やる気のない表情のまま2人を出迎えた。


 「今日は武器の点検をしてもらいたくて来たんすよ!」


 バリーはそう言うと、槍斧ハルバード戦斧バトルアックスをカウンターに置いた。オスカーは戦斧バトルアックスを胡散臭そうに見る。


 「この戦斧バトルアックスはどこで買った?」

 「ウェストフォートの武具屋っすよ!」

 「森の中だと槍斧ハルバードは扱いにくかったそうですよ」

 「ああ……」


 ようやく納得したのか、オスカーは戦斧バトルアックスを手に取った。そして、刃の部分を中心に顔を寄せて診ていく。

 その間の2人はだまったままだ。話しかけてはいけないことを知っているからである。

 やがて診察が終わったのか、オスカーは戦斧バトルアックスをカウンターに置いてバリーに顔を向けた。


 「手堅い買い物をしたな。そんなにいいわけじゃねぇが、悪くもねぇ。使い方は荒っぽいみたいだが、戦斧バトルアックスを使う奴ならこんなもんだな」


 どうにか及第点をもらえたっぽいな。バリーも嬉しそうだ。


 「ありがとうっす!」

 「武器の手入れをこれからもきっちりとやれば、まだまだ使える。大切にするんだな」


 その次に槍斧ハルバードを診てもらったが、こちらも問題なしということだった。


 「それじゃ次に俺の長剣ロングソード短剣ショートソードを見てください」

 「出してくれ」


 バリーの武器の診察が終わったので次はライナスの武器の番だ。カウンターに長剣ロングソード短剣ショートソードを置く。


 「ふむ……」


 オスカーは戦斧バトルアックスと同様に長剣ロングソードを手にする。

 その後のやり取りは、大体バリーと似たようなものだった。

 そして武器の点検が終わると、これまでの街で見てきた武具屋の質や評判、それにどの武具がいいだのという話に移っていった。オスカーにとっては王都以外の武具屋の話は珍しく、ライナスとバリーにとっては専門家の意見が聞けるとあって、お互いに非常に楽しく有意義な時間を昼まで過ごせた。




 4人は再び集合して寂れた倉庫に向かう。正直なところ会いたくないがそういうわけにもいかない。


 「よう来たの。待っておったぞ」


 今日のばーさんは上機嫌だ。俺達が旧イーストフォートへ行くことがよほど嬉しいらしい。

 そして、今日のばーさんは何か細長く巻き上げた紙を手にしている。


 「今日は、旧イーストフォートに関する話をしてもらえて、地図ももらえるんでしたよね?」

 「そうじゃとも。これがその地図じゃ」


 ばーさんは手にしていた巻紙をライナスに渡す。縦の長さが50イトゥネック程度と微妙な大きさだ。

 広げてみると横幅は80イトゥネックくらいある。そして、その紙には詳細な都市の図が描かれていた。


 「これが旧イーストフォートの地図ですか」

 「100年ほど前のじゃがの。滅んだのが80年ほど前じゃから少し古いが、そのまま使えるはずじゃぞ」


 急成長している都市ならともかく、既に成熟している都市ならば20年程度でそうは変わらない。正確な地図をくれたということになる。


 「こんな詳しい地図、どこにあったんですか?」

 「王家の宝物庫にあったやつの写しじゃよ。旧イーストフォートといえば王国にとって重要な都市じゃったからな。地図くらい持っていて当たり前じゃろう」


 確かにその通りだ。色々言いたいことはあるが、とりあえず良しとしよう。


 「そして、旧イーストフォートについてじゃが、お主らはどこまで知っておる?」

 「領主が悪魔を召喚して滅ぼされたってくらいでしたら」

 「俺もそのくらいだな!」

 「当時の領主はディック・ラスボーンだったかしら。光の教徒じゃ背教者扱いだわ」

 「なんで悪魔なんて召喚しようとしてたんか謎らしいけどな」


 当時の旧イーストフォートは王都に並ぶ繁栄をしていたそうだが、そのときの当主が悪魔を召喚して都市ごと滅ぼされたらしい。しかし、なぜ悪魔を召喚しようとしていたのかまでは不明とされている。


 「ふむ、大体は知っておるわけじゃな。では、そのラスボーン家に『古の証』が家宝として代々伝わっておることは知っておるか?」

 「あ、おじーちゃんからその話は聞いたで」

 「その『古の証』を手に入れたら、妖精の助力が得られるかもしれないのよね」

 「なんじゃ、ゲイブリエルの奴め、大体話しておったのか」


 多少気の抜けた様子でばーさんが呟く。めずらしい、ばーさんの情報がどれも既知のものばかりだとはな。


 「他にはありますか?」

 「そうじゃの……なら、その滅んだ当時の当主が、未だに『古の証』を守り続けていることはどうじゃ?」


 ライナス達は顔を見合わせる。その話は知らないな。


 「『古の証』はラスボーン家の敷地のどこかにあるんじゃが、何が未練なのか未だにその地に止まり続けているらしい」

 「手に入れたければ、そいつをぶっ倒せってことだな!」

 「待たんかい、バリー! お前には話し合いっちゅー手段はないんかい!」


 条件反射で口走ったバリーの発言にメリッサがすかさず突っ込みを入れる。恐らく幽霊ゴーストなんだろうけど、場合によったら話し合いの余地はあるよな。


 「更にじゃ、その『古の証』は何らかの秘術によって秘匿されておるらしい。よって、その亡霊と化した当主と話をする必要があるの」


 単純に力だけでは解決しないってわけか。面倒と言えば面倒だよな。


 「こっちにはユージがいるから幽霊ゴーストと話すことに抵抗はないけど、相手はどうなのかしらね?」


 頬に人差し指を当てつつローラが独りごちる。確かに年中俺と一緒にいると嫌でも慣れるわな。


 「敵意がないように近づけばいいんじゃないのか?」

 「幽霊ゴーストの居場所がはっきりせぇへんのにか?」

 「廃墟の中をうろついている魔物を倒しながら進むと、敵と思われねぇかな?」


 ローラに続いて、ライナス、メリッサ、バリーの順に疑問形の言葉が次々と出るが、解決策は出てこない。


 「まぁ、いきなり目の前に出てきた相手を片っ端から殺さないようにすることじゃな。民の亡霊が彷徨さまよっとることもあるしの」


 そうか、かつて王都並みに繁栄した都市なんだよな。1度に都市1つ分の人が殺されたら、自分が死んだことに気づかない人や未練のある人もいるだろう。もし幽霊ゴーストが徘徊しているとしたら、そういう人のなれの果ての可能性が高い。そして、そういう民を殺したことで当主の亡霊が怒るかもしれない、と。


 (場合によったら、魔物を避けながら進まないといけないのか)


 思った以上に厄介かもしれないな。


 「わしが与えら得る助言はここまでじゃ。後はお主らで考えるとよい」


 あと一歩突っ込んだ情報が欲しかったが、旧イーストフォートに入るにあたって、色々と考える必要があることがわかったのは大きい。情報の提供自体には感謝だな。


 「おお、それと……ほれ、これが3日後にお主らが乗る船の許可証じゃ」


 ばーさんが懐から出してきたのは1通の封筒だった。ちなみに封はしてない。

 受け取ったライナスは中の用紙を取り出した。おお、何やら豪華な紋章が描かれているな。


 「これがですか?」

 「うむ、波止場の港門近辺に係留されておる船じゃ。それを見せればエディセカルまで乗せていってくれるぞ」


 普段触れる依頼書とは明らかに違う上質な作りにライナスが気圧されていたが、そんなことはお構いなしにばーさんは説明を続けた。


 「これで、旧イーストフォートへ行く前準備はできたっちゅーとこか」

 「色々考えないといけないことがあるけどな」

 「まずは今のイーストフォートに行ってからよね」

 「早く行きてぇなぁ」


 約1名明らかに考えなしの発言だが、いつものことなので気にしない。


 「こんなとこかの。他に何かあるか?」

 「いえ。それでは、これで失礼します」

 「うむ、この調子で進むとよい」


 手早く別れの挨拶を済ませたライナス達は、寂れた倉庫を後にした。

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