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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
6章 新たな仲間と聖なる大木

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聖なる大木ヤーグ

 辺りは急速に暗くなりつつある。この聖なる大木のところへたどり着いたのが夕方だから当然だ。そして、人間は暗くなると何も見えなくなってしまう。


 「こらあかん、光明ライト使わななんも見えん」


 すかさずメリッサが光明ライトの魔法を使った。すると、4人の周囲だけ明るくなる。


 「ああそっか、ライナス達は暗くなると何も見えなくなるんだったよね」


 聖なる大木のヤーグと話をしていたジルが、明るくなった後方に顔を向けた。そして、今思い出したかのように再び聖なる大木へと向き直る。


 「そうそう! 今日はね、ヤーグに用があるっていう人間を連れてきたんだよ」

 (……ほう。わしにか)


 ジルの言葉に聖なる大木が反応した後、ライナス達は違和感を感じたのか緊張し始めた。


 「左から、バリー、ライナス、ローラ、メリッサだよ」

 「バリーっす!」

 「ライナスです」

 「初めまして、ローラです」

 「メリッサ・ペイリンです。よろしゅうに」

 (わしはヤーグ。この森の面倒を見ている)


 ライナス達と聖なる大木が挨拶を交わす。あれ、俺は?


 「それでね、話を聞いてほしいんだけど」

 (……ふむ。それはよいが、4人の人間の他に、なにかもう1人いないか?)


 おっ、鋭い。木には目がないだけに気配を感じ取るのは得意ということなんだろうか。そして、俺に見えない圧力がかかったように思えた。ライナス達が緊張したのはこのせいか。


 (初めまして。ライナスという人間の守護霊をしているユージです)

 (人間の守護霊! それはまた珍しい!)


 何やら聖なる大木さんは興奮されたようです。俺にかかる圧力の質が明らかに好奇心に満ちたものに変わった。


 「そうでしょ? ユージはね、精霊みたいな霊体なんだよ」

 (ほほう、それはまた面白い)


 聖なる大木が俺に食い付いてきたことに気を良くしたジルが、俺のことを話し始める。それをきっかけに、ライナスが生まれて俺が守護霊になったところから話すことになった。俺達の生い立ちを人間で唯一知らないメリッサは聞き役に徹するかと思ったが、聖なる大木と一緒に質問する側へと回ったので割と騒がしかった。

 辺りはすっかり暗くなり、光明ライトの光が周囲を照らすのみとなったが、それでも構わず俺達は聖なる大木と話を続ける。なんかこう、おじいちゃんと話をしているみたいで安心できるんだよな。バリーでさえ夕飯を忘れてしゃべっているんだから相当楽しいのだろう。


 「……それでね、ヤーグのところへ枝をちょーっともらいに来たってわけよ」

 (そうか。お前達がわしのところへやって来たいきさつはわかった)


 どれくらい時間が経過しているのかわからなかったが、どうもかなり話し込んでいたようだ。そして、ここにやって来ることになった経緯も全て話した。ここまではメイジャーさんやペイリン爺さんはもちろん、アレブのばーさんだって知らないだろう。


 (しかし、ライナスが魔王とやらを討伐せねばならぬとはの。人の国が魔族に攻められているということは知っておったが)


 どうやって知ったのか気になるところだが、もしかしたらジルのような妖精がたまに来るのかもしれない。


 「いやぁ、うちもローラ達の話が聞けておもろかったわぁ。こんな突っ込んだ話普通は聞けへんしなぁ」


 そして、ここへ来た目的を忘れている人物が約1名いた。メリッサご本人様だ。君のためにみんな苦労しているんですよ?


 「でもまさか全部話すことになるなんてね……」

 「そうだね。これ、思ったよりも恥ずかしいよな」

 「まぁ、いいじゃねぇか!」


 ローラとライナスは精神的に丸裸にされたような感覚なのか気恥ずかしそうだ。自分の半生を語ったわけだからな。

 俺も一緒に自分のことを話したから恥ずかしかった。アレブのばーさんやエディスン先生はいいとして、魔族のオフィーリア先生について話そうか一瞬迷ったが、もう全部話すことにした。ということで、俺が全系統の魔法を使えるということが全員に知られる。もちろん、一番反応したのはメリッサだったが、その次に反応したのが聖なる大木だったのは意外だった。

 こうして余計なことを考えずに全てを話せるっていうのは精神衛生上とてもいい。霊体の俺もすっきりとした。というより、間違いなく最も秘密の多い俺が一番楽になったよ。


 「うーん、ライナスとユージは数奇な運命に翻弄されてるねぇ」

 (何のんきに言ってんだ。ジル、今度はお前の話を聞かせろよ)


 みんな自分の過去を話した後に、唯一話していないジルに俺は詰め寄る。本当に知りたいっていうよりも、自分だけ話をしていないというのがずるく感じるんだよな。


 「あはは、あたしの話はまた今度にしよう。ぶっちゃけほとんど覚えてないんだよね」

 (……お前ならありえそうだから腹が立つよな)


 くそ、都合のいい奴め!


 (それで、メリッサがライナス達と一緒に旅をする条件が、わしの一部を持ち帰るということなのか)


 俺とジルが言い合っていると、横合いから聖なる大木が話しかけてくる。おっと、俺も目的を忘れるところだった。


 「試験に合格するっちゅー目的もあるんですけど、ヤーグさんの枝で作った杖ならローラ達の旅に耐えられるって聞いたんです。だから、うちはヤーグさんの枝がどうしても必要なんです」


 珍しく敬語を使うメリッサを尻目に俺は聖なる大木の様子を窺う。木なので表面上からは何もわからないが、何やら迷っている雰囲気ではあった。


 (せっかくここまでやって来たのだ。わしの一部を譲るのはやぶさかではない。ただ、わしからもお前達に1つ頼みたいことがある)

 「頼みたいことですか? なんでっしゃろ?」


 こっちが聞けるようなお願いだったらいいんだけどな。


 (近頃、わしもだいぶ衰えたようでな、森を管理するのがつろうなってきた。できれば若いものに任せたいが、もう少し時間がいる。そこで、わしの活力を取り戻すことに協力してくれんかの)


 俺達はしばらく呆然とする。小森林全体を管理しているような大木の活力を取り戻すってどうすればいいんだ?


 (ジル、何か方法は知らないのか?)

 「……知ってたら教えてるわよ」


 そりゃそーだな。


 「協力するのはええですけど……みんな、どーしよ?」

 「どうしよって言われたって、なぁ……」

 「私に振られてもすぐには何も出せないわよ」


 メリッサは聖なる大木に自信なく答えつつ仲間に意見を求めるが、ライナスもローラもすぐには何も返せない。ちなみに、バリーは早速考えることを放棄したようだ。早すぎるぞ。


 (それって、根っこから養分を吸い取ったり、葉っぱで栄養を作ったりするだけじゃ足りないってことなんですよね?)

 (ふむ、そうなんだが……ユージ、根のことや葉のことをよく知っているな)


 前の世界じゃ義務教育の範囲内だからな。あっちの世界なら誰もが知っていることだ。


 (それで、根っこから吸い取る養分が減ったり、葉っぱで作れる栄養が減ったりはしていませんか)

 (そうじゃの、確かにどちらも以前よりはやりにくくなっておる)


 とりあえず、衰えた原因をはっきりとさせないとな。恐らく老衰なんだろうけど、他に原因があったらそれにも手を打っておかないといけない。


 (根っこですけど、土の養分が減ったから栄養を取りにくくなったんでしょうか? それとも、根っこの能力が衰えたんでしょうか?)

 (恐らく根の能力じゃろうなぁ)


 俺はその後もいくつか問診のような質問を繰り返したが、結論としてはやはり老衰のようだった。


 「ユージ、何かわかったか?」

 (老衰なんだろうな。活力というか、生命力を取り戻したらある程度は解決するかもしれないけど、問題はどうやったらいいのかわからないことなんだよな)


 うーん、と俺は腕を組んで悩む。こんなお題は初めてなのでどうしていいのかさっぱりだ。


 「木の周囲に栄養になりそうなものをばらまけばいいんじゃねぇか?」

 「土を豊かにするんか?」


 豊かな土地だと作物がよく育つから、そこから着想を得たわけだ。ある意味バリーらしい正当派な意見だな。


 「でも、根っこの能力が衰えてきてるって、さっきヤーグは言ってたわよ?」

 「そうね、土地を豊かにしても栄養を吸い取れる能力が衰えたままだと駄目だと思うわ」


 ジルとローラがバリーの案に疑問を投げかけた。第一これだと何年も時間がかかってしまう。


 「何か、活力を取り戻せるような植物や鉱物は知りませんか?」

 (……残念ながら、わしの知る限りではないの。あったらそなたらに採ってきてもらうよう最初に頼んでおるよ)


 今度はライナスが聖なる大木に質問してみたが、その可能性をあっさりと否定された。これならまだ何とかなったんだけどなぁ。


 「大森林に活力が回復するようなもんってないんか?」

 「……知ってたら言ってるわよ」


 人間には未知の世界である大森林になら何かあるんじゃないのかと期待して提案したメリッサだったが、あっさりとジルに否定された。


 「光魔法で衰弱した人を回復させることはできるんですけど……」

 「なになに、そんな都合のいい魔法があるんだ、ローラ!」

 「でも、老衰での衰弱をどこまで回復させられるかまではわからないのよね」


 ローラの歯切れは悪いが、これは仕方ない。

 回復魔法としては光と水属性が有名だが、この2つには微妙な差異がある。光魔法だと外傷だけでなく、病気も治すことができるのに対して、水魔法だとほぼ外傷だけなのだ。これは、光魔法だと対象者の体とその病原体にも影響を与えられるのに対して、水魔法は対象者の体だけにしか影響を与えられないからである。

 そんな万能に近い効果を発揮する光魔法だが、残念ながら老衰による衰弱はほぼ止められない。


 「ましてや、こんなでっかい大木の活力を取り戻そうなんて、人間には無理やな……」


 メリッサが呟く。そう、人間に対してでさえもほとんど効果がないのなら、もちろんはるかに大きい聖なる大木に効果があるとは思えない。


 「じゃ、ユージはどうなの?」

 (え? 俺?)


 何気なく呟いたジルだったが、それに全員が反応する。


 「せや、ユージ、あんたはほぼ無限に魔力を溜め込めるんやさかい、ヤーグさんを回復させられるんと違うか?」

 (理論上無限に溜め込めるってメリッサが仮説を立てているだけで、別に無限に溜め込んでいるわけじゃないよ)


 それに、そもそもどのくらい魔力が必要になるのかがさっぱりわからないんだが。


 「それなら、ある程度ヤーグ殿を回復し続けて、効果がなければ中断、あったらユージができるところまで回復させるっていうのはどうかしら?」


 ローラが現実的な案に落とし込んでくる。そのある程度っていうのがくせ者なんだが、まぁこの際いいだろう。


 「ユージ、やってくれるか?」

 (……こんな状態じゃ、嫌って言えないよな)

 「任せたぜ、ユージ」


 バリーの脳天気さが恨めしい。俺の持ってる魔力、根こそぎ持っていかれるんじゃないだろうか。

 そうは言っても、他に案がない以上、やるしかない。

 俺は覚悟を決めて、聖なる大木に近づいた。

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