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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
6章 新たな仲間と聖なる大木

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精霊召喚

 薬草採取の依頼を終わらせるため、ライナス達は一旦ウェストフォートへと戻った。4人はすぐに冒険者ギルドで依頼完了の手続を済ませる。


 「薬草採取の依頼はこれでお終いということで、いよいよ次は聖なる大木のところへ行くわけなんだけど……」


 ライナス達はロビーの一角に陣取っているんだが、往来する冒険者全てがふわふわと飛んでいるジルに視線を向ける。


 「私達目立ってるわよね……」

 「当たり前や。妖精と一緒なんやから。うちだって見てまうわ」


 そう、ジルは姿を消すこともできるはずなのに堂々とウェストフォートに入ってきたのだ。理由は、「悪いことをしてないのに隠れる必要なんてない」というものだった。

 いや、確かにそうなんですけどね? 注目されすぎると色々やりにくいんですよ。その辺りの事情をジルさんにはわかってほしかった。


 「ふふん、みんな美少女なあたしを無視できないのよ!」

 「珍しい生き物だから見てるんじゃねーのか?」

 「バリー、あたしを珍獣扱いするな!」


 ジルはぷんすか怒りながらバリーの上をぐるぐると回るが、俺もバリーの意見に賛成だ。


 「ところでみんな、これからの予定なんだけど、3日後に出発するとして明日と明後日は準備と休暇に当てようか」


 ずれかけた話を戻そうとライナスが口を開いた。メリッサだけでなく、今はジルも話を引っかき回す原因になっているので、会話の舵取りが以前よりも難しくなっている。頑張れ、リーダー。


 「そうね。あ、ところでジル、目的地まではどのくらいかかるの?」

 「ここからだと、湖の上を飛んでいったら6日くらいかなぁ」


 ローラの問いにジルは何でもないように答えたが、その移動手段は人間には無理だ。


 「船で行けばいいんじゃねぇの?」


 思いついたことをそのままバリーが口にした。悪くない案だと思うが、問題はどうやって船を調達するかだな。


 「船か。ライナス、妖精の湖近くに漁村ってあったかいな?」

 「どうだろう。あったとしても、大切な生活道具なんだから貸してもらえるとは思えないんだけど」


 何かあったときのことを考えると1ヵ月くらいは借りたいんだが、ライナス達にそんな大金はない。


 「あたしとユージで水の精霊ウォーターエレメンタルを2体ずつ召喚するから、それにだっこしてもらったらどう? パムみたいにさ」


 何でもないように提案したジルに全員が視線を向ける。


 「そりゃできたらええけど、簡単にできることなんか?」

 「湖の上だけっていう限定ならできるわよ。水の精霊なんだから湖と相性はいいんだし」


 そうか、パムのときに召喚していた水の精霊ウォーターエレメンタルがあれだけ強力だったのは、湖との相性もあったのか。


 「ユージ、そんなことできるの?」

 (使う魔力量を増やすだけっていうならできるけど……)


 俺は途中で言葉を区切ってジルを見た。水の精霊ウォーターエレメンタルの召喚方法は知っているが、何か特殊な呪文を追加しないといけないなんてことがあったら無理かもしれない。


 「ああ、ユージならできるわよ。けど、念のために精霊語で呪文を唱えてよね」


 より相手に近い言葉を使うことで成功率を高めようってわけか。


 (ということは、ウェストフォートから妖精の湖までは徒歩で、湖上は水の精霊ウォーターエレメンタルを使って……どこまで行くんだ?)

 「人間が南方山脈って呼んでるところの近くまでよ」

 (そして、そこからは再び歩くわけか)

 「それって真っ正面から挑んでたら、南側の小森林を横断することになってたんやな。たぶん行けへんかったで、それ……」


 メリッサがおおよその場所を検討した結果、顔を引きつらせた。


 「他に何か話しておくことはないかな? ないなら今日はこれまでにしよう」


 ライナスがそう締めくくると、全員頷いた。




 2日間はあっという間に過ぎた。この間ずっとジルと一緒にいたが、気の向くままふらふらするので目が離せなかった。お前は子供か。

 誘拐されそうになるのを防ぐのも大変だったが、一番困ったのは食欲だ。そのちっこい体のどこにそれだけ入るんだよ。精霊界にでも繋がってるのか。

 というように、なかなか大変だったが何とか乗り切る。ジルと一緒に旅はできないと強く実感した2日間だった。


 「う~ん、今日もさみぃなぁ」


 バリーは背伸びをしながら独り言を呟く。南側の大森林の中はともかく、他は冬なので冷える。

 こんな中でもジルは元気だ。寒くないのか聞いてみたが平気らしい。


 「みんな集まったわね? それじゃ出発しましょう!」


 普段は1人で行動しているジルにとっては多人数でどこかへ行くということが珍しいらしく、今は張り切ってパーティを仕切っている。普段まとめ役をやっているライナスは補佐役に回っていた。


 「まずは湖までだね。徒歩で2日半か」


 ライナスはそう呟くと、先頭切って南側に歩いてゆくジルの後に続いた。


 3日目の昼頃、ライナス達は妖精の湖の北端に着いた。数オリク北までは畑が広がっているのだが、ここはまだ原野なので何もない。東に目を向けると遠くに小森林が広がっている。


 「さぁ、着いたで。ユージ、ジル、水の精霊ウォーターエレメンタルを召喚してや」


 岸辺に着くなりメリッサが気楽に頼んでくる。簡単な頼み事をするような感覚っぽい。


 「ふふん、いいわよ。見て驚きなさい! やるわよ、ユージ!」


 そして、どうしてお前は無駄に対抗心を燃やしてるんだ。軽く扱われているって受け取ったんだろうか。

 わざわざ注意するほどのことでもなかったので、俺は無視をして水の精霊ウォーターエレメンタルを召喚することにした。


 (我が下に集いし魔力マナを糧に、来たれ、水の化身、水の精霊ウォーターエレメンタル


 言われた通り精霊語を使って呪文を唱える。そして、人1人を抱えられるくらいの力が必要なので多めに魔力マナを費やした。召喚したけど使えなくてやり直し、何てことは嫌だからな。

 ジルの方を見ると既に2体召喚されていた。俺の召喚した奴より一回り小さい。


 「うわ、ユージ、また大きいのを召喚したわね」

 (人を運ぶのにどのくらいの精霊を召喚したらいいのかわからなかったからなぁ)

 「良質な水が近くにたくさんあるんだから、そこまで力を入れなくてもいいのに」


 最初は驚いていたジルだったが、すぐ苦笑しつつ助言してくれた。しまった、妖精の湖のすぐそばだということをすっかり忘れていた。召喚するときも相性の良いものがあったら影響を受けるんだっけ?


 「まぁ、いいじゃない。次はうまくやりなさいよ」


 ジルに励まされた俺は再度水の精霊ウォーターエレメンタルを召喚する。今度のは前回よりも小さいが、それでもジルのやつよりも少し大きい。うーん、加減がうまくいかないなぁ。


 「うん、まぁ、こんなものじゃないかなぁ」


 どうやら及第点をもらえたようだ。一安心である。

 と、俺とジルが水の精霊ウォーターエレメンタルを召喚している横で、他の4人はその召喚された精霊を見て驚いていた。


 「さっきのが精霊語か。何ゆーてんのかさっぱりやったけど、出てきた水の精霊ウォーターエレメンタルはまた強力やなぁ」

 「そうね。私でもはっきりと魔力マナを感じ取れるくらいだから、よほど濃密なのね」


 メリッサとローラは現れた水の精霊ウォーターエレメンタルに近寄ってしげしげと観察している。メリッサは特に俺とジルの召喚したやつの違いを見極めようとしているようだ。


 「なんか人の形をした水の塊が出てきたなぁ。で、あれは水でいいのか?」

 「たぶん」


 一方、バリーとライナスは少し離れたところでぼんやりと水の精霊ウォーターエレメンタルを眺めていた。魔法が使えないバリーは当然だが、ライナスも精霊魔法を使えないので何か出てきたという程度の認識しかない。メリッサも精霊魔法を使えないという意味ではライナスと同じはずなのだが、やはり知識量と好奇心の差なのだろう。


 「さぁ、みんなこれに乗って! 湖の上を通るわよ!」


 召喚魔法を褒められたジルは鼻息も荒くみんなに勧めるが、4人はどうやって乗ったらいいのかさっぱりわからない。何しろ水の精霊ウォーターエレメンタルは人型なので、乗るとすればおんぶかだっこの2択だ。


 (ジル、せめて馬型に変形させないか?)

 「え? パムみたいに抱えてもらったらいいじゃない」


 ジルの発言を聞いた4人は無言になる。特にライナスとバリーは顔が引きつっていた。うん、確かに精神的に拒否したくなるよな。


 (パムはちっちゃい子だったからあの抱えられ方でもよかったけど、ライナスとバリーは特に困るだろ)

 「……まぁ、別にいいけどね」


 よくわからないといった様子でジルは自分の召喚した水の精霊ウォーターエレメンタルに馬型となるよう命じた。すると、半透明な子馬へと変わる。俺も同様に命じると馬型になった。1体はジルのよりも少し大きめで、もう1体は更に大きい。

 4人は感嘆の声を上げた。


 「まぁ、あたしくらいになると、この程度は楽勝よね」


 先程から驚きっぱなしの4人に自尊心をくすぐられまくりのジルは更に調子に乗っている。気持ちよく仕事をしてくれているんだからそのままにしておこう。


 (それじゃ、子馬の2体にはローラとメリッサが乗って。少し大きいのにはライナス、一番大きいのにはバリーな)


 俺は4人が乗る水の精霊ウォーターエレメンタルを指定した。それぞれの体格に合わせてだ。バリーが子馬のやつに乗ると地面に足が着きそうなので、あらかじめ指示することにしたのである。


 「うわぁ、柔らかい!」

 「ほんまやな!……けどこれ、ちょっと湿気っぽいで。水の精霊ウォーターエレメンタルなんやからしょーがないんやろうけど」

 「厚手の布を敷いた方がいいかな?」

 「ライナス、それならマントを敷こうぜ!」


 この冬に長時間湿ったものに触り続けるのは体によくない。なので、そのための相談を4人でしていた。そこまで考えていなかった俺とジルもどうしようか考える。


 (少し厚手の土の鞍を作って、それをあの馬型の水の精霊ウォーターエレメンタルに乗せようか)


 俺は蹄型の鞍を作れたらと思ったのだが、よく考えると魔法による錬成なんてやったことがない。呪文を唱えて発動させてお終いの魔法と違って、物質や魔力マナを練って目的の物を作り出す錬成関連は数をこなして練習しないとうまくできないのだ。


 「それじゃ、土の精霊アースエレメンタルを呼んで鞍の形になるよう頼んだらいいじゃないの?」


 おお、ジルが冴えてる! 俺の賞賛に気を良くしたジルが、そのまま土の精霊アースエレメンタルを3体も召喚する。俺も1体だけ召喚してどのように変形させればいいのか実演してみせた。

 そうして2種類の精霊召喚で用意された移動手段に4人が乗る。こうして改めて見ると、非常に贅沢だな。


 「みんな、ちゃんと乗ったわね。それじゃ改めて、しゅっぱーつ!」


 ジルの元気な号令と共に俺達は湖上を滑るように南下し始めた。

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