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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
6章 新たな仲間と聖なる大木

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ウェストフォートでの前準備

 メリッサの祖父ゲイブリエル・ペイリンから聖なる大木の枝を取ってくる試験を与えられた俺達は、一路ウェストフォートに向かった。

 王国公路は王都ハーティアと研究都市レサシガムを結ぶ途中で、中央山脈を迂回するために北回り街道と南回り街道に別れている。北回りは平原の中を城塞都市ノースフォート経由で往来するようになっているのに対して、南回りは小森林と呼ばれる広大な森を通って行き来する。小森林と呼ばれているのに広大とは変な話だが、これは南方山脈の更に南側にある大森林に比べて小さいという意味だ。中央山脈と南方山脈に挟まれた場所に位置するこの森は、東西300オリク以上、南北400オリク以上の広さだと言われている。

 聖なる大木とは、この小森林の主だと言われている。かつては大森林と繋がっていたらしいのだが、地殻変動や気候の変化などで大森林から切り離されて以後、この聖なる大木が小森林の主となって管理しているらしい。ただし、ほとんど伝承に近い話なので聖なる大木があるということ以外はよくわかっていないのが実情だ。

 そして、そんな小森林のほぼ中央を王国公路の南回り街道が東西に貫通している。元は王国が西方地方を攻略するために何十年とかけて小森林の中に軍用道路を作っていたが、小森林を貫通する直前に攻略が完了してしまったので、仕方なく王国公路にしたという経緯がある。ただそれでも、攻略完了直後の西方地方は不安定だったことから、西の拠点ということで小森林の西の端に砦を築いたというのがウェストフォートの起こりだ。現在では北回り街道よりも距離が短いことからよく利用されている。

 そしてこのウェストフォートは、軍事拠点としての意味が薄れてくると、開拓拠点としての役割を担うようになった。何しろ周囲は未開の森なので開拓する場所がいくらでもある。そのため、統一後100年も過ぎた頃には開拓都市として定着するようになった。


 (南回り街道は北回り街道よりも栄えてるって聞いてたんだけど、そんな風には見えないなぁ)


 ウェストフォートの中へ入って俺の最初の感想はそれだった。都市の規模は将来の発展を見越して広めに作られているようなのだが、往来している人々は思っていたほど多くない。開拓都市と呼ばれるだけあって、都市の郊外に力を入れているのかなぁ。


 「けどよ、冒険者みたいなのは多いよな」


 バリーが周囲の人々を見ながら感想を口にする。そういえばそうだな。


 「ああ、これは小森林を探検する連中や、小森林から出てくる獣を退治するためにおるんや」

 「そっか、未開の森が目の前に広がってるんだもんね。需要は多いんだ」


 メリッサとローラはおしゃべりしながら歩いている。やはり同い年の女友達なので話が弾むようだ。レサシガムを出てから会話がほとんど途切れない。

 ちなみに今のメリッサは、ひとり旅をする旅人のような服の上にローラと同様の簡易な革の鎧を身につけ、1アーテム弱のスタッフを手にしていた。一見すると魔法使いらしくないが、ペイリン爺さんが用意したものだ。森のように行動が制限されるような場所だと、魔法使いといえども身軽に動けないといけないため、今のような衣装になったそうである。


 「さて、ウェストフォートまで来たのはいいとして、これからどうするかだな」

 「まず最初に小森林に関する話を集めんといかんね」


 東西に延びる大通りの中央で立ち止まったライナスが今後の行動について仲間に相談すると、メリッサがすぐさま提案してきた。しかし、その内容に全員が首をかしげる。


 「聖なる大木じゃなくて、小森林についてなの?」

 「せや、そもそもうちらは小森林についてようわかってへんやん。そんな状態で森のどこかにある聖なる大木の話を聞いても活かせへんで」


 なるほど、まずは基本的な情報を手に入れるわけか。焦って先走るのかと思ってたけど、メリッサは意外と手堅いな。


 「そうなると、冒険者ギルドか酒場になるのかな?」

 「ライナス、酒場はやめとこーぜ。俺達みたいなのは若造って馬鹿にされて相手にされないからな」

 「えー? でも俺達だってもう大人じゃないか」

 「いや、俺もそう思うんだけどよ、相手はガキ扱いするからなぁ」


 以前、ローラの処遇待ちでノースフォートに滞在していたときに、バリーが酒場で経験したらしい。ライナスよりもごつく見えるバリーでそうなんだから、ライナスなんてもっと駄目だよな。


 「メリッサ、冒険者ギルドで話を聞くってことでいいのかしら?」

 「まずはそれでええと思う。それから小森林を探検するような依頼をいくつかこなそか」

 「なんでそんなことすんだ?」

 「1つ目が小森林に慣れておくこと、2つ目が交換できる情報をうちらも手に入れる必要があるからや」


 そうか、いきなり小森林の奥地に行くのは危険だから、まずは近場で慣れないといけないよな。それに、毎回情報を得る対価に金銭ばかり使っていると、いくらあっても足りない。メリッサは頭が良いなぁ。


 「冒険に出るのは初めてなのに、それだけ気づけるなんてすごいじゃないか」

 「えへへ、実はな、大体おじーちゃんの受け売りなんや」


 何でも小さい頃から冒険者ごっこをしていて、そのときにペイリン爺さんから色々と教えてもらっていたらしい。何も知らないと思っていたら、しっかりと英才教育を受けていたわけだ。


 「それじゃ、ここの冒険者ギルドに行こうか」


 ライナスがそう宣言すると全員が頷いた。


 ウェストフォートの冒険者ギルドは王都の冒険者ギルドよりも広かった。これは冒険者に対する需要が多く、それを引き受ける冒険者も多数いるからだ。

 そして、依頼に群がる冒険者は王都に比べて良く言えば野性的、悪く言えば野卑だ。この中に入ればバリーでさえもおとなしく見える。なるほど、冒険者ギルドでこれなら酒場じゃ相手にされなさそうだな。

 4人は掲示板群とロビーを通り過ぎて受付カウンターまでやって来る。


 「いらっしゃい。ここじゃ見ない顔ね」


 空いている受付カウンターに行くと、癖の強い毛を無理矢理ポニーテールにした受付嬢が挨拶をしてきた。何というか、西部劇の酒場で出てきそうなお姉さんだ。


 「はい、今日ウェストフォートに着いたばかりなんです。それで、小森林で仕事をしようかと思ってるんですが、まだ何も知らなくて……」

 「あぁ、基本的なことを教えてほしいってわけね。いきなり突撃しないのはいい心がけね。あそこに階段があるでしょ。そこから2階に上がったら小森林の講習会があるから受けてきなさい。行けばすぐわかるわ」


 ライナスが全て言い切るまでに、受付嬢は返事をライナス達に返してくれた。講習会ってのがあるくらいなんだから、いつものことなんだろうな。

 受付嬢に礼を言うとライナス達は2階に向かう。


 「講習会なんてあるんだ。親切ね」

 「さっきの受付の人もゆーてたけど、一山当てようっていう連中がいきなり無謀なことをすることが多かったんやろな。あほなことした冒険者が死ぬのは自業自得やけど、依頼失敗で冒険者ギルドの信用が落ちるのは困るからやと見たで」

 「あけすけに言うなぁ」

 「まぁ、使えるんならそれでいいじゃねぇか」


 メリッサの言葉にローラの顔が引きつる。身も蓋もない組織側の事情なわけなんだが、実際のとこれはこれが正解なんだろうな。それでも、俺達に役立つんであれば利用すればいいだけだ。

 受付嬢の言う通り、2階に上がってすぐのところに『小森林基礎知識講習会はこちら』という看板が立っていた。

 中に入ると、1階のロビーに置いてある丸机と椅子がいくつも置いてあり、既に何組かの冒険者が座っていた。一瞬こちらに視線を向けるが、すぐに興味をなくして雑談を再開する。


 「いつ始まるんだろうな?」

 「しまった、聞くの忘れてたな」


 正確な時間を計る時計なんてこの世界にはないので、聞いたところで『そのうち』としか答えは返ってこないような気がする。それでも、立て看板があって中に他のパーティがいるのなら、講習会は行われるはずだ。

 そうやって辛抱強く待っていると、やがて部屋の前の教壇と呼べるところに1人の厳つい男がやって来た。そして教卓の前で立ち止まる。


 「それでは今から小森林基礎知識講習会を始める。俺は講師のトムだ。20年間冒険者として小森林で活動してきた。わからないことがあったら何でも聞いてくれ」


 トムと名乗った講師は、そう言うと室内の冒険者達を見回した。


 「まず、小森林とは何かということから説明する。小森林とは……」


 ということで小森林についての話が始まった。

 重要なところだけ抜き出すと、小森林の大きさははっきりとわかっていない。小森林のほぼ中央に王国公路が東西に貫通しているが、魔物の出る確率が他の公路よりも遥かに高い。小森林は王国公路によって二分されているが、北側は世間一般でいう森に近いので魔物よりも獣がよく出る。ただし、他の地域の獣よりも大きくて強い。一方、南側は熱帯地方の密林に近くなる。こちらは獣よりも魔物がよく出てくる。概略としてはこんな感じらしい。


 「小森林で成果を上げたければ、まず王国公路よりも北側で小森林に慣れろ。ここで森についての基本的な経験を積んでから、南側に行くといい」

 「はいしつもーん。実入りは南側の方がいいんすかぁ?」


 後ろの席に座っている冒険者の1人が、気怠そうに質問をした。


 「ああ、南側の方が圧倒的にいいな。ただし、危険もその分高くなるが」

 「例えば、どんなもんが手に入んだよ?」

 「あそこだと、主に薬の原材料になるな。高性能体力回復薬ハイライフポーション高性能魔力回復薬ハイマナポーション、それに各種特殊な薬品の原材料だ。どれも高値で取引されている。ここでしか取れないものも多いしな」


 生意気な言い方であってもトム講師は丁寧に答える。荒くれ者の多い冒険者に対して、態度をいちいち注意しても仕方ないとわかっているのだ。

 次にトム講師が教えてくれたのは、獣や魔物の生息地域だ。今まで小森林で活動した冒険者の報告を元に作られているそうだ。


 「巨大蜘蛛ジャイアントスパイダー殺人蜂キラービーなどどこにでもいる魔物を始め、特定の場所にだけ存在する粘性生物スライムや出会ったら逃げた方がいい巨大蟻ジャイアントアントなど、非常に多数の魔物が生息している。みんなはこいつらの生息地域と特徴、それに対抗手段などを覚えて小森林を探索しないといけない」


 詳しくは冒険者ギルドが所蔵している書物で確認するようにとトム講師は言っていたが、大まかなことは教えてくれた。今まで王都近辺で活動していたときと違って、段違いに危ないことが話を聞くだけでもよくわかる。

 そうして1時間ほどで講習会は終わった。内容に関しては冒険者ギルドらしい大ざっぱさだったが、そこら辺の森と同じ感覚で入ると死んでしまうということはよくわかった。


 「魔物の種類については大体知っとったけど、あいつらと実際に戦ったらどうなるかわからんなぁ」

 「魔物の支配地域で戦うんだから尚更よね」

 「武器の通用しない相手は俺じゃどうにもならんなぁ」

 「森の中だから、どこから襲われるかわからないってのも嫌だなぁ」


 講習会の内容を反芻しながら、ライナス達はこれから入る小森林での戦闘について話し合っていた。


 「けど、今の話からすると、やっぱり小森林の北側から行った方が無難だよな」

 「俺、とりあえず、獣殴りてぇ」

 「発言だけ聞いてると、むっちゃ危ないな、バリーは」

 「でも、普通の獣を相手に森に慣れておきたいのは確かだわ」


 何しろ今までとは勝手の違う森だ。1つずつ慎重に進んだ方がいいだろう。


 「でもこの調子やと、聖なる大木を見つけるのは結構先になりそうやなぁ」

 「そうだな。俺の勘だと聖なる大木って南側にあるような気がするんだ」


 そうだな。俺もそう思う。もっとも、俺の場合は前の世界で散々やったゲームやたくさん読んだ本でそんな展開が多かったからだが。たぶん外れてないと思う。


 「そうなると、まずは小森林の北側で森に慣れてから、南側で活動しつつ聖なる大木の話を集めて回るってことになるのかしら?」

 「せやな。小森林の生態系にもある程度慣れておく必要があるし、早くて半年くらいかなぁ」

 「年内に終わればいい方っていうことか?」


 まぁ、下手すると1年くらいはかかりかねんな。ペイリン爺さんはその辺りをわかっててこの試験を出したんだろうか。


 「とりあえず、今日はどんな依頼があるか掲示板群で確認しよか。本格的な活動は明日からっちゅーことで」

 「おし、それじゃ行こうぜ!」


 今後の基本方針が決まったところで、4人は立ち上がって1階に降りていった。これからしばらくの間は、ここウェストフォートで活動することになりそうだ。

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