幼馴染みのパーティ参加
今回参加した魔物討伐は最初からずっと魔物に振り回されたあげく、最後に魔物の総攻撃を受けるなど散々なものだった。しかし、最終的に魔物のほぼ全てを駆逐できたことから、何とか魔物討伐は成功したと言える。また、廃村での戦いではあれだけ混乱していたにもかかわらず、意外と死者は多くなかった。帰還してから調べたところ、討伐隊全体で戦死者は約2割だ。
これにより、ボリス伯爵領からは魔物が駆逐された。いずれまた小鬼などが彷徨い込んでくるだろうが、それによる被害は数年先と見られている。当初の目的である治安の維持は達成された。一方、聖騎士団は団長を失うという不測の事態に見舞われたが、冒険者と協力して難敵である単眼巨人を4体倒すという殊勲を上げている。教会の面目は大いに施された。
俺達がノースフォートに戻ってきて1ヵ月になる。俺達自身はもうノースフォートに用はないのだが、ローラの進退問題でメイジャーさんが王都の大神殿と色々やり取りをしてくれていたからだ。
事の顛末を細かく書いた報告書と共に、ローラが冒険者として旅をする件について問題ないという見解を示してくれた。その根拠として、共に旅をするライナスとバリーがとても優秀であること、その証拠にボリス伯爵とノースフォート聖騎士団から感状が与えられていることを挙げてくれている。
そう、今回の討伐隊での功績として、2人は領主と聖騎士団から感状をもらっているのだ。もしどこかの領主などに仕官したい場合、この感状の有無は選考を大きく左右する。それくらい重要な感謝状を同時に2箇所からもらえたのだ。滅多にあることではない。15歳の駆け出しの冒険者としては破格の功績と言えよう。
「はぁ、やっと終わったわ」
今、目の前で執務机に突っ伏しているメイジャーさんは、1枚の手紙を手にしながら大きなため息をついた。
「デリアさん? その手紙は?」
ちょうどお茶に呼ばれていたローラ達3人は、席を立つ寸前に手紙を受け取ったメイジャーさんを見ていた。
「ローラ、あなたに関することよ。本部から許可が出たわ」
「え、本当ですか?!」
突然の朗報にローラ達3人は驚く。聖女扱いしていた有力者を簡単には手放さないと考えていただけに、まだ時間がかかると思っていたところだ。
「でも、よく本部が許してくれましたね」
「それはライナス君とバリー君があれだけ大きな功績を立てたからよ」
「感状でしたよね?」
「ええ。出した方にも責任が発生するから簡単には出せないのに、一介の冒険者が領主と聖騎士団から貰えたんですもの。文句のつけようがないわよ」
えっと、夜襲の阻止に拠点の防衛、それに強力な魔物の退治だよな。後から振り返って、よくこれだけの手柄を上げられたもんだと驚いた記憶がある。
「けど、やっぱり最後の一文が効いたのかも知れないけどね」
部屋の脇にあるテーブルに移動しながら、メイジャーさんは悪戯っぽく笑う。なかなかかわいいお婆ちゃんだ。
「何を書いたんですか?」
「アレブ殿たってのお願いってね」
「「「うわ……」」」
ローラ達3人は眉をひそめる。実はライナスとバリーの功績って関係ないんじゃないのか? 何でもあのばーさんの名前を出したら解決するような気がするぞ。
「アレブ殿から言い出したことなんだから、少しくらいは役に立ってもらわないとね?」
メイジャーさんも意外と強かです。伊達にノースフォート教会の運営に携わってないか。そのせいで3人は多少引いているが。
「そうそう、ローラ。ライナス君とバリー君の3人と冒険するに当たって条件があるわよ」
「条件ですか」
さすがに無条件ということはないだろうと思ってたけど、やっぱりか。無茶なことじゃないといいんだけどな。
「冒険者になっても教団の地位はそのままということと、冒険中も可能な限り布教活動を行うこと、それにライナス君とバリー君のパーティから抜けるときは速やかに教団へ戻るようにということよ」
有為な人材だからあくまでも関わりは持っていたいということか。あと、他の組織に勧誘されないようにするための対策でもあるんだろうな。布教活動は以前ローラも言ってたようだから問題ないか。
「他には?」
「ないわよ。条件は少ない方がいいでしょ?」
お茶の用意がされている席について、メイジャーさんが上機嫌に言い切った。これだと、ローラにとってはほぼ無条件と言っていいだろうな。
「デリアさん、ありがとうございます!」
「いいのよ。教会の中で引き籠もっていてもいいことなんてないもの。世間を巡って見聞を広めてきなさい」
これでようやくローラの問題が片付いたな。一時は決闘しないといけないことになってどうしようかと思ったが、何とかなった。
「さぁ、お茶の時間にしましょう。今日はいつもより美味しくいただけそうよ」
「「「はい!」」」
メイジャーさんがそう言うと、3人は近くの席に座った。
ローラの処遇に関する手紙が届いてから1週間、ローラは教会での最後の勤めと冒険者としての準備に追われていた。冒険者として旅をすることになったものの、教会という組織から離れるわけではないので旅立つときまで仕事はあるのだ。また、ライナスとバリーのように入念な準備期間を経て冒険者となるわけではないので、2人はローラが旅で必要な物を揃えるのに色々と協力した。
それと、ローラが冒険者になるということに対して、教会や信者はどんな反応を示すんだろうと思っていたが、予想以上に何もなくて驚いた。もっと反対するなり何なりの反応があると思っていたんだけどなぁ。
その理由をローラに聞いてみると、
(光の教徒が冒険者になるっていうのは珍しくないのよ。見聞を広めたり修行のためだったり理由は色々だけどね。ほら、冒険者の僧侶に光の教徒ってたくさんいるでしょう?)
そーでした。確か教団の一部が外に出したくないって言ってただけなんだっけ。だから、光の教徒としては別に冒険者として修行するのに問題はないということか。ライナスとバリーの実力は先の魔物討伐隊で示しているしな。
そうなると、もうローラが旅立つことに障害となるようなことは完全にないわけだ。後は旅立ちの日を迎えるだけだった。
ライナスとバリーがノースフォートへやって来て1ヶ月半が過ぎていた。どのくらい滞在するのかなんて考えていなかったが、こんなに長居するとは思わなかった。しかし、それも今日で終わりだ。
今回、出発するに当たって、冒険者ギルドから始めたいとローラから希望があった。何でも教会から出発すると、いつものお勤めみたいな感じで気分が盛り上がらないらしい。その気持ちはわかる。
ということで、ライナスとバリーは冒険者ギルドのロビーでローラと待ち合わせることにした。
ちなみに、ローラは数日前に冒険者として登録するためにここへやって来ている。そのときに室内の注目を浴びていた。何しろ先の魔物討伐に参加していた冒険者が多数いたので、ローラのことをみんなが知っていたのだ。更にその聖女様が冒険者として登録したものだからパーティへの勧誘が多数あった。既に予約済みなので全員断られていたが。
「ライナス、バリー、おはよう!」
「おはよう、ローラ」
「おっす!」
ロビーで2人を見つけるとローラは満面の笑みで挨拶をしてきた。まっすぐな金髪は肩で切り揃えられ、瞳は強く理知的に輝き、肌は健康的に白い。衣服は教会の尼僧衣と基調は同じだが、それを活動しやすいような旅装に整えられている。そしてその上から簡易な革の鎧を身につけ、腰には鎚矛を吊していた。先の魔物討伐のときと同じ衣装だが、明らかに上質だとわかる。
(こりゃまた目立つな)
俺は思わず口に出した。いかにも金持ちの女の子が冒険者になってみました、というような姿だからだ。これで魔物討伐にも参加しているんだから侮れない。
「ん? 変かな?」
「いや、似合ってるよ、ローラ」
「いいと思うぜ」
ライナスとバリーは問題ないことをローラに伝える。すると、安心したように息を吐き出した。
「さて、それじゃいよいよ3人で活動を始めるわけだけど、ローラの希望だとレサシガムに行きたいんだったよね?」
「ええ、そうよ」
「王国公路の西の端にあるんだっけ?」
バリーが辛うじて覚えていた記憶を引っ張り出してきた。
「そういえば、以前布教活動で行ってたんだったよな?」
「何か面白い物でもあったのか?」
興味を引かれたようにバリーが目を輝かせる。研究都市っていうくらいだから、何か珍しいものが1つくらいありそうだよな。
「いえ、そういうんじゃなくて、仲間にしたい友達がいるの」
「へぇ、どんな人なの?」
「メリッサ・ペイリンっていうすごく優秀な魔法使いなのよ」
ほう、それはすばらしい。その魔法使いが加われば、パーティのバランスもかなりよくなる。
「布教活動していたときに知り合ったのか?」
「そうよ。お爺さんがとても高名な魔法使いで、レサシガムで活動するときにお世話になったの。その関係で知り合ったのよ」
「本人は冒険者になりたがってんのか?」
「うん、世界中を見てみたいんだって。大人になるまでの我慢だって言ってたなぁ」
遠い目をしながら友達を思い出しているようだ。
「大人って、いつなるんだ?」
「私達と同い年だったはずだから、今年ね」
「気が早い人だったら、もう冒険者登録を終えて旅をしてるかも知れないね」
「すれ違いになったらなったで仕方ないでしょう。ともかく、1度レサシガムに行きたいわ」
まぁ、俺達の活動って魔王討伐隊って名乗ってるものの、実質的にはただの冒険者だしなぁ。本当にばーさんは俺達に魔王を討伐させる気があるんかね。
「どうせ今はこれといった目的もないんだし、1回行ってみるか!」
「「賛成!」」
ということで、俺達は一路、西の端にある研究都市レサシガムに向かうことになった。




