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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
1章 異世界でも勉強の日々

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エディスン先生の指導

 誤字脱字を修正しました(2016/01/27)。

 俺、木村勇治は異世界に来たのが今日の昼頃だったと思う。時計なんてないところなのではっきりとわからないが、ライナスの家族が昼飯を食ってないので午後だったのは間違いない。

 それからアレブと名乗るばーさんが現れて、俺が魔王討伐をする(予定の)ライナスを守護する存在だと知らされた。どうしてこんなことになったのかはさっぱりだ。しかし、このままではまずいので、エディスン先生を紹介してもらって言葉と魔法を身につけることになった。

 エディスン先生によると、霊体には睡眠が不要な上に疲れることもないので理論上24時間学習できるらしい。ただ、さすがに休みなしはきつすぎるので休憩くらいは挟んでもらうことになっている。しかしそれでも、毎日20時間以上は勉強することになるようだ。

 マジか! ブラック企業も真っ青なスパルタ方式だな! と思っていたらこれには理由があった。何でも霊体には肉体を休める休息が不要な分だけ時間が余るため、休憩時間を長く取っても暇なだけらしい。だからこそ詰め込み方式を採用するそうだ。なんだ、俺をいじめて楽しむためかと思ったよ。


 (うむ、それでは早速始めようか)


 ということで、エディスン先生による王国語学習が始まった。まだこっちの世界に来てから半日も経過していないんだが、俺は早速この世界で生き残るため、じゃなくてライナスを守るために勉強を始めることになった。


 (最初に、学習する順番を教えておく。最初は身近な物の名前を繰り返し教えるので、それを覚えてもらう。単語の発音は口を使うので、君はそれを耳で聞いて口でまねをして発音をするんだ。もし学習対象の物が何かわからないときは、念話で説明するからね)

 (魔法に関連する言葉じゃないんですね)

 (確かにそれも覚えてもらうけど後回しだね。それよりも、まずは日常会話を問題なくできるようにならないと。ライナス君やその仲間の会話内容がわからないと、適切に守護できないだろう?)

 (あ、そっか)


 確かに魔法だけ覚えても仕方ないよな。使い時がわからないと意味ないし。


 (身近な単語をある程度覚えたら、次は発音を覚えてもらう。正しい発音を身につけるとそれだけ言葉を覚えるのが速くなる上に、これは魔法の呪文を唱えるときにも関係してくるんだ)


 それは俺にもわかる。魔法は呪文が命だもんな。

 俺が頷くとエディスン先生は更に続けた。


 (正しい発音が身についたら、次は簡単な文章を学んでもらう。最初は単純な会話文からだよ。そしてある程度身についたら文法だ。ここまで学べたら簡単な日常会話はできるようになってるはずだよ)

 (そうですか……)


 俺はかつての英語教育を思い出して顔を引きつらせていた。確かに言うのは簡単だが、それが本当にできるのかはやってみないとわからない。


 (不安そうだね。でも大丈夫だよ。王国が人間の国を統一した後、共通語となるように王国語は簡易化されたんだ。だから、発音も文法も規則正しく例外がほぼないようになってるから覚えやすいんだよ)


 英語の動詞の不規則変化などに苦しめられてきた俺にとって、それはかなり良い知らせだ。

 あからさまに安心した俺をエディスン先生は苦笑しながら見る。


 (日常会話が問題なくできるようになったら、今度は一般常識を覚えてもらう。つまり、王国語だけでなく簡単な算術、自然科学、社会制度などを学んでもらうことになる。結局その言葉の使われ方と一緒に覚えた方がいいからね)

 (おお、本当の勉強っぽいですね……)


 つまり、小学校の授業みたいなもんか。ま、言葉だけ覚えても使いようがないからな。仕方ないか。


 (本物っぽいんじゃなくて本物なんだよ。で、それが終わったら、更に高度なことに挑戦してもらう。今度はより高度な算術、自然科学、社会制度の他に、王国史、魔法なんかも学んでもらうよ)


 今度は中学校や高等学校みたいなもんなんだろう。俺、この辺りで躓きそうだなぁ。


 (魔法はかなり後ろですね)

 (そうだね。元々才能ある限られた者しか身につけられないものだから)

 (これ15年で全部できるのかなぁ?)


 内容にも因るが、かなり大変そうに思える。まだこの後に精霊語や魔族語も控えてることを考えると、1日20時間以上やってもこなせるか不安になるな。


 (それは君の知識次第だね)

 (どういうことですか?)

 (君は元いた世界で何十年と生きてきたんだろう? 魔法のない世界らしいけど、魔法以外の部分でこちらの世界と一致する知識もあるんじゃないかな。そしてその知識が多いほど、これから学習するはずの科目を楽に学ぶことができたり、場合によっては学ぶ必要がなくなるのではと私は予想してるんだ)


 そうか、算術や自然科学って名前からすると算数や理科かもしれない。この知識が役に立つなら、確かにほとんど王国語を覚えるだけで済むわけか。


 (確かに……そうですね)

 (だろう? だから、思っているより学習量は少ないはずだよ)


 おお、なにかできる気がしてきた。根拠がないから不安も混ざっているが。


 (ということで、王国語を覚えながらその他の知識も身につけていってもらうつもりなんだ)

 (わかりました)

 (それじゃ、記念すべき最初の授業を始めようか)


 こうして、エディスン先生による指導が始まった。


 エディスン先生の言うとおり、霊体だといくら勉強しても肉体的な疲れはなかった。そもそも疲れるべき体が存在しないので当たり前なのだが、実際に体感してみるとちょっとした衝撃を受ける。

 ということは、それだけ勉強を中断するきっかけがないわけだ。これに気づいた俺はより大きな衝撃を受ける。

 勉強嫌いではないものの、元々好きでもないので延々と勉強するというのは結構辛い。たまに小休止は入れてくれるが、それでも1日のほとんどを勉強に費やすとなると心理的に疲労が溜まった。

 その状態が数日続くとさすがに我慢しきれずに、半日くらい休みがほしいとエディスン先生に頼む。すると、あっさり許可が下りた。何のかんのと理由を付けてはぐらかされると思っていただけに少し驚く。

 喜び勇んで休んでみたところ、あまりの暇さに愕然とした。霊体なので眠ることはできないし、肉体がないので食欲も当然ない。更に、俺はライナスを中心に半径20アーテムしか移動できないので、暇を潰すことすらできないことがわかったのだ。

 つまり、俺は暇を潰すためにも勉強するしかないのである。

 ちなみに、俺は今回の半日休暇で1時間も我慢できなかった。


 (くそ、霊体になるってとんでもないことだな!)

 (1日の大半を学習に費やす理由が体感できたかな? 明確な目的もなく霊体になると、有り余る時間に精神がすり潰されてしまうんだ)

 (俺は好きでなったんじゃないですけどね)

 (それなら尚更だよ。常に暇を潰せるようなことをしておかないと発狂するか廃人になってしまう)


 確かにその通りだと思った。仕事で忙しいときは暇になりたいなんて願ったことがよくあったけど、本当に暇になったら何でもいいからしたくなるもんだな。


 (ま、勉強に嫌気が差してきたら、また長めの休憩を取ればいいよ)

 (もうしばらくはいいです)


 うん、適度な休憩で充分だ。


 こうして俺は勉強に打ち込むことになったわけだが、やる気だけで何とかなるほど世の中甘くない。前向きになったところで持って生まれた能力が変化するわけではないからだ。

 最初の単語を覚えるところは一応何とかなった。結構時間がかかったけど、覚える範囲は限られているので繰り返していくうちにどうにか覚えられたのだ。

 ところが、次の正しい発音を身につけるところでかなり苦労した。英語の勉強のときにも思ったのだが、日本語でしゃべるときは口も舌もあまり使わないのに対して、英語も王国語も思いっきり口も舌も使うので大変なのだ。


 (うーん、かなり苦しいね)

 (体があったら口回りが疲れ果てて動かせなくなってますよ……)


 あまりのできなさに落ち込んできた俺はなけなしの自信を失いそうになる。しかし、エディスン先生は意に介することなく1つずつ丁寧に教えてくれようとした。


 (大丈夫ですよ。そんな簡単にできるものではありませんから。1つずつゆっくりとできるようになればいいんです)


 既に退路の断たれている身としてはやるしかないのだが、こうやって励まされると少しだけでもやる気が出てくる。

 ただし、やる気が出ただけでなかなか身につかないことには変わりなかった。エディスン先生によると、子供なら1日3時間で1週間もやれば大抵は身につくらしい。俺はそれを1日20時間ですでに1週間かけている。うっ、何倍かなんて計算したくない。

 ともかく、やたらと時間がかかっていることには違いなかった。


 (まぁ、一部怪しいところはあるけど、これだけできたらいいかな)


 というように、お情けで何とか及第点を取らせてもらったのがそのすぐあとだった。エディスン先生もいい加減に飽きてきたのかもしれない。


 (さて、それでは次に簡単な会話文を教えよう。これで村人の会話も聞き取れるようになってくるよ)

 (やっと会話ですか……)


 ということで俺は今、ライナスの家の真横で授業を受けている。これは勉強を初めて以来ずっとだ。青空教室である。たまに雨が降ったときは風雨にさらされながら勉強をしていたが、少し空しくなったのは内緒だ。

 ただし、毎日ライナスが移動するのに引きずられて俺も強制的に移動することには驚いた。ライナスを中心とした半径20アーテム内にしかいられないので、ライナスが動くと俺も引っ張られることになるからだ。初めてのときなど、勉強していたらいきなり自分自身が動き始めて驚いたものである。こういうときは、エディスン先生も一緒に移動しながら勉強をした。生きている人間に見つからないからこそできることである。

 ちなみに、もちろん赤ん坊のライナスが移動すると言っても自分で歩いて動くわけではない。働きに出る母親がライナスを背負っているのだ。元の世界の俺の母親は専業主婦だったので、母親が働きに出かけるという可能性をすっかり見落としていた。

 それはさておき、エディスン先生は簡単な会話文を俺に教えてくれたが、主に村人がよく使うものを優先してくれた。これはきちんと身につけたらすぐにその成果を確認できるためだ。苦労して身につけたことがちゃんと役に立つことを確認できるというのは重要である。特に俺みたいに出来が悪いと尚更だ。些細なことでも使いこなせているというのは大きな自信となり、更に学びたいという気持ちにしてくれた。




 そうして、この世界に来てから3ヵ月くらいが経過した。初めてやって来た日が、随分昔のことのように思える。

 エディスン先生に昼夜を問わず王国語を教えてもらっているおかげで、どうにか話ができるようになってきた。もちろん、一応村人の会話くらいなら何とか聞き取れるようになっている。

 前の世界で6年間も英語を勉強してまともな会話1つできなかったことを考えると、破格の進歩のように思えた。俺自身はそんな自分を褒めてやりたい気分だが、エディスン先生によるとこんなもんらしい。

 俺の自己評価よりも厳しいのは、今まで勉強に費やした時間の多さによる。3ヵ月間毎日20時間以上勉強すれば誰でもできるようになるらしい。折角喜んでいるんだから水を差すようなことは控えてほしいなぁ。事実なんだろうけどさ。


 そして、村人が何を話しているのか自然とわかるようになってくると、人の名前や人間関係がわかってくる。それはライナスの家族についても同じだった。

 それによると、ライナスの父親はジェフリーといい、母親はケイトという名前らしい。どちらの生まれも育ちもライティア村である。2人は幼馴染みで去年結婚したらしい。なんとも羨ましい話であるが、こういう村という閉鎖的なところだと珍しくないそうだ。個人的にはとても負けた気分である。

 また、ライナスは約4ヵ月前に生まれたばかりの長男らしい。俺はこれを聞いてもふーんとしか思わなかったが、エディスン先生によるとこれは割と困った問題らしい。というのも、この世界では身分や仕事の種類にかかわらず、長男が家業を継ぐのが一般的だからだ。

 ジェフリーの家は一応自作農なので受け継ぐべき家業がある。このままだとライナスがジェフリーの跡を継ぐことになるのだが、ばーさんやエディスン先生はどうするつもりなのだろうか。

 それについてエディスン先生に質問すると、


 (子供がライナス君だけなら困ったことになるでしょうけど、あと何人か兄弟姉妹ができたらなんとかなると思います)

 (長男でなくてもいいんですか?)

 (跡継ぎはもちろんどこだって長男を望みますよ。でも、この程度の規模の自作農でしたら、もっといい儲け口があればそちらに長男を送り込むこともあります)


 ということだった。

 ただし、長男とそれ以外の子供の適正や能力など、いくつかの条件を満たせたらということらしい。とりあえず、次男以下ほどには簡単にいかないということだけはわかった。


 (ちなみに、ライナスが農家を継ぐことになったらどうするんですか?)

 (どうなるんでしょうね。そうならないようにアレブ殿が手を打たれるはずですけど。もしかしたら、あまり見てて面白くないことになるかもしれないですね)


 困った表情のままエディスン先生は俺の質問に答えてくれた。

 魔王を討伐する人類希望の星の周りは早くも黒くなりつつあることを知って俺は愕然とする。ライナスはゲームだと勇者の立ち位置なはずなのに随分と生々しいな。自分の意志で旅立つんじゃなくて、旅立つように仕向けられるわけか。

 俺はこれ以上踏み込んで共犯になるのを避けるため、この話題から遠ざかることにした。


 こうして俺は、とりあえず簡単な会話ができるようになった。

 ちなみに、今までのエディスン先生との会話には念話を使っている。村人が交わす会話だと、話題も使われる単語も単純で似たようなものばかりなので、今の俺でもなんとかなる。しかしエディスン先生との会話は、せめて小学校並の一般常識がないとどうにもならない部分が多すぎるのだ。更にきちんと話をするためには、もっと高度なことを覚える必要があるらしい。

 まぁ、エディスン先生がそういうならばそうなのだろう。


 ということで、俺の勉強は更に続いた。

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