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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
5章 新たな魔王討伐隊の誕生

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メイジャーさんを交えた今後の相談

 わけがわからないままローラについて行ったライナスとバリーは、教会の奥にある教団関係者の施設群の中を歩いていた。行き交う人々は、聖女と呼ばれるローラに敬愛の念を込めた挨拶をしようとして、冒険者の格好をしたライナスに訝しげな視線を送り、ごつい槍斧ハルバードを担いだバリーに驚く。

 それでも奥に行くに従って往来する人の数は減ってゆき、ローラ達がとある扉の前に立ったときは人を見かけることはなくなった。


 「ローラです」


 扉を軽く叩いて名前を告げると、ローラは一歩下がる。すると、すぐに扉が開いた。


 「お入りください」


 扉を開けた尼僧がローラに声をかける。1つ頷くと、振り返って2人に視線を向けた。


 「さ、入りましょ」


 まるで友達の家にお邪魔するかのような気軽さでローラは中に入る。続く2人は初めてやってきた場所ということもあって緊張しながら入った。

 最後尾のバリーが入ったところで扉が閉められたのでそのまま扉をすり抜けると、白を基調とした簡素な部屋が目に映った。日差しを多く取り入れるために大きめの窓がいくつもあり、王国ではあまり手に入らないガラスがふんだんに使われている。そのため、室内が非常に明るい。

 その部屋の奥に大きな執務机がでんと1つあり、そこから椅子に座った初老の尼僧がこちらに顔を向けていた。


 「お呼びと聞き参上いたしました、メイジャー様」


 執務机から一定の距離で3人が立ち止まると、ローラは代表してメイジャーさんに挨拶した。そんなよそ行きの表情で丁寧な挨拶をするローラを初めて見た2人は衝撃を受けつつも、何とか挨拶をする。

 いや、俺も驚いたけどね。そうか、これが聖女ローラの顔か。


 「あらいやだわ。ここには他に誰もいないんですから、畏まる必要なんてないのよ、ローラちゃん?」

 「デリアさん、今お仕事中でしょ? そんなんじゃまた司教様に怒られますよ?」

 「あんなおじいちゃん放っておけばいいのよ。私にばっかり口うるさくするんですもの。気でもあるのかしら?」


 さっきまでの緊張が嘘のようになくなり、いきなりご近所同士のような気軽な会話が始まった。ライナスもバリーもどうしていいのかわからずに困っている。あまりにも自然な会話過ぎて、2人の緊張をほぐすためにわざとやってるのか、それとも素なのかがわからない。後ろを振り返って扉を開けた尼僧を見ると苦笑している。そうなると素でやってるのか?

 そんなことを考えていると、メイジャーさんの興味がライナスとバリーに移る。


 「あら、ごめんなさいね。お2人がライナス君とバリー君かしら」


 まだ紹介もしていないのにメイジャーさんは2人の名前を言い当てたが、それ程驚くことじゃない。ローラの言ってた用件を思い出すと、その2人しか考えられないからだ。


 「ライナスです」

 「バリーっす!」


 2人は元気よく自己紹介をする。

 そういえば、2人から武器を取り上げないんだな。重要人物と面会するときはそう言うことをするもんだと思っていたんだが。教団の方針か、それともメイジャーさんが大らかすぎるんだろうか。


 「私はデリア・メイジャーよ。ノースフォート教会で尼僧をしています。それと、ローラの後見人もしているんですよ」

 「ああ、デリアおばさんっていうのは、メイジャーさんのことだったんですか」


 ライナスが後見人という言葉に反応した。何でもローラが10歳以前に書いた手紙の中にそんなことが書いてあったらしい。よく覚えていたな。


 「私のことはデリアでいいわよ」


 その言葉を聞いた2人は反射的にローラを見る。視線を向けられたローラは小さく首を横に振ってため息をついた。


 「誰も他にいないときならいいわよ。これでもデリアさんはノースフォート教会の運営に携わってる偉い方だから、外でそう呼ぶのはまずいけど」


 うーん、バリーにそんな器用さは求められないなぁ。


 「それで、デリアさん。私の護衛をライナスとバリーにするっていう話なんですけど」

 「ああ、それはね、この手紙にそう書いてあったからよ」


 メイジャーさんは話しながら便箋をひらひら左右に振る。今そう言われて心当たりのある手紙と言えば1つしかない。


 「デリアさん、その手紙は?」

 「国王陛下のお抱え呪術師からよ」


 そこまで言われて、2人はようやく自分達のことをアレブのばーさんが推薦していたことに気づいた。光の教徒側にそんなことを頼める知り合いがいることに驚きだが、そこまでしてくれていることにも改めて驚く。


 「これにね、王都方面の戦力強化のため、私達が協力してくれたことに感謝していることと、その返礼にその2人を使ってくれて構わないって書いてあるのよ。ローラの同郷で腕が立つ冒険者って書いてあるわ」


 にこにこと笑顔で説明してくれるメイジャーさんのおかげで謎は解けた。しかし、腕の立つ冒険者って書いてあるのか。実際にどこまで通用するんだろうな。駆け出しの冒険者よりも役に立つんだろうけど、それ以上のことはわからない。俺が日本人の感覚で聞いているから大げさに聞こえているのか、それとも純粋に誇大広告なのかがわからない。


 「デリアさん、お抱え呪術師のアレブ殿って言えば……」

 「国王陛下の懐刀って言われてるわね。謎の多い人物だけど」


 ああ、やっぱりうさんくささは全員が感じてるのか。しかし、懐刀とはなぁ。国王は大丈夫なんだろうか。


 「なら、いくら国王陛下の懐刀と呼ばれている方でも、そんな怪しい方からの推薦を簡単に受けるのはよくないんじゃないですか?」

 「本来ならね。でも、こちらには選択肢なんてないのよ」


 ローラの質問に、メイジャーさんがため息と共に返事をした。


 「ボリス伯爵からの要請で魔物討伐に協力することになったけど、用意するはずだった戦力を半減させる以上、教会としてはあなたの護衛に人を回すだけの余裕がなくなったのよ。王家の命令ということでボリス伯爵も納得してくださったけれど、受けている報告を見る限り、討伐隊の戦力に不安があるわ」

 「だから、紹介元が怪しくても、紹介された本人の身元が確かなら受け入れざるを得ない、ということですか」

 「そう。あなたの同郷出身の冒険者で腕が立つというのなら、こちらが断る理由はないのよね」


 話を聞いていると、絶妙なタイミングでライナス達を寄越したことになる。絶妙すぎてばーさんが仕組んだって思えるくらいだ。なんであのばーさんは気持ちよく仕事を引き受けさせてくれないんだろうな。


 「ほんと、昔からこうだったのよね。ここぞというときに必要な手助けをしてくれるんだけれど、素直に喜べたことが1度もないの」

 「……厄介な方ですね」


 うん、ほんとそう。絶対裏で何かを仕組んでそうだもんな。


 「それで、確認しておきたいんだけれど、貴方達はアレブ殿とどういう関係なの?」


 そりゃ聞くわな。ローラの同郷ということでライナスとバリーは信用できても、どうしてばーさんとつながりがあるのかがわからない。身分や立場から考えると本来なら接点なんてないしなぁ。

 2人は顔を見合わせる。どこまで話したらいいのか迷ってるんだろうか。まぁ、2人の知ってる程度のことなら話しても問題ないような気はするが。あ、俺の存在は困るかもしれん。


 (俺以外のことはしゃべってしまえ。隠し立てすると逆に怪しい)


 念のためライナスの背中に隠れながら2人に直接触れて念話で伝える。別に俺自体にやましいことはないはずなんだが、ばーさんの知り合いって思われるのが嫌なんだよなぁ。


 「あの、魔王討伐隊ってご存じですか?」

 「魔王討伐隊? あの魔王を討ち取るために色々と動いてる冒険者のパーティのこと?」

 「はい。俺達、少し前にアレブさんに勧誘されて、2人で魔王討伐隊を結成することになったんです」

 「……何考えてるのあの人」


 思わずこめかみを押さえて盛大なため息をつくメイジャーさん。今回俺達と一緒に振り回されることが確定してるっぽいだけに思いっきり同情する。


 「ねぇ、断れなかったの?」

 「諦めるつもりはないって言われたから……」

 「あの人にそんなこと言われたら逃げられないわねぇ」


 当時の俺の判断は正しかったようだ。メイジャーさんが2人に同情の視線を向けた。


 「でも、どうしてアレブ殿はライナス達を誘ったのかしら?」

 「それが、どうも生まれたときから目をつけられてたらしいっすよ?」


 言いにくそうにしていたライナスに代わって、バリーがはっきりと言った。


 「それ本当?」

 「俺達が5歳の頃にやって来た村の護衛役の人に10年間稽古をつけてもらってたんですけど、その人はアレブさんの指示で俺達の面倒を見ていてくれたそうなんです」

 「え、それってドミニクさんのこと?!」


 驚いたローラにライナスが頷く。そういえばローラはまだ知らなかったな。


 「どうしてそこまで貴方達に入れ込んでいるのかわからないけれど、アレブ殿自慢の秘蔵っ子には違いないわね」


 あー、うん、そうとも言えるのか。全然嬉しくないが。


 「それでローラも引き入れたいってわけなのね。困ったわ」

 「ローラも引き入れたい、ですか?」

 「そうよ。この魔物討伐が終わった後に、3人で一緒に冒険するという貴方達の夢を叶えてやりたいって書いてあるんだもの。入れ込んでる貴方達に必要だと判断したからローラに目をつけたんでしょうね。一体いつからっていうのが気になるけど、今考えても意味のないことだわ」


 ライティア村にいた頃からなのか、大神殿で頭角を現したときからなのか。まぁ、3人で冒険をしようっていう気持ちを利用しているってことは確実に言えるな。


 「今の話を聞いていると、ローラは俺達と関わらない方がいいんじゃないですか?」

 「はっきり言うともう遅いわ。ひょっとしたらそのまま見逃してくれるかもしれないけど、確証がないし」

 「アレブさんが本気になったらどうなるんすか?」

 「もがくほど悲惨なことになるわ。けど、素直に言うことを聞いたら働きに見合った報酬を与えてくれるの。だから今じゃ、貴族はもちろん、私達の教団でもアレブ殿に逆らおうとする人はいないわね」


 ばーさん、今まで何をやったんだ。怖すぎるぞ。ライナスとバリーもどん引きしてる。


 「そんなところが便利だから国王はよく利用しているみたいだけれど、私だったら怖くて関わりたくないわねぇ」


 俺も今すぐ逃げたいです。


 「それじゃ、今回私の護衛はライナスとバリーということでいいんですね」

 「ええ、他に選択肢がないんですもの」

 「なんか、素直に喜べないっすね」


 全くだ。どうせ周りに協力してほしいならもっと明るく持ちかければいいのに。


 「それと、この魔物討伐で手柄を立てたらそれを公正に扱ってほしいってあったわ。恐らくそれを梃子にして、ローラを手元に置いておきたい教団本部の一派と交渉するんでしょうね」

 「ダメなら決闘で決着をつけることになるんですか」

 「そうね。本部の一部が大人げないことを仕掛けてくるかもしれないけど、アレブ殿はそれ以上のことをやってきそうで怖いわ」

 「そんなことになるくらいなら、この討伐で手柄を立てた方がまだましね」


 ローラの言う通りだな。大神殿で対決するとなると、どうやっても教団と表立って大きなしこりが残りそうだ。


 「ただし、無茶はしないこと。魔物討伐は死ぬ危険性が高いんですからね」

 「「「はい!」」」


 3人は元気に応えた。


 こうしてライナス達は、急遽魔物討伐に参加するローラの護衛をすることになった。

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