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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
5章 新たな魔王討伐隊の誕生
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気軽な別れと馬上の旅

 アレブのばーさんと会った翌日、ライナスとバリーはいつも通り朝一番に冒険者ギルドへ向かった。昨日までと違うところは、冒険者見習いではなく、冒険者としてというところだろうか。

 つまり、今朝は冒険者として初出勤してきたということになる。ただし、いつもと違って掲示板群で仕事を取るということはせず、ロビーを突き抜けて受付カウンターまで進んだ。


 「おはようございます。ライナスとバリーですけど、俺達に指名依頼が届いてませんか?」

 「おはようございます。あら、昨日冒険者になったばかりでもう?」


 2人が冒険者になるための手続をしてくれた受付嬢は、苦笑いしつつも指名依頼が収められている書類棚に向かった。しばらくすると、驚いた表情のままいくつかの書類を携えて戻ってくる。


 「本当にあったわ。あなた達、すごいじゃないの」

 「あ、はい」


 あらかじめ指名依頼があるとわかっていたので、2人の表情は何ともいえないものになる。

 受付嬢は書類の内容を手早く確認すると依頼内容を2人に伝える。


 「依頼の内容は、ノースフォート教会のメイジャー氏へ緊急の手紙を届けること、ってあるわね。メイジャー氏っていったらノースフォート教会の有力者よ。差出人が宮廷魔術師アレブ氏だから、結構重要な手紙だと思うわ。途中で落とさないようにね」


 受付嬢の言葉に2人は神妙な顔つきで頷く。冒険者としての初仕事が有力者への手紙の配達というのは珍しい。


 「これがその手紙で、油紙に包んであるから濡らさないように。それと、こっちの書類はギルドから馬を借りるための許可証だからなくしちゃダメよ」

 「「はい!」」


 そう言うと、受付嬢はライナスに手紙と許可証を、バリーに許可証を手渡した。


 「馬はどこに行けば借りられるんすか?」

 「あっちの出入り口が馬小屋に通じているから、そっちから行ってね」

 「「はい」」


 受付で手続を済ませると、2人は教えられた出入り口に向かおうとする。しかし、それは横からかけられた声に遮られた。


 「あ、バリー、ライナス!」

 「ドリーか!」


 最初に反応したのはバリーだ。足早にこちらへやって来ると挨拶する。


 「おはよう。久しぶりね~。今日の依頼は取ってきた?」

 「おっす! ああ、今からその仕事でノースフォートまでいくんだ!」

 「え、ノースフォート?! むちゃくちゃ遠いじゃない!」


 ドリーは目を見開いて驚く。

 王都からノースフォートまで約1200オリクもあるので、隊商護衛でもなければ王都の冒険者ギルドでその名前を聞くことはない。そんな珍しい依頼なのだ。


 「遠方の隊商護衛でも引き受けたの? 帰りが大変ね」

 「ああ、ドリーここにいたの。あら、ライナスにバリーじゃない。おはよう」

 「おはよう」

 「おっす!」


 ドリーを探していたらしいメイまでもがこちらにやって来た。そういえば、ジャックとロビンを見かけないな。


 「あれ、ドミニクさんは? 今日は別行動なの?」

 「あー、俺達、昨日で冒険者見習いから冒険者になって、ドミニクさんから独立したんだ」

 「「え?!」」


 ライナスの説明に姉妹が同時に驚く。仲のいい姉妹だ。


 「冒険者になったんだ!」

 「独立したの?!」


 そして姉妹で驚く点が違う。


 「へぇ、あんた達もついに一人前かぁ。よかったわね。おめでとう」

 「まさかそんなことになってるなんて……そっか、ついにあたし達と肩を並べたってわけだ。ふん、負けないわよ!」


 なぜか対抗意識を燃やしている妹にメイは苦笑する。


 「独立したってことは、ドミニクさんとは別れたってこと?」

 「うん、元々一人前になるまでの約束だったから」

 「そうなると、ドミニクさんは今1人なの? それとも、どこか別のパーティに入ったのかしら?」

 「引退するそうだよ。その後どうするかは聞いてなかったからわからないけど」

 「あー、あのドミニクさんがねぇ」


 ため息をついて軽く首を横に振るメイと遠い目をして明後日の方向を見つめるドリー。何を考えているのかわからないが、しばらく2人は沈黙した。


 「ということは、今日の依頼は独立後の記念すべき最初の仕事ってわけね」

 「うん、急ぎの依頼だからもう行かないと」

 「帰ったら話を聞かせてよ!」

 「おう、任せとけ!」


 朝の仕事前ということもあって軽く近況報告を姉妹にすると、2人は馬小屋に向かって歩いて行った。




 いつもの受付カウンターに沿って東側に進むと開けっ放しの扉があった。すると、そこはちょっとした庭のようになっており、更に奥には馬の厩舎がある。ぱっと見では数頭の馬が中におり、世話係が往来していた。


 「あ、依頼で馬を使うことになったんですが、どれを使えばいいですか?」

 「え? ああ、これね。ちょっと待ってて。親方ぁ!」


 通りすがりの世話係は、ライナスとバリーの許可証を受け取るとその場を離れる。そしてしばらくすると、小走りで戻ってきた。


 「案内するよ。こっちに来て」


 世話係は許可証を2人に返すと厩舎に向かって歩き始めた。2人も黙ってそれに続く。

 2人が案内された先には2頭の馬が並んで待っていた。


 「これがあんたらの使う馬だ。ちょっと年を食ってるからあんまり無茶させないでくれ。ノースフォートまで行くから速歩はやあしが限界だ。間違っても全力で走らせないでくれよ。最近は軍に馬を取られがちでなかなかこっちに回ってこないから、潰されると後が大変なんだ」


 こんなところにも戦争の影響が出てるのか。世話係の表情も真剣だ。馬を潰す奴が多いのかもしれない。


 「それと、必ず宿場町の馬場に預けてくれ。その許可証があったら馬の世話を引き受けてくれるから。あんたらは知らないかもしれないが、馬っていうのは世話が大変な生き物なんだ。だから、自分で世話ができないなら必ず専門の世話係に任せてくれ」

 「「はい!」」


 2人は元気よく返事をする。それを見た世話係は一瞬驚くが、すぐに苦笑しながら馬を引き渡してくれた。


 「そんな返事を返してくれるなんて珍しいな。あんたら、駆け出しの冒険者か? まぁいいや……あ、そうだ。ノースフォートに着いたら、馬はそこの冒険者ギルドに返しておいてくれ。そこにもここのような馬小屋があるはずだから」

 「「はい!」」


 最後にもう1度元気よく返事をすると、2人は馬を引いて馬小屋を後にした。




 ということで、ライナスとバリーは一路ノースフォートへと向かった。

 今回の2人の旅を見ていて気づいたことなんだが、馬って利用するのが意外と大変なようだ。

 俺が知っている馬というのは、日本にいた頃に競馬の中継で見たサラブレッドの印象が強い。こちらの世界に来て、馬の姿が全体的にずんぐりむっくりしているやつが多いのはすぐに見慣れた。しかしそれでも、馬単体で走ると最低1日100オリク以上進めるものとばかり思っていた。

 ところが、現在2人は馬の上に乗って移動しているが、実は思ったほど速くない。世話係も言っていた速歩はやあしなので、頑張っても1日80オリクが限度だった。

 これについてはさすがに2人ももどかしいようで、


 「ライナス、ちょっと全力で走らせてみようか?」

 「気持ちはわかるけどやめとけって! 途中で潰れたらどうするんだよ」


 というような会話を最初はしていた。

 また、毎日必ず宿場町で泊まるようにし、馬は必ず馬場に預けていた。

 そして、俺は馬の世話がどういうものなのか気になったので見てみると、これが思った以上に大変なことがわかって驚く。

 最初に預かった馬から馬具を取り、それから飼料と水をやる。これの量が結構多い。あと、この飼料っていうのはただの草じゃないことも後でわかった。どんな草を使っているのかまではわからなかったが、栄養価が高くなるように色々と工夫しているらしい。更に体をマッサージするのには驚いた。馬にマッサージが必要なんてな。しかも、肩や首だけでなく顔もする。そして、体や蹄に異常がないかも確認しないといけない。

 大体こんなことを何時間もかけて1頭ずつ世話係がやってる。王都の世話係がどうしてあそこまで口を酸っぱくして言ってたのかがやっとわかった。

 道中暇なのでこのことを2人にも話すと、さすがに馬を全速力で走らせるなんてことは言わなくなった。


 「ものすごく手間がかかるんだな」

 「俺なんて飯を食って寝たら元気になるもんだとばかり思ってた」


 馬はバリーよりも繊細だということか。まぁ、頑丈なのはいいことだと思うが。


 そうそう、頑丈で思い出したが、バリーは1.8アーテム程度の槍斧ハルバードを買ったばかりだが、これは長剣ロングソードと違って腰からは吊せない。ならば馬に括り付ければいいのではということになるのだが、道中で何かあったときにすぐ取り出せないというのはまずい。ということで、バリーはずっとこの槍斧ハルバードを担いでいた。


 (なぁ、腕が疲れたり肩が痛くなったりしないか?)

 (ん? 全然平気だぜ!)


 俺なんかだと1時間もしないうちに根を上げてしまいそうなんだが、バリーは1度も苦痛に思ったことがないらしい。それどころか、たまに槍斧ハルバードを見てにやにやしていたりする。どう見ても危ない奴だ。


 「馬上で振り回すのはやめてくれよ」

 「わかってるって!」


 武具屋の主人に言われた通り、槍斧ハルバードに慣れるため毎日素振りをしているバリーであったが、さすがに1.8アーテムの武器を振り回せる場所となると限られてくる。宿の裏庭は狭すぎるので、郊外に出てから少し時間を割いて素振りするなど色々工夫していた。


 「へへ、だいぶ手に馴染んできたぜ」


 ライナスによると、ノースフォートに近づくにつれて、その素振りをする姿は自然なものとなってきているらしい。


 (バリーの慣れる速さって速いのか?)

 (うん、かなりね。さすがだよ)


 ほう、さすがに戦士一本槍で行くと決めただけのことはあるようだ。


 そうやって日々を馬上で過ごしながら移動していった結果、4月の3日目にはノースフォートへ到着した。

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