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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
5章 新たな魔王討伐隊の誕生

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仲間集めの準備

 気は進まないものの、ライナスとバリーはアレブのばーさんの勧誘に応じた。元々こうなるよう間接的にばーさんが育ててきたんだからどうにもならないと思う。なんかゲームで拒否権のない選択肢を選ばされてるような感じがしてもやもやするが。

 ともかく、2人は一応ばーさんの配下になったわけだが、これから何をするんだろう。


 「それで、俺達はこれから何をすればいいんですか?」

 「仲間集めじゃの」


 即座にばーさんが返してくる。

 確かに、戦士系2人だけじゃ心許ないよな。ドリーのパーティみたいに後衛2人が欲しい。


 「仲間集めっすか。誰か紹介してくれるんすか?」

 「紹介できるが、まずはローラを仲間にすればええじゃろ」


 うーん、確かにばーさんの言う通りなんだけど、簡単にはいかないんだよなぁ。


 「あー、確かにそうなんですけど……」

 「なんじゃ、なんぞ不都合なことでもあるのか?」


 大神殿側にだけどな。


 (ばーさん、どれだけ知ってるのかわからないが、ローラを仲間に加えるには大神殿側が用意したパーティと対決して勝たないといけないんだ)


 俺がばーさんにそう伝えると2人は押し黙る。明らかに元気がない。ローラが加わると夢が完全に叶うことになるんだが、その最後の関門を突破するのが難しくて困っている。


 「ローラは今どこにおるんじゃ?」

 「え? たぶんノースフォートだと思いますけど……」

 「いや待てよ、ライナス。ローラの手紙をまだ読んでないだろ」


 おお、バリー冴えてる。俺もすっかり忘れてた。ひょっとしたらもう大神殿にいるかもしれないんだよな。


 「手紙? 文通でもしておるか」

 「あ、はい。年に何度かですけど」

 「ならば今読むとよい。今後のことを話すのに必要なことが書いてあるかもしれん」


 できればゆっくり読ませてやりたいが、ばーさんと相談するのに必要な情報があるかもしれないからな。とりあえず、必要なところだけ読んで欲しい。


 「わかりました」


 ライナスは封筒を取り出すと、ナイフで封を切って手紙を取り出した。便箋で数枚、しかも割とびっしりと書いてある。いつもたくさん書いてあるよな。ものぐさな俺なんて真似できそうにない。

 その手紙をいつもならゆっくりと読むライナスであったが、今はローラがどこにいるのかということを書いている部分を探している。


 「あった……あれ?」

 「どうした、ライナス?」

 「え、いや、それが……ローラはまだ当分ノースフォートにいるみたいなんだ」


 おや、王都に帰ってくるんじゃないのか。一体何があったんだ?


 「どういうことだ? 王都で一緒に大神殿と対決するんじゃなかったのか?」

 「俺もそう思ってたんだけど、ノースフォートで大規模な魔物討伐が来月の上旬にあるらしいんだ。ノースフォートの教会もそれに協力するらしくて、ローラも参加するそうなんだよ」

 「マジか!」


 魔物討伐なら冒険者ギルドに頼めばいいはずなのに、どうして教会が討伐隊に参加するのかがわからない。


 「そういえば、ノースフォートの南にある中央山脈の麓に、数年前から魔物の群れが住み着いておるらしい。最初は何ともなかったそうじゃが、去年の冬辺りから近隣の村を荒らすようになったと聞くの。何度か冒険者共が討伐しようとしたがいずれも失敗しておる。そこで現地の領主と冒険者ギルド、それにノースフォート教会が協力して討伐することになったようじゃな」


 なんでそんなに詳しいんだよ。おかしくないか? それに2人とも呆然としている。


 「どうしてそんなに知ってるんですか?」

 「王国にとって各地の領主の状態を知っておくことは大切なことじゃよ。それに、光の教徒の教会は政治的に無視できぬ勢力じゃしな。その動向を知っておくことも仕事の1つじゃ」


 王家の力ってことか。お抱え呪術師ってそんなことにまで首を突っ込むのか? それともばーさんが特別なんだろうか。


 「ライナス、それで俺達はノースフォートに行って、ローラと一緒にその魔物討伐に参加すればいいんだよな」


 バリーはいつだって単純明快だ。俺もその意見には賛成なんだが、1つ問題がある。


 「そうなんだけどな、今からじゃ間に合わないよ」

 「どうしてだ?!」

 「王都からノースフォートまでは王国公路沿いに約1200オリクある。これを歩いて行くと1日30オリクで40日、1日40オリクでも30日かかるんだ。けど、魔物討伐は2週間か3週間後だから間に合わないんだよ」

 「そんな……」


 悔しそうにバリーは顔をゆがめた。同郷の仲間を助けられないのが辛いんだろう。俺も魔法でどうにかしてやりたいが、そんな都合のいい魔法は知らないしなぁ。


 「馬を貸してやろうか」

 「「え?」」

 「お主ら、馬には乗れるんじゃろう?」

 「「はい」」

 「馬なら人の倍の速さで走っても平気じゃ。これなら4月の上旬に間に合う」


 おお、馬を貸してくれるのか。それならぎりぎり間に合う。なるほど、魔王討伐隊に入るとこういう利点があるのか。

 2人も何とか魔物討伐に間に合う目処が立って嬉しそうだ。


 「わしがノースフォートの教会の知り合いに急ぎの手紙を出す。お主らはそれを届けるという名目で馬を使えるようにしようかの。冒険者ギルドに指名依頼を出しておくゆえ、明日、それを受けてノースフォートへ行くがよい」

 「「はい!」」


 一時はどうなるかと思ったが、アレブのばーさんやるな。

 あれ、でも、それが終わってから大神殿側と決闘しないといけないんだよな。そうなると、魔物討伐に参加してから対決するわけか。これもどうにかできなのかな。


 (なぁばーさん、大神殿側との対決って何とかならないのか?)


 俺はダメ元で聞いてみた。すると、意外な言葉が返ってくる。


 (それはお主ら次第じゃの。魔物討伐で功績を挙げれば何とかできるかもしれん)


 あーなるほどな。ライナスとバリーの力量を実績という形で示せばいいわけか。簡単なことじゃなさそうだけど。


 「功に逸るのは愚かじゃが、手柄を立てられる機会があるのなら立てるとよい。ユージにも話した通り、魔物討伐での功績次第ではローラの件は何とかできるかもしれん」

 「はい、頑張ります!」

 「任せてくださいっす!」


 2人はすっかり元気になった。

 色々と怪しいばーさんだが、それだけに利用価値も高いってことか。どうせ散々こき使われるんだから、こっちも遠慮なしに使えばいいだろう。早速役に立って良かった。


 「ああそうじゃ、ライナスにこれを渡しておこう」


 そう言うと、ばーさんは水晶のようなものをライナスに差し出した。大きさは片手の手のひらで包み込める程度だ。


 「……これは?」

 「緊急連絡用の水晶じゃ。それに魔力を込めると、わしが持っておる水晶と繋がる。何かあればそれを使うとよい」


 携帯電話みたいなものか。便利そうだな。


 「これでいつでも相談できるっすね!」

 「……あくまでも『緊急用』じゃぞ? 些細なことで連絡されるとわしも困るからの」


 それについては同意せざるを得んな。ろくなものじゃなさそうだが、ばーさんにだって仕事はあるんだろうし。

 ライナスは受け取った水晶から目を離すとばーさんに頷いた。


 「わかりました」

 「うむ。他に話すことはあるかの? なければ今日はこれまでじゃな」


 こうして寂れた倉庫でライナス達とアレブの初顔合わせが終わった。色々と思うところはあるが、ともかく、新しい生活の幕開けである。




 倉庫街から出ると、ライナスとバリーは明日の出発に備えて色々と用意をし始めた。特に力を入れたのは武器だ。2人とも冒険者見習いになってから買った長剣ロングソード戦斧バトルアックスを今までずっと使っていたが、いずれも当時の体格に合わせてやや短かったり小ぶりだったりする。この1年半で更に大きくなった2人は、自分の体格に合った武器に買い換えることにしたのだ。

 2人はロビンソンに紹介してもらった武具屋に行く。店の主人は相変わらずやる気のない様子だが、商売に関してはとても誠実なので信用できる。当たり外れを気にせず、純粋に武具を選べるというのは地味にすばらしい。


 「あぁ、お前らか。今日は何の用だ?」

 「武器を新調するんですよ。これから本格的に冒険者として活動するんで」

 「オスカーさん、俺達、今日、冒険者見習いから冒険者になったんすよ!」


 何とも晴れ晴れとした笑顔の2人にオスカーと呼ばれた店の主人は苦笑する。


 「そうか、お前ら冒険者見習いだったんだな」

 「今日からは冒険者ですけどね」

 「わかったわかった。とりあえず今持ってる武器を見せろ」


 オスカーは2人を呼び寄せると、普段使ってる長剣ロングソード戦斧バトルアックスをカウンターに置くよう指示をした。そして、1つずつ手にして念入りに確認する。


 「ふむ……長剣ロングソードの状態は、こんなもんか。手入れはきちんとやってるようだな」


 俺からすると、刃の部分が多少凹んでいるところがあるというくらいしかわからない。

 オスカーは確認し終わると、今度はバリーの戦斧バトルアックスを手に取った。


 「こっちの状態はちと悪いな。バリー、お前、敵を見つけたら手当たり次第に振り回していただろう」


 ため息を1つついたオスカーは戦斧バトルアックスをカウンターに置いた。戦斧バトルアックスの使い方としては間違っていないんだろうけど、もっと丁寧に扱えって言いたいんだろうか。丁寧に振り回すっていうのがどんなものなのかはわからないが。


 「これを下取りして武器を新調するのはいいが、買値に期待はするなよ。特にバリーはな。ほぼないと思え」


 なかなか厳しいな。でも、引き取ってもらえるだけましなのかもしれない。


 「ただ、1年半前に買ったときと違って、バリーは体が一回り大きくなってるからな。たぶん、お前の腕力に耐えきれなくなってるんだろうよ」

 「もっと大きな戦斧バトルアックスを買ってた方がよかったっすか?」

 「いや、1年半前はこいつを買って正解だ。体が成長しきらないうちに重い物を振り回すと肩を痛めちまう。武器は壊れたら買い換えればいいが、肩は壊れるとそれっきりだからな」


 以前にも聞いた話だな。単に成長して武器の方が耐えきれなくなってきたってことか。長剣ロングソードの状態がましなのは、ライナスの戦い方によるんだろうな。


 「それじゃ、武器を選びますね」

 「ああ、ライナスは好きにしろ。バリー、お前の武器選びを少し手伝ってやろう。ついてこい」

 「はい!」


 珍しい。オスカーが客の武器選びを手伝うなんて。

 そんなことに俺が驚く中、2人は店内にある武器から自分に合ったものを選び始めた。


 たっぷりと時間をかけて2人は武器を吟味した。何しろ、これから大規模な魔族討伐が控えているからな。

 色々検討した結果、ライナスは標準的な長さの長剣ロングソードに落ち着いた。以前はやや短めだったが、体が大きくなって腕力がついたからだ。あと、半月後に大規模な魔族討伐を控えていることから、慣れた武器の方がいいと判断したらしい。

 一方、バリーは1.8アーテム程度の槍斧ハルバードを選んだ。こちらはライナスと違ってかなり時間がかかってたな。最初はバリーの腕力で使える重めの戦斧バトルアックスを吟味していたんだが、バリーが多様な武器を扱えることがわかると、オスカーが槍斧ハルバードを勧めてきた。何でも、これ1つで多様な使い方ができるらしい。重くて扱いづらいが、使いこなせるようになると凶悪な武器になるとオスカーは言っていた。バリーも素振りをしているうちに気に入ったようで、最終的に槍斧ハルバードとしては1.8アーテム程度のやつを買うことにしたようだ。本当に武器に関しては器用な奴である。


 「バリー、今度のはまたでかいな」

 「ああ! これでガンガン魔物をぶった切っていくぜ!」


 新しい武器を手に入れてご満悦の2人は笑顔でお互いの武器を見せ合う。これは羨ましい。


 「それじゃ、下取りした武器の分を差っ引いた代金を払ってくれ」

 「「はい!」」


 オスカーは2人がカウンターに置いた代金を数えると、それを革袋に入れる。


 「毎度っと。それと、バリー、お前は武器の種類が大きく変わったから、しばらくは念入りに素振りの練習をしておけよ」

 「ああ、任せてくれ。毎日練習するぜ!」


 真新しい道具を早く振り回したいっていう気持ちで一杯なのが丸わかりだな。それが槍斧ハルバードなんていう武器じゃなければほほえましいんだが。

 このように2人は明日の出発に備えて、必要なものを買い揃えていった。




 明日の準備ができたところで晩飯を済ませ、2人は宿り木亭に戻ってくる。屋内に入るといつも通り宿の主人であるジェームズがカウンターの奥に座っていた。


 「ただいまです」

 「ただいまっす」

 「おう、おかえり。ついに冒険者になったそうだな。おめでとう」


 いつもの挨拶を済ませて今晩の代金を支払おうとした2人は、ジェームズの言葉で動きを止めた。


 「なんで知ってるんです?」

 「そりゃ、ドミニクに聞いたからさ。やっと一人前になったんだろ」


 2人は何とも微妙な表情をする。まぁ、最後の別れ方があんなあっさりとした別れ方だったからな。


 「そういえば、ドミニクさんは帰ってきてるんですか?」

 「ああ、朝の間に戻ってきて、冒険者を引退するって言ってたな。別れの挨拶代わりに雑談してお終いだ」


 ということは、もうロビンソンとは会えないってことか。本当にあっさりとしてるな。


 「冒険者が別れるときっていうのは、こういうのが当たり前なんですか?」

 「人にもよるが、別に珍しくないよ。何も言わずにふらっと消えてそのままってこともよくあるからな」


 ロビンソンと同じようにジェームズもあっさりとした考え方だな。出入りの激しい宿屋の主人だからってのもあるんだろうけど。


 「俺、まだお礼言ってなかったっす……」

 「なに、それなら結果で示せばいいんだよ。あんたらがしっかりと冒険者をやって、あいつの教えたことが正しかったってことを示してやることが一番の礼だ」


 2人とも呆然とジェームズを見る。


 「ま、今は目先の仕事をきっちりとこなすんだ。もし次に会ったら自慢話ができるようにな」

 「「はい」」


 何となく納得できない様子ではあったが、冒険者を続ける限りはそういうものだと割り切らないといけないことなんだろう。しばらくは時間がかかるかもしれないが、自分で納得できるのを待つしかないな。

 2人はとりあえず1泊分の代金を支払うと、いつも使っている部屋に向かった。

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