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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
4章 冒険者見習いの生活

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冒険者見習いから冒険者へ

 誤字脱字を修正しました(2016/01/27)。

 ライナスとバリーが王都にやってきて3度目の春が来た。初めてやって来たときはロビンソンに引率されるままだった2人だが、今では大抵のところに1人で行ける。そして、この2年間に様々な依頼をこなしたことから、裕福な商人、気難しい職人、陽気な飲食店主など、色々な人とも知り合うことができた。

 このように一人前の冒険者になるために毎日頑張って来た2人だったが、うまく指導してきたのがロビンソンだ。王都に連れてきて冒険者見習いとし、適切な時期を見極めて2人に役に立つ依頼を与え続けた。もしロビンソンがいなければこうも順調に成長しなかったと思う。

 そして、今年で2人は15歳になった。この世界での成人年齢だ。世間では大人になったと見做される歳である。

 今朝も3人は冒険者ギルドに来ていた。もう日課といっていい。すっかり見慣れた屋内には相変わらず多くの冒険者がごった返している。

 しかし、ロビンソンはそのまま掲示板群を通り抜けてロビーまで進んだ。


 「ちょっとここで待ってろ」

 「「はい!」」


 ロビンソンはそのまま受付カウンターに向かって行った。


 「あれ?」


 ライナスはそのロビンソンの行動に疑問を持った。朝一番に自分達をロビーで待たせるときは、ロビンソンが討伐依頼などを自分で探すときだ。なのに今朝はいきなり受付カウンターへ行った。仕事が終わって報酬を受け取るとき以外では初めてだ。


 「なぁ、ライナス、ローラはそろそろ戻ってきてるかな」


 手持無沙汰になったバリーが、以前ローラから届いた手紙に書いてあったことを思い出していた。一応ライナス宛に届けられている手紙だが、バリーに関しても書かれていることがあるので一緒に読むことが多いのだ。ただし、バリーは文章を考えるのが苦手なので返信の手紙はライナスが全て書いているが。


 「う~ん、どうだろうね。手紙には春頃って書いてあったけど、具体的な日付までは書いてなかったなぁ」


 ライナスも問われて手紙の内容を思い出しながら返答した。最新の手紙は今年の1月に届いていたので2か月以上前の話だ。いや、ローラが手紙を書いたのはそれ以前なので話題自体は去年の末頃のものということになるのか。


 「確か前の手紙には西の端の都市から帰って来たって書いてあったよな。あれなんつー名前だったっけ?」

 「えっと、確かレサシガムだったと思う」

 「あーそれそれ! 魔法が盛んな都市なんだったよな」


 研究都市レサシガムのことだな。王国公路の西端に位置する都市で魔法に関する研究が盛んだと一般には言われている。ただし、実際に盛んなのは魔法の研究だけではないらしい。学術、科学、魔族、妖精など、無節操なくらい研究対象は幅広いと聞いている。


 「布教活動を兼ねた救済活動をしてたそうだな」

 「そんなので西の端まで行くなんて大変だなぁ」


 ローラの手紙によると、レサシガムの住民はその都市の性格上、信仰に熱心ではないらしい。そこで、聖女ローラを前面に立てて布教活動をしていたそうだ。その結果は手紙には書いてなかったが、恐らくそれは『お察し』というやつなのだろう。


 「次の手紙に何か書いてあるかもしれないよな」

 「受付カウンターに行ったら次の手紙が来てるかもしれないぜ」


 王都に来てから1年が過ぎた頃からだろうか、年に何回も手紙のやり取りを冒険者ギルド経由でしていたので、ライナスはすっかり受付嬢に覚えられてしまっていた。そのため、手紙が来ているとこちらが何も言わなくても教えてくれるようになっていたのだ。

 ただし、どう見ても男の子と女の子が文通をしているようにしか見えないので、受付嬢にはほほえましい関係として受け止められていた。しかし幸か不幸か、ライナスはまだ相手の笑顔がどういう類のものなのかを見極めることはできないので、受付嬢の生暖かい笑顔には気づいていない。

 それはともかく、時期としてはそろそろローラからの手紙が届いてもおかしくない。まぁ、頻繁に受付カウンターへは顔を出しているので、手紙が届いていたらあの受付嬢が言ってくれるだろう。


 そうやってローラの話で盛り上がっているとロビンソンが戻って来た。その表情はとても晴れやかだ。


 「ライナス、バリー、2人ともついてこい」

 「「はい」」


 椅子から立ち上がってロビンソンについていくと、そこは受付カウンターだった。いつもの受付嬢がいる。


 「冒険者見習いから冒険者に変更されるのは、このお2人でよろしいですか?」

 「ああ、頼む」

 「「!」」


 突然のことにライナスとバリーは驚く。最初の約束では、成人するまでの2年間は冒険者見習いということだったのでそろそろその時期も近いとはどちらも思っていた。しかし、何の前振りもなく突然その日を迎えるとさすがに動揺してしまうようだ。


 「では、こちらの変更希望用紙をご記入ください。そして、書き終わりましたら、今お持ちのカードとご一緒に提出してください」

 「え、あ、はい」

 「お、おう」


 言われるままに2人は用紙の必須項目に必要事項を書き込んでいった。ロビンソンはその様子をにやにやしながら見ている。

 しばらくすると、最初に書き終わったライナスが自分のカードと共に用紙を受付嬢に渡す。その後もう少ししてからバリーも同様に提出した。


 「はい、それではお預かりします。しばらくお待ちください」


 受付嬢は2人分の用紙とカードを手にすると奥に消えた。

 しばらく呆然とその様子を見ていた2人だったが、そのうちロビンソンに視線を移す。


 「もうすぐだな」


 そう言われて今度はお互いの顔を見る。


 「お待たせしました。こちらが冒険者用のカードとなります。尚、冒険者見習いの期間中に積み上げた実績はそのまま引き継がれますのでご安心ください」

 「「おお……!」」


 ようやく正式な冒険者になった実感が湧いたらしく、2人は満面の笑みを浮かべてお互いの肩を叩きあっていた。


 「やったな、バリー!」

 「ああ、ついになったぞ!」

 「おめでとうございます」


 その様子を見た受付嬢も笑顔で祝ってくれた。

 2人とも目指していた冒険者になれたんだから嬉しいだろうなぁ。


 「そうそう、ライナス、またローラちゃんから手紙が届いてるわよ」


 そう言うと受付嬢は1通の封筒をライナスに差し出した。なぜかやたらと嬉しそうだ。


 「ありがとうございます!」

 「後で読もうぜ!」

 「よし、それじゃ一旦ロビーへ戻るぞ」

 「「はい!」」


 ロビンソンが背を向けて歩き出すと、今日は朝からついている2人は上機嫌にその後をついていった。


 最初に目についた空き席に3人が座ると、ロビンソンは2人に祝いの言葉を述べた。


 「おめでとう。2年前に冒険者見習いとなってから色々とやらせてきたが、大過なくこなしてくれたことを嬉しく思う。正直なところ、これほど順調にお前達が成長するとは思わなかった」


 うん、俺もそう思う。特に、初めての盗賊退治のときや魔族に襲われたときの隊商護衛なんかは不安があった。前者は精神面で、後者は敵の厄介さでだ。俺もあんまり人のことを言えた義理ではないけど、精神年齢が高い分年上ぶってもいいだろう。いいよね?


 「今のお前達は冒険者になったばかりだが、実力で言えば中堅冒険者と言っていいくらいだ。まぁ、少し甘いところもあるが、それは今後の課題だな。自分で何とかしろ。お前達ならそれができる」

 「「はい!」」


 完璧に育てることなんてそもそもできないんだから、2人がこれだけ育てば充分じゃないだろうか。ロビンソンは充分に役目を果たしていると俺は思う。


 「ということで、たった今、お前達は俺の下を卒業だ。これからはお前達だけで冒険をしろ」

 「「……」」


 2人は何も言わない。ある程度は予期はしていただろうから驚きはないだろうが、今までのことを思うと色々胸の内を去来するものがあるんだろう。

 何しろ、ライティア村からここまで10年だ。人生の3分の2も一緒だったんだから何もないはずがない。俺だって先生3人と別れるときはくるものがあったんだから、まだ子供の2人なら尚更だろうな。


 「ロビンソンさんは、これからどうするんですか?」

 「俺か。実を言うと、これで冒険者家業から引退するんだ」

 「「え?!」」


 それは俺も知らなかった。結構いい歳だとは思ってたけど、引退するのか。


 「俺ももういい年だし、何より以前と違って体が言うことを利かなくなってるしな」

 「そうっすか……」


 珍しくバリーに元気がない。ロビンソンは生涯現役だとでも思っていたのかもしれないな。


 「それと、最後にお前達に会わせたい奴がいる」

 「会わせたい人ですか?」

 「そうだ。胡散臭いことこの上ないババァだ。実のところ、俺がお前達を10年間育てたのはそのばーさんからの依頼だからだ」


 衝撃の事実に2人は何も言えない。どこまで想像できるのかわからないが、小さい頃から世話になった師匠が何者かの指示で自分達を育てていたことを知ってしまったのだ。何とも言えない気分になってしまうだろう。


 「どうしてそのお婆さんは、俺たちを育てようと考えたんですか?」

 「その辺の事情は会ったら話してくれるだろうよ。実際のところ、俺もお前達を育てるように依頼はされたが、それ以上の事情は知らねぇからな」


 恐らく俺の知ってるばーさんと同一人物なんだろうな。だとすると、その秘密主義っぷりも頷ける。必要なこと以外は教えないってことか。俺も知らないことがいっぱいあるんだろうなぁ。


 「それで、そのばーさんってのにはいつ会うんすか?」

 「今から行く。2人ともついて来い」


 そう言うと、ロビンソンは席から立ち上がる。2人もそれに続く。

 せっかく憧れの冒険者になって喜んでいたというのに、これから色々大人の事情に晒されることになるんだよな。この世界じゃ15歳は大人扱いだからおかしくはないんだろうけど、思いっきり泥臭い事情っぽいもんなぁ。まぁ、晒されるのは俺も同じなんだが。


 こうして、ライナスとバリーの冒険者見習いとしての生活が終わり、冒険者としての生活が始まるのだった。

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