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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
4章 冒険者見習いの生活

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隊商護衛1

 盗賊退治の依頼を受けてからというもの、ロビンソンはライナスとバリーに対人戦闘の可能性がある依頼も受けさせるようになった。相変わらず難易度に頭を悩ませているようだが、引き受けられる依頼の幅が広がったので仕事に困るようなことはない。

 このように仕事の幅が順調に広がる一方で、2人は乗馬の練習をするようにロビンソンから命じられた。馬に乗れるようになることで更に仕事の幅が広がるだけでなく、初めての盗賊退治のときのように、突然馬を手に入れたときでも対応できるようにだ。冒険者見習いのうちに慣れさせようというロビンソンの計らいだった。

 それから数ヶ月、時は既に晩秋を迎えていた。吹き付ける風は日増しに冷え込み、もうすぐ冬が訪れることを示している。今の俺に四季は関係ないが2人は寒そうだ。

 そんな中、いつものようにロビンソンが2人に依頼を持ってきた。


 「おい、2人とも、今回の仕事を持ってきたぞ」

 「なんすか?」

 「隊商護衛の仕事だ」


 商人は商品をあちこちへ運ぶために荷馬車を使う。地方の小さな商人ならばその数は1台だが、王都の商人ともなると複数の荷馬車を連ねて各地を回ることも多い。当然そうなると盗賊に襲われやすくなってしまうので、冒険者を雇って荷馬車を守るというわけだ。隊商護衛とはそんな仕事である。


 「俺達でもできるんすか?」

 「ああ。何とかな」

 「何とか、ですか?」


 何か引っかかる言い方だな。こういうときはろくなことがない。


 「パーティメンバーの半分以上が遠距離攻撃できることって条件がついてるだけだ。俺達は満たしているから問題ない」

 「どうしてそんな条件がついてるんですか?」

 「これは魔族対策だ。王国公路は基本的に安全なんだが、魔族との戦争が始まってからは、ごくたまに魔族が空から襲って来やがるんだよ。そのための対策だ」


 しかも年を経る毎にじわりじわりとその空襲の回数が増えているらしい。そのせいで、今まで信じられてきた王国公路沿いの安全性が疑われるようになり、対空戦闘のできる冒険者が求められるようになってきているそうだ。具体的には魔法使いや弓使いである。


 「そうなると、俺、役立たずっすね……」

 「そんなわけないだろう。遠距離攻撃で地上に落とした魔族は、お前みたいな近距離の専門家が担当するんだぜ。それに、盗賊対策にも人は必要だろう」

 「そうっすか、よかった!」


 自分の存在意義を問われたかのように錯覚していたバリーは、ロビンソンの説明を聞いて安心した。条件にも遠距離攻撃ができる奴は半分以上いればいいって書いてあるだけで、全員がそうでないといけないなんて書いてないしな。


 「でも、俺達みたいな見習いでもいいって珍しいですよね」

 「いや、対魔族の迎撃要員はどこも不足しているから、猫の手も借りたい状態なんだ。だからこそ、お前達みたいなのでも隊商護衛ができるんだよ」


 魔法使いはもちろん、魔法を使える奴なんて数は少ないし、飛び道具を扱える奴も多くないよな。ただ、飛び道具は個人で持てる武器なんてほとんど人にしか効かないからなぁ。射程だって普通は魔法よりも短いし。それでも必要とされるくらい切羽詰まってるのか。


 「あれ、そう言えば、お前も弓を引けたんじゃなかったっけ?」

 「あー、確かにそうなんだが、大したことないんだ。それに、弓矢を買う金がな……」


 ロビンソンに武器全般を教えてもらったバリーは弓を扱えるが、ちまちま撃つのが苦手らしく、ライティア村で一時期だけ修行してそれっきりだった。


 「まぁ、無理することはない。いざとなったらこっちにはユージもいるんだ。お前は自分の仕事に専念しておけ、バリー」


 確かにその通りだ。肉の壁まもりも重要だと思う。


 「今回の仕事は、コンジュール商会の隊商を護衛する。行き先は中継都市ラザだ」


 西に延びる王国公路は中央山脈にぶつかると、山脈の北側の平地をゆく北回り街道と南側の森をゆく南回り街道に別れる。このちょうど分岐点に中継都市として存在するのがラザという都市だ。


 「中央山脈に行ったことのあるドリーも、ここを通ったことがあるのかなぁ」

 「巨人ジャイアント討伐だったっけ?」


 ドリーが以前語っていた武勇伝だな。メイの態度を見ているとかなり怪しいが、恐らくラザも通過してるんじゃないだろうか。


 「ともかくだ、3日後に出発、集合場所は西門だ。まぁ、俺達は宿が一緒だから俺についてくればいい」

 「「はい!」」


 ということで、新たな種類の仕事をすることになった。最近は寒いから荷馬車に揺られてると冷えるだろう。防寒着はしっかりと着込んどかないといけないな。




 配達の依頼などで時間を潰しながらライナスとバリーは出発の日を待った。当日はいつものように晴天だ。風の冷たさは厳しくなる一方だが、日差しに当たれるのなら幾分かましになる。

 ロビンソンに連れられてやって来た西門には既に多数の隊商が待機していた。以前は荷馬車に乗せてもらおうとして失敗したこともあったが、今回は正式に雇われているので乗りっぱぐれることはない。

 そんな中に、つるっ禿の厳つい男がいた。元冒険者という経歴しか信じられない風貌である。ロビンソンはその男に近づいてゆく。


 「俺はドミニク・ロビンソン、今日からコンジュール商会の隊商を護衛する冒険者だ。責任者はどこにいる?」

 「俺がその責任者のデイビッドだ。ドミニク・ロビンソン……確かにいるな。ライナスとバリーという冒険者見習いは後ろの2人か?」

 「そうだ。右がライナスで、左がバリーだ」

 「ライナスです」

 「バリーっす!」


 紙の書類を持ったデイビッドという責任者が、参加する冒険者のパーティメンバーと人数を確認している。


 「ロビンソンとライナスが魔法戦士で、バリーが戦士か。そこのライナスは冒険者見習いとあるが、本当に魔法戦士なのか?」


 デイビッドのような質問はよく受ける。やはり冒険者見習いなのに魔法戦士というのが引っかかるようだ。王都に来てからわかったけど、ライナスってかなり珍しいんだよな。だから、こういう風に疑われたときは事実であることを示してやればいい。


 「ライナス」

 「はい。我が下に集いし魔力マナよ、水の球となれ、水球ウォーターボール


 ライナスが呪文を唱えると、右手の上に拳程度の水玉が出来上がる。それを見たデイビッドは驚いた。


 「本物か! よくふかす奴がいるんでどうかと思ってたが、お前は違うようだな。期待してるぞ」

 「はい。ところで、魔族ってよく襲ってくるんですか?」


 あまりにも嬉しそうにデイビッドが言うので、ライナスは思わず質問したようだ。すると、デイビッドは顔をしかめて教えてくれる。


 「最近は多いらしい。以前は月に1回程度だったのに、いまじゃ週に1回くらいの頻度で襲われてる隊商がいるって話だからな」


 王国公路全域なのか、それとも王都近辺だけなのかがわからないが、どうも魔族の襲撃は増えているようだった。王国の経済を混乱させるためにやってるとしたら、戦略爆撃みたいなもんだよな。


 「ということは、他の隊商も遠距離攻撃の要員を増やしてるってことか?」

 「ああ。おかげでなかなか護衛の数が集まらなくて困ってるんだ。冒険者見習いってあって不安だったが、今回は当たりを引いたようだな!」

 「道理で簡単に採用されたわけだ」


 デイビッドの様子を見てロビンソンは苦笑した。

 本人を目の前にして言うのはどうかと思うが、それだけ困ってたということか。そうなると、襲撃の頻度が増えてきたというのも事実なのかもしれない。


 「それで、俺達はどの荷馬車に乗ればいいんだ?」

 「お前達は最後尾の荷馬車に乗ってくれ。あの奥にあるやつだ」

 「あれか。わかった」


 それじゃ、と短い挨拶を交わすと3人はその荷馬車に乗り込んだ。


 コンジュール商会の隊商は全部で6台の荷馬車で編成されていた。荷馬車は田舎でよく使われているような簡素な作りのものではなく、長距離移動にも耐えられる頑丈な作りだ。

 ライナス達はその荷馬車の一番後ろに乗り込む。雑貨類が大量に積み上げられた荷台の最後尾は、人が乗り込めるように空いている。居心地は悪いがそれは御者台も同じだ。


 「ドミニクさん、ここからだと荷物のせいで後ろしか見えないですよ」

 「戦闘が始まったら、前からの攻撃に何もできないっす」


 荷台の上に立ち上がって荷馬車の前方を見ようとした2人だったが、高く積み上げられた雑貨類に阻まれて前が見えない。それどころか、側面も見にくかった。


 「俺達は後ろから来た敵を追い払えばいいんだ。前は気にしなくていい」


 実際はそういうわけにもいかないのだが、ライナスとバリーに関しては慣れてないので、まずは目の前のことに集中させたいのだろう。


 「それだと、荷馬車の前はどうやって守るんですか?」

 「1つ前を走ってる荷馬車の最後尾にいる連中が、後ろを走ってる荷馬車の正面と側面を守るんだ」

 「それだと先頭の荷馬車だけ守りが薄いっすね」

 「そのために先頭の荷馬車だけ荷物の量を減らして前にも冒険者を乗せたり、護衛用の馬車を先頭につけたりするんだ」


 デイビッドと話をしていたいときのことを2人は思い出そうとしていた。その後ろにコンジュール商会の荷馬車が並んでいたから、その記憶を引っ張り出そうとしているんだろう。


 「この商会は荷馬車の前にも冒険者を乗せるやり方だったな」


 さっき見た隊商の様子を思い出しながらロビンソンがしゃべる。


 「あ、この隊商って、馬に乗った冒険者もついてくるんですか?」

 「見かけてなかったから多分ないだろう。あれは大商会か重要な荷物を運んでるときくらいしか雇われないしな」

 「金持ちしか雇えないってことっすか?」

 「まぁ、それも理由の1つなんだが、こと王国公路を走るだけならそこまで危険じゃないからだよ」


 王国公路は幹線街道なので隊商の往来が頻繁にある。一見すると盗賊にとって魅力的な狩猟場なのだが、現実はそうでもない。往来が頻繁にあるということは、ある隊商を襲撃中に別の隊商がやって来て、襲われている隊商を助けることが多いからだ。また、王国軍や各領主の私兵が頻繁に往来するので、盗賊にとっての危険性が案外高いからでもある。だから、盗賊は基本的に王国公路から外れた街道で隊商を待ち伏せする。この方が安全だからだ。


 「コンジュール商会の隊商は出発するぞぉ~! 荷馬車に乗ってない奴は速く乗り込めぇ~!」


 先程ロビンソンと話をしていたデイビッドの大声が辺りに響き渡る。どうやら出発の時が迫っているようだ。


 「お前ら、もう降りるなよ」

 「「はい!」」


 元気よく2人が返事をする。


 「ああそうだ。しばらくは周囲の警戒は適当でいいからな。あんまり肩に力は入れるなよ」

 「いいんすか?」

 「王都近辺の、こんな往来の激しいところで襲ってくる盗賊なんていねぇよ。気合いを入れて見張りたいなら明日からにしろ。まぁ、王国公路上を走ってる間は大丈夫だけどな」

 「「はい!」」


 再び2人が返事をしたところで、隊商の馬車が動き始めた。

 こうしていよいよ隊商護衛の仕事が始まった。

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