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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
4章 冒険者見習いの生活
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盗賊退治4

 村にやって来た盗賊を撃退し、捕縛した盗賊の記憶を読んだところ、連中の根城には予想以上に仲間がいることがわかった。しかも、他の村から攫ってきた女の子が2人もいるらしい。


 「マジかよ……」


 ロビンソンが地面を軽く蹴る。

 今まで順調に進んでいただけに、これからの戦いがより一層困難なものになりそうな予感がした。


 「メイ、廃村の地図と盗賊が普段いる場所、それに村娘のいる場所はわかるか?」

 「ええ、今地面に書くわ……ちょっと狭いわね。外に出ましょう」

 「こいつどうするんすか?」


 ロビンソンの質問に答えるべく外へ出ようとしたメイだったが、バリーから盗賊の処遇を聞かれてジャックに顔を向ける。精神読解マインドリーディングで必要な情報は取り出したことから、眠らされている盗賊に価値はなくなっていた。


 「用がないんなら始末するしかないだろ」

 「元々、そうするようにっていう話だからな。メイ、外に出て先に地図を描いておいてくれ。ライナス、バリー、こいつを持ってこい。ドリーとロビンはメイと一緒に待ってるんだ。それじゃ、ジャック、行こうか」


 手早く指示を出すと、ロビンソンはジャックと一緒に空き屋の外に出た。ライナスとバリーが眠ったままの盗賊を運びながらそれに続く。残りはメイと一緒に家の横に移動した。




 ロビンソン達が空き屋に戻ってくる頃には、盗賊の根城とされている廃村の概略図が描かれていた。ぱっと見は大ざっぱな感じがするけど、これで充分なのかもしれない。


 「やっと終わったぜ」

 「穴を埋めるのを待っててもらって正解だったろ」


 ロビンソンとジャックは暢気にさっきのことを話してるが、俺はあまり思い出したくない。それはライナスとバリーも同じようで、先程から眉をひそめたままだった。


 「それじゃ、時間がないからすぐに説明を始めるわ」

 「頼む」

 「まず、廃村についてだけど、使える建物は中央の元村長宅と周りの数軒だけね。他は家としては使えない。それで、盗賊は頭首が村長宅を1人で使ってるわ。残りは3軒の家に3人から4人に別れて住んでいるみたい。そのうちの4人はさっき殺したけどね。ちなみに、全員魔法は使えないわ。そして、女の子2人は元村長宅の裏側にある納屋に金品と食料なんかと一緒に閉じ込められてる。女の子の状態は……かなり悪いわね」


 地面に書いた廃村の概略図を1つずつ棒きれで指しながらメイが説明していく。その顔は見るからに不機嫌だ。今の発言で何となくその理由はわかったが。


 「馬の脚で半日ってことは、さっきの4人が何事もなければ今日の日没前後に戻れたってことになるな」

 「ということは、何かあったってことに気づかれる前に仕掛けるのは無理だってことになりますね」


 自分の言葉を受けて発言したロビンに向かってロビンソンは頷く。つまり、盗賊が異変に気づいているという前提で襲撃の作戦を練らないといけないということだ。


 「しかも、女の子2人を助けないといけないもんね……」

 「盗賊だけならぶっ殺すだけでいいんだけどなぁ……」


 似たような内容のはずなのに、どうしてドリーとバリーではこうも表現の方法が違うのか。バリーの育ち方は間違ってると思う。


 「女の子の安全を考えると正面突入は論外だろ。そうなると搦め手から攻めることになるが……」

 「時間が経過するにつれて盗賊の警戒は高まるし、村娘2人を助けるとなると……明日の日没前に夜襲ってことになるな」


 ジャックとロビンソンは状況に合わせて取るべき戦術を絞り込んだ。気づかれないうちに仕掛けるのは無理だが、何が起きているのかわからない状態で仕掛けることはまだできる。ひょっとしたら、間抜けな事故で一晩野宿していると思っているかもしれないのだ。敵襲があると確信されていない今の状況を活かさないといけない。


 「夜襲って、どう仕掛けるんですか?」

 「正面からぶわぁ~っと押しつぶしたらどうっすか?」

 「それじゃ奇襲を仕掛ける意味がないでしょ……それに、正面突入がダメだから夜襲するんじゃない」


 ライナスの質問にかぶせるように発言したバリーに、ドリーが半目で突っ込みを入れた。


 「せっかくだから夜襲の利点を活かすべきよね、姉さん」

 「夜襲の利点ね……お互い視界がほとんどきかないんだから、裏から忍び込めばいいでしょう。それで女の子を助けてから盗賊の相手をするのよ」

 「うん、それがいいな。だったら、二手に分かれよう。村娘救出と盗賊の頭首を殺す組と手下を殺す組だ」


 メイの提案にロビンソンが乗る。元村長宅とそれ以外の家で襲撃班を分けるわけだ。


 「夜の見張りはどうなんてんだ?」

 「それがね、どうも不寝番は立ててないようなの」

 「は? 無警戒ってことか? 嘘だろ?」

 「わたしが読み取った限りだとそうなの。今晩はどうかわからないけど」


 メイの返答にジャックは呆れた。しかしそれが本当なら襲撃はかなり楽になる。


 「だったら、元村長宅には1人か2人でいいよな」

 「手下のところを先に襲撃して、騒ぎを聞きつけた頭首が出てきたところでばっさりってやるなら、1人でもいいだろ」

 「読み取った範囲だと、それでも女の子の安全は保証できそうなのよね……そっか、女の子が安全なら助けるのは後回しでもいいんだ」


 ロビンソンの提案をジャックが具体的な行動に仕立て上げた。メイはその案で大丈夫か考えているうちに、女の子の安全について自分の考え方が硬直化していたことに気づく。


 「問題は誰がやるかだな」

 「あの、こっそりと殺すっていうんじゃだめなんですか?」

 「どういうことだ?」


 ライナスの突然の提案にロビンソンを始め全員の視線が1人に集中する。


 「見張りが1人もいないんでしたら、順番にこっそりと忍び込んでいけばいいと思ったんですけど」


 全員がライナスの意見を聞いて沈黙した。そうだよな。別に派手にやらないといけないわけじゃない。


 「寝ている盗賊に念のため睡眠スリープをかけて、それから1人ずつ倒していくんです。こうやって1軒ずつ回っていけば、騒がれることもなく全員倒せるんじゃないかなって思ったんです」

 「……ライナス、精神読解マインドリーディングのときも思ったんだけど、暗殺者の素質があるわね、あなた」

 「すげぇ、ライナス、天才だな!」


 メイを始め大半がライナスの考えに引いてる。その中でバリーは1人感心していた。お前は殺せれば何でもいいのか。

 けど、ライナスの案って一番効率がいいんだよな。そもそも夜襲を選択する時点で、如何に相手に気づかれずに行動するのかっていうことを考えないといけないんだから。まぁ、睡眠スリープをかける念の入れようには俺も驚いたが。


 「うっ、そう言われると思ったから黙ってようと思ったんだけどな」

 「はは、まぁいいじゃねぇか。安全確実な方法があるんならそうしようぜ!」

 「そうだ、ライナス。せっかくだから、廃村に接近するところから順番にどうやっていくのかお前の意見を聞かせてくれ。面白い意見が聞けるかもしれないだろ」


 どうせなら作戦を練る叩き台が欲しいということか。再び全員がライナスに注目する。


 「えっと、最初に廃村まで近づくと捜索サーチを使って人数を確認します。村内の地理はわかってるんで、それと付き合わせたら女の子と盗賊の位置が大体わかりますよね? 更に、ぽつんと他の仲間から離れてる盗賊がいるかどうかで見張りの有無もわかります」


 家の中で固まってる奴は寝ていて、外にいる奴は見張りって判断するのか。


 「もし見張りがいるなら、俺とあと1人が建物の裏から回り込んで倒します。このときは、俺が睡眠スリープをかけて眠らせます。もし失敗しても、夜中だから眠くなるって勘違いしてくれると思うから、その間にもう1人が倒します。もし見張りがいないなら、さっき言った通り1軒ずつ回っていくんです」


 全員が沈黙する。うん、魔王討伐の旅に出ても案外俺は楽ができそうだな。


 「将来有望な暗殺者ね」

 「……」


 メイの言葉にライナスが泣きそうな顔になる。完全に効率一辺倒な考え方だからな。メイに非情な人間って暗に言われているようなもんだ。


 「まぁ、一番安全確実な案なんですからいいじゃないですか」

 「そりゃそうなんだけどねぇ」


 何とかロビンが取りなそうとするがドリーが混ぜ返そうとする。


 「話を進めるぞ。ライナスの案で行くとして、元村長宅と2軒の元民家をどう回るのかだが、ライナス、お前はどう考えてる?」

 「えっと、二手に分かれます。1人が元村長宅に、残りが元民家です。これは同時にやってもいいと思います。家が離れてるから多少騒いでも気づかれにくいでしょうから。元民家の2軒は1軒ずつ回った方がいいです。戦力を集中するべきだからです」


 全員が感心したようにライナスを見つめる。14歳でここまで考えられるのか。なんかもう、一人前の冒険者として扱ってもいいような気がする。


 「俺は言うことはないな。後は誰が何を担当するかを決めるだけでいいだろ」

 「さすが俺の親友だ! これで俺は何も考えなくてもいいな!」


 それは駄目だ、バリー。お前も考えろ。


 「それで、元村長宅は俺がやってもいいですか?」

 「お前がか……」


 ジャックは微妙な顔をしてロビンソンを見る。

 真っ当な案を出したんだからそのまま任せてもいいんだろうけど、冒険者見習いってところにジャックは不安を感じてるんだと思う。だから正確にライナスの技量を把握しているロビンソンを見たんだろう。


 (いざとなったら俺もいるし、何とかなるよ)


 俺はロビンソンに声をかけた。ライナスが何を思って志願したのかはわからないが、望んだならできるだけ叶えてやりたい。それに冒険者を目指すなら、この程度はいつかは1人でできるようにならないといけないことだ。


 「わかった、やってみろ。ただし、ダメだと思ったら時間稼ぎをするだけでいいからな」

 「はい!」


 幾分緊張が解け、ライナスは笑顔で返事をした。


 「頭首の方はこれでいいとして、次は手下の方だな。2軒の家に別れて住んでるってことだが、どっちが3人でどっちが4人なんだ?」

 「こっちが3人で隣が4人ね」


 ロビンソンの質問に淀みなくメイが答える。


 「なら、最初に4人のところだな。メイが室内に睡眠スリープをかけて、それから俺、ジャック、ドリー、バリーの4人が中に入って仕留める。ロビンはメイの護衛な」

 「途中で誰かが起きてきたらどうするの?」


 襲撃計画がほぼ固まったところで、ドリーが異常事態について質問をする。


 「そのときは乱戦になる。ライナスに村娘の保護を任せるぞ」

 「はい!」


 ライナスは元気よく応えた。


 「よし、他に何かあるか? ないなら、今から盗賊の根城に向かうぞ」


 穴はあるのかもしれないが、とりあえず盗賊の根城を襲撃する計画は出来上がった。あとは現地に着くまで色々考えて修正していくしかないだろう。

 ロビンソンの問いかけに誰も答えなかったので、7人は盗賊の根城に向かうべく、村長宅に預けている馬を引き取りに向かった。

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