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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
4章 冒険者見習いの生活
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盗賊退治3

 俺達がコルコス村にやって来て3日目となる。初日の夕方に酒場で主だった村人から盗賊についての話を聞いたが、役に立つようなものはなかった。

 ただ、早く何とかしてほしいという気持ちははっきりとしていたので、こちらが待ち伏せの話をすると進んで協力してくれることになった。村人なので戦場となる酒場には近づかない、いたら即座に離れる、ということを伝えるとその通りにしてくれると約束してもらえた。目の前が戦場になる酒場の店主は最後まで渋ったが、村長も説得に協力してくれたのでどうにかなる。

 酒場近辺がどうなっているか全員で調べてみたが、酒場の建物以外に遮蔽物となるものがほとんどなかった。酒場の手前にはちょっとした広場があり、その奥には麦畑がある。麦畑は距離だけ見たら手頃なものの、まだ麦の生長がそれほどでもないので隠れるには背丈が低い。待ち伏せによる奇襲を喰らいにくい良い地点だということがわかった。


 「ちっ、意外と知恵の回る連中みたいだな」


 待ち伏せが思ったよりもやりにくそうなのでロビンソンは終始顔をしかめていた。結局のところ、酒場の内部で待機させてもらうことになり、そこから魔法を仕掛けて突撃することになる。麦がもっと生長してたら背後の麦畑で待機するという案もあったんだが、今回はなしだ。


 ということで、2日目からは酒場に詰め込むことになった。何しろ、盗賊が来てから酒場に駆け込むなんて慌ただしいことはしたくなかったからだ。盗賊は2回とも太陽が頂点に昇る頃に現れるそうなので、朝遅くから昼下がりまで全員で酒場の中にいた。

 そしてその頃、俺は1人村の北側の入り口にふわふわと浮いていた。堂々と見張りをしているのだ。通常の人間には見えない霊体というのはこういうとき便利である。

 小さい街道が村の北側へもずっと続いている。この街道は地平線の彼方まで一直線だ。周りは原野が広がってるのでなんだか少し寂しい。そんな感傷に浸りながら風景を眺めていたわけだが、もちろんこんなときも勉強は欠かしていない。俺が真面目だったからではなく、単なる暇つぶしで勉強していただけだ。他にやることもなかったしね。


 (早く来ないかなー)


 それでも待つという行為は楽しいものではない。2日目が終わって3日目になっても相変わらずいい天気で、景色に変化は全くなかった。

 村長をはじめとした村人の話だとそろそろ盗賊がやって来てもいい頃なんだけど、実際のところはどうなんだろうな。

 そんな風に絶好の青空教室日よりの元で気の抜けた勉強をしていた俺だが、地平線上に怪しい影を見つけた。次第に大きくなってゆく影がはっきりとその姿を現す。

 見張り始めて2日目にして盗賊らしき姿を見た俺は、すぐさま酒場までとって返す。そして、ロビンソン、ライナス、バリーにそのことを伝えた。


 (馬に乗った4人組がこっちに向かってやって来る。多分盗賊だ)


 俺の話を聞いた3人は、それまでのだらけた表情を引き締める。


 「おい、今暇だったんで捜索サーチをかけたら、4人組がこっちに向かってるみたいだぜ?」

 「え、それって盗賊なの?」

 「多分そうだろ。村長の言ってた通りだ」


 実のところロビンソンの使える捜索サーチはそんなに精度が良くないそうなんだが、今回はロビンソンが捜索サーチをかけたということにしてもらった。そしてその声に全員が反応する。


 「へへ、やっと来やがったか!」

 「あーもー退屈だったわね!」


 突撃組の2人が立ち上がって体をほぐす。ジャックもあくびひとつしながら背伸びをしていた。


 「俺達は窓際だな。ライナス、メイ、窓は全部開けとけよ」

 「はい!」

 「ええ、わかってる」


 一方、魔法攻撃担当の3人は広場に面した酒場の窓を全開にした。片田舎の酒場にガラスなんて上等なものは使われないので、開けておかないと外の様子が見えないからだ。


 「それじゃ私も窓際に寄りますね。私が合図をしたら突撃組は出て行ってくださいね」


 のんびりとしたいつもの調子でロビンが声をかける。今回の待ち伏せで特にやることがないロビンは、突撃の合図を出す役目を請け負った。

 そうして全員が指定の配置場所に着いてしばらくすると、村人の1人が慌ててこちらにやって来た。いよいよ作戦の開始だ。




 酒場前の広場にやって来たのは、ハドリー村長も盗賊もほぼ同時だった。

 しかしその態度には大きな違いがある。盗賊側は相手を服従させる者としての余裕があり、村長側は相手に服従を強いられる者としての無念さがあった。盗賊共はそれを意識してかやって来た当初からにやにやと笑っている。


 「よう、じじぃ。今月分はちゃんと用意してあんだろうな」

 「は、はい」

 「へへ、んじゃ早く持ってこい」

 「あ、そうだ。女を2人連れてこい。ばばぁじゃなくて若い奴な」

 「そ、そんな。金品だけでは足りないと?」

 「だから言ってんじゃねぇか。ぼけたか、じじぃ」

 「ははは、俺達も男ばっかで大変なんだ。だからうるおいってやつがいるんだよ!」


 欲しいから奪う。正にそれを地でいってる連中だ。理由にすらなってない言葉で自分達の欲望を正当化しようとしている。ああ、こういう連中なら殺しても罪悪感は湧かないなぁ。

 それでも冷静にその様子を見ることができたのは他人事だったからだろう。

 一旦村長と盗賊から目を離して酒場内を見ると、7人全員が開始の合図を待っていた。その合図とは、村長が広場の外に出たときだ。

 やがてやり取りが終わった村長は力なく広場を出て行こうとする。その様子を確認したメイ、ライナス、ロビンソンは呪文を唱える。そして、そのかすかな詠唱を聞いたジャック、ドリー、バリーの体に緊張が走った。

 ゆっくりとした足取りでハドリー村長が広場から出て行く。それが確認できたメイは最初に睡眠スリープを盗賊へかけた。


 「あ……れぇ……?」


 端から見ると、馬上の4人は一斉に頭をぐらつかせた。2人は何度も目をこすっている。

そして、やがてその中の1人が文字通り眠りながら落馬した。頭から落ちてごすっと嫌な音がする。あれは死んだんじゃないだろうか。

 それには構わず、次にライナスが再び睡眠スリープをかけた。すると、更に1人が馬上で眠る。今度は落馬しなかった。


 「風刃ウィンドウカッター!」

 「突撃!」


 ロビンソンの魔法攻撃とロビンの突撃の合図はほぼ同時だった。

 まず、ロビンソンの風刃ウィンドウカッターは一番手前のまだ起きている盗賊に向かって放たれた。これは狙い過たず命中し、盗賊は血だらけになりながら悲鳴を上げた。

 魔法の攻撃が終わった時点では、落馬により意識不明が1名、馬上で意識不明が1名、馬上で負傷が1名、馬上で無傷が1名となっている。相手にすべきは残り2名だ。


 「ははぁぁ!」


 突撃組の先頭を走るジャックは、愛用の長剣ロングソードを片手に血だらけになっている盗賊めがけて走った。特に理由があったわけではなく、最も近い場所にいたからだ。こういうときは手前の敵から片付けるというのがジャックの信条である。戦場では難しく考えてはいけないということを実践してるのだ。

 突然現れたジャックに驚いた血だらけの盗賊は剣を抜いて対応しようとするが、あまりにも遅すぎた。

 ジャックは不意を突けた利点を最大限に活かし、相手が剣を抜く前にその脇腹へ長剣ロングソードを突き刺した。あまりの痛さに悲鳴すら上げられずに硬直した盗賊は、長剣ロングソードを引き抜こうとするジャックに合わせて馬上から落ちた。


 「もらった!」


 ジャックに続いて出てきたドリーは、血だらけの盗賊の奥に無傷の盗賊がいることを見つけた。それを獲物だと見定めたドリーは、その太ももにソードを突き刺そうとする。

 しかし、奥にいる分だけ対応する時間の合ったその盗賊は、既に剣を抜いていたのでドリーの攻撃を防ぐことができた。そして馬上では不利だと悟ったその盗賊は、急いで馬を挟んで反対側に取り降りる。そこから体勢を整えて迎撃するつもりだ。


 「ふんっ!!」


 ところが、そんな盗賊の魂胆をあざ笑うかのように、バリーが真っ正面から戦斧バトルアックスを叩きつけてくる。反対側から馬上の盗賊を攻めようとしたところ、着地したばかりの敵とばったり出くわしたのだ。そして、不充分な体勢のまま剣でその攻撃を受け止めた盗賊は、こらえきれずに頭をたたき割られてしまう。


 「へへ、やったぜ!」

 「あー! あたしの獲物ぉ!!」


 バリーの勝ちどきにドリーが抗議の声を重ねてくるがもう遅かった。

 こうして村内での待ち伏せ攻撃はあっさりと終わったのだった。




 ライナス達は事前の予想通りに事を運べたので上機嫌だった。しかも、こちらは全員が無傷な上に盗賊を1人生け捕りにできたのだ。完勝である。

 ちなみに残り3名だが、ジャックとバリーが殺した以外に、睡眠スリープで眠らされてから落馬した盗賊が含まれている。頭から落ちて首の骨が折れていたのだ。睡眠スリープで人を殺すところなんて初めて見たよ。

 死体の処理を村人と一緒に済ませた一行は、眠らされた盗賊と一緒に宛がわれた空き屋に戻ってきた。尚、馬4頭はハドリー村長の家で預かってもらってる。後で使うからだ。

 ともかく、生け捕りにできた盗賊をこれから尋問しないといけない。まぁ、尋問なんて穏やかな表現を使っているが、実際は拷問だ。見ていて楽しいものではない。


 「さて、1人生け捕りにできたところでこれから尋問をしないといけないんだが……」


 ロビンソンは全員に視線を向けた。盗賊の根城を割り出すために必要な作業なんだが、進んでやりたいことではない。そうなると誰がやるかなんだが、ここで沈黙が訪れる。誰だってやりたくないわな。

 さてどうしようかと俺も色々考えていたんだが、ここで使えそうな魔法を1つ思い出した。


 (ライナス、精神読解マインドリーディングが盗賊に使えないか提案してくれないか? もしかしたら、頭の中を読み取るだけで拷問をしなくてもいいかもしれない)


 精神読解マインドリーディングは対象者の記憶を読む魔法だ。プライバシーなんて言葉を鼻で笑い飛ばすような魔法なんだが、これを使えば盗賊の根城も一発でわかるような気がする。ただ、対象者の心理的な抵抗が高いと成功しにくい。


 「あの、精神読解マインドリーディングを使うのはどうですか?」

 「また厄介な魔法を知ってるのね。そんな提案すると嫌がる人もいるわよ?」


 メイが微妙に顔をしかめながらライナスに注意する。やっぱり頭の中に踏み込む魔法は嫌われるか。


 「メイは精神読解マインドリーディングを使えるのか?」

 「……一応ね。ただ、使うのに抵抗があるせいか成功率が高くないのよ」

 「ロビンソンは?」

 「俺はそもそも使えねぇな」

 「ライナスは?」

 「使えます。ただ、今まで使ったことがないですけど」


 ジャックが3人に聞いて回った結果、メイとライナスが使えることがわかった。俺も使えるんだが、ライナスと同じように試しにしか使ったことはないんだよな。


 「できるだけ早く盗賊の根城を攻撃したいから、できれば精神読解マインドリーディングを使ってほしいんだが……メイ、どうする?」

 「中途半端に痛めつけただけじゃ、逆に盗賊の復讐心を煽るだけよね。ここで逃がさないためにもやった方がいいわ」


 ジャックが遠慮がちにメイへ聞く。しかし、精神読解マインドリーディングを使うことに抵抗感のあるメイはやるとはっきり言った。

 予定通りにこの4人が帰ってこなければ、根城にいる盗賊の仲間は何らかの対応を取るだろう。復讐のためにこの村を襲ってくるか、それとも一旦どこかへ去って力を蓄えてから再び戻ってくるか。何にしてもできるだけ短時間で尋問は終わらさないといけない。


 「起こした方がいいか?」

 「いえ、心理的抵抗が少ない方が成功しやすいから、寝かしたままにしておいて」


 そう言うと、メイは寝かされている盗賊の傍らにひざまづいて、その額に手を添えた。


 「我が下に集いし魔力マナよ、彼の者の過去を我が前に示せ、精神読解マインドリーディング


 メイが呪文を唱え終わると、その添えられた手の先がぼんやりと光る。しばらく目を閉じていたメイだったが、やがて手の先の光が消えると目を開けて立ち上がった。


 「どうだった?」

 「やっぱり気持ちのいいものじゃないわね。でも、盗賊についてはもっと面白くないことがわかったわ」


 心底嫌そうな顔をしたメイがジャックに答える。一体何を見たんだろうか。


 「ねぐらにしているところはわかったわ。ここから馬で半日くらい北へ向かった廃村よ」


 うん、知りたい情報はとりあえずわかった。で、問題は面白くないことなんだが。


 「残りの盗賊は8人、しかも他の村から攫ってきた女の子が2人いるの」


 メイの言葉に一同が絶句した。

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