魔物討伐2
小鬼討伐隊の集結地は南門を出た堀の外側とのことだった。集合当日、門が開いてしばらくすると参加する6パーティが次々と集まってくる。
さすがに24人も集まると大所帯だ。誰かとりまとめ役が必要なんじゃないかと思っていたら、やっぱりいた。今回参加する中堅パーティ2つのうち森の中央を担当するパーティのリーダーだ。森の北端を担当する方のリーダーはそれを支える役らしい。
ライナスとバリーもロビンソンに率いられて集合場所にやってくる。その顔は正に意気揚々といった感じだ。そして、その背中には2日前に買った背負い袋があった。もちろん、中には必要な雑貨が入っている。
ロビンソンは2日前に各パーティのリーダーと顔合わせをしていたので、そのとき知りあったリーダーと挨拶を交わす。しかし、2人は知り合いが誰もいないので辺りを見回すしかできなかった。
「これが討伐隊の冒険者か……」
「おお、すげぇ」
周りにいるのは全て討伐隊に参加する冒険者だ。使い込まれた武具に場慣れした様子は2人の関心を誘う。
「あ、ライナス、バリー!」
突然後方から呼びかけられて2人同時に振り向くと、そこには以前一悶着あったドリーがいた。
「ドリー!」
「おう、おはよう!」
初めて知り合いを見つけた安心感から2人は笑顔でドリーを迎える。
「お、なんだ?」
「へぇ、あれがドリーの言ってた……」
「ふむ、まだ幼そうですね」
そのドリーの後ろから、恐らくパーティメンバーの3人がライナス達の様子を興味深そうに見ながらやって来た。どう見ても面白がってるよな、あれ。
「あんた達も小鬼討伐に参加するんだね。大丈夫? 確か、あんた達って見習いだったでしょ」
「うん、大丈夫だよ、こういった大規模討伐だと他のパーティと助け合えるからってドミニクさんも言ってたし」
「それ以前に来る奴はみんなやっつけるけどな!」
ドリーの大丈夫という問いに対して2人は口々に問題ないと返事をする。そして、ドリーの後ろに視線を移した。
「あ、紹介するね。こっちはリーダーのジャック、戦士だよ。その隣が魔法使いのメイ、そして僧侶のロビンね。そしてみんな、この2人が前に言ってた2人だよ、右がライナス、左がバリーだよ」
「ジャックだ。このパーティのリーダーをしている。お前さんらのリーダーとは2日前に顔を合わせてるんだが……いないのか?」
「あ、あっちで他のリーダーと話をしてます」
「お、ホントだ。ま、もうすぐ来るだろ。とにかく、よろしくな」
一番年長者らしいジャックは随分と気さくそうだ。鎧は一般的な革の鎧だが使い込まれていることがよくわかる。武器は長剣を腰にぶら下げている他、左手に円形盾を持っていた。典型的な戦士だな。
「わたしは魔法使いのメイ。ドリーの姉よ。この前はごめんなさいね。あの子後先考えずによく動くから」
「余計なことは言わなくていいの!」
「はいはい。また何か面倒なことがあったら言ってね。ちゃんと言いつけておくから」
「あたしはもう子供じゃない!」
ドリーと掛け合いの漫才みたいなことをしながらメイが自己紹介をした。姉妹らしく顔は似ているがメイの方がややきつめだ。また、髪の色は同じ茶色だが癖はなく、肩まで伸びている。服装は魔法使いらしくゆったりとしたローブを身につけて自身の身長ほどもある杖を手にしていた。
ちなみに、杖は魔法を唱えるときに利用されることもあるが、同時に体力自慢の戦士系と一緒に旅をするので、よく体力切れで体を支えるのにも使われることから杖と揶揄されることもある。
「次は僕だね。僕はロビン、僧侶だよ。怪我したら言ってくれ」
穏やかな表情のロビンは静かに名乗った。光の教徒が身につけてる法衣を簡略化した服を身にまとっている。恐らく旅する光の教徒の僧侶は大体この姿なんだろう。
「俺はライナスって言います。冒険者見習いです」
「俺はバリー! ライナスと一緒で冒険者見習いっす! よろしくっす!」
2人とも元気よく応える。その姿を見たジャックなんかは「いやぁ、初々しいねぇ」なんて呟いてた。年寄りみたいだな。
その後6人でしばらく雑談をしていると、ようやくロビンソンが戻ってきた。
「お、ジャック、来てたのか。ならこれで全員揃ったんだな」
「おはよう、ドミニク。討伐が今から楽しみだぜ」
ロビンソンとジャックが雑談をしようとすると、討伐隊のまとめ役が声をかけてきた。出発前に訓示をするらしい。
「今回、湖の畔にある森で大量に発生した小鬼を討伐しに行く。相手の数は多少多いが、なに、こっちにはこれだけの精鋭が集まったんだから問題ない! さっさと片付けて王都に凱旋しようぜ!」
訓示が短いことは評価できるな、うん。俺がそう思っていると、討伐隊に参加するメンバーは意外にノリノリで拳を振り上げていた。俺と感覚が随分違う。
そして出発のかけ声と共にみんなが一路南に向かって歩いて行く。
(あれ、森は南東にあるんじゃないのか?)
(森の近くを通ってる細い街道は10オリク南にあるんだ。王都に来るときに通ったんだが覚えてないか?)
すみません、覚えてないです。いや、そう言われると途中にそんな道があったような気がするけど、枝分かれしてる道なんていくらでもあったからなぁ。
ロビンソンにそう指摘されて少し恥ずかしい俺であった。
王都の南門から目的の森までは約70オリクと聞いていたが、実際にはもっとあるように感じた。この数字はどうも直線距離っぽい。王都から10オリク南下した上に、たまに街道が蛇行しているところもあるので80オリク以上はあるように思う。
討伐隊の面々はばらばらに歩いている。パーティ単位ではある程度まとまっているものの、各パーティ間では統率が取れているようには見えなかった。討伐隊と名乗っていたので軍隊みたいにもっと隊列らしきものを組むかと思っていたけど違うらしい。
後でロビンソンから聞いた話だが、森の中を掃討するのにパーティの間隔を大きく空けたのは、寄せ集めの討伐隊ではろくな連携が取れないからだそうだ。逆に同士討ちの可能性もあるのであったという。なるほど、そんな事情もあったのか。
こんな風にばらばらな討伐隊の面々だったが、歩く速度は意外と似ていたので脱落者は出なかった。
そうして3日目の夕方に森の西端に到着した。もっと早く着くこともできたが、森の中を掃討するのは4日目でないとできないという結論に達していたので、疲れが残らないようゆっくりとあるいていたのだ。
討伐隊の面々は街道上にいる。そこから森が見えるのでみんなの視線が集まるが、思っていた以上に街道から近い。
「今日はここで野営する。森の中の掃討は明日の朝からだ!」
討伐隊のまとめ役がそう宣言すると、森を見ていた冒険者達はパーティ毎に野営の準備を始めた。さすがに野営のときは不寝番の都合もあってきちんと固まって野営する。
「いよいよっすねぇ、ドミニクさん!」
待望の戦場を目の当たりにしたバリーはさっきから興奮しっぱなしだ。ちゃんと寝ないといけないのに遠足前日の子供みたいで心配になる。
「やる気があるのはいいことだが、落ち着けよ」
「はい!」
一方のライナスはしきりに森の方を気にしてる。これは、興奮しているというよりも不安なんだろうか。
「ライナス、明日は20人以上で戦うんだ。不安なんてねぇぞ」
「あ、はい!」
やっぱり不安だったんだ。恥ずかしそうに俯く。
「お、なんだ? 随分と不安そうだな。やっぱ初めてだとそうだよなぁ」
隣で野営することになったジャックがライナスの様子を見てうんうんと頷く。なぜか嬉しそうに見えた。やっぱり先輩風を吹かせられるからか?
「えー、なになに? ライナスったら怖いの?」
ジャックがライナスに話しかけたのを目ざとく見つけたドリーは、にんまりとした顔をして近づいてくる。朱い日差しに照らされた姿が印象的だ。
「そ、そんなことないよ。ただ、初めてだからちょっと不安になっただけだよ」
「えー、やっぱびびってるじゃない!」
「もう大丈夫だよ!」
「そうだ、ライナスはもう大丈夫だぞ!」
皮肉とも受け取れるような励ましをしつつバリーも話の輪に加わってくる。それでますます騒がしくなってゆく。
「ジャック、ドリー! お湯が沸いたわよ!」
割り当てられた野営場所で火の魔法を使って水を湧かしていたメイが、騒いでいた2人を呼ぶ。王都を出発してからの野営では、メイが火を熾す担当をしていた。
「はーい! ふふ、食べたらまた来るからね」
「もう来るな!」
ライナスの抗議はさらっと無視してドリーは身を翻す。
一方、みんなに弄られていたライナスは疲れ果てていた。
「あ、俺も火を熾さなきゃ」
「もうやってるよ」
「ドミニクさん……」
今回の野営で火を熾すのはライナスの担当だったが、ドリー達と騒いでいて何もできなかった。代わりに、ロビンソンがさっさと水を沸かしている。
「ごめんなさい」
「いいよ、これくらい。顔から不安が消えたんだからな」
今になってライナスは不安がなくなってることに気づく。
「もしかして、みんな俺の不安をなくすために?」
「単に面白がってっていう面もあるけどな。明日お前がきっちり働いてくれたら、それだけ自分達の負担が減るっていうことも期待してるんだ」
スポーツでも仲間の足を引っ張ったら申し訳ない気持ちでいっぱいになるけど、戦闘となると自分の命に直結するからな。他のパーティの面子だからって放っておくわけにはいかないっていうことなんだろう。
ライナスが周囲を見ると、歩哨以外は各野営地で焚き火を囲んでいる。ライナス達のパーティからはロビンソンが今晩の歩哨に立つことになっていた。
「ドミニクさん、森の前でこんな堂々と野営をすると小鬼に見つかるんじゃないですか?」
俺としてもそれは気になった。どうせなら気づかれないまま森に入って討伐すればいいと思うんだが、それに対するロビンソンの回答は簡潔だった。
「周りに隠れられるようなところがないから、どうにもならんよ」
確かにその通りだった。街道の北東には森があり、それ以外はなだらかな野原がしばらく続き、そしてその奥には畑が広がっている。隠れられる場所は森の中くらいしかなさそうだ。
「これだけの人数がいたら、ゴブリンが20匹や30匹現れたところで返り討ちにできる。逆に森の中で探す手間が省けるってもんだ」
未確認の小鬼祈祷師なんかが出てきたらどうなのかという不安が俺にはあるが、ロビンソンはそれでもどうにかなると考えているらしい。頼もしいと見るべきなのか、楽天的すぎると見るべきなのか、う~ん、迷うな。
「ま、今は明日のことだけ考えてりゃいい。お、沸いたぞ。飯にしよう」
沸騰する湯から目を離してロビンソンはライナスとバリーに視線を向けた。日没寸前なので辺りはもうよく見えない。
そんな中、ライナス達はようやく簡素な飯を食い始めた。




