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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
4章 冒険者見習いの生活

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合間に入れる日銭稼ぎ

 一仕事終えた開放感からか、ライナスとバリーはそのままロビーで緩みきっていた。初依頼を短時間でこなしたのでまだ昼前だ。


 「何だお前ら、もう仕事は終わったのか?」


 幸せそうに緩んでいる2人に声をかけてきた男がいた。ロビンソンだ。掲示板群の中からやって来る。


 「はい、やり遂げたっすよ!」


 バリーは嬉しそうに報酬を見せる。それを見たロビンソンは多少驚いた顔をした。


 「思ったよりもずっと早いな」

 「魔法を使って探したんです。だからすぐに見つかったんですよ」


 勧められた椅子に座ったロビンソンに対してライナスが説明をした。そこから簡単な顛末を話す。終わってみれば簡単な依頼だった。


 「なるほど、捜索サーチか。確かにあれを使ったら一発だよな」


 苦笑しながらロビンソンは感想を呟く。その口ぶりだと、魔法なしで捜査させるつもりだったのか。


 「魔法を使っても良かったんですよね?」

 「もちろんだ。せっかく身につけたんだから使わないとな」


 不安に思ったらしいライナスが尋ねると、ロビンソンは当然だと言い返す。さすがにそういった縛りはしないようだ。


 「それで、昼からどんな仕事をしたらいいっすか?」


 午後の予定が丸々空いた2人はまだ何をするか決めていない。仕事以外に今はすることがないので、バリーはこれからどうしたらいいのか尋ねたのだ。


 「もちろん仕事をするべきなんだが……そうだな、また捜索関連でもいいんだが、今度は別の仕事をやってみるか。だが、その前に昼飯だな」


 がりがりと頭をかきながら、ロビンソンは2人にそう提案をした。


 一旦冒険者ギルドを出た3人は、そのまま大通りの南側に広がる露天商に向かう。そろそろ昼時ということもあって、露天から漂う美味しそうな香りに釣られて多くの人々が集まってきている。

 そこでいくつかの店から食べたい物を買ってゆく。明日以降の生活費や武具の購入費のことを考えるとそうたくさんは買えないはずなのだが、まだそこまで考えが至ってないのか、ロビンソンが代金を出していたときと同様に2人は好きなだけ買う。その様子を見てロビンソンは苦笑した。

 買った物を手にしながら再び冒険者ギルドのロビーに戻ってきた3人は、その昼飯を口にしながら午後の仕事について話を始める。


 「さて、それじゃ昼からどうするのか話をしようか」

 「「はい」」


 口に物を入れながら2人は頷く。食べながらしゃべっているのはロビンソンも同じだ。


 「今度は配達関連の仕事をしてもらう。通称『お使い』だ」

 「何を運ぶんすか?」

 「何でもだ。依頼主の所から頼まれた物を指定された場所に届ける」


 これは仕事内容を想像するのは簡単だ。ロビンソンは口の中の物を飲み込んで話を続ける。


 「この仕事は目的地が王都内のものと外のものがある。外のやつはやらないから考えなくていい。で、王都内のある場所からある場所へ荷物を運ぶわけだが、報酬の高いものほど荷物は重いし、運ぶ距離は長いし、重要なものを運ぶことになる」


 ふむ、特に言うことはないな。個人の配達業務みたいなものか。


 「まぁ、冒険者に頼むくらいだから、荷馬車を使わず個人で運べて急がないものに限られているけどな」


 微妙だな。ぱっと思いつけるような荷物がない。ただ、そんな微妙なものになる理由は想像がつく。荷馬車のように大量の物を運べる個人なんていないし、冒険者ギルドに依頼を出してもいつ引き受けてくれるのかわからないからだ。


 「しかし、冒険者に頼む程度には面倒な代物を運ぶってことになる」


 ライナスとバリーもこれじゃ反応のしようがないよな。業務内容ははっきりしてるんだが、取り扱う荷物が想像できない。一体どんなものを運ぶんだろうか。


 「配達関連の仕事は簡単なだけに報酬も低い。だから数をこなさないとまとまった金にならん。普通はまとめてたくさん引き受けるか、他の依頼の合間に受けることが多い。しかしだ、新人や金に困った冒険者が日銭を稼ぐためによく引き受けるから、実は地味に人気があったりするんだよな」


 なるほどなぁ。細かい仕事だから色々と融通を利かせられるということか。しょぼい仕事だからって油断していると、割のいい仕事はすぐになくなりそうだな。


 「昼からは何件か見繕ってやってみるといい。1つの依頼を1人でこなすか2人でこなすかは依頼条件のところを見ろ。希望人数が書いてある。慣れてくれば、捜索関連の仕事をしつつ配達ができるようになるだろうよ。慣れないうちは、扱いに気をつけないといけない品物や期限指定のある依頼は避けた方がいいな」


 ライナスとバリーは豚の串焼きを食べながら真剣にロビンソンの話を聞いている。


 「まぁ、依頼を選ばなきゃ常時ある仕事だ。王都内の地理を知るという意味でもたくさんこなしてみろ」

 「「はい」」


 2人は昼飯を食い終わると、早速壁際に置いてある配達関連の依頼書の束を漁り始めた。


 冒険者ギルド内でふわふわと浮かびながら2人の様子を見ていると、確かにロビンソンが言った通り配達関連の依頼書を確認している冒険者が常時いた。群がるほどではないものの、依頼書を見ている冒険者が途切れることがないことに地味に驚く。たまにベテランっぽい冒険者もいたが金欠だったんだろうか。

 それはともかく、ライナスとバリーはそれぞれ何枚かの依頼書を持って受付カウンターに向かう。てっきりロビンソンが中身を確認すると思っていたが、いつの間にかいなくなっていた。そこまでする必要はないということか。それにしても、ロビンソンは今日何をしているんだろう。少し気になる。

 そんなことを考えていると、2人は受付で手にした依頼を引き受ける手続を済ませた。それを見ていると、どうやら個別に仕事をこなすようだ。


 「ライナス、お前何件引き受けるんだ?」

 「俺は3件だよ。軽い荷物ばかりだけど。バリーは?」

 「俺も3件だ。へへ、体力には自信があるから重いやつもあるぜ!」


 大丈夫か? 最初から無理するのはよくないと思うんだが。まぁ、ロビンソンの言いつけ通り、取扱注意の品物や期限指定のある依頼は避けてるようだけど。

 ということで、本日午後からの宅配業務が始まった。




 俺はライナスの守護霊なので、ライナスの仕事ぶりを見ていくことになった。

 先程の話だと軽い荷物ばかりを引き受けたと言ってたな。最初はどこに行くんだろう。

 依頼書の中身はまだ見ていなかったので密かに楽しみにしながら後をついて行く。

 まず、ライナスは西門に通じる大通りを東側に進み、約400アーテム先で北へ折れ曲がっているのでそのまま北門へ向かって更に歩いた。そして、しばらく進むと港へ通じる大通りが現れるのでそちらに移ってまっすぐ進む。ここまではローラと会うために大神殿へ行ったときと同じ道順だ。

 しかしライナスは、更にその奥へと進んでいった。北側に光の教徒の各施設、南側に商人街が並ぶ大通りを東に歩き続けると、やがて王都の職人が工房を開いている職人の居住地域に正面からぶつかる。港に向かいたいなら、大通りはそこから南に折れ曲がっているのでそのまま100アーテム進み、再度東へと折れ曲がっているので港へと歩いていけばいい。

 今回の依頼主は港関係者かなと一瞬思ったが、ライナスは逆に北側の路地へと入っていった。どうも最初の依頼は職人らしい。少し迷いながらもいくつかの路地を曲がってとある工房の前で足を止める。


 「冒険者ギルドからやって来たライナスでぇす。配達する荷物をくださぁい!」

 「おう、来たか!」


 工房の入り口から中へ向かってライナスが声をかけると、中から中年の職人が現れた。

 その職人に依頼書を見せると、ぼろい革製の袋に布で包まれた靴を2足入れる。


 「なんだ、まだガキじゃねぇか。大丈夫か?」

 「大丈夫です。できますよ」

 「まぁいいか。この切れ端に住所が2つ書いてある。そこに靴を届けてくれ。住所の左隣にある番号と靴を包んでる布に書いてある番号をよく見てくれよ」


 なるほど、同じ番号同士で住所と靴を結びつけてるのか。


 「おい、お前、文字は読めるか?」

 「はい」

 「ならいい。配達が終わったら革袋と靴を包んでいる布と住所が書いてある切れ端は返してくれ。戻ってきたら依頼書にサインしてやる」

 「はい」


 職人から靴の入った革製の袋を受け取ると、ライナスは住所を頼りに王都北部に広がる一般人の居住区へ向かう。

 王都北部というと商家の従業員や歓楽街に勤めている人々、それに肉体労働者など、裕福でない平民が生活をしている。王都の住宅事情は一般人ともなるとあまり良いものではなく、大体5階建てのアパートみたいなところに住んでいるのが一般的だ。そんなところなので慣れない部外者がやって来ると大抵は道に迷う。

 まだ王都に来てから3日目のライナスにとって、王都北部は初めて足を運ぶ地域だ。そのため、ご多分に漏れず道に迷う。しかし、その度に通りすがりの人や住人に聞いて何とか目的の場所にたどり着いた。


 「靴の工房から靴を持ってきましたぁ!」

 「ありがとう、助かるわ」


 ライナスがアパートの1室で扉を軽く叩いて声をかけると、中年の婦人が現れる。そして目的の品を差し出すと礼を言いながら引き取ってもらえた。これで1つ目が終了だ。

 当たり前の話だが、地理に暗い間はたどり着くまでが大変だな。裕福でない一般人の生活場所は結構入り組んでいて厄介だ。数をこなして慣れるしかないだろう。

 そうして次の配達先に向かったわけだが、ライナスはやっぱり何度も道に迷いそうになる。残念ながらこれは魔法でもどうにもならないので、俺は応援するしかできなかった。

 1時間半ほどかけて靴の配達を終えると、ライナスは元の工房へ戻って来る。


 「配達終わりましたぁ!」

 「おう、ご苦労!」


 職人は革製の袋を受け取ると依頼書にサインをしてくれた。これで1件目が終了だ。

 この調子であと2件か。日没までの時間を考えるとぎりぎりかな。


 (次はどんな仕事なんだ?)

 (服の配達だよ)


 どうも今回のライナスは職人の工房に的を絞ったらしい。

 そうやって日没までに何とか引き受けた依頼をこなしたライナスだった。




 ここは冒険者ギルドのロビーだ。配達業務を終えたライナスはぐったりとして椅子に座っていた。今日は特に午後から歩き通しだったから疲れている。運ぶ荷物が軽くて助かったよな。

 そうして休んでいると、いつもと同じ様子のバリーが現れた。


 「お、ライナス、どうした?」

 「いや、午後はずっと歩きづめだったから疲れたんだよ。お前は平気そうだな」

 「煉瓦を背中いっぱい担いで運ばないといけなかったのは大変だったけどな。残り2つは軽かったし」


 大した体力だ。生身の俺だと力尽きてそうだな。


 「ライナス、バリー、いたのか。依頼はこなせたか?」


 続いてやって来たのはロビンソンだ。今日は別行動だったが仕事をしていたんだろうか。


 「どうだ? どれだけ稼げた?」

 「朝の探索のやつも入れると、大体2日分くらいですね」

 「俺もそんなもんっす!」


 ロビンソンの問いに対して、2人は嬉しそうに報告をする。初めてまともに金を稼げたんだから、そりゃ嬉しいだろう。


 「これからはそうやって毎日宿代と飯代を自分で稼ぐんだぞ。まぁ、1日で2日分稼げるんだったら、武具を買えるようになる日もそう遠くないな。たまに息抜きをするのはいいが、あんまり無駄遣いはするなよ」

 「「はい!」」


 捜索関連の仕事を短時間で片付けられたのは大きいな。そうなると、今後は魔法を使って時間短縮ができるような依頼と配達関連の仕事を混ぜたらいいのか。それと、引き受ける依頼の組み合わせによってはより多く稼げるかもしれないから、そのパターンを調べておいた方がいいな。修行と日銭稼ぎの兼ね合いか。しばらくは退屈しなくて済みそうだ。


 「よし、それじゃ雄牛の胃袋亭に行くか」

 「「はい!」」


 3人は冒険者ギルドから出て、日の沈んだ大通りを西に向かって歩いて行った。

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