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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
4章 冒険者見習いの生活

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依頼の見極め方

 俺、木村勇治はライナスの守護霊をやっている。生まれた頃から一緒に勉強や修行をしてきた。そしてつい先日、ライティア村を離れて王都ハーティアへやって来たライナスとバリーは冒険者見習いとなる。

 いや、本当にここまで長かったよ。約13年間、不眠不休、飲まず食わずでやって来たわけだからな。俺は霊体だからそれでも平気だが、ストレスの発散方法がないのは地味にきつい。あぁ、1度でいいからばかでかい魔法をぶっ放したいなぁ……

 それはともかく、ローラとの再会を楽しんだライナスとバリーは、その翌日、ロビンソンに引率されて冒険者ギルドにやって来ていた。


 「2人とも、お前達は今日からいよいよ冒険者として働くことになる。つまり、何かしらの依頼を引き受けるわけだ。今日はその仕事の選び方から教える」

 「「はい!」」


 ロビンソンはそう言うと、ロビー寄りの壁際にまで移動した。


 「前にも言ったが、どの冒険者も美味しい仕事が欲しいから、毎朝ギルドが開くと同時に掲示板群に群がる。お前達もいずれそうすることになるが、今はまだ必要はない。なぜなら、しばらくお前達がする仕事は俺が指定するからだ」


 ライナスとバリーは目を輝かせながら頷く。憧れの仕事をするんだからやる気も出るよなぁ。


 「まず、これからしばらくお前達が引き受ける仕事は、王都内の捜索関連に限定する。これは、割りは悪いが安全だからだ。まずは仕事をすることに慣れろ。そしてもう1つ、調査の仕方を学ぶためだ。どんな仕事でも必ず調査という作業は必要になる。だから、どんな手順で調べ物をするのか、自分の方法というものを早い段階で確立しておけ。他には、王都内の地理に詳しくなるためという意味もある。今後しばらく拠点とする街のことはよく知っておくべきだからな」

 「ドミニクさん、王都内の捜索関連だったらどれでもいいんですか?」


 多分そんなことはないと思うけど、ライナスが質問をする。


 「いや、今からそれを説明する。捜索関連の仕事は、人間、動物、物、情報の4つがある。まず人間だが、これは基本的に王都の警備隊の仕事だ。特に事件性の高いやつはな。事件性の低い行方不明者の捜索はこっちにも回ってくるが、余程有力な情報がない限りは恐ろしく手間がかかる上に無駄骨になることが多い。次に動物だが、これは飼っている動物がいなくなったから探して欲しいというものと、実験なんかで使う動物を捕獲して欲しいというものがある。物については、落とし物やすられた物を取り戻してほしいというやつだな。最後に情報だが、これはそのまんま、とある情報を調べてほしいという依頼だ。で、基本的にこの中で動物以外は依頼を引き受けるな」

 「どうしてっすか?」


 それは俺も知りたい。別に物や情報でもいいような気がするんだけどな。


 「人間関連がダメなのは、さっきも言ったが、余程有力な情報がない限りは恐ろしく手間がかかる上に無駄骨になることが多いからだ。それに、首尾良く見つけても本人に抵抗される場合がある。失踪した事情なんてこっちはわからんからな。理由を聞いたら見逃した方がいいっていうこともよくあるんだよ。だがそれじゃ仕事にならんから人間関連は避けるべきなんだ」


 そうか、依頼主の言い分が常に正しいとは限らないもんな。それに、下手をすると余計な争いに巻き込まれかねない。うん、これはダメだな。


 「次に物関連がダメな理由だが、1度紛失した物ってのは基本的に見つからないからだ。どこかで落としたとして、それを拾った奴がいると大抵は自分のもにする。問い詰めたところで、本当は拾いものでも自分が買ったって言い張ることも多いしな。それに、踏みつけられて壊れたり、どこかの溝に落ちて見つけられなかったりすることも珍しくない。酷いときには、苦労して見つけて返しても傷がついてるから弁償しろなんて言われることもあるしな。苦労に見合わないどころか大抵損をする」


 落とし物を元の持ち主に返すっていう習慣がないのか。何か世知辛いなぁ。


 「最後に情報関連だが、依頼主との交渉が面倒すぎることが多いから関わらない方がいい。例えば、とある森にある魔物が生息しているから調査してほしいという依頼があったとする。それを引き受けて調べた結果、実はその森にその魔物がいなかったとしよう。それを依頼主に報告すると、そんなはずはない、もう1回調べ直してこいなんて言われることがある。あと、調査範囲の指定が曖昧でそれにかこつけて広大な範囲を調べさせようとするなんてこともある。まぁ、浮気調査や交友関係の調査なんてのもあるが、こじれた人間関係に関わって刺されたくないんだったら引き受けるべきじゃないな」


 こっちも厄介事が盛りだくさんだな。まぁ、だからこそ依頼が出されるんだろうけど。


 「ということで、消去法で動物関連が残るってわけだ。お前達にこれから引き受けさせるのは金持ちが飼ってる動物の捜索依頼だ。動物の捕獲は王都の外になるから除外する。ああそれと、依頼主が貴族のやつは受けるなよ。これをきっかけにお近づきになって何かするっている明確な理由がない限りは、面倒なことにしかならないからな」


 貴族か。そういえば、王都に入る直前に豪華な馬車とすれ違ったな。あのときはバリーが指差してロビンソンにはたかれていたが、あんなのを見ていると避けたくなる。


 「それじゃ、今から依頼探しをする。動物の捜索関連なんて人気のない仕事だから、慌てなくてもいいぞ。そこにいくつか束があるから、いいと思うやつをいくつか取り出してみろ」

 「「はい!」」


 元気よく返事をしたライナスとバリーは、長机の上に置いてある依頼書の束を手にとって1枚ずつ見てゆく。


 「依頼書の内容を見るときに、もちろん依頼料を確認するのは重要だが、他にも依頼期間もよく見ておけよ。依頼料だけで選ぶと、期限が今日までなんてやつを引いちまうこともあるからな」

 「「はい」」


 2人の声が多少小さいのは、依頼書を見ながら話を聞いているからだ。ロビンソンは更に語りかける。


 「捜索対象の動物だが、大型なら移動できるところが限られてるから多少探すのが楽だが、捕獲するときに暴れられると厄介だ。大けがをすることもある。逆に小型なら怪我をする可能性は低いが、人が通れないような所にいることもあるから探すのが厄介だ。これを頭に入れて依頼を探せ」

 「「はい」」


 初めての依頼探しということもあって2人は気合いを入れて内容を確認する。そして、これだと思った依頼書を何枚か抜き取っていた。

 最初はその様子を2人の後ろから眺めていたロビンソンだったが、そのうち近くの掲示板群の依頼書を吟味し始めた。ロビンソンは別に依頼を引き受けるつもりなんだろうか。


 「ライナス、どうだ?」

 「うん、今終わったところだよ」

 「うし、ドミニクさ……ん? あれ、どこだ?」

 (掲示板群で依頼書を見てるよ)


 ロビンソンが後ろで見守っていてくれると思い込んでいたバリーがきょろきょろするのを見かねて、俺が助け船を出した。すると、ロビンソンの方から2人に近づいてくる。


 「お、めぼしい依頼はあったか?」

 「はい、いくつか見つけました」

 「へへ、いいのがあったっすよ!」


 2人とも嬉しそうに依頼書の用紙をロビンソンに見せる。


 「よし、それじゃロビーへ行って中身を確認しようか」

 「「はい!」」


 満足そうに頷いたロビンソンは先頭切ってロビーにあるテーブル1つを占拠した。続いてライナスとバリーも椅子に座る。


 「それじゃ、確認しようか。2人とも、何枚持ってきた?」

 「4枚です」

 「8枚っす!」


 そう答えながら2人はテーブルに依頼書を並べる。ロビンソンは少し視線を落とすと、すぐに2人に戻した。


 「次に、その中で飼ってる動物が失踪した日が一昨日以後の依頼は何枚ある?」

 「え、一昨日以後ですか?……1枚です」

 「俺も1枚っす」


 2人は戸惑いながらも返答する。俺もどうして内容も見ずに日付だけで決めているのかわからない。


 「なら、そのどちらかを選ぼう」


 ライナスとバリーは顔を見合わせる。その理由がさっぱりわからないから困惑した表情だ。


 「今2枚にまで絞り込む条件に捜索対象の動物の失踪日を使ったのは、仕事の成功率を上げるためだ。自分の縄張りをうろうろしてるだけならいいんだが、そうじゃない場合、他の動物に殺されたり人にさらわれたりしてる可能性がある。そしてそれは、失踪した日が古いほどその可能性が高くなるんだ。だから、失踪日が新しいものをできるだけ選ぶ必要がある」


 なるほどな。そんな理由があったのか。依頼を引き受けるなのが目的じゃなくて、引き受けた依頼を成功させて報酬を得るのが目的なんだから、難易度の低い依頼書を選ばないといけないわな。


 「それで、残った依頼はどんなやつなんだ?」

 「えっと、俺のは散歩中に目を離したわずかな間にいなくなった大型犬の捜索依頼ですね」

 「俺のは、家で放し飼いにしてる子猫がいなくなったっていう依頼っす」

 「どっちが見つけやすいと思う?」


 問われた2人は首を捻る。うーん、どちらも見つけやすいような見つけにくいような気がする。それじゃダメなんだが、俺もさっぱりわからんな。


 「ライナス、わかるか?」

 「う~ん、大型犬の方が大きいんだからすぐ見つかるように思えるんだけど……」

 「そうだよなぁ」


 図体が大きいんだから確かにそうなんだけど、この場合はどうなんだろう。しばらく俺も含めて考えていたが、結局これといった決め手は出てこなかった。


 「……まぁ、最初だしこんなもんか。今回のはな、子猫探しの方を選んだ方がいいな」

 「どうしてっすか? 大型犬は見つけにくいんすか?」

 「見つけにくいっていうより、多分見つからんな」


 ロビンソンが断定したので俺達3人は驚いた。どうして?


 「散歩中に目を離したわずかな間にいなくなったってあるが、大型犬がそんなわずかな間に忽然と消えると思うか? 多少離れていても飼い主が呼べば戻ってくるし、そもそも犬が自分から飼い主の元を離れるなんてないだろう。そうなると、この大型犬は攫われた可能性が高い」


 この推測が正しいのかどうかはわからないが、そういう推測がしやすい依頼は避けた方がいいらしい。それなら、子猫の方はどうなんだろうか。


 「一方、子猫の方は、家で放し飼いにしていていなくなったんだな? 普通、動物を攫う奴は他人の家に忍び込んでまで攫うことはしないから、子猫が自主的にどこかへ行ったんだろう。猫は元々自分勝手に動き回る習性があるし、人にはわからないが自分の縄張りも持ってる。だから、大方自分の縄張りのどこかに出かけている最中に何か発生したんだろう」


 そう言われると、そんな気がしてくる。他の2人も感心したようにロビンソンを見ていた。


 「コツとしては、人ができるだけ介在していない可能性の依頼を選ぶ方がいい。これさえ押さえておけば、大きな間違いはないな」

 「それじゃ、こっちの子猫探しをするんですね」

 「そうだな」


 ということで、初めて受ける依頼が決まった。


 今回の依頼主はリサ・スペンサーちゃん10歳、王国でも有名な穀物商の娘だ。依頼内容は飼い猫である子猫のタゥマ生後8ヵ月──俺は一瞬タマかと思った──がいなくなったので探してほしいというものである。一昨日から食事を食べに来ないので、リサちゃんが心配をして昨日の夕方に依頼を出したらしい。子猫はどこにでもいる雑種で特徴的な鈴付き首輪をしている。首輪は依頼書に絵が描いてあったのでどんなものかはすぐにわかった。

 と、依頼書に書いてあった内容はこんなものである。


 「金持ちが雑種の猫なんぞを飼ってるっていうのが逆に驚きだが、まぁそれはいいだろう。こういう場合はまず、依頼者に会って普段の猫の行動パターンを聞き出すところからだな。それである程度範囲を絞った後に、特徴的な鈴付き首輪を手がかりに探すのがセオリーだ。生後8ヵ月の子猫の行動範囲はそんなに広くはないはずだから、うまくいけばすぐに見つかる。」

 「はい」

 「猫なんて何日かするとひょっこり戻ってくるように思うんすけどね」

 「雑種だからな。そうなのかもしれんが、ま、仕事なんだからそういうな」

 「はい!」


 納得したバリーは元気よく返事をする。


 「よし、それならライナスは引き受けない依頼書を元に戻してこい。バリーは受付でその依頼を引き受ける旨を伝えろ」

 「「はい!」」


 ロビンソンの命令に元気よく返事をした2人は、嬉しそうにそれぞれの役割を果たした。

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