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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
3章 王都への旅路

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─幕間─ 総仕上げの相談

 冒険者ギルドの前で俺はライナスとバリーの2人と別れた。大神殿に向かって大通りを歩いていく姿を確認した俺は、その姿が見えなくなると同時に東側へと歩き出す。別に2人の後をつけようとしているわけじゃない。たまたま進む方向が同じだっただけだ。それなら一緒に行けばいいじゃないかと思うだろうが、野暮用の都合上できるだけ他の奴には知られたくねぇんだよ。

 冒険者ギルドから東へ200アーテム進むと南門へと通じる大通りが伸びていた。この辺りになると東西に延びる大通りの北側は倉庫街へと変化している。商人が売買するための商品を保管する場所なので荷馬車の往来が特に多い。もちろん倉庫は大通りに面しているところだけにあるわけじゃないから、細かい路地がいくつもある。俺はその中の1つの路地に足を踏み入れた。

 最初は荷馬車の往来がよくあったが奥へ行くにしたがってその数は減る。その辺りで更に細い路地に入ると人通りはほとんどない。そんな一角にある目立たない小さな倉庫に俺はこっそりと入った。

 その小さな倉庫の中には傷んだ木箱がいくつか積み上げられている。そんな中にみすぼらしい肉体労働者の格好をした奴が2人いた。しかし、よく見るとその眼光は明らかに労働者の目つきじゃない。鍛え上げられた四肢が多少見えても言い訳ができる肉体労働者を選んだのは悪くないんだが、鋭すぎる目つきをどうにかしないと素人しかだませないと思うんだがねぇ。


 「よう、寒いのにご苦労なことだな。はい、これ」

 「……ああ。既にお待ちだ。中に入れ」

 「そうかい」


 皮の鎧に長剣という平均的な冒険者の出で立ちをした俺を見て警戒した2人だったが、俺が懐から取り出したサイン入りカードを見せると奥に入るよう言ってくる。奥の壁には扉が1つあったので俺は開けて中に入った。


 「ひぇひぇひぇ、よう来たの」

 「断れねぇからな」


 中には今回の仕事の雇主であるアレブのばーさんがいた。直接会うのはこの仕事を引き受けた時以来だから、もう8年以上前になるのか。あのときと何一つ変わっていねぇな、年寄だけに。


 「お主は老けたの」

 「そりゃ8年も経てば誰だって老けるぜ」


 老けるってことはまだまだ若いって証拠だ。老ける余地があるってことだからな。何の慰めにもなりゃしねぇが。


 「村での働きは今までの報告で確認しておる。わしは満足じゃ。礼を言うぞ」

 「お、おう」


 驚いた。礼を言われるなんて思ってなかったから不意打ちを食らった気分だ。まぁ、8年間も辺鄙な村で頑張ったんだから礼くらいあってもいいとは思うがね。


 「それで、最後の報告から今日までで何か伝えるべきことはあるかの?」

 「そうだなぁ……」


 顎に手をやりながら今日までのことを思い出そうとする。あの2人は王都につくまでの旅路で物珍しさから浮かれっぱなしだったが、それはどうでもいいしな。そうなると王都に入ってからになるが……ああ、1つあるな。


 「ばーさん、以前ライティア村でライナスの幼馴染みのローラが大神殿に行ったってことを書いたんだが、覚えてるか?」

 「ああ、覚えておるよ。王都ではちょっとした有名人じゃからの」

 「昨日、ライナス達と一緒に大神殿で会ったんだ」


 そういうと、ばーさんは「ほう」とつぶやくと視線で続きを促してくる。やっぱり食いつくよな。


 「ライナス達に冒険者見習いとして登録させた後になんだけどな、6年ぶりに会って話をしたんだ。そしたらよ、勉強や修行を短期間で終わらせた挙句に奉仕活動で頑張りすぎたせいで聖女扱いされて困ってたぜ。そのせいでこっちも面会するだけで一苦労するとは思わなかったけどよ」

 「大方、光の教徒共が信者集めの道具にでもしようとしとるんじゃろ」

 「当たりだ。冴えてるな、ばーさん。っと、それはともかくだ、そのローラなんだが小さいころに約束したライナス達と冒険をするって約束を未だに果たそうとしてるんだが、大神殿側は条件付きでそれを認めたらしいんだ」


 ばーさんが無言で眉をひそめる。利用価値が高いのに、条件付きとはいえ大神殿がローラの要求を認めたんだからな。誰だって怪しむだろう。


 「その条件とはなんじゃ?」

 「ライナスとバリーと一緒にパーティを組んで、大神殿の用意したパーティと対戦して勝つことだ」

 「ふははは!!」


 うお、びびった! いきなり笑い出しやがって。どうしたってんだ?


 「なんだよいきなり」

 「いや、すまんの。あまりの馬鹿さ加減についわろうてしもうたわ。しかし、相変わらずあやつらはせこいのう。聖女と称するだけの力があるなら、あちこち布教活動させれば信者も増えるじゃろうに」

 「ローラもそう言って3年がかりで説得したそうだ。最初は神官戦士を護衛に付けようとしたそうなんだが、ローラがそれも蹴ったからこんな条件になったんだとさ」

 「10代前半の小娘の方が聡いの。はん、教団も大したことはないわい」


 まぁ、俺も大神殿の対応はどうかと思うけどな。どうにも対応が中途半端な気がする。外に出すなら出す、出さないなら出さないってきっぱりした方がいいと思うんだが。


 「それで、その対戦とやらはいつあるんじゃ?」

 「2年後、ローラが成人したときだそうだ」

 「とりあえず目の前のエサで修業をしっかりさせて、その後に叩き伏せて諦めさせるというわけか。そのローラという小娘、余程口が達者なのか頑固なのか、教団も持て余しているように思えるの」


 確かに、村にいた頃よりもしっかりしているように見えたよなぁ。


 「俺としては、心情的にはライナスと旅をさせてやりたいっていう気持ちがある。けどそれだけじゃなく、純粋に戦力になるからローラはライナス側に引っ張り込むべきだ。戦士のバリーに僧侶のローラ、それに魔法使い代わりにユージがいるから、パーティ戦力としては理想的だからな」

 「わかっておる。幸いローラ自身も望んでおるなら、どうにかしてやるのが大人の優しさというものじゃろう」


 ひぇひぇひぇ、と不気味に笑うばーさんを見ながら、その黒すぎる優しさに俺は眉をひそめる。裏がありすぎっていうか、裏しかねぇだろ、その優しさって。


 「けどよ、何とかするってどうするんだよ。対戦は2年後で相手はわかんねぇんだぞ」

 「まずはこちらの戦力を整えることじゃな。現時点でライナスとバリーはどんな状態じゃ?」

 「戦士としての技量には問題ねぇ。まだ1対1じゃ俺には勝てねぇが、それはもう経験の差だけだな。泥臭い駆け引きはこれから覚えさせる。2年後にゃ、冒険者としてベテランの域まで引っ張り上げてやるよ」

 「ふむ、ユージを含めた連携はどうじゃ?」

 「教えられることは教えた。こっちもあとは実際に戦わせるだけだ。3人とも能力面では文句なし、俺の予想以上だから驚いてるよ」


 特にあのユージっていうライナスの守護霊は底が見えねぇ。今までの訓練でもあくまで2人の支援に徹してたからな。得体の知れないところはあるが、接している限りだと結構いい奴っぽいんだよな。


 「そうなると、この2年間でどれだけ伸ばせるかということかの。何をさせるつもりじゃ?」

 「最初は王都内で仕事をさせる。その後に外で簡単な仕事から始めて、徐々に仕事の難易度を上げるつもりだ」


 抽象的な回答になったが、一人前の冒険者として育てることを考えるとこんなもんだ。


 「戦闘経験を積ませる機会がいささか少ないように思えるが?」

 「あんまり大神殿の対戦に気を取られるのはどうかと思うぜ。もし大神殿側のパーティとの対戦で負けると、ライナスとバリーの2人で旅をすることになる。そのことを考えると基本方針はそのままの方がいいだろう」

 「まぁ、最悪戦力を無理やり強化すれば良いじゃろう」

 「無理やりってなんだよ、こえぇな」


 ばーさんが言うと洒落に聞こえねぇんだよな。


 「まぁ、必要なことがあれば言うがよい。わしもできる限りのことをするからの」

 「せいぜい当てにさせてもらいますよ。それで、今度はこっちに質問があるんだが、いいか?」

 「なんじゃ?」

 「今、魔族との戦いはどうなってんだ? 昨日から王都に入って何人からか話を聞いてるが、どうにもいい話が聞けないんだよ」


 久しぶりに王都へ戻ってきたが、魔族との戦争のせいで以前よりも国情が悪化していることを肌で感じた。一見すると以前と同じように繁栄しているように見えるんだが、王都民と話をすると魔族との戦争に不安を感じていることがすぐるにわかる。その象徴として王都北門の外にいる難民のことを全員が挙げる。

 そういったことを話すと、ばーさんはいささか渋い表情をした。


 「確かにお主の言う通りじゃ。魔族との戦争が始まってからというもの、王国の力は落ちる一方じゃよ。魔族との戦いは一進一退ではあるものの、その内容は芳しくない。今すぐどうこうなることはないが、このまま続けば厄介なことになりそうじゃの」

 「おいおい、マジかよ」


 俺には国全体のことなんてわからんが、何となく不安になるようなことをばーさんが言って眉をしかめた。


 「お主が肌で感じた問題というのは他にないかの?」

 「他にか……ああ、入場検査のときに銀貨2枚取られたのは痛かったな」

 「ふむ……」


 ばーさんの反応を見たが今一だ。こりゃわかってねぇな。


 「警備兵から王都内の治安悪化を防ぐために、難民なんかの貧乏人を入れたくないとは聞いた。確かに治安という面から見たらその意見に問題はないんだが、経済面から見ると地味に痛いぜ?」

 「例えば?」

 「俺が利用してる安宿の主人が言ってたんだが、閑古鳥が鳴いてるって嘆いてたぜ。ああいう安宿ってのは銀貨2枚も払えねぇ奴が泊るところだからよ、そういった貧乏な旅人がいなくなると商売上がったりなんだ。他にも影響はあるぜ。露天商に歓楽街の店なんかもそうだ。なけなしの金を払って飲みに来る奴だっていたのに、今じゃみんな城壁の外だ」


 ばーさんの目つきが変わった。少し理解したようだな。まぁ、頭のいいばーさんなんだからこれだけ言えば気づくか。


 「あと、何よりヤバいのが、王国の東西がぶった切られるってことだな」

 「なに?」

 「貴族様は金を持ってる奴しか見えねぇんだろうが、歩きの旅人だって無視はできねぇ。何よりも商売のネタになりそうな話をあっちこっちに運んでくれるんだぜ? それがなくなったら商人やそれにたかる貴族様はどーすんだよ」


 各地を旅する旅人は行った先々でいろんなものを見聞きすると同時に、他の地域の話をもたらしてくれる。当然その中には儲け話だってあるわけだが、王都でその話をもたらしてくれる旅人の流れが分断されるとどうなっちまうのか? 下々の人間だって世の中を支えてるんだぜ、ばーさんよ。


 「意外と領地を経営する才もありそうじゃの、お主」

 「そりゃどうも」

 「今すぐどうこうできるわけではないが、意見の1つとして受けておこう」


 長々と語っちまったが、その甲斐はあったってことか。けど、これ以上は俺の仕事じゃねぇな。


 「先ほども言ったが、今の王国は魔族との戦いで精一杯じゃ。北門の外におる難民も早急に対処せねばならんことはわかっとるが、なかなか進まん。そのせいで王都内の治安も年々悪化するしの。まったく、困ったことじゃ」

 「俺が今一番気にかけてることは、ライナスとバリーに仕事をさせるのに支障がねぇかだな」


 少なくとも、一人前になるまでは魔族関係は他人事でいたい。


 「王都内に関しては問題なかろう。じゃが、王都の外での活動は場所によるの」

 「王都の北側はどうにもならないくらいヤバいって噂を聞いたんだが、実際のところはどうなんだ?」

 「難民の集落には近づくな。お主がやられるとは思わんが、暴動のきっかけになりかねん。ライナス達の修業は王都の南でするのが無難じゃの」


 うわ、噂もたまには当てになるってことか。まぁ、冒険に慣れさせるってだけならそれで充分なんだが。


 「昔は手頃な修業場所だったんだがなぁ」


 俺がガキの頃だからまだ魔族が攻めてくる前なんだが、そんときの王都は難易度が低めの場所が周辺にあって、難しい依頼が徐々に遠くの方にあるって感じだったな。討伐依頼を受けてよく北門から出発したっけ。


 「その意見には同意するが、昔を懐かしんでもどうにもならんぞ」

 「わかってるよ。どの辺りがあいつらに手頃なのか考えてただけさ」


 何にしても、今後2年間の仕事も厄介そうだなぁ。


 「残り2年を切り抜けられたら晴れて騎士殿じゃ。張り切るがよい」

 「ばーさんが言うほどに空手形に聞けてくるのはなんでだろうな?」

 「ひぇひぇひぇ、ならば黙って仕事に励むことじゃな」

 「はいはい、わかりましたよ。俺の方からはもうないが、ばーさんはまだ何かあるか?」

 「いや、今日のところはこれでよかろう」

 「そうかい。それじゃこれで失礼しますよっと」


 俺はばーさんに背を向けると扉の取っ手に手をかける。せっかくの王都なんだ、しばらく散歩でもしてみるか。


 「何かあるときは、また水晶を使うがよいぞ」

 「ああ、わかってる」


 振り向かずに手を挙げてばーさんの話に反応すると、そのまま扉を開けて外に出た。

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