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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
3章 王都への旅路

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ローラとの再会と未来の決闘

 大神殿は礼拝しにやって来る信者のためにある程度は一般にも公開されている。なので、大神殿なら誰でも入ることはできる。しかし、それ以外の施設に関しては、関係者や一部の許可された信者でないと立ち入ることはできない。

 ローラに会うべく大神殿の中に入った3人だが、当然信者でさえないのだから他の施設に行けるわけがない。そんなことはロビンソンも知っているはず。そうなると、取れる手段は限られてくるのだが……


 「あー、そこのお方、ちょっとよろしいでしょうか」

 「はい、なんでしょうか?」


 いつもと違ってややぎこちない態度で、ロビンソンは通りがかった光の教徒関係者を呼び止める。


 「ライティア村のローラちゃんと面会したいんですが、会わせてもらえますか?」

 「ライティア村のローラ殿ですか。失礼ですがどのようなご関係で?」


 呼び止められた温和そうな男は怪訝そうな表情で問い返してきた。どう見てもこの場にふさわしくない冒険者風の男にそんなことを問われたら、怪しく思うよな。


 「この2人、ライナスとバリーって言うんですけど、ローラちゃんはこいつらの幼馴染みなんですよ。それで、王都までやって来たんで会いに来たってわけです」

 「俺がライナスです」

 「俺、バリーっす!」


 村から着の身着のままでやって来たもんだから2人の姿は薄汚れている。それはロビンソンも同じだ。そんな3人が面会を求めているわけだが、相手の反応はどうなんだろうか。


 「お2人がローラ殿の同郷であることを証明する物はありますか?」

 「は? 証明する物、ですか?」


 今度はロビンソンが怪訝な顔をする。ただの面会にどうしてそんなものが必要なのかがわからないからだ。

 それに関しては俺も不思議に思うのだが、もう1つ気になっていることがある。先程からこの関係者はローラのことをローラ殿と敬称付けで呼んでいる。成人した男が13歳の女の子を呼ぶときに使う言葉遣いじゃない。それとも、光の教徒は信者同士で敬称を付ける習慣でもあるんだろうか。


 「ローラ殿の知り合いを偽る者が現れて、不用意に近づこうとしたことがあったんですよ。他にもこの手合いが後を絶ちませんので、ローラ殿の知り合いを名乗る方にはそれを証明していただくことになっているんです」


 どうしてそんな大事になってんだ? 一体今のローラってどんな立場なんだ。エリートコースを進んでいることは知っているが、なんか幹部並に重要人物扱いされてるじゃないか。

 3人は呆然としている。そりゃそうだろう。気軽に会いに来ただけなのにそんな雰囲気じゃないからだ。何がどうなっているのかさっぱりわからない。


 (そうだ、ライナス、ローラとやり取りした手紙って持ってきてないのか?)


 俺は思いついたことをライナスに伝えた。かさばるだけで冒険の役には立たないので家に置いてきたままの可能性が高いものの、とりあえず今できそうな案を出してゆく。


 「あ! これ、ローラと手紙のやり取りをしていたんですけど、証拠になりませんか?」


 俺の言葉で我に返ったライナスは、慌てて背負い袋から1束の手紙を取り出した。それは、今までライナスとローラがやり取りした手紙の全てだ。全部持ってきてたのか、お前。

 今度は相手の男の方が驚く番だった。本当に証拠を出してくるなんて思わなかったんだろう。しかし、驚きながらも本物かどうかを確かめようとする。


 「それを見せていただけますか?」

 「どうぞ」


 ライナスから手紙の束を受け取ったその温和そうな男は、いくつかの封筒の文字を真剣に見る。

 俺としてはこの男では判断しようがないから、本人に直接見せるしかないと思うんだが。


 「あの、私では判断いたしかねますので、しばらくお預かりしてもよろしいでしょうか?」

 「はい、どうぞ」


 やっぱりこうなるか。あとはあの手紙がきちんとローラに見せてもらえば会えるはず。

 そう思いながら、手紙の束を手にした温和そうな男に待合室まで案内されていった。




 待合室まで案内された俺達は、そのまま結果が出るまで待たされることになった。すんなり会わせてもらえることになってもどうせ待つことにはなったので、この待遇自体に不満はない。それよりも問題なのは、ローラが思いの外重要人物扱いになってることだ。これには全員が驚いた。


 「なぁ、ライナス。なんかローラってすごくなってねぇか?」

 「うん。手紙にはそんなこと書いてなかったけど……」


 バリーが不安そうにライナスへと声をかける。予想外の事態に戸惑っているようだ。


 「単に学業が優秀ってだけでこんな扱いになるもんなんかねぇ」


 一方、ロビンソンは眉をひそめながら考え事をしていた。

 さっきの関係者の話によると、知り合いと偽ってローラに近づこうとする輩がいるらしいが、そもそもどうしてそんな連中が現れるんだ? ロビンソンの言う通り、単に賢いからってだけじゃないよな。ローラは一体大神殿に来てから何をした、いや、何をさせられたんだろうか?

 それと、さっきの温和そうな男とのやり取りで感じたことだが、恐らくローラはまだ大神殿にいると思う。もしもうノースフォートへ行ったんだったら、ここにはいませんって言えばいいだけだろうしな。

 ふと窓の外を見ると、空がだいぶ朱に染まっていた。こりゃ宿に帰る頃には真っ暗だな。

 そうやって悶々とした時間を過ごしていると、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。しばらく待っていると待合室の扉が開く。


 「ライナス、バリー、久しぶりね!」


 開いた扉の向こうにいた少女はそう言うなり入ってきた。みんなが一斉にその少女に視線を向ける。

 おお、こりゃまた立派な女の子になったもんだな。確かライティア村で別れたときは肩までしかなかったまっすぐな金髪は背中まで伸び、弱々しかった瞳は強く理知的に輝いている。王都の大神殿ともなると間違いなく食い物もいいだろうから体も非常に健康的だ。肌は白いが病的なところはない。凹凸に関しては……これからに期待だ。そして何より、王都という都会に6年もいたせいか垢抜けていた。うん、どこに出しても恥ずかしくない美少女と言える。

 6年前のどことなく不安そうにライナスを追いかけていた面影はどこにもない。見た目だけでなく、中身も少し変わったか?


 「あ、ああ、久しぶり」

 「お、おう」

 「へぇ」


 ロビンソンはなぜかにやにやしながら3人を眺めているが、ライナスとバリーは快活に再会の挨拶をしてきたローラに少し戸惑っていた。恐らく、7年前のおとなしいローラをそのまま大きくした姿を想像していたんだろうな。


 「あら、どうしたの?」

 「いや、その、随分と大きくなったなって……なぁ、バリー」

 「おう、倍くらいになってんじゃねーの?」


 バリー、それは言い過ぎだ。動揺しているのが丸わかりだな。

 それはともかく、俺は開いたままの扉の奥に視線を向けた。そこには僧衣をまとっているものの、明らかに筋肉質な顔つきの男が2人いる。最初に会った関係者の話しぶりからすると護衛なんだろう。

 そう思いながら男達を観察しようとすると、ローラが扉を閉めたので見えなくなる。中には入ってこないのか。


 「えへへ、会いたかったわ。それで、そちらの方は……えっと、ドミニク・ロビンソンさんですよね?」

 「お? 覚えてくれてたのか。忘れられてるかと思ったぜ」


 一瞬驚いた顔をしたロビンソンだったが、すぐに嬉しそうな表情となる。まぁ、ついでなのには違いないが。


 「それにしても、本当に間に合ってくれてよかったわ。私、手紙に書いた通りノースフォートに行くんだけれど、出発は2日後だったのよ」

 「ホントにぎりぎりだったんだな……」


 ローラの話を聞いてロビンソンが呟く。やっぱりすぐに行動して正解だったわけだ。


 「それにしても、とうとう冒険者になったのね、2人とも」

 「見習いだけどね、なぁ?」

 「おう! けどこれから大活躍するぜ!」

 「見習い?」

 「冒険者見習い制度っていうのがあるんだよ、嬢ちゃん」


 冒険者見習いについてロビンソンから説明を受けたローラは感心したように頷いた。ついでに成人するまで修行することも話をすると、ローラは羨ましそうに2人を見る。


 「そっか、ちゃんと夢を叶えようとしてるんだね。すごいな」

 「ありがとう。でも、ローラだってすごいじゃないか。6年かかる勉強を3年でやったり、護衛がつくほど偉くなったりさ」

 「そうだよな。なんか会うときに証明しろって言われたときは驚いたぜ!」


 ライナスとバリーがそう言うと、ローラは苦笑いをして困る。


 「あー、あれね。奉仕活動で頑張りすぎたのが原因なのよね……」

 「どういうこと?」

 「あたしが合計12年かかる勉強と修行を6年で終わらせたってのは手紙に書いたわよね。あれで光と水と無属性の魔法をほとんど使えるようになったんだけど、その魔法を使って大神殿の奉仕活動で難民も一緒に怪我の治療なんかをしてたら、いつの間にか聖女扱いになっちゃってね。それから周りが騒がしくなったのよ」


 ただでさえ社会不安が増大してきている時期だ。今まで縋るものがなかった人からすれば、自分達にも平等に優しくしてくれる人がいたら嬉しくもなるだろう。しかしそれがいきなり聖女扱いになるのか。みんなそこまで追い詰められてるのか?


 「しかし、それで聖女扱いってのは大げさすぎねぇか?」

 「それが、大神殿がそういうふうに宣伝していてね……」


 ロビンソンの問いに、ローラが顔を歪ませて答える。ああ、信者獲得の道具に使われてるってことか。うわぁ、人の善意も勢力拡大に利用するのか。いやだなぁ。


 「まぁそれでも、あと2年の辛抱よ! その修行が終われば、晴れてあたしも冒険者になれるんだから!」

 「「え?」」

 「は?」


 俺達全員はローラのその言葉にあっけにとられた。今の聖女の話1つ取っても、大神殿側はローラを手放す気でいるとは思えない。何しろせっかく手に入れた大切な広告塔だからだ。過去には冒険者になると周囲に漏らしたら一斉に諭されたこともある。なのにどうしてそんなにあっさりと冒険者になれるというのだろうか。


 「大神殿でおしとやかに引き籠もっているよりも、外に出て布教活動をした方が絶対にいいって説得したのよ。3年掛けてね」


 すげぇ! 遅くても10歳の頃から大人相手にそんな交渉してたのか! さすがに神童って言われるだけのことはあるなぁ。


 「けど、1つ条件をつけられちゃったのよね」

 「どんな?」

 「ライナスとバリーと一緒にパーティを組んで、教団の用意したパーティと対戦して勝つことなの」


 なんかどこかで見たことのある展開だなぁ。それ教団最強の連中が出てこないか?


 「なんでそんなことになったの?」

 「最初、冒険者になりたいって言ったとき反対されたんだけど、最後には旅に出ることは許してくれたの。でも、大神殿から護衛を何人か付けるって言われたのよね。でも、そんなことしたらライナス達と冒険できないじゃない。そう言ったら、ある程度の強さがないと認められないって言われたのよ」


 大人や組織は甘くはないからな。絶対に何か細工をしてくるに違いない。とりあえずは大人になるまでは夢を見させておいて、成人してから現実を突きつける腹づもりとみた。今のローラを見てると、口だけでは言って聞かなさそうだしな。子供にすることにしては随分とえげつないように思えるが、実際はどんな思惑でどうするつもりなんだろう。

 それを聞いたライナスとバリーは唖然としている。そりゃそうだな。気がつけば巻き込まれてるんだから。ご愁傷様としか言いようがない。俺も他人事じゃないんだが。


 「だから、お願い、2年後一緒に戦って!」


 そう言って美少女に上目遣いでお願いされて断れる男はそういないと思う。それに、ライナスとバリーは一緒に冒険すると誓った仲だ。二重の意味で断れない。


 「うん、一緒に戦うよ!」

 「そうだ、やっつけちまおうぜ!」


 バリーの言葉がいささか不穏だが、それを除けば絵に描いたような友情物語が目の前で展開されている。

 しかし、なかなか厄介なイベントを2年後に抱えてしまったな。この2年でやらないといけないことがまた増えたんじゃないか? ロビンソンも何とも言えないような顔をしている。

 困った問題ばかりが増えるなぁ。

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