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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
3章 王都への旅路

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最初に着いた町

 俺、木村勇治はライナスの守護霊として召喚されてから13年間、ひたすら修行をしていた。エディスン先生をはじめとして、ジルとオフィーリア先生の3人が鍛えてくれたのだ。魔王討伐を運命づけられたライナスを守るために。

 ただ、今までの感じからすると、どう考えてもアレブのばーさんが裏で何かを画策しているとしか思えないんだよなぁ。もし俺に逃げるっていう選択肢があったら全力で逃げてたね。

 一方、親友バリーと一緒に冒険者に憧れたライナスは、ライティア村にやって来た魔法戦士ロビンソンの下に弟子入りする。途中、王都の大神殿へ向かった幼馴染みのローラとの別れもあったが、バリーと切磋琢磨して己を鍛えていった。

 というように、本命であるライナスもしっかりと育ちつつある。周囲に色々黒い話があって困るんだが、ライナス自身はまっすぐと育ってくれたので良かった。バリー? あいつがひねくれて育つところが想像できん。




 ライティア村で徹底的に鍛えられたライナスとバリーは、ロビンソンに引率されて王都へ向かって出発した。ローラのときとは違って3人とも徒歩なのでその歩みは遅い。しかし、少なくともロビンソン以外は退屈していなかった。


 「うわぁ、これが村の外かぁ」

 「すげぇ、何にもねぇなぁ!」


 地平線の彼方に村が消えてから、ようやく後ろを振り向かなくなったライナスとバリーだったが、今度はしきりに周囲の風景を珍しそうに眺めていた。基本的に殺風景な原野が続いているが、所々に森というには規模の小さい木々の集まりが点在している。この地域ではあまり雪は降らないので、白いアクセントは多くない。

 旅慣れた者にとっては何の変哲もない風景だが、村から初めて出たライナスとバリーにとっては全てが真新しいことばかりだ。歩調が緩んでないのでロビンソンも文句は言わないが、その顔は苦笑していた。


 「村を出ただけでこれなら、町に着いたら腰を抜かすぞ」

 「そんなにすごいんですか?」

 「楽しみだなぁ!」


 からかったつもりが真剣に返されてロビンソンは首を横に振った。まぁ、新鮮な反応というのは見ていてほほえましい。

 などと偉そうに言ってるが、実は俺もライナス達とそう大して変わりない反応だったりする。何しろ村を初めて出たのは俺も同じだからだ。かつてやったゲームのキャラクターが駆け抜けたフィールドや、小説で表現されていた風景が目の前にある。そう思うだけで興奮が沸き上がってくるものだ。おまけに霊体なので寒くも暑くもない。

 そうやって物見遊山な調子で道を進んでいると、1つの疑問が湧いてきた。


 (そうだ、ロビンソン、盗賊なんかが出てきたら危ないんじゃないか?)

 (この辺じゃまず出てこないぜ。いたとしてもこんな場末にいる盗賊なんぞ大したことねぇ)


 自信を持って返事をするロビンソンを見て、俺はそんなものなのかと思った。実際にファンタジー世界を旅した経験なんて知らないので、経験者に断言されると何も言えなくなる。

 ただ、ライナスとバリーの装備が木剣と防寒着だけってのが不安なんだよな。いくら強いからってまだ素人だ。こう、せめてもうちょっとましな装備をですね……


 (それにだ、大集団で移動したくても村を出るのは俺達だけだったし、あの村じゃ2人の武具なんて揃えられないだろ? これ以上はどうにもならんぜ)


 ない袖は振れんってことか。言われてみると確かにその通りだな。まぁ、いざとなったら俺も助ければいいか。戦ったことなんてないけどな。

 そんな不安を抱えながらも、どうせどうにもならないという開き直りから旅を楽しむことにした。うん、なるようにしかならん。そう思うしかない。




 そうして1つの村を通過して、その日の夕方に町へ着いた。

 町の名はレティスといい、この周辺の村々を統括している。ライティア村から北へ30オリクのところにある小さな町だ。毎年納める租税は村からこのレティスに運ばれている。


 「おお、これが町かぁ」

 「すげぇ、石の壁に堀もあるぜ!」


 名前だけは知っている町に初めて来たライナスとバリーは、村とは違う圧倒的な偉容に目を剥いていた。


 「このレティスはな、1辺500アーテム四方の中に約2000人くらいの人々が住んでいる。王国直轄だから貴族はいないが、代わりに代官が治めてるんだ」


 ロビンソンが丁寧に説明をしてくれる。何も知らないライナスとバリーに対してなんだが、俺も同様なので一緒に耳を傾けていた。

 町の入り口で完全にお上りさん丸出しの態度だった2人だが、ロビンソンに促されて前に進む。


 「どうしてみんな並んでるんです?」

 「早く入ればいいのにな」

 「怪しい奴がいないか確認してるんだよ。変な奴を入れるわけにはいかないだろ」


 村と違って随分と待ち時間がかかることに2人は驚いている。まぁ、ライティア村に来る人なんて普通はいないからな、検査待ちなんてまずない。

 10分ほどしてロビンソン達の番が回ってくる。随分とのんびりとした兵士が担当しているようだ。


 「どこから来たんだ?」

 「ライティア村からだ」

 「ああ、南の端か。納税なら去年の秋に済ませたんじゃないのか?」

 「納税って……男1人にガキ2人を見て納税はないだろう」

 「そういえば変な組み合わせだなぁ」

 「これから王都へ行くんだよ。俺は村の護衛が終わって帰るところで、ガキ2人は王都で一旗揚げようとしてるのさ」

 「ははっ、一旗揚げるとはそりゃまたいい夢だな!」


 こんな調子で尋問というよりも世間話と言った方がいいような会話だ。俺達の前で順番待ちをしていた何組かは周辺の村人だったらしく、顔パスで素通りだったのと対照的な対応といえる。毎日同じ仕事をしていると珍しい話に飢えるってことかなぁ。


 「お前もガキの面倒見ながら王都に帰るなんざ、大変だな。よし、通っていいぞ」

 「ありがとよ。行くぞ、お前ら」

 「「はい!」」


 ロビンソンが声をかけると、ライナスとバリーは元気よく返事をしてその後をついて行く。もちろん俺への審査はなしだ。見えないしな。


 (入場料は払わなくていいんだ)

 (金に余裕のない町なら取ることもあるが、普通はないな)


 入場料を取ろうとすると皆がその町を避けてしまい、結果的に損をした場合もあるらしい。

 ともかく、これで3人はとりあえず最低限の安全を確保することができた。


 門をくぐり抜けて中に入ると、家々が密集して建っていることにライナスとバリーは驚いた。木材と煉瓦、それに石材を使っているという点では同じだが、村と違って2階建ての建物が当たり前のように建っているのだ。村に2階建ての建物などなかったから、道の両脇に密集する2階建ての建物に圧迫される。

 しかし、道はむき出しの土のままだ。道路は舗装しなくてもいいと判断したのか、それとも道路まで手が回らなかったのかはわからないが、俺はこんなものなのかと興味深く眺めていた。

 ライナスとバリーは田舎者丸出しの態度で周りにあるもの全てを見ながらロビンソンについて行く。


 「さて、まずは宿だな」

 「宿?」

 「腹減ったぁ。それ食えるんすか?」


 不思議そうな顔をしてロビンソンを見る2人を見て俺とロビンソンは驚いた。


 (そうか、村にはなかったし、教えてもいなかったよな)

 「あー」


 俺の言葉にロビンソンが頭をかきながら苦笑した。


 「その辺の常識から教えなきゃいかんかったな。いいか、宿ってのは旅人が止まるところだ。これがないと、野宿するみたいに外で寝なきゃならん」

 「それは嫌ですね……」

 「冬なんて凍え死んじまうぜ」

 「そうだ。今なんて外で寝たら一発で神様のところへ送られちまう。そんな重要なところだ。ああそれと、大抵は飯も出してくれるぞ」

 「マジっすか!」


 バリーの目が途端に輝き出す。すごく嬉しそうだ。そんなに腹が減ってるのか。


 「腹減って死にそうな顔をしてるな、バリー。よし、それじゃさっさと部屋を取って飯を食うか!」

 「「はい!」」


 あー、なんかいいなぁ。俺には必要ないんだけど、なぜか仲間はずれみたいに思えてしまう。

 俺が羨ましそうに見ながら後をついて行くと、ロビンソンは迷うことなく1軒の建物に入った。

 建物の中は全体が薄暗い。外が夕方というのもあるが、いくつかある燭台の炎ではあまり明るく照らせないからだ。光明ライトが使えると便利なんだけどな。


 「いらっしゃい。3人かい?」

 「ああ。部屋はあるか?」

 「もちろんさ」


 というようにロビンソンが宿の主人らしき男と話を始める。

 俺はその間、室内を見ていた。意外だったのは床が板張りだったことだ。てっきり石が敷き詰めてあるか土間だと思ってたよ。これはロビンソン達が中に入って靴音を響かせたときにすぐ気がついた。次は1階が食堂になってることだ。広くはないがテーブルにカウンターもある。そうなると奥が厨房なんだろう。今は誰もいない。

 そうやってぼんやりと周囲を見ていると、ロビンソンが話をまとめたらしく、こちらに振り向いてしゃべり始めた。


 「いいか、部屋は全員一緒だ。金は俺が払う。飯は部屋を見てからここで食おう。以前使ったことがあるが、量もあってなかなかの味だぜ。体を洗いたけりゃこの奥の通路を通って裏庭に行け。井戸があるから水を汲んで使うといい。あと、用を足したいときは部屋の中にある蓋付きの桶か裏手の便所に行くこと。桶は使ったら翌朝便所の横に置いておくようにな」

 「それと湯を使いたけりゃ薪を用意するよ。別料金だけどね。それでよかったら裏手にある釜戸を使って自分で沸かしておくれ」


 最後に宿の主人が口を挟んだ。とりあえず、必要なものは一通り聞けたな。


 「他に必要なものはないか? なければ一旦部屋に行くぞ。それじゃ主人、すぐ戻ってくるから飯を6人分作っといてくれ」

 「はは、あんまり食べ過ぎると追加料金を取るよ」


 その声を聞き流しながら、ロビンソンは2人を連れて2階に上がった。


 3人は2階の指定された部屋を確認すると、すぐに降りてきた。

 俺もその室内を見たが、どうしても日本人の感覚で見てしまうので評価は厳しくなる。ライティア村でライナスの家など一般人の生活を散々見てきたはずなんだが、どうしても馴染めないらしい。話だけは聞いたことのある発展途上国の宿が最も近いだろう。こんなことで霊体で良かったと思えても嬉しくないな。

 それはともかく、今3人は食堂で2人前の飯を食っている。量のある1人前を2つも平らげられるのかとも思ったが、大食漢と欠食児童の胃袋にとっては問題ない量だったようだ。

 3人の会話はたわいのない雑談から始まって、ライナスとバリーの夢に移っていた。その前にあったロビンソンの冒険譚に触発されたようだ。それによると、一攫千金よりも世界各地を回りたいらしい。それは俺もやりたいな。


 「さてと、飯も食ったし、そろそろ寝るか。お前達はどうする?」


 そうやってお互いしゃべりたいことを話していると、腹が落ち着いてきたのか、ロビンソンがお開きにしようと言ってきた。まぁ、もう日も暮れたし、やることもないから寝るしかないよな。


 「バリーはどうする? 体を拭いてから寝るか?」

 「うーん、寒いしな。それは明日でいいや。俺は寝る!」


 なら俺もとライナスはあっさりとバリーに賛同した。


 「そっか、わかった。それじゃ明日みんなで体を拭くか」

 「「はい!」」


 そう言うと、3人は2階に上がって行く。バリー、ライナス、ロビンソンの順だ。しかし冒険1日目で浮かれているのか、足早に前の2人は階段を駆け上がっていく。ロビンソンはゆっくり歩いているので取り残された形だ。

 いい機会なので、ふと気になったことを最後尾のロビンソンに聞いてみる。


 (ロビンソン、そう言えば、よく王都までの旅費を全員分支払うなんて言ったな。金でも貯め込んでたのか?)

 (まさか。貧乏な俺にそんな余裕はねぇよ。あらかじめばーさんからもらってたんだ)


 念のため、精神感応テレパシーの対象をロビンソンだけにしていたので、他の2人には聞こえていない。それを知ってか知らずか、ロビンソンは当たり前のように返してきた。


 (だから王都に着くまで金の心配はしなくていいってわけだ)


 満腹になったであろう腹をさすりながら、ロビンソンは割り当てられた部屋に入った。

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