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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
序章 気がつけば異世界
3/183

お抱え呪術師との出会い

 誤字脱字を修正しました(2016/01/27)。

 授乳中の親子から背を向けたとき、目の前に小さな光の球体が突然現れた。


 (え、今度は何だ?!)


 呆然としながら俺はそれをじっと見続ける。

 すると次第に縦長の楕円形状に拡大していき、何やら地蔵のような形になった。光り輝くそれは拡大が終わると、今度はゆっくりとその輝きが薄れる。やがてローブを身にまとった背の低い老婆が姿を現した。


 (……)


 俺はあまりの出来事に何も言えなかった。幽霊みたいな存在の俺が言えた義理ではなかったが、こんな不可思議な現れ方をするなんてでたらめすぎる。


 (ひぇひぇひぇ、ようやく会えたわい)

 (は?)


 こっちを見ながらしゃべる不審人物ばーさんを見て俺は驚いた。


 (わしの名はアレブじゃ。そなたの名は何というのかの?)

 (え、俺のこと見えんのか?!)

 (ああ見えるとも。じゃから話しかけてるんじゃろが)

 (マジで?!)


 アレブというばーさんはどうやら俺のことが見えるらしい。おお、これは助かる!


 (俺は木村勇治ってんだ)

 (また変わった名前じゃの。見た目からして普通ではないが)


 まるでこちらが異常者のような言い方だ。とても心外ではあるが、とりあえずそれは置いておくとしよう。


 (それよりも、いきなりこんなことになって困ってるんですよ)

 (ほう)


 誰にも話しかけることができずに困っていた俺は、どうも俺に会いに来たっぽいアレブさんに自分の窮状を訴えることにした。

 自分の部屋で寝て起きたらいきなりこの家の中にいたこと、後ろにいる親子に話しかけたり触ろうとしてもできないこと、どうも幽霊みたいになってしまっていることなど、思いつくことを片っ端から話していく。どうにもならなくて不安で仕方なかったところに話が通じる人が現れたので、藁にも縋る思いだったのだ。

 俺がしゃべっているときはずっと無表情だったアレブさんは、俺が話し終わると眉をひそめて黙り込んだ。こっちとしては何の反応もないので不安になるが、何となく邪魔するのも気が引けてじっと待つ。


 (ユージとやら、お主はどこで生まれ育ったんじゃ?)

 (えっと、日本です)

 (ニホン? それはどこにある?)

 (えーっと、アジアの東の果てで……)


 というようにアレブさんはあれこれと俺に質問し始める。それは出生地から始まって、戦闘経験や魔法を使えるかなど多岐にわたった。答えられる範囲の質問には答えたが、中には何を言っているのかさっぱりわからない質問もあった。逆にアレブさんも俺の回答に良く首をかしげる。原因はお互いに意味のわからない単語を使っているからだ。

 例えば、俺はアパート暮らしをしていると説明すると、そもそもアパートとは何かというところから説明をしないといけない。自分の知っている常識や単語を1から説明しないといけないというのは面倒だが、知らないものはどうにもならないので1つずつ説明していった。これはアレブさんも同様である。

 それにしてもこのアレブさんの現れ方でわかったが、どうもここが異世界だというのは間違いないようだ。一時は昔のヨーロッパにタイムスリップしたのかなと思ったんだが、過去のヨーロッパでは魔法は使えない。少なくとも、光り輝くように現れて幽霊と話ができるなんて人物は聞いたことがない。だからここは魔法の使える異世界なんだろうと思った。自分の認識がどれだけ正しいのかは自信が持てないが、とりあえず今はそう思うことにしておく。

 それはともかく、何とかしてもらうため俺は知っていることは正直に全て話した。


 (ふむ……)


 アレブさんは聞きたいことを聞くと再び黙り込んだ。

 そのとき、後ろで若い母親が何かを呟く。相変わらず何をしゃべっているのかわからない。そして、ふと疑問が湧いた。


 (あの、俺、どうもあの女の人の言葉がわからないんですけど、どうしてアレブさんとは会話ができてるんでしょうか?)

 (……ああ、それは念話で話をしているからじゃ。頭の中で思ったことを直接相手の頭の中に送り込んでやりとりをしているんじゃよ)

 (そうなると、俺とアレブさんも口を使っての会話はできないんですね)

 (そうじゃの)


 うーん、テレパシーで会話してるから話が通じるということか。言葉が通じない者同士で会話をするときは便利だね。今みたいに。

 そうして再び沈黙が訪れる。アレブさんが何を考えているのかはわからないが、こっちとしては不安でたまらない。


 (では、わかってる範囲でお主の状態について話をしようかの)

 (あ、はい!)


 ようやく考えがまとまったらしいアレブさんは俺に説明をし始めてくれる。


 (まず、お主は後ろにいる赤ん坊の守護霊になっておる。よって、その赤ん坊のそばを離れることはできん)

 (守護霊?! どうして俺が?!)

 (わからん。今のお主の状態がその赤ん坊の守護霊だとしかな)


 俺は絶句した。目が覚めたら他人の守護霊になってたってどういうことだよ。


 (俺、昨日まで生きてたんですけど)

 (そんなことまでわしは知らん。文句は召喚される原因にでも言うんじゃな)


 ちくしょー! 誰だそのはた迷惑なことをしやがった奴は!


 (しかし昨日まで生きていたとなると、生き霊が守護霊となったわけか。珍しいこともあるもんじゃのう)

 (あの、元に戻る方法はありますか?)


 他人事のように俺の置かれた状況を分析しているアレブさんに、俺は恐る恐る日本に帰る方法を尋ねた。何となく返答の内容はわかっていたのだが聞かずにはいられない。


 (わしにはわからんの)


 ですよねー。アレブさんが俺を召喚したんじゃなければわかるはずもないか。

 ……いや、待て。何かおかしい。俺は今のやり取りで違和感を感じて眉をひそめる。


 (どうした?)


 そんな俺の様子を見てアレブさんも眉をひそめた。

 しかしそれに構わず、俺は違和感の正体が何か考え続けた。

 俺を日本に帰す方法がわからないとアレブさんは言った。その理由ははっきりとしないが、恐らく俺が守護霊になった原因がわからないからだろう。しかしそれ以前に、どうしてアレブさんは俺の目の前に現れたのか。言葉すら通じなくて途方に暮れていたから会話ができただけで今まで喜んでいた俺だが、都合が良すぎないか?


 (あのぅ、つかぬ事を伺いたいんですが、どうしてアレブさんは俺の前に現れたんですか?)


 まるで見計らったように自分の目の前へと現れたことに対する疑問が、俺の中に急速に膨れ上がった。そして何も考えずにこっちの事情をしゃべってしまったことに不安を覚える。


 (ひぇひぇひぇ、やっとその疑問にたどり着いたか。案外鈍いのぅ)


 なんだか小馬鹿にされてしまったが、事実なのでぐっと我慢する。それに、ここで喧嘩別れをしても途方に暮れるのは俺の方なのだ。少なくとも今はばーさんの機嫌を損ねるわけにはいかない。


 (わしは国王レイモンド二世陛下お抱えの呪術師じゃよ)

 (お抱え呪術師……)

 (そうじゃ。王国の北に大北方山脈という大きな山脈があるんじゃが、その更に北側に魔族が住み着いておる。その魔族が1つにまとまって王国に攻め込んできたのじゃ。わしは、魔族を1つにまとめたその魔王を討ち滅ぼす可能性のある者を探しておるのじゃよ)


 おお、なんというテンプレな展開なんだ。ゲームなんかで散々使い古された話じゃないか。


 (で、その勇者が俺ってわけ?)

 (そんなわけあるか。魔王を倒す勇気ある者はその赤子、ライナスじゃ)

 (え?!)


 俺は驚いて振り向く。今はおっぱいを飲んで満足したのかすやすやと寝ている。というか、ライナスっていう名前だったんだ。


 (あいつそんなにすごいの?)

 (うむ。今まで見てきた中で、魔王を討ち滅ぼせる可能性が最も高い)

 (う~ん、わからんなぁ)


 つい数時間前まで一般人だった俺にはその辺りはさっぱりわからなかった。何だろう、命の輝きとかが全然違うんだろうか。


 (それで、お主はそのライナスを守護するのが役目なんじゃよ)

 (……どうやって?)


 俺は思ったことをそのまま口に出した。だって幽霊みたいになってること以外は一般人と何も変わらないからな。運動や格闘技をやってたわけでもないし、特別に頭の回転が速かったり知識が豊富だったりするわけでもない。ばーさんの話を聞いてると、ライナスって赤ん坊が少し成長するとすぐに俺なんて用済みになりそうだ。


 (……困ったものじゃな)


 そしてばーさんはため息をついた。うん、その気持ちは俺にもわかる。俺もため息をつきたい。


 (ライナスの元に守護霊が顕現したから見に来たというのに、中身は異世界の平民とはのぅ)

 (チェンジってできないの?)

 (チェンジ? 守護霊の変更のことか? できるならやっとるわ。そうなったら、お主はただの浮遊霊となりいずれ消滅するじゃろうがな)


 そうか、守護霊という役目から解放されても元の世界に帰れるわけじゃないのか。守護霊なんて願い下げだが、本当の幽霊になったあげくに消滅なんてのはもっと嫌だ。くそ、とりあえずは我慢するしかないのか。


 (で、守護霊の仕事って、このライナスを悪霊とかから守ることなんだよな?)

 (そうじゃ。今のお主にできるとも思えんが)


 だんだんと口調が雑になってきた俺に対して、ばーさんは容赦のない評価を下し続ける。面白くないが事実なので受け入れるしかなかった。

 いや本当に、俺は何しにこの世界に来たんだよ。


 (それじゃ俺が守護霊としている意味がなさそうだな……)

 (ふむ、これは鍛えるしかないようじゃの)

 (え、鍛えることなんてできるの?)

 (人間とは異なるやり方にはなるが、一応はできる)


 元々しわくちゃな顔を更に渋くしながら、ばーさんは俺を鍛錬すると言ってきた。ここから逃げられないというのなら仕方ないのかもしれないが、そもそも役目を放って何もしなければいいのではないだろうか。その疑問をぶつけてみる。


 (なぁ、俺が何もしないっていう選択肢はないのか。どうせ大したことはできそうにないんだし)

 (ライナスが魔王を討伐する旅に出かけたら、強い魔物と退治することも多くなろう。そのとき、お主が常に安全であるという保証はないぞ?)


 言われてみると確かにその通りだった。魔法のある世界なら俺みたいな幽霊を攻撃する手段なんていくらでもあるだろうしな。

 他にも、ライナスが魔王討伐の旅に出ないかもしれないとも考えた。けど、国王お抱えの呪術師なら国家権力を使ってどうにでもできるんだろうなぁ。うん、どう考えても逃げ道はなさそうだ。


 (わかった。けど、あんまり期待しないでくれよ)

 (馬鹿言え。ライナスが王国の期待なんじゃぞ? 無理をしてでもお主も期待できるようにしてやるわ)


 そう言うと、ばーさんはひぇひぇひぇと笑った。さっきから嫌な笑い方をするな。


 (とりあえず、わしは一旦戻る。それまではしばらく待つのじゃ)

 (わかった)


 思いっきり他人の事情に巻き込まれてしまったが、逃げられない以上は前に進むしかない。諦めつつも、俺は現状を受け入れざるを得なかった。

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