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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活

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ライナスに対するこれからの稽古

 俺がこの世界にやって来て9年が経過した。ライナスとバリーもついに10歳だ。特に大きな病気をすることもなく成長できたのは幸いといえるだろう。

 そして、このくらいの年齢になると子供といえども何かしら働いている。家業を継いでいたり、小作人として働いていたり、商家で奉公していたりだ。都市部の場合は貴族の子弟や商家の子供、それに一部の優秀な貧しい子供が勉学に励んでいる。

 ライナスとバリーは冒険者になるという目的のため、既に5年修行を積んでいた。魔法戦士ロビンソンの下で毎日厳しい修練を課されているわけだが、これは珍しい。幼少時から剣術や武術を習うというのは、騎士の家系や代々何かしらの戦闘技術を受け継いでいる特殊な家系でないとやらないからだ。田舎から身を起こして冒険者になる場合だと、10歳までに都市へ出てきて日銭を稼ぎながら剣術などをかじり、運が良ければどこかの道場に入ったり弟子にしてもらったりしながら、15歳から冒険者になるというパターンが多い。


 「ドミニクさん、素振り終わりました!」

 「よし、それじゃ休憩の後は俺と対戦だ。バリーからな!」

 「「はい!」」


 先に素振りを終えていたバリーと一緒にライナスは元気よく返事をした。

 ライナスは乱れる呼吸をどうにか押さえるとバリーに近づく。そして隣に座った。


 「お疲れさん!」

 「ありがと」


 バリーから渡された布きれを手にしたライナスは、吹き出ていた汗を気持ちよさそうに拭う。

 この2人は、この5年間で劇的に成長している。

 バリーは剣だけでなく、槍や斧といった多彩な武器の扱いを習っているが、そのどれもを高水準で扱えた。魔法は興味ないと拒否して戦士としての修行に集中した結果、既に駆け出しの冒険者としてなら問題ないといえるくらいになっている。

 一方、ライナスは剣術のみバリーと互角以上に戦えるが、それ以外は全く相手にならない。もちろん水準以上に扱えるのだが、如何せんバリーの技術が高すぎるのだ。しかし、魔法を使った総合的な戦闘となるとライナスの方が強くなる。この辺りはさすが魔王を討伐する者と言えるだろう。

 何にしても2人の様子を見ている限りじゃ、とても10歳の子供の実力じゃないな。ロビンソンも、現役の冒険者としては心中複雑なのかもしれないが、師匠としては嬉しいんじゃないだろうか。


 しかし、ライナスに関しては困った事態が近い将来発生しそうだった。俺はそれについて夢の中でライナスから相談を受ける。


 「ユージ、最近ドミニクさんが魔法の勉強で困ったことがあるって言ってたんだ」

 「困ったこと? お前が優秀すぎることとか?」

 「違うよ。そうじゃなくて、もうほとんど教えられる魔法がないって」


 いやだから、それってライナスがあまりにも順調に習得するからだろう。裏で思いっきり手伝ってる俺のせいでもあるんだけどさ。

 ロビンソンの得意な魔法は火と風の魔法だ。水と土はそんなのもあるね、という程度である。更に言うと本業は戦士なので魔法を体系的に知っているとは言いがたい。それに対して、ライナスは四大属性全てを扱える。もちろんロビンソンの不足分は俺が教えているから習得できたのだ。ただし、今は大っぴらに使うなと言ってるけどな。

 というように、教えられる系統の魔法に限りがあるってのも問題なんだろう。


 「魔法を使った戦闘訓練ってのはないのか?」

 「あるけど、剣術を身につける方が先だって言われた」


 確かに、魔法戦士っていっても戦士が本業だもんな。ロビンソンなりのやり方だと、そうなるんだろう。俺もおかしいとは思わない。

 ただ、ライナスはそれをわかっていてももどかしいんだろう。早く強くなりたいのに足踏みさせられてるみたいだもんな。

 まぁ、たまに魔法を使って試合をしてるみたいだが、あれって気の逸ってる弟子の不満を解消させるためにやってるだろうしなぁ。


 「わかった。何か考えておくよ。あ、剣術の方に不満はないのか?」

 「剣術? うん、そっちはまだまだだよ。ドミニクさんどころか、バリーにすらろくに勝てないから」

 「剣ならいい線いってるだろ?」

 「剣だけはね」


 そう言ってライナスは苦笑いする。

 確かアレブのばーさんがライナスの霊魂は魔王を討伐できるほど強いって言ってたけど、さすがに万能というわけにはいかないらしい。なかなかすっきりとしないな。


 と言うことで、困ったときのエディスン先生頼みである。情けないなんて言わないでほしい。不足しているものを他で補うことは悪いことじゃないと思うんですよ。

 自分の修行を始める前に、夢の中でライナスから受けた相談をエディスン先生に話す。


 「……そうですか。なかなかに難しい問題ですね」

 「なんで? ユージと一緒にあたしたちが鍛えればいいじゃない」

 「そういうわけにはいかないんですよ。誰に教わったのかということを尋ねられたときに、ライナス君が答えられるようにしておかないといけないんです」

 「うわぁ、面倒だな~」


 ジルは顔をしかめて俺の頭に乗っかる。最近の定位置だ。妖精は半分精霊みたいなものだから霊体の俺にも触れるのだが、そのせいで好き放題されてしまっている。

 話を戻すと、今のライナスは極力目立たないように育てるというのが方針らしい。そのため、旅に出てからでも素性を怪しまれないように細心の注意を払っているそうだ。


 「どうして目立っちゃいけないの? みんなに協力してもらえるじゃない」

 「それだけでしたらいいんですけどね。同時に陥れようとする輩も引きつけてしまいますから」

 「自らの存亡の危機に、人間は何をやっているのですか」


 話を聞いたオフィーリア先生も呆れている。俺だって呆れてるんだから何も言い返せない。


 「いっそのこと、ロビンソンにあたし達のことを教えて協力すればいいじゃない」

 「ジル嬢だけならいいかもしれませんが、特にオフィーリア嬢はそういうわけにはいきません」


 現在人間と敵対している魔族に信用なんてないだろうしな。逆に怪しまれるだけだろう。エディスン先生は……うーん、幽霊みたいなのを素直に信じられるのかっていうと、難しそうだなぁ。ロビンソンには切羽詰まった事情なんてないんだし。


 「何も考えずにずばっと強く育てられたら楽なのにね~」

 「全くですわ」


 しかしそうは言っても、できないものはできない。そうなると俺達としてはやれることも限られてくる。


 「仕方ありませんね。アレブ殿に相談するとしましょうか」


 裏でこっそりとライナスを鍛えるにしても、今のままだと限界がある。なので、知ってる範囲で一番偉いアレブのばーさんに話を持っていくことになった。


 俺がジルとオフィーリア先生の3人で色々と魔法の使い方を試している間に、エディスン先生はばーさんのところへ相談しに行った。そして、1時間程度で戻ってくる。


 「エディスン先生、どうでした?」

 「剣術の稽古である程度目処が立つまではそのままだそうです。そして、それまでは今まで通りユージ君が夢の中でライナスに魔法を教えてください。教えているのは四大属性だけでしたよね?」

 「はい」


 問題はその目処が立った後だよな。


 「ロビンソン氏が魔法を使った戦い方を教えようとする時点で、ライナス君から守護霊であるユージ君の存在を伝え、数日に1度実践演習をする予定です」

 「え、俺の存在をばらすんですか?」


 ちょっと意外だった。てっきり徹底的に秘匿するものだと思っていたからだ。


 「実はロビンソン氏もアレブ殿の指示で動いているそうですから構わないそうです。それよりも、ライナス君と君が連携を取って動けるように鍛えるよう指示されましたよ」


 確かにいずれはしないといけない訓練だよな。いつするのかわからなかったが、そろそろ頃合いなのだろう。


 「ただ、今の君は魔法を使えますが、戦いに関しては全くの素人です。ですから、少し早いですが戦闘や護衛に関しての訓練を受けてもらうことにします」


 魔法を使えるようになって喜んでいたが、確かに戦ったことのない俺は争い事に関してずぶの素人だ。このままだと何年も剣術の稽古を受けているライナスと連携を取るなんてできない。


 「それで、ロビンソン氏の目処っていうのはどのくらいで立ちそうなんですか?」

 「あと1年はほしいそうです」


 俺の鍛錬のためにも時間はたくさんあった方がいいから歓迎すべきことだろう。


 「夢の中で色々と教えてもらおうかな」

 「ああ、それは良い考えですね。」


 予習をして悪いってことはないからな。お互いに教えられることは教え合わないと。


 「今の話はライナスに伝えてもいいんですか?」

 「まだロビンソン氏には内緒にしておいてくださいね」


 ということで、翌日の夜に早速夢の中でライナスへことのことを伝えた。もちろんばーさんやエディスン先生のことなどは伏せてだ。あくまでも俺が表立って稽古に付き合えることだけである。この辺りはもどかしいが、仕事には守秘義務があるので仕方ない。


 「ありがとう、ユージ。でも、今まで隠れてたのに、本当に姿を見せてもいいの?」

 「うん、大丈夫。限られた人だけならね。それよりも、冒険者になるんだったら少しでも強くならないとな」


 ライナスは俺の言葉に頷く。


 「けど、まさかユージが俺の守護霊だったとはね。てっきり幽霊みたいな友達だと思ってたよ」


 エア友達みたいな感じがしてイヤだな、その言い方。


 「最近はそうでもないけど、最初は20アーテムしか離れられなかったんだよな。今じゃ5オリク近く離れられるけど」

 「へぇ、でもどうして離れられるようになったの?」

 「よくわからん。ライナスと仲良くなるほど離れられるらしい」


 何と言っていいかよくわからないという表情でこっちを見返すライナスを見て、仕方ないと俺は思う。誰も原理がわかってないんだからな。


 「あ、それと、いつも夢の中で俺が魔法を教えてただろ? けど今度から、剣術の稽古をつけてくれないか?」

 「え、ユージに?」

 「そう。強くなりたいというよりも、ライナスの動きを読めるようになりたいんだ。そうすれば連携を取りやすくなるからな」

 「わかった! へへ、やっとユージに教えられるんだ」


 ライナスがやたらと嬉しそうに笑うんで俺は首をかしげた。


 「何が嬉しいんだ?」

 「俺、今まで算術や魔法を教えてもらうばっかりだったけど、今度からは剣術をユージに教えられるから嬉しいんだよ」


 そうか、一方的な関係って嬉しくないよな。今まで気にしていたのか。そう言えば俺もエディスン先生とかに教えられる一方だったときに、ライナスに初めて勉強を教えたときは嬉しかったな。あんな感じか。


 「でも、強くなるんじゃなくて動きを予測できるようになるためには、どんな訓練をしたらいいんだろう?」

 「うーん、それは俺にもわからんな。とりあえず剣術の型を覚えた方がいいのかなぁ?」


 しょせん素人と半人前が相談し合ってるので、正しい答えなんて出てくるはずもない。


 「それじゃまず型から練習する?」

 「うん、そうだね」


 何をやればいいのかよくわからない俺達は、こうして手探りの稽古を始めるのだった。

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