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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活
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ライナスの心配事と俺の学習事情

 俺がこの世界にやって来て8年が経過した。新年を迎えてからというもの、俺もライナスも勉強に修行に打ち込んでいる。俺の場合は打ち込まされているという側面もあるが、それはいいだろう。

 ともかく、必死になって一人前になろうとしているわけだ。もちろん、その間にも交流は頻繁にある。具体的には夢の中で魔法を教えている。ロビンソンのところで教えてもらった呪文を、きちんと使えるようになるよう教育してるわけだ。ちょっと先生になったような気分になって気持ちがいい。そのおかげで、ロビンソンが想定している以上の速さでライナスは成長していた。

 そしてこの夢の中での会合は、何も勉強のためだけに利用しているわけではない。ぶっちゃけると愚痴を言い合っているのだ。精神衛生上かなり重要なことだと俺は考えている。

 目下、俺の不満はエディスン先生とオフィーリア先生の完璧さだ。自分基準でハードル設定をされるものだから凡人としてはかなり辛い。特にオフィーリア先生は教師としてこれからなのだから、もっと平凡な教え子に優しい教師を目指してほしいと切に願う。

 一方、ライナスの不満は、少し前までだと、バリーに勝てないことやロビンソンの教える速度が上がる一方というものだった。しかし、これが最近ローラ関係のものに変わってきている。ローラが王都の大神殿で修行を始めてから1年になるが、実は約束通りライナスとローラは文通をしているらしい。そう言えばそんなことを2人が約束していた気がする。


 「ローラか。そういえば元気にしてるのか?」

 「うん、こっちと違っていろんなものが揃ってるって書いてあった」


 ローラの手紙によると、設備の整ったところで修行しているのでたくさん勉強できると書いてあったそうだ。そのため、通常2年かかる教義の修得を1年かからずに身につけたらしい。ということは、同じ修行をしている仲間内でも頭1つ以上飛び抜けてるんじゃないだろうか。


 「さすが王都の大神殿だな。僧侶として修行するなら行ってよかったんじゃないか?」

 「俺もそう思うんだけど……」


 あれ、何か問題でもあったのか?


 「周りのみんなに優秀だって認められたのはいいんだけど、大神官になることを期待されてるんだって」


 大神官というのは、光の教徒における高位司祭みたいなものらしい。信者を導く指導者というわけなんだが、もちろんエリートコースである。それで何が問題なのかというと、そんなエリートコースに進むような奴は冒険者になんかならないということだ。

 そのため、うっかり冒険者になると公言したために周囲の神官や先輩に諭されているらしい。人のやりたいことに水を差すとは何事だと俺なんかは思うわけだが、大神殿からすると優秀な人材を簡単に失うわけにはいかないので必死なんだろう。


 「ローラ、大丈夫かな……」

 「うーん、どうだろうなぁ。ローラの決心を鈍らせないためにも、手紙は必ず返信を書くべきだろう」


 王都から遠く離れたライティア村から出来ることといえばそれくらいだ。しっかりともらった手紙の返信をして心を支え続けておくことが重要だろう。


 「手紙か。そうだね、ちゃんと書かないと」

 「あ、それと、何か送った方がいいんじゃないか? 例えば、手彫りのペンダントとか」


 何かあったときに見たり触ったりすることのできる物理的な物があったらくじけにくいと思う。作れるなら今からでも用意するべきだ。


 「そっか! よし、何か作るよ! ありがとう、ユージ!」


 おお、元気になったか。相談に乗った甲斐があったな。

 そうして3ヵ月後に新たにやって来た手紙の返信と一緒に木製の手作りペンダントをライナスは贈った。作ったのは神父さんがいつも身につけている光の教徒の象徴だ。本物は金属製で小さい棒状に複雑な意匠が凝らされている。さすがにライナスは棒に簡単な彫りを入れるくらいしかできなかったが、それでもローラは喜んでくれたらしい。次の手紙にお礼が延々と書いてあったそうだ。

 根本的な解決にはなってないが、とりあえずこの件はこんなものだろう。ライナスは再び修行に打ち込むようになった。




 その年の夏はとても暑かった。日が没しても熱気は地表に残ったままで寝苦しい夜となる。いっそのこと外で寝た方が涼しいと思えるくらいだ。

 けど、俺達には関係がない。霊体の俺には寒暖差なんて関係ないからだ。今なら南極やサハラ砂漠のど真ん中でも平気に生活できる。行けないけど。ちなみに、オフィーリア先生は水魔法と風魔法を使って涼を取っている。

 それはともかく、ライナスがペンダントを手紙と一緒に贈ってからしばらくして、俺にも変化があった。オフィーリア先生から習っていたついに闇魔法の勉強が終わったのだ。


 「今の試験にも合格しましたか。そうなりますと、これで授業で教えられることは全て教えたことになりますわ」

 「これで全部ですか?」

 「そうです。おめでとうございます」


 オフィーリア先生はにっこりと笑って頷いた。ジルのときもそうだったけど、なんかあっさりと終わるなぁ。


 「そうなると、今後はこの本に書いてあることを勉強していくだけになるんですか?」

 「闇魔法はそうですが……」


 俺の質問に対して答えかけたオフィーリア先生は、エディスン先生に視線を向けながら言葉を濁す。


 「そういえば、俺、これで全部勉強したことになるんですよね?」


 一般教養である算術や自然科学をはじめ、王国語、精霊語、魔族語の3ヵ国語、それに光系統以外の7系統の魔法を俺は習得した。意外とたくさんやっていたことに自分でも驚く。

 これを約8年半でやってのけたのだ。生身の人間だと25年くらいかかることになる。日本にいたときに比べると恐ろしく勉強したよなぁ。


 「確かにそうですね。これで第1段階の学習が終了しました」

 「なんですかそれは?」

 「必要な知識を身につけるための学習を第1段階と位置づけていたんです」

 「それじゃ、第2段階ってのがあるんですか」

 「はい」


 ライナスが成人するまでまだ6年以上もある。さすがにこの時間を無駄にするわけにはいかないと俺も思った。そして第1段階なんて区切りを付けているわけだから、次の第2段階っていうのは今までとは違った内容になるんだろう。問題はそれがどういったものなのかということだな。


 「それって、どんな勉強になるんですか?」

 「次は、身につけた知識を使いこなすための練習です。更に高度な使い方を身につけてもらいます」

 「それが第2段階の学習というわけですか」

 「今までと違ってもっと実践的な使い方をしてもらいます。例えば、複数の魔法を同時並行に使ってもらったり、いくつかの系統の魔法を統合して発動させてもらったりするんです」

 「これにはセンスも必要になってきますから、かなり大変ですわ」


 そうか、その場に応じた最適な魔法の組み合わせも構築できるようにならないといけないのか。魔法の数を考えると組み合わせなんて事実上無限だよな。ああ、だからセンスが必要になるのか。丸暗記するだけじゃ対応できないから。


 「あー、確かに大変そうですね……」

 「幸いまだ時間はありますから、じっくりと訓練していきましょう」

 「はい」


 よし、臨機応変に魔法を使えるようになるぞ。


 「それと、再度ジル嬢にも手伝ってもらいましょう」


 お、ここに来てジルの再登場か。またねって言ってたのはこれのことだったんだな。

 俺が以前のことを思い出していると、いつぞやのように光り輝く球体が大きくなってジルが現れる。


 「やっほー! ユージ、久しぶり~」

 「おう」


 そして、まるで小用を済ませてすぐ帰ってきたかのようにこの場へ溶け込もうとする羽根付き妖精さん。ほんと、こいつ逞しいよな。


 「どう? しばらく会ってなかったけど、寂しくなかった?」

 「何言ってんだお前は」


 くそ、以前の別れ際のことを持ち出そうとしてんのか? 恥ずかしいからそんなことはさせんぞ。

 と、思って身構えていたら、ジルはエディスン先生の隣にいるオフィーリア先生の姿を見た途端に驚く。


 「げっ、魔族?!」


 短く叫んだかと思うと、俺の後頭部に張り付いて体全体を隠そうとする。


 「おい、ジル、どうしたんだよ?」

 「だって魔族がいるんだよ? 怖いじゃない!」


 好奇心の塊みたいなジルが怖がるなんて珍しいな。それとも、妖精にとって魔族は天敵なんだろうか。

 そんなジルの姿を見て、オフィーリア先生は困惑する。会っていきなり恐れられたんだもんな。そりゃ困りもするだろう。


 「あの、私は何もしてないはずですが……」

 「ジル、昔魔族と何かあったのか?」

 「ちょっと追いかけられたことがあってね……」


 あー、やっぱり何かあったんだな?


 「お前何かやらかしたんじゃないだろうな?」

 「……さぁ~、ど~だったかなぁ~」


 こいつのことだ。絶対魔族にちょっかい出して反撃を喰らったんだろ。そうに違いない。


 「エディスン先生、妖精と魔族って仲が悪いんですか?」

 「良くはないですが、悪くもないはずですよ。間に人間が住んでいる領域がありますから、基本的にほとんど接することがないですし」


 そうか、ファンタジー小説のように仲が悪いとは限らないのか。となると、やっぱりジルが個人的に何かやらかした線で確定だな。


 「ジル、昔何があったのかは知らないが、オフィーリア先生は酷い人じゃないぞ。会っていきなり怖がるなんて失礼じゃないか」

 「う、うん」


 まだ俺の後頭部から離れようとしないジルであったが、とりあえず俺の言い分を聞こうとしてくれる。


 「まずは自己紹介しろよ」

 「あら、申し遅れましたわ。私、オフィーリア・ベック・ライオンズと申します。教師になるべく、現在トーマス先生の下で修行しています。オフィーリアと呼んでください」


 ジルに向けた呼びかけにまず反応したのはオフィーリア先生の方だった。優雅に一礼をしてにっこりと微笑んでくる。相変わらず白と黒のコントラストが映えているな。


 「えっと、ジル、だよ~」

 「おい」


 あんまりにも雑すぎるだろ。


 「やり直し」

 「うっ、わかったわよ。えっと、フォレスティアのジルよ」

 「え?! あの『フォレスティア』のジル様ですか?!」


 突然俺の目の前まで詰め寄ったかと思うと、オフィーリア先生は俺の頭をがしっと両手で挟む。先生、目が血走っててすごく怖いです。

 もちろんジルも腰が引ける。しかし、俺の側頭部を挟んだ両腕の上からオフィーリア先生が俺の頭を鷲掴んでいるので逃げられない。


 「あ、うん、そう。そうだから、て、手を離して!」

 「なんということでしょう! このようなご高名な方とお近づきになれるなんて!」

 「お願い、それ以上近づかないで!」


 今にも取って食いそうな勢いで近づいてくるオフィーリア先生から逃げようとするジルだが、うまくいかずに体をばたつかせる。おい、こら、暴れるな! 背中を蹴り倒すんじゃねぇ!


 「痛い痛い!」

 「はいはい、そこまでですよ、オフィーリア嬢」

 「はっ?! 私としたことが、申し訳ありません」


 エディスン先生の声で我に返ったオフィーリア先生は、一歩下がって謝罪してくれた。すっかり怯えたジルは一旦俺から離れるとまた後頭部に張り付く。


 「お前、有名だったんだな」

 「うん……こうなるのがわかってたから言いたくなかったのよ」


 後でエディスン先生に聞いたところによると、精霊使いとしてのジルはかなり有名らしい。そして、ジルに教えてもらえることはかなり名誉なことだそうだ。とてもそうは思えないんだが。

 ともかく、8年半の勉強期間を経て、3人の先生からより実践的な訓練を受けることになった。

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