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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活

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回避された危機と地味な変化

 矛盾点を修正しました(2016/01/27)。

 ローラが王都の大神殿へ進学してから半年以上が経過した。秋の収穫祭も終わり、そろそろ冬の準備をしないといけない頃である。

 ライナスは春先にロビンソンから勉強を教えてもらっていた。それ自体はいいのだが、神父さんでさえ教えられない上級算術や上級自然科学をロビンソンが教えられることに俺は驚いた。一介の冒険者がそこまで知っていることは珍しいと聞いていたからだ。しかもロビンソンには不要なはずの写本一式を持っていた。確かに都合はいいけど、用意が良すぎるような気がするなぁ。

 そんな俺の懸念をよそに、ライナスは必死になって勉強していた。剣術の時間を削ってでもやっているわけだから、バリーとの技量は開くことになる。それを埋めるためにも早く魔法を習得しないといけない。だからその前準備である算術や自然科学も真剣に教わっていた。

 もちろんそんな状態なのだから、ライナスは夢の中でも勉強だ。当然俺も手伝っていた。復習はもちろん予習も欠かさずやる。エディスン先生に習っていた俺のとき以上だ。まぁ、あれは暇つぶしっていう感覚もあったからなぁ。

 だから習得速度はロビンソンの予想より遥かに速い。


 「まさか半年程度で上級の算術と自然科学を身につけるとはな。大したもんだ」


 そして、こいつは俺以上になるなんていう呟きを俺は聞く。


 「ライナス、そろそろ魔法を覚えてみるか?」

 「え? あ、はい!」


 予想以上の出来にロビンソンは驚きつつも目を細めていた。しかし、それを見ていた俺の脳裏には今まで先延ばしになっていた重要な案件がちらつく。

 そう、ライナスの家業継承問題である。これを解決しない限り、今やっていることの大半が無駄になってしまうのだ。しかもこれは、完全に他人任せにするしかないという厄介な案件だった。


 そんな風に気がつけば気を揉むような日々を送っていたが、あるとき自宅でライナスがくつろいでいるとフレッドが近づいていた。


 「にいちゃん。九九ってぜんぶおぼえてる?」

 「うん、覚えてるよ」

 「あのね、ぼくわからないところがあるから、おしえてほしいんだ」

 「いいよ」


 そういうと、ライナスはフレッドがわからないところを1つずつ丁寧に教えていった。もしかすると、自分の未来を都合の悪い方に決めてしまうかもしれないのに。それでも迷わず教えてやるライナスに俺は驚く。

 自分のやってることがわかっているのか不安になった俺は、夢の中でライナスに聞いてみると、


 「もしかしたら冒険者になれなくなってしまうかもしれないけど、フレッドの勉強の邪魔をしたくはない。それで冒険者になれないなら、俺は諦める」


 と寂しそうに言い切った。あかん、こいつ本当にいい奴だ。俺、7歳児に完敗してるよ! すげぇ情けない!

 そんな俺の胸の内など関係なしに日々は過ぎてゆく。


 冬の準備が終わり、今年も終わろうかという頃になると、大体フレッドの出来というのがわかってきた。

 ある日、仕事から帰ってきたジェフリーがすぐさま家を出て行った。ケイトには教会に行くと伝えていたので俺はぴんときた。ジェフリーが仕事後に家を出るなんて滅多にないし、あったとしても村長の家に行くときくらいだ。教会なんて今回が初めてである。

 俺は行動範囲が限られているので、代わりにエディスン先生に様子を見てきてもらう。こういうとき、守護霊は不便だな。


 「気になるな」

 「どうにもならないことは気にしても仕方ありませんわ。勉強でもして気を紛らわせましょう」


 既に出勤してきていたオフィーリア先生に諭されて、俺はいつも通りに勉学に励むことになった。

 そうしているとやがてライナス達がベッドで眠る。起きているのはケイトだけだ。

 俺の方はようやく勉強に集中できるようになり、さぁこれからだと気合いを入れて勉強し始めたのだが、そんな頃になってエディスン先生が戻ってきた。ということはジェフリーも帰ってきたということか。

 家の方に目を向けるとちょうど扉の開閉音が聞こえてきた。


 「で、どうでした、先生?」

 「私達が手を出す必要はなさそうです」

 「ということは……」

 「ライナス君の方がずっと優秀であることがわかりました」


 おお、これで余計な心配をしなくてもよくなったのか。しかし、素直に喜べないな。


 「おや、もっと喜ぶのかと思いましたが、そうでもありませんね」

 「あー、いやぁ、喜ぶべきなんでしょうけど……」

 「ふふふ、ユージは優しいですね」


 隣でオフィーリア先生ににっこりと微笑まれてしまった。一層複雑な気持ちになっちゃうなぁ。


 「ともかく、これで私達としては予定通りに事を運ぶだけでよくなりました。一安心ですね」

 「はい、そうとわかれば勉強に戻りますよ」


 2人の先生に促されて俺は再び授業に戻ることになった。

 翌日、ジェフリーは家族会議を開いて、ライナスとフレッドの今後について話をした。それによるとエディスン先生の言うとおり、フレッドが家業を継いでライナスが村を出ることになった。村を出てからのことはロビンソンに一任することになっているので、修行の成果次第で行く先を決めるらしい。


 「先生、あのロビンソンが決めるんですか?」


 別にそれについて不満があるわけではないが、ジェフリーがあっさりと言ったので疑問に思ったのだ。


 「教会での話し合いにロビンソンも呼ばれていましてね。ライナスの将来をどうするのかということを父親も交えて3人で話し合ってたんですよ」


 なるほど。そのとき既に取り決めが交わされていたのか。

 ということで、ライナスは新年からバリーと同様に、ロビンソンのところで修行漬けの日々を送ることになることが決まった。




 ちょうど同じ頃、俺の方も1つの節目を迎えつつあった。去年から学んでいた魔族語をようやくどうにか習得できたのだ。前の2つの言語に比べて最も時間がかかった。それでも身につけられたのだから嬉しい。


 「ふふふ、今やユージも魔族語は自在に操れるようになりました。これで魔族との会話に不自由することはありませんわ」


 というようにオフィーリア先生にも太鼓判を押してもらった。純粋に嬉しい。

 それにしても、これで俺は王国語に妖精語、それに魔族語の3ヵ国語を操れるようになったのか。日本じゃ英語もろくに使えなかったのに、随分変わったなぁ。


 「次に教えます闇魔法は基本的に魔族語を使うことになりますからね」

 「へぇ、王国語じゃないんですね」

 「王国語でもできますが、効率や効果のことを考えますと、圧倒的に魔族語を使う方がよろしいですわ。そもそも私達魔族が使う魔法として発達しましたから」


 そういうことか。そういえば、ジルもできるだけ精霊語を使って呪文を唱えろってうるさかったな。あれと同じか。


 「それだと、光魔法は王国語を使うのが一番ってことになるのか」

 「はい。光魔法はほぼ人間しか使いませんから」


 闇魔法と逆か。対として扱われる系統なだけあるな。


 「そして、魔族語が習得できたって言ってくれたってことは、いよいよ闇魔法の勉強ですね」

 「ええ。しっかりと覚えていただきますわ」


 さすがに1年以上教えているとある程度慣れてくることもあって、最近は失敗もほとんどない。これなら闇魔法の指導も期待できるだろう。




 年が明けてから、ライナスは朝から夕方までずっと修行漬けの日々が始まった。一足先にバリーがそんな状態になっており、ようやく後顧の憂いなく修行に打ち込めるようになったライナスを祝福した。


 「ライナス! これで一緒に冒険できるな!」

 「うん! 嬉しいよ!」


 そうしてますます2人は修行にのめり込んでいくのだが、その内容は違う。

 バリーは剣術にしか興味ないので、徹底的に体力作りと剣術をロビンソンに叩き込まれていた。元々体格が良くて体を動かすのが好きなバリーにとっては望むところである。嬉々として修行をこなし、体つきだけ見れば立派な戦士だ。小さすぎるのが玉に瑕だが、成長期はこれからなので問題ないだろう。

 一方、ライナスは剣術と魔法の2つを習得することになっているのだが、当面は剣術重視らしい。午前中の最初の方に魔法の勉強を少しして、それからはバリーと一緒に修行だ。ただし、眠りについてから2時間程だけとはいえ、夢の中で俺が魔法の勉強に付き合っているので、その習得速度はロビンソンからすると驚異的に映った。1教えたら5くらいを理解するような感じだからな。

 ちなみに、純粋な剣術だけを見た場合、ライナスとバリーでは圧倒的にバリーの方が強い。体格に恵まれているというのもあるのだが、バリーの稽古の量がライナスに比べて圧倒的に多いからだ。そのため、試合をするとライナスではほぼ勝てない。毎回負けて悔しそうにしているが、魔法を使って戦えるようになるまでこの状態が続くだろう。


 それと、地味に重要な変化がこの頃から俺にも起きていた。それはライナスを中心とした行動範囲についてである。勉強に修行にと緊密な付き合いをしていた結果、行動範囲が予想以上に広がっていたのだ。


 「最近、どこに移動しても引っかからなくなったんですよね」


 あるとき、今までのように行動が制限されることがほとんどなくなっていたので、エディスン先生に相談してみた。


 「どのくらいまで離れられるんですか?」

 「さぁ、試したことはないんでわからないです」

 「では、1度確認してみましょうか」


 ということで、ライナスが寝静まったあとに、俺とエディスン先生と出勤してきたオフィーリア先生の3人で行動半径を測ってみることにした。夜にしたのは、中心点であるライナスが動かないという保証を得るためだ。


 「では、ロビンソンの家に向かってまっすぐ向かってください」


 計測役のエディスン先生が俺に指示を出した。言われたとおりに俺はまっすぐに進む。物理的な障害を無視できる霊体というのはこういうときに便利だ。

 俺を先頭にエディスン先生とオフィーリア先生がゆっくりと進む。やがてロビンソンの家までやって来た。


 「ふむ、行動に制限がかかった様子はありませんね」

 「以前はどのくらいでしたの?」

 「前に測ったときは……50アーテムくらいでしたっけ?」

 「確か去年の夏頃でした。随分と広がりましたね」


 ざっと200アーテムくらいだよな。約4倍か。


 「では、行けるところまで進んでみましょう」


 オフィーリア先生の発言を合図に再び前進を開始する。やがて雪の積もった雪原にしか見えない畑に出た。それでもまだ前に進める。おお、こんなに進めるのか。何か嬉しくなる。

 そして調子良く進んでいると、突然前に進めなくなった。


 「どうしました?」

 「どうもここまでっぽいです」


 俺は雪原のど真ん中で止まっていた。そして2人の方に体を向ける。


 「ふむ、約1500アーテムですね」

 「かなり伸びましたね。7倍半か」

 「この調子ですと、森に届くのも時間の問題ですわね」


 そう言うと、オフィーリア先生は漆黒でほとんど見えない森に視線を向ける。


 「なるほど、確かにそうですね。これはいけそうか……」

 「何がです?」

 「いえ、何でもありません。引き続き、ライナス君と緊密な関係を築いてください」


 微妙に嫌な表現をしてくれますね、エディスン先生。それと、何かたくらんでませんか?


 「それでは、ライナス君の家に戻って闇魔法の勉強を始めましょうか」

 「「はい」」


 ライナスから遠ざかれる程に仲が良いということか。うーん、信頼されてるから遠くへもやれるってことなのかな?

 そんなことを思いながらもエディスン先生とオフィーリア先生に従って、ライナスの家へと戻っていった。

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