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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活

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3人目の教師、それは魔族

 誤字脱字を修正しました(2016/01/27)。

 精霊語と精霊魔法を教えるために妖精のジルがやって来て2年になろうとしていた。初めて会ったときは本当にこいつで大丈夫なのかと思ったものだが、実際に教えてもらうと悪くないのだから侮れない。

 そして、好奇心の塊みたいな妖精なので、ちょくちょくといなくなったりもする。授業の合間の10分休憩中にいなくなって数時間後に戻ってくるなんてこともザラだ。教えてもらっている手前あまり強く言えないが、教師が進んで授業をすっぽかすのは勘弁してほしい。

 それでも、この2年で必要なことは大体覚えられた。精霊語も不自由なく使えるようになり、ジルが呼び出した会話のできる精霊とも話ができるようになった。初めて話が通じたときは嬉しかったなぁ。


 「で、トーマス、話があるんだけど」

 「なんでしょうか?」


 俺が精霊魔法の練習として上位精霊を呼び出して、更に会話の練習をしているとき、監督を務めていたジルがエディスン先生に話しかけた。


 「ユージはもう精霊語も精霊魔法も使えるようになったけど、どこまで育てるの?」

 「それは、一人前になったということですか?」


 何かの本を読んでいたエディスン先生が顔を上げる。そしてつい俺も視線をジルに向けた。ついでに俺が呼び出した上位精霊もだ。珍しくジルにおちゃらけた雰囲気がない。


 「そうよ。もう自学自習できるくらいにね。一応だけど。ま、少なくとも精霊使いって名乗ってもいいわよ」

 「ほう、そうですか」


 エディスン先生が感心したように呟く。俺には何に感心したのかさっぱりわからん。


 「どうする?」

 「わかりました。では、次の段階に進ませるとしましょうか」


 自分自身のことなのに話の内容がよくわからないというのはもやもやする。まぁ、精霊語と精霊魔法の勉強はもうお終いということだけはわかったのだが。


 「そっか。それじゃ、あたしはお役御免ってことだね!」


 そしていつもの調子が戻ってきたのか、ジルは明るくなる。


 「さて、今の話は聞いてたよね。ユージ、あんたは精霊語と精霊魔法をちゃんと身につけたよ。だから、あんたはたった今あたしの下を卒業することになりまーす!」


 わーっとはしゃぎながら手をぱちぱち叩くジル。


 「おい待て。お前はいきなり何を言い出すんだ」

 「だから、もうあたしに習わなくてもいいって言ったのよ。あんたが精霊使いだってことはこのあたしが保証するわよん」


 何が嬉しいのか、楽しそうにジルは俺の周りをぐるぐると回る。


 「いっつもいきなりだな、お前は」

 「ふふん、予測不可能な女なのよ、わたしは」

 「単に行き当たりばったりなだけだろ」


 いつもならここで怒り出すところなのだが、なぜか上機嫌なままぐるぐると回り続ける。


 「それでは、明日の日没頃に新しい教師を紹介します」


 エディスン先生はそう言うと再び本に視線を戻した。


 「じゃ、あたしはこれで」

 「え? もう帰るの?」

 「ふふん、寂しい?」

 「そんなんじゃねぇよ」


 うわ、なんだよこれ。まるで俺がツンデレみたいじゃねーか! 恥ずかしいな、おい!


 「あははは、照れてる! まぁ、仕方ないか!」

 「そんなことねぇ!」

 「拗ねないの! どうせまた会えるんだからさ!」

 「は?」

 「じゃ、またね!」


 そう言うと、俺の返事を待たずにジルは来たときと同様に光り輝く球体に包まれると、次第にそれは小さくなり、やがて消えた。

 あいつ、いきなりやって来たかと思うと唐突に消えやがったな! しかも、また会うのか? どうなってんのかさっぱりわからんぞ!




 エディスン先生にジルのことを聞いても知らないと言われたので、仕方なく今まで通り過ごすことにした。2年間ものすごく騒がしかったけど、いなくなると本当に静かだな。ジルが来る前はこれが当たり前のはずだったのに、すごく落ち着かない。くそ、寂しくなんてないんだからな!

 自分の気持ちを落ち着かせながらほぼ丸1日を過ごすと、いつもの通りライナスの家に戻ってきた。

 すると、待ち構えていたらしいエディスン先生がこちらへやって来る。


 「おかえりなさい」

 「あ、ただいまです」


 エディスン先生から挨拶されることなんてほぼなかった俺は、多少面食らいながら挨拶を返した。


 「さて、昨日お話ししたとおり、今日は新しい教師を紹介します」

 「次は確か、魔族語と闇魔法、でしたよね」


 精霊語と精霊魔法は妖精に習ったから、今度は魔族だよな……敵なんじゃなかったっけ?


 「はい、ということで今回は魔族を教師として迎えます」

 「先生、魔族って人間の敵じゃないんですか?」

 「そうですよ?」


 いや、エディスン先生、そんな簡単に返事してますけどいいんですか?


 「学ぶ相手がたまたま敵だったというだけです」


 はっきりと言い切るエディスン先生。ああ、やっぱり根っからの学者だなぁ。いっそ清々しい態度だ。ちょっと憧れた。


 「では、お呼びします」


 え、お呼びします? なんで敬語なんですか?

 そんなすごく不安が膨らむ中、エディスン先生は何やら呪文を唱える。すると、黒いもやのようなものがわずかに現れ、次第にそれが大きくなっていく。そして最後に、その黒いもやが人型に凝縮して何者かが現れた。


 「お久しぶりですね、お嬢様」

 「トーマス先生、久方ぶりです。息災でしたか?」


 目の前に現れたのは、ほぼ露出のない漆黒のゴシックドレスに身を包んだ少女だった。

 この時点で俺の本能は叫んでいた。こいつは絶対まずい! と。


 「それで、今回わたくしが魔族語と闇魔法を教える相手とは、この者ですか?」


 エディスン先生とは知り合いらしく、その少女は何やら親しげに言葉を交わしていた。そして、一通り会話を終えるとこちらに視線を向けてくる。

 ゴシックドレスと同様の漆黒の髪に病的なまでに白い肌がやけに映えていた。もう人形といってもいいんじゃないのかというくらい生気がないように見える。誰がどう見ても絶世の美少女なのだが、ぴくりとも俺は反応できない。霊体だからというだけじゃなく、完成されすぎているからだろう。ほら、ミスワールドを見ても何とも思わないというようなあの感じだ。

 で、そんな女の子に見られているわけだが、不思議そうにこちらを見ている。


 「これはまた、変わった精霊ですね」

 「いえ、この者は精霊に近い霊体です」

 「何と!」


 さらにまじまじとこちらを眺めるお嬢様。なるほど、珍獣扱いですか。そうなると今度の勉強は調教されるような感じになるのか?


 「えっと、私は木村勇治といいます」


 とりあえず名乗っておいた。いつまで経っても話が進みそうになかったんで。すると、まだ名乗っていなかったことを思い出したのか、お嬢様も居住まいを正す。


 「失礼しました。私はオフィーリア・ベック・ライオンズと申します。これからあなたに魔族語と闇魔法を教授することになります」


 ミドルネームキター! しかも何か強そうな名字だぞ! お嬢様って時点でそうなんだが、ものすごく偉そうだ! 上位魔族とかじゃないだろうな? どう考えても俺に物を教えるような人、いや魔族じゃないだろ!

 優雅に一礼をするライオンズさんにこちらも慌てて礼をする。粗相があったら確実にお手討ちだ。これから2年近く毎日命の危険にさらされるのか?! 旅に出たときの緊張感を先取りってか! ばーさん、いくら何でもこれは無茶だろう!


 「ユージ君、オフィーリア嬢はね、魔族ではあるんだが魔王とは関係ないんですよ」

 「え、そうなんですか?」

 「ええ。確かに魔族はデズモンド・レイズに統一されましたが、それはあくまでも国や豪族などの集団単位です。個々人が全て魔王に忠誠を誓っているわけではありませんわ」


 なとど、なぜかエディスン先生とライオンズ先生に説得される形になった俺。

 まぁ、言ってることはわかるよ。人間側だって一枚岩じゃないんだろうし。それに、ばーさんやエディスン先生推薦だったらそもそも俺に拒否権なんてないしな。


 「それと、オフィーリア嬢は教師を目指しているんです。今回はそのための修業の一環なんですよ」

 「教育実習生みたいなものですか?」

 「教育実習生? それはなんでしょうか?」


 ライオンズ先生が食いついてきた。エディスン先生も視線で俺に説明を促してきてる。あれ、こっちにはそういう制度はないのか。


 「俺の元いた世界の教師を育てるための制度の1つです。教師になるための勉強を終えた人が、学校に一時的に派遣されて現役教師の下で児童や生徒に勉強を教える経験を積むんです。その派遣された人を教育実習生っていうんですよ」

 「まぁ、それではトーマス先生の指導の元にユージを導く私は教育実習生なんですね!」

 「なるほど。そういう制度があるんですか。興味深い制度ですね」


 なぜか教育実習生について2人は感心していた。

 この様子を見て、俺も次第に落ち着いてくる。どうやら問答無用でお手打ちになる可能性は低そうだ。そうなると色々と疑問が湧いてくる。


 「あの、質問があるんですけどいいですか?」

 「いいですよ」

 「最初に、エディスン先生とライオンズ先生って元から知り合いなんですか?」

 「ライオンズ先生ではなく、オフィーリア先生って呼んでください、ユージ」

 「え、いいんですか?」


 後でお手打ちはイヤですよ?


 「はい。ライオンズ先生ですと、あまりによそよそしいでしょう? せっかく個人授業形式なんですから親しみを込めてもらいたいのです」

 「わかりました。えっと、オフィーリア先生」


 俺がそう呼ぶと、オフィーリア先生はにっこりと微笑んで頷いた。うーん、これは見惚れるなぁ。


 「それで、私とオフィーリア嬢の関係ですが、以前私がオフィーリア嬢の家庭教師をしていたんですよ」


 だからこんなに親しげなのか。やっぱりエディスン先生っていろんなところで教えてるんだなぁ。


 「それで次なんですけど、オフィーリア先生って王国語が上手なのは教師になるために習ったんですか?」

 「はい。教師になると決めたときに、トーマス先生から教えてもらったんですよ」


 やたらと嬉しそうにオフィーリア先生が答えてくれる。よっぽどエディスン先生を尊敬してるんだな。ある意味とても純粋な魔族だ。


 「あと、どうして教師を目指してるんですか?」

 「ふふふ、トーマス先生の教え方に感動しまして、私も他者にものを教える仕事をしたくなったんです」


 なるほど。さすがに教師を目指したくなるほどではなかったが、確かにエディスン先生の教え方は上手だもんな。これに感動したら教師を目指したくなるのもわかる。


 「物覚えの悪い俺でも理解できるようになるまで根気よく教えてくれますからね」

 「ええ! トーマス先生は決して教え子を見捨てませんわ!」


 隣で聞いているエディスン先生が居心地悪そうにしている。これだけ手放しに褒められたらむず痒いよなぁ。


 「と、ともかく、今からオフィーリア嬢にはユージ君を指導してもらいます。よろしいですね」

 「はい」


 居心地の悪い雰囲気を断ち切るように宣言したエディスン先生に、オフィーリア先生がにっこりと頷く。

 こうして俺は、魔族語と闇魔法を新たに習うことになった。

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