最終決戦5─対デズモンド・レイズ─
周囲の様子など全く伺う余裕のない俺とライナスは、全力で魔王の星幽剣と対峙していた。加減なしで俺はひたすら魔力を長剣に注ぎ込む。しかし、魔王だってこちらを倒そうと更に力を入れている。簡単には押し切れない。
『大した、もの、だな!』
お互いの剣が輝きを増す中、こちらを睨みながら魔王が呟く。ライナスにはそれに応える余裕はない。
周囲は剣の輝きではっきりと見えなくなってきている。周囲には白と黒の放電現象が飛び交う。
しかしこれ、一体いつまで続くんだろう。根比べみたいになってるけど、魔王の魔力量がどのくらいなのかが気になる。もし俺よりも多かったら勝てない。
何か一気に勝てる方法はないものか。
『だが、最後は、儂が、勝つ!』
魔王が更に力を込めたのがわかった。それに合わせて黒の剣の輝きが更に増す。
「くっ……そっ!」
それに対してライナスの星幽剣は変化がない。俺が1度に注ぎ注ぎ込める魔力量が限界に達したからだ。やっぱり物質を媒介にしていると限度があるのか!
わずかずつだが、ライナスが押され始めた。俺の魔力量が魔王よりも多くても、1度に放出できる魔力量で負けているということだ。こんなのは初めてだ。
今のままでは負ける。何か打てる手はないのか。魔法で牽制する? いや、あの黒い障壁で阻まれる。ライナスも剣を手放して魔王と同じように星幽剣のみとする? そんな余裕はない。今一瞬でも手を変えたら間違いなく押し切られてやられる。こうなることがわかっていたら最初から剣を使わなかったが、そんなのは今更だ。
『さぁ、終わり、だ!』
魔王は更に力を込めてきた。まだ出力を上げられるのか。
ライナスは更に押されてゆく。まずい、まずいぞ!
どうする? どうすればいい? くそ、俺が直接剣から魔力を放出できたらなぁ!
(いや待て。まだ試してないぞ?)
俺は思わず自分の思いつきに突っ込みを入れた。
今現在、俺はライナスと重なって剣から星幽剣を出している。これ、ライナスが握ってる剣に俺が重なったらどうなるんだろうか? 今はライナスを介することで魔力を剣に注いでいるが、直接剣から放出することはできないのか? ほら、ゲームなんかで出てくる強力な剣って、普通は剣自体が何らかの力を発揮してるからな。もしかしたらできるかもしれん。
(ライナス、今から俺は長剣に移って、そこから直接魔力を放出できないか試してみる!)
(ユージ?! それ、大丈夫なの?)
(どうせこのままじゃ2人ともやられちまうだろ?! まずは勝つ方法を考えるんだ!)
ライナスはもう口で話す余裕がないから精神感応で話しかけてきている。そんなライナスに向かって俺ははっきりと言い返した。
俺だって正直にいうと怖い。どうなるか想像もつかん。でも、もうやるしかない。
ライナスが魔王に少しずつ押されてゆく中、俺はライナスの持つ真銀製の長剣へ意識を向けた。人型霊体である俺がどうやって剣と重なれるのかがそもそもわからないが、この魔力を吸い込むような感覚に従って剣の中に入るイメージを思い浮かべる。
魔力を吸い取られる感覚は、ちょうど湯船の栓を抜いて湯を排水する感じに似ている。勢いでいえばプールの排水の方がふさわしいのかもしれないが、そっちは体験したことがないのでわからない。ともかく、その吸い取られる魔力と一緒に自分も剣に入るところを想像した。
すぽん!
するとどうだろう、なにやら間抜けな音が頭の中に響いた感じがするものの、嘘みたいにあっさりと剣の中に入れたようだ。視線がライナスの目の辺りから手元へと変化する。そして、狭い瓶の中に詰め込まれたような感じがして窮屈だ。あんまり長居したくないな、これは。
(ライナス、入れたぞ!)
(え、ほんとに?!)
これにはライナスも驚いたようだ。自分でも驚いてるんだから当たり前か。ともかく、これで準備は整った。
(それじゃ出力を上げるぞ!)
(うん!)
俺の予想ならこれで更に魔力を注ぎ込めるはずなんだが……お、できた!
先ほどまで感じていた上限は再び感じなくなった。そして、剣へ更に魔力を注ぎ込むことで輝きが増す。
『なん、だと?!』
魔王は俺達が黒い剣を押し返してゆくのを目の当たりにして目を見開いた。しかし、諦めた様子はない。
『まだ、だ!』
再び魔王は力を込める。黒い剣はその輝きを更に増した。
「ぐっ、うっ!」
ライナスの額から血が迸る。あ、しまった。ライナスの体が持たない可能性もあったんだ! このままつばぜり合いを続けていると、ライナスの体が壊れてしまうかもしれない。単に魔力量だけにしか目が行ってなかったけど、剣を持つ術者の体も重要な要素だよな。
もうこれ以上はライナスの体が持たない。だったら、一気に魔力を解放して決着をつけないといけないな。けど、今度は俺がどうなるのかわからない。そもそもそんなことをしたことがないからだ。
(ライナス、お前の体はもう持たない。だから、今から俺が一気に魔力を解放して決着をつけよう)
(でも、そんなことをしたらユージは?)
(わからん。ただ、もう次はない以上、できることはやらないとな。それじゃやるぞ!)
(わかったよ!)
やけくそ気味の返事を聞いた俺は覚悟を決める。
俺の中のものを全部外にはき出す感じ。中身を空っぽにする感じだ。それを想像しつつ、全身へ一気に力を入れた。
(はっ!!)
その瞬間、俺の意識はぶつんと途切れた。
 




