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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
16章 最終決戦

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最終決戦2─対デズモンド・レイズ─

 メリッサと協力して四天王のベラを倒してすぐ、ライナス達の方へと視線を向ける。すぐ近くで戦っていたはずなのに、自分達のことで精一杯だったせいか、あっちがどうなっているのか全く知らないままだ。


 「え、なに、どうなってんの?」


 思わずメリッサが呟いていた。けど、その思いは俺も同じだ。

 魔王が健在なのはある意味当然だが、どこかを怪我したというような様子はない。というより、玉座の前からほぼ動いていないぞ。星幽剣アストラル・ソードを右手に立っている。黒い剣を構えてすらいない。

 一方、3人だが、ライナスとバリーはかなり間合いを取っている。20アーテムくらいか? 剣で斬り合うような距離じゃない。ライナスはともかく、バリーはあれだと攻撃できないはずなんだが、どういうことなんだろう。そしてどちらも肩で大きく息をしている。その更に後方で短杖を構えているローラの顔は若干青ざめていた。

 不利な状況というのは一見してわかるが、かなり追い詰められているように思える。こうなるまでの経緯が全くわからないので、俺もメリッサも戸惑うばかりだ。


 『ふむ、ベラが逝ったか』


 魔王は呟きながらベラの死体に視線を向けた。表情に変化がないので何を思っているのか推測もできない。


 『仕方あるまい。儂がまとめて相手をするか。かかってくるといい』


 再び視線をライナス達に向けた魔王はそう言い放つ。しかし、3人は動けない。


 (ライナス、どうなってるんだ? 魔王の星幽剣アストラル・ソードの切れ味がよすぎて近づけないのか?)

 「それだけじゃないんだ。あいつは、剣の技量も凄いし、魔法も使えるんだよ」


 合流直後に問いかけた俺に対して、魔王を見据えながらライナスが答えてくれた。

 ただ、確かにそれは凄いことなんだが、ゲームの知識なんかがある俺にとっては驚くようなことじゃない。自分の命がかかっているから余裕はないが。


 「それに、あの黒い剣みたいなのは色々と変化するんだぜ。斧とか鞭とかによ」


 ライナスに続いてバリーが口を開く。

 そうか、ライナスと違って魔力の塊だけで星幽剣アストラル・ソードを形作っているから、本人次第でどんな形にも変化するのか。そうなるとさしずめ星幽武器アストラル・アームズだな。本格的に俺とライナス以上じゃないか。


 「他にもなんかあるんか?」

 「牽制に使ってくる魔法は厄介だけどまだ対処できるわ。他にも、黒い波みたいなのがあるのよ」


 何でもそれに当たると、各自にかけられていた支援魔法が解除されてしまうらしい。個別にかける魔力分解マナディコンポジションの範囲魔法版か。厄介な。幸い光盾ライトニングシールドで防げるし、体に傷を与えられることはないそうだ。しかし、3人がばらばらの位置にいると黒い衝撃波から全員を防げないので、また支援魔法をかけ直さないといけない。だから今のところはまとまって行動するしかないという。


 「特に身体強化ストレングスニングが切れると困るのよね。魔王の動きについていけなくなるから」


 ローラによると、素の状態に戻されたところを魔王の星幽剣アストラル・ソードで攻撃されて、バリーの腹を貫通されたこともあったらしい。幸い回復ヒーリングが間に合ったからよかったものの、それ以後は迂闊に近づけないそうだ。


 (真銀ミスリルの板金は役に立たなかったのか?)

 「いや、同じ所を3回攻撃されるとダメみたいだから、2回までなら防いでくれるぜ」


 よく見ると、ライナスとバリーの鎧はあちこち凹んでいたりひびが入ったりしている。


 「魔王の魔法って、やっぱり闇の魔法なんか?」

 「ええ。『御手の守り』がなかったら、私死んでたわ」


 魔王は黒い剣でライナスとバリーを、魔法でローラを攻撃していたらしい。防御魔法でいくらか減衰させるだけで当たり前のように貫通してくるせいで、ほぼ必ず魔王の魔法攻撃を受けていたそうだ。ただ、闇の魔法をほぼ無効化できるおかげでまだ生きているとのことだった。顔が青ざめていたのはそのせいか。

 遠目ではわからなかったが、本当に一方的な戦いだったんだな。


 「あと、こっちの攻撃は全部黒い障壁に阻まれるんだ」

 (闇盾ダークシールドか?)

 「違うと思うわ。光系統だけじゃなく、他の系統の魔法も等しく効かないから」


 ローラが悔しそうに説明する。闇系統の防御魔法じゃないのか。攻め手の能力が守り手の能力よりも大きく劣る場合は、魔法の相性の問題以前にどんな攻撃も防がれてしまう。しかしローラが違うというのなら、何らかの特殊な技能なんだろう。くそ、こうも色々と隠し玉を持たれてると厄介だな。


 『動かぬか。ならば、こちらから仕掛けるとしよう』


 魔王はいつまで経っても仕掛けてこない俺達に痺れを切らしたらしく、力強く足を一歩前に踏み出す。すると、そこを起点に黒い波のようなものがこちらに向かって来た。


 「来たっ! 光盾ライトニングシールド!」


 ライナスとバリーの正面に大きめの光盾ライトニングシールドが現れる。黒い波はそれにぶつかり、黒い火花が散った。

 4体の精霊は魔王の攻撃を分散させるつもりで大きく左右に展開させていた。そのせいで光盾ライトニングシールドの範囲外だ。宙に浮いているので地を這うように進んでくる黒い波の影響は受けないと思っていたが、どういう理屈か精霊の真下までやって来ると、シャボン玉のように火と水の精霊は弾けて消えた。土と風は何とか耐えたようだが、たぶん次の一撃は耐えられないだろう。こうなると俺も危ないな。

 そして、次に魔王はバリーに向かって黒い剣を伸ばす。


 「うおっ!」


 光盾ライトニングシールドを突き破って伸びてきた黒い刃先は、一瞬前までバリーがいたところを通過した。バリーは崩れた体勢を整えて再度魔王へと対峙する。


 「炎竜巻ファイアトルネード


 魔王がバリーへと意識を向けている隙に、メリッサがその足下から殺傷力の高い魔法を発動させる。

 うまい、射出系の魔法だと謎の黒い障壁に阻まれるから、指定した場所から放つ魔法を使うのか。


 『魔力分解マナディコンポジション


 ところが、発動後に威力を増しつつあった炎竜巻ファイアトルネードは、魔王の呟いた一言で霧散してしまう。


 「え、うそ、そんなことできんの?!」

 『炎竜巻ファイアトルネードも魔法なのだ。タイミングを計る必要はあるが、魔力を分解してやれば無効化できて当然であろう?』


 メリッサは自分の魔法が予想外の防がれ方をして愕然とする。いけると思ってたんだろうな。俺も思ってたよ。

 そんな中、俺はライナスと重なった。すると、ライナスの持っている真銀ミスリル製の長剣ロングソードが光り輝く。おおぅ、相変わらずの喪失感だ。


 『なんと、お前も使えるのか』


 ライナスの輝く剣を見て魔王が驚く。自分以外にも使える者がいるなんて思わなかったんだろう。俺達も魔王が黒い星幽剣アストラル・ソードを使えるってわかったときは驚いたもんな。

 そして魔王は、玉座のある上段から階段を降りてライナスへと近づいてゆく。


 『お前の使う光の剣がどの程度のものか見せてみよ』


 魔王はまだ10アーテム近くあるというのに右手の黒い剣を振るう。普通なら届くはずはないが、伸縮自在なあの剣ならばそもそも間合いなんてあってないようなものだ。

 鞭のようにしなって襲いかかってくる黒い剣を、ライナスは手にした長剣ロングソードで弾く。お、星幽剣アストラル・ソード同士なら弾けるのか。


 「うわっ!」


 けど、とりあえず剣を交えられることがわかっただけだ。ライナスは黒い剣に押されて踏鞴を踏む。


 『やはりな。光の剣なら儂のこれと切り結べるか。なら、主敵はお前だな』


 おお?! 目をつけられた! 確かに魔王からしたら俺達が一番厄介なんだろうけど、嫌だなぁ。


 「おおぉ!」


 そのとき、魔王の左脇へとバリーが突っ込もうとする。それを見たライナスも正面から魔王へと向かう。そのとき、魔王は力強く足を一歩前に踏み出した。次に黒い波が現れる。

 既に魔王との距離が5アーテム以下の場所にいるライナスとバリーは避けられない。黒い波に触れた瞬間、2人の身体能力は元に戻ってしまう。


 (まずい! 身体強化ストレングスニング!)


 支援魔法を解除された瞬間、俺はライナスに再び身体強化ストレングスニングをかけ直した。身体能力が落ちるのだけは避けないといけない。

 しかし、短時間とはいえ動きがおかしくなったことには違いない。魔王はその隙を逃さず黒い剣をライナスに打ち込んでくる。


 「ぐっ!」


 ライナスはそれを輝く長剣ロングソードで受け止めた。そして、浸食されまいとライナスが力を込めるほどに俺から魔力が大量に抜き取られてゆく。


 「はっ!……くそっ!」


 バリーは手にした槍斧ハルバードを思い切り魔王へと叩き込もうとしたが、謎の黒い障壁に阻まれる。そして、すぐさま俺達から距離をとった。


 『面白い連中だな。不完全とはいえ連携も悪くない』


 周囲を見渡せば土と風の精霊の姿が見えない。さっきの黒い波で消されたのか。バリーへの支援魔法はローラとメリッサがかけ直してくれた。

 しかし、4対1で互角か。さすがラスボスだな。誰か1人でも欠けたら勝てない。

 それとあの黒い障壁だが、もしかしたら星幽剣アストラル・ソードと原理は同じじゃないんだろうか。ローラの言う通り魔法を使っている様子はない。それでいて自在に仕えるとなると星幽剣アストラル・ソードの能力しか思いつかない。そうなると、あの黒い波も同じか? そうか、使い方が違うだけで根っこは同じなのかもしれない。

 だったら俺達もまねできるものがあるんじゃないだろうか。


 (ライナス、長剣ロングソードみたいに鎧の真銀ミスリルへ魔力は流せるか? 試してくれ)

 「え? あ、うん」


 どうして俺とライナスが重なったときに右手からしか光の塊が現れないんだろうと、前から不思議に思っていた。そして、真銀ミスリル製の長剣ロングソードである程度制御できるなら、鎧の真銀ミスリルの板金でも同じことはできるんじゃないかと魔王の様子を見てピンときた。こんなことなら事前に試しておけばよかったが、あまりに真銀ミスリルが丈夫だったんでやらずじまいだったんだよなぁ。

 それを今、ライナスに試してもらったところ、狙い通りぼんやりと光り輝く。星幽剣アストラル・ソードで魔王の黒い剣と切り結べるのなら、これで黒い波も防げるんじゃないだろうか。


 (ローラ、メリッサ。これから2人はバリーの支援を中心にしてくれ)

 「鎧がうっすらと輝いているけど、それは?」

 「星幽剣アストラル・ソードと同じことを鎧にしたらできたんだ。ユージ、これ知ってたの?」

 (知ってたらもっと早くやらせてた。たぶんこれであの黒い波も防げるはず)


 武器同士で切り結べるのなら、これで黒い波だって弾けるはずだ。そうなると、ライナスだけでも単独で動けて戦いやすくなる。魔力の供給先が2つになるから消費量も倍になるのが辛いけど。


 『意外と粘るが、外の様子も気になる。早々に決着をつけようか』


 魔王は再度力強く一歩前へと足を踏み出し、黒い波を出す。そして、そのままライナスの方へと向かって黒い剣を伸ばした。


 (ライナス、行くぞ!)

 「おう!」


 ライナスは魔王から伸びてきた黒い剣を長剣ロングソードで逸らせると、そのまま前へと進む。次に黒い波とぶつかるが、黒い火花が散るだけで何ともない。やっぱり、これはいける!


 『なんと』


 黒い波を受けて平気なことに魔王は目を見開いた。さすがにこれは意外なことだったらしい。ただ、黒い波を受けると一層魔力の消費が激しくなる。

 ライナスはそのまま更に距離を詰めて剣を左下から右上にかけて切り上げる。しかし、届かない。魔王はバックステップで躱す。黒い障壁で受けずに逃げるのか?

 その間に光盾ライトニングシールドで黒い波を防いでもらったバリーは、再び左から回り込んで魔王を攻撃しようとした。


 「はっ!」


 支援魔法をかけ直してもらったバリーは渾身の一撃を魔王に叩き込もうとする。しかし、再び黒い障壁に阻まれた。ただ、支援魔法分だけ威力が増しているせいか、槍斧ハルバードの刃先がぶつかった瞬間黒い火花が散る。そして、魔王は更に数歩下がった。

 バリーの攻撃は黒い障壁で受けるのに、ライナスの攻撃だけは嫌がるようだな。やっぱり決め手は星幽剣アストラル・ソードか。

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