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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
15章 終わりの始まり

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四天王ダンとの決戦

 次に景色が見えるようになったとき、周囲に枯れた木々がたくさんあるのが視界に入った。『枯れた森』の中なんだろう。

 そして、森に転送された直後から、かすかに何かを壊す音や笑い声みたいなものが聞こえている。笑い声ってどういうことだ?


 『チッ、思ったよりもこちらに寄ってきているみたいだ。本当はもっと北側で戦う予定だったのに』


 どうやら予想外のことが1つ増えたようだ。ただ、今のところ俺達が戦うのに不都合なことはなさそうだが。


 「で、どうする? このままダンのところまで行くかい?」


 魔方陣の外へ出たホーガンがライナス達に振り返って尋ねてきた。今更何か準備をしないといけないことはない。


 「はい、行きます」


 ホーガンの問いかけにライナスは頷いた。他の3人もだ。もうここまで来たら戦うだけである。


 「ああそれと、僕は戦いが終わってから合流するよ」


 最初から俺達だけで戦うように伝えられていたので、俺達はホーガンの言葉に素直に頷いた。


 「クルーカス、4人ともいいみたいだからダンの所に案内してあげて」

 『わかった。ついてこい』


 ホーガンを残して、俺達はクルーカスの案内でダンが暴れているという場所に向かった。

 『枯れた森』という名称が表している通り、クルーカスに従って移動しているライナス達の周囲には枯れた木々しかない。地面は完全に乾ききっており、雑草1つ生えていない。これでは洞窟の前に広がっていた荒野の方がまだ生きている感じがする。

 進むにつれて次第に音が大きくなってゆく。何かがぶつかる音だ。そして、聞き覚えのある笑い声もはっきりとしてきた。そうか、ダンが笑ってるのか。

 俺は枯れ木より上に移動して前方を確認する。すると、見覚えのある巨人ジャイアントが見えた。


 『見えてきた。あれがダンだ』


 更に近づいてゆくと、枯れ木の枝の奥に赤黒い皮膚をした巨人ジャイアントが見えるようになる。


 「ありがとう。あとは俺達がやる」

 『……わかった。周囲にいる巨人ジャイアントは俺達が引きつける』


 ライナスの言葉がつたないのは魔族語を使っているからだ。クルーカスはそれを聞いて頷くと、別の方角へと向かって飛んでいった。恐らく仲間に加勢するんだろう。


 「よし、みんな行くぞ!」


 そのかけ声に力強く頷いた3人は、ライナスを先頭にダンへと向かって更に進んで行った。




 クルーカスと別れてから尚もダンに近づいていくと、その状況が何となくわかってくる。目につく敵にばかでかい金棒を叩きつけ、隠れたら周囲の木々を吹き飛ばす。そんなことを繰り返しているようだ。周囲の木々はダンよりも背が高いとはいえ、全て枯れ木である。脆くなった幹に金棒が叩きつけられると一撃でへし折れた。


 『ははは! どぉこに行ったぁ!』


 たぶん、自分を傷つけられる相手がいないので、お遊び感覚で暴れているんだろう。俺達が見ても傷1つ見当たらなかった。

 そうやって好き勝手暴れていたダンがこちらに視線を向けたとき、俺達に気づいたようだ。暴れるのをやめてじっと見る。


 『あれ? お前らどっかでみたような……?』


 ライナス達が何者か思い出そうとしているようだ。そして、しばらくするとにかっと笑う。


 『あ、思い出したぞ! お前、ぴかって光る奴だったよな!』


 以前会ったときも思ったが、やっぱりこいつは頭の中まで筋肉っぽいな。実に巨人ジャイアントらしいといえばそうなんだけどな。


 「そうだ! 俺はライナス! お前を倒しに来た!」


 ライナスが魔族語を使って、つたない発音でダンに名乗りを上げる。実はメリッサに台詞を整えてもらったのは内緒だ。


 『へへぇ、俺を倒しに来たのかぁ。それじゃ、俺もお前を殺さねぇとなぁ!』


 やたらと嬉しそうに語るな。反魔王勢力の連中じゃ相手にならないそうだから、案外退屈していたのかもしれない。

 ダンは次の相手をライナス達と定めて迫ってくる。目の前の邪魔な枯れ木は金棒で吹き飛ばしてだ。やっぱり怖いなぁ。


 (身体強化ストレングスニング

 「身体強化ストレングスニング

 「魔力付与エンチャント


 俺、ローラ、メリッサがライナスとバリーに魔法をかけた。ライナスには身体強化ストレングスニングのみを、バリーの武器には魔力付与エンチャントもだ。祝福ブレッシングを使わないのは、当たれば一撃で死んでしまうことがわかっているからである。


 「バリー、行くぞ!」

 「おう!」


 魔法で身体強化した2人は通常では考えられないような速度でダンに迫る。魔法をかけた直後の俺は追いつけない。


 『おらぁ!』


 ダンが力任せにバリーへと片棒を振り下ろした。その直前にライナスは左に、バリーは右へと散る。

 その直後に金棒の触れた地面が爆ぜた。土の塊と土煙が舞い上がる。


 「うわ、土石散弾アースショットみたいやな」


 全くだ。直撃を避けても近辺にいると無事じゃなさそうだな。


 「おおぉ!!」


 ダンの左真横に回り込んだバリーは、その左のふくらはぎに真銀ミスリル製の槍斧ハルバードを叩き込む。これだけ大きいと外しようがない。槍斧ハルバードの刃先は半ばまでめり込み、どす黒い血があふれ出す。

 さすが真銀ミスリル製! やっぱりこれなら通じるんだ。


 『いっでぇぇぇぇ!!』


 傷つけられたダンは絶叫した。普段は怪我と無縁だから、こういった負傷には案外弱いのかもしれない。


 「ユージ!」


 遅れてやって来た俺はそのままライナスに飛び込もうとする。しかし、その前に痛さのあまり暴れ始めたダンを避けるためライナスが動いたことで、距離が開いてしまった。戦闘中に重なるのは予想以上に難しいな。


 『おめぇらぁ! ぶっ殺すぅ!』


 ダンは自分を傷つけたバリーに向けて金棒を叩きつけようと振り下ろす。それに対して身体強化で運動能力が上がっているバリーは、余裕をもって躱してダンとの距離をとった。しかし、ダンは尚も追撃しようとする。


 「光明ライト


 怒りのままにバリーを追おうとするダンの目の前に、ローラは光明ライトの魔法を発生させた。以前の戦いでメイかジャックがやったことだ。


 『うおっ?!』


 思わずダンは目を閉じて左手で振り払おうとした。しかし、物理的に存在しているわけではないので光明ライトは振り払えない。


 「火球ファイアボール


 メリッサが魔法を放ったとき、一瞬どうするのかわからなかった。しかし、火球ファイアボールがダンのふくらはぎに当たったときにその意図がわかった。


 『ぐあぁぁ!!』


 目を閉じたままのダンが再び絶叫した。バリーが傷つけたところを火球ファイアボールで炙ったのだ。なるほど、丈夫なのは皮膚だけか。

 このときになって、ようやく俺はライナスと重なることに成功する。次の瞬間、星幽剣アストラル・ソード真銀ミスリル製の長剣ロングソートに現れた。魔力がごっそりと持っていかれる。

 金棒を振り回しながら何歩か後ろに下がったダンは、再び目を開ける。そこへちょうど背後から迫ることになったライナスが、左ふくらはぎめがけて長剣ロングソードを横凪に払った。


 「はっ!」


 裂帛れっぱくと共に剣を振り抜いた後、ダンの左脚はふくらはぎから切断される。今までの苦労が嘘みたいな切れ味だ。予想していたとはいえ、実際に目の当たりにするとやはり驚く。

 しかし呆然とし続けているわけにはいかない。バランスを崩したダンが絶叫しながら倒れ込んできたからだ。


 「うわっ?!」


 ライナスは慌ててその場を離れる。その直後にダンは完全に倒れた。


 「右手を切るんや!」


 メリッサの叫びが響き渡る。金棒を使えなくしろというわけか。


 「よっしゃぁぁぁ!」


 ダンが倒れ始めると同時に突撃したバリーが、その右側へと回り込んで金棒を握りしめている右手に槍斧ハルバードを叩きつけた。槍斧ハルバードはバリーの狙い通り、ダンの右手4本の指を切断する。こうなってはもう金棒は持てない。

 再びダンの絶叫が森にこだまする。ライナスとバリーの攻撃が通用するとわかった以上、金棒を振り回すだけのダンは最早俺達の敵ではなかった。


 『じぐじょぉぉぉ!!』


 バリーにダンの注意が向いた瞬間、ライナスが首めがけて長剣ロングソードを振り下ろした。すると、左脚同様にあっさりと切断する。

 森に響いていたダンの声は、その瞬間、唐突に切れた。その首筋からは大量の血があふれ出す。


 「倒した……?」


 前回は全く歯が立たなかった相手だったので、倒せたという事実に俺達は呆然とする。


 「やった、やったぜ、ライナス!」


 ダンの死体を挟んで正面にいたバリーがいち早く立ち直った。走り寄ってくるとライナスの肩を叩く。


 「あ、うん。そうか。倒したんだ」


 ゆっくりと実感が湧いてきているらしいライナスの反応は鈍いが、それでも顔は綻んできた。俺も全身の力を抜いてライナスから離れる。

 向こうからローラとメリッサが駆け寄ってきた。これを見て、俺もようやくダンを倒したということを受け入れられるようになった。


 みんなで四天王の一角を倒せたことを喜んでいると、周囲に魔族がぽつぽつと現れてきた。全員驚いたような顔をしている。


 『お前達、ほんとうにやったんだな』


 クルーカスが若干驚いた表情のまま近寄ってきた。剣も魔法もなかなか通じない奴だったからな。


 「いやいや、すごいね。あのダンを倒すなんて!」


 反対側からはいつの間にかやって来ていたホーガンが、笑顔を浮かべながら俺達を褒めている。


 「さて、それじゃいったん引き上げようか。頃合いを見て、今度は魔王と決戦さ」


 いよいよか。これからどうなるのかわからないが、もう後戻りできないことだけは全員がはっきりと認識していた。

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