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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
15章 終わりの始まり

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魔界の情勢と王国の都合

 ホーガンが唱えた呪文によって魔方陣の輝きは増してゆく。それに従って、周囲の景色は見えなくなっていった。やがて周囲が白一色へと塗りつぶされてしばらくすると、再び景色に白以外の色が戻ってくる。


 「どこだ、ここは?」


 最初に呟いたのはバリーだった。

 魔方陣の周囲には4つの光明ライトが浮かんでいた。いつも点いているのか俺達のためなのかわからないが、これのおかげで周囲の景色がわかる。

 転移前は緑一色だった周囲は、灰色を基調としたものへと変化していた。形状からして洞窟のようだけど。


 「洞窟の中か?」

 「そうだよ。ここは大北方山脈にある洞窟の中さ」


 やたらと明るいホーガンの声が洞窟内に響き渡る。


 「そして、外へ出たらそこは魔界さ」


 続いて聞いた言葉の中にあった魔界という単語に全員が反応する。いよいよ魔界に入るんだな。魔族の住んでいる場所に。そう思うと緊張してくる。

 俺達はホーガンに従って魔方陣のある場所から歩き始めた。先頭を歩くホーガンが光明ライトを唱えたので足下は何とか見える。ただ、天然の洞窟そのままらしく、足場はかなり悪い。


 「出ていきなり囲まれる、なんて嫌やで?」

 「それは僕だって嫌だね。魔界の大半は確かに魔王に従っているけど、今から接触する魔族はそうじゃないよ」

 「人間に協力的なんですか?」

 「いや、反魔王ってだけだよ。別に人間に協力的ってわけじゃない。利用できるから人間を使うって言った方が正確だろうね」


 ホーガンにそう言われても俺達は驚かなかった。むしろそちらの方がしっくりとくる。


 「君たちが連絡をくれる時期によって色々と取るべき手段が変わるはずだったんだけど、一番いい時期に来てくれたね」

 「四天王のダンでしたよね」


 身長6アーテムの巨人ジャイアントだ。イーストフォート方面で初めて対したときは、本当にどうしようかと思ったな。苦手意識は今でもある。

 そんな俺の思いをよそに他のみんなは足場の悪い洞窟の中を歩いてゆく。10分くらい進むと外へと出た。


 「ここが魔界だよ」


 ホーガンが両手を広げてライナス達に振り返った。しかし、ライナス達は呆然とするしかない。


 「真っ暗で何も見えねぇ」


 バリーが呟いた。すると、おかしそうにホーガンが笑う。


 「そうだね。転移するときはもうほとんど夜だったからね。まぁ、魔界の景色は明日見てもらうことにしよう」


 しかし俺だけははっきりと見える。眼前に広がる風景は荒涼とした平地だ。草はあまり生えておらず、木などは見当たらない。砂漠というよりも不毛の大地と呼んだ方がぴったりといえる。今日はたまたま天気が悪いのか、どんよりと曇っていることが更に寂寥せきりょう感を強くさせていた。


 「迎えの魔族が明日来てくれるはずだから、今晩はこの洞窟の中で過ごすとしようか」


 俺達はホーガンの言葉に従って少し洞窟内に戻った。そしてそこで座って保存食を囓る。少し離れたところではホーガンも同じように干し肉を口に入れていた。


 「さて、僕はもう寝るね。見張りは必要ないと思うから、僕はやらないよ」


 意外と少食らしく、ライナスの半分くらいを食べるとホーガンはさっさと横になった。この辺りに詳しいのか?

 それでも不安だった俺達は、2時間交替で1人だけ不寝番をするといういつものやり方を通すことにした。そもそもホーガン自身が信用できないんだから、その言葉を鵜呑みにしてはいけない。

 ただ、その日の夜はホーガンを含めて何事もなかった。




 翌日、俺達はいつも通り全員が起きた。ホーガンはそれよりも少し遅めだ。迎えの魔族はすぐ来ないんだろうか。


 「洞窟の入り口で迎えを待とう」


 簡単に朝飯を済ませたホーガンは、そう言って洞窟の入り口に向かって歩き始める。こっちとしても文句はないのでその言葉に従った。


 「では改めて、ここが魔界だよ」


 今度はライナス達も眼前に広がる荒野を目にすることができた。今日もどんよりと曇っている。


 「随分と寂しい感じがするわね。他はもっと違うのかしら?」

 「程度の差はあれ、大体どこも似たような感じだよ。魔界は基本的に貧しいんだ」


 全員がホーガンに視線を向ける。もしかして、食うに困って王国へ攻めたのか?


 「食べる物を巡って争っていたときは一定数の死者がいることでバランスは取れていたらしいんだけど、統一してからは魔族の数が減りにくくなったせいで食べる物が不足したらしいんだ」

 「それで王国へ侵攻したんか」


 人間側としてはたまったものじゃないが、王国を攻めた理由については納得できる。そうか、人間が憎いとか戦いが好きだからとなそういった理由じゃないんだな。真っ当すぎて逆に少し驚いた。


 「それで、四天王のダンとはどこで戦うんだ?」

 「これから魔族に案内してもらうんだ。その魔族が来るまではここで待つんだよ」


 バリーの質問にもしっかりと答えてくれる。

 しばらくすると、俺達の右手から大北方山脈の麓に沿って1人の魔族が飛んできた。王都方面での戦いの経験から、魔族の中でも強いと推測する。

 その魔族はやがて俺達のいる洞窟の入り口の前で止まり、声をかけてきた。


 『お前がフランク・ホーガンか?』

 「そうだよ、君は?」

 『俺はクルーカスだ。四天王ダンが暴れているところにこれから連れて行く。この4人が例の奴等か?』


 魔族のクルーカスはやっぱり魔族語を使っているな。こっちでわかるのは俺とローラとメリッサの3人だ。ライナスは片言だけでバリーは覚える気すらない。

 クルーカスは少しの間値踏みするようにライナス達を観察していたが、再びホーガンへと視線を戻した。


 「そうだよ。それで、そっちはどうなってるのかな?」

 『予定よりも早くダンが暴れ始めたせいで、こっちにも被害が出た。倒せるなら早く行って倒してもらいたい』


 どうやら完全に予定通りではないみたいだな。普通はあんなのと真正面からやり合うなんて思わないから、内心かなり焦っているのかもしれないな。


 「他に予定と違うところはあるかい?」

 『時間がないから近くまで転移魔方陣で移動する。1回だけの使い捨ての魔方陣を用意している』


 どうも仲間に用意してもらったらしい。こちらには全く現実感がないが、クルーカスの方はかなり切羽詰まっているようだ。


 「あの、向こうの状況がどうなっているのか、詳しく教えてもらえますか?」


 ライナスがホーガンとクルーカスの2人に声をかけた。事態は進んでいるようだが、俺達は完全に置いてけぼりだ。何がどうなっているのかさっぱりわからない。


 「今から説明するよ。今回ダンをおびき寄せるため、反魔王の勢力に魔王軍の補給路を襲撃し続けてもらったんだ。場所は魔界の東の端近く、イーストフォート方面へ抜ける大北方山脈近辺でね。そして、それを鎮圧するためにダンが自らお出ましになったってわけさ」


 死の砂漠の反対側であるこの地域は、最後まで魔王に抵抗していたらしい。そのため、いまでも反魔王の気風が強いため、こういった計画を実行できたのだそうだ。


 「王国側としても、魔王軍の侵攻経路が1つなくなるのは大きな利益だから、今回こうしてお手伝いをすることになったんだよ」


 人間であるライナス達が協力するんだから、王国側にだって利益があって当然だよな。なるほど、よく考えられてる。


 「これは人間側の戦いでもあるんだよな」

 「そっか、それならこの戦いにも意義があるわね」

 「ただの試験っちゅーわけやなかったんやな」

 「あいつにゃ借りを返さねぇとな!」


 4人も最終試験という意外に戦う意味を見いだせたおかげで、やる気が湧いてきたようだ。


 「それで、ダンが暴れているところが『枯れた森』と呼ばれる所なんだ。ここには枯れた木々しかないんだよ」


 何の遮蔽物もない平地で戦うと俺達が不利になるので、この場所をダンとの対決の場に選んだらしい。


 『現在、ダンは少数の巨人ジャイアントと一緒に我々と戦っている。ダン以外は何とかなるが、あいつだけはダメだ』

 「でもなんで予定よりも早く暴れたんだい?」

 『たまたま仲間が見つかってしまったんだ』


 顔をしかめながらクルーカスが答えた。


 「わかりました。行きましょう」


 ライナスの言葉にクルーカスは頷く。


 『今から転移魔方陣を用意するから、少し待ってくれ』


 そう言うと、クルーカスは少し離れた開けた場所に移り、1枚の紙を地面に置く。そして、何やら呟くと紙自体が輝いて消え去り、地面に5アーテム程度の魔方陣が現れた。これ、昨日使ったやつと同じじゃないのか?


 『よし、準備できた。乗ってくれ』


 魔方陣の上にいるクルーカスがホーガンとライナス達を呼び寄せる。みんな素直に魔方陣の上に乗った。


 「もし、君達がダンを倒すことができたら、反魔王勢力は各地で立ち上がることになっているんだ。つまり、君達は一斉蜂起の狼煙のろしというわけさ。そのためにも是非ダンを倒してもらいたいね」


 魔王軍の主力が外国である王国に出払っている上に、四天王の一角が倒れたとなると反旗を翻す好機というわけか。そしてそれは、魔王軍の侵攻に苦しんでいる王国のためにもなる。


 『いいか? 転移するぞ』

 「「「「はい」」」」


 ライナス達が返事をすると、クルーカスは呪文を唱える。すると魔方陣が次第に輝きを増した。最後には、光の輝きの中に俺達の姿が全てかき消えた。

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