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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
15章 終わりの始まり

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案内人

 最北の森での修行は、真銀ミスリル製の武具を使い慣れるところから始まった。他にもパーティ連携の強化や星幽剣アストラル・ソードの修行など、やらないといけないことはいくらでもあったので色々と試行錯誤してゆく。

 特に星幽剣アストラル・ソードは切り札になる手段だけに、戦闘のときはできるだけ使おうとした。しかし、発動させるときに大量の魔力を必要とするのは厄介だな。実際に試してみてわかったが、1日に2回発動させるよりも、1回発動させてずっとその状態を維持している方が燃費はいいようだ。


 「つまり、戦闘の度に発動させるんじゃなくて、ずっと発動させっぱなしの方がいいわけか。長期戦で魔力切れっていう心配はしなくていいんだよね」


 ただ、ライナスと一体化している間は、他にできることといえば魔法を使うことくらいか。別行動して挟み撃ちというようなことはできないわけだ。


 「魔王のいるところへ入ったら、きっと連戦だから発動させっぱなしじゃねぇか?」


 確かにその可能性は高い。休む暇はないが、みんなそれは覚悟している。

 それと星幽剣アストラル・ソードの切れ味は魔力に左右されることがわかっていたが、実際の戦闘では星幽剣アストラル・ソードを維持する最小量に近くても、結構切れることがわかった。魔王や四天王相手だと全力でないとまずいだろうが、それ以外ならばあまり深刻に捉えなくてもいいようだ。


 「それにしても、でたらめな切れ味やな。平気で鎧ごと真っ二つやもんな」

 「でないと魔王相手の切り札にはならないわよね」


 毎回の戦闘で繰り返し見る星幽剣アストラル・ソードの威力について、メリッサとローラはよく感心していた。

 しかもこの星幽剣アストラル・ソードは何と魔法も切れる。闇槍ダークスピア火球ファイアボールのような飛来してくる魔法をばっさりだ。まさかと思って試してみたらできたので、初めて見たときは思わず笑ってしまった。

 ただし、闇散弾ダークショットのような範囲魔法の場合は闇弾1つずつには有効だが、闇散弾ダークショットそのものをかき消すようなことはできない。他にも拘束バインディングのような直接誰かの体にかける魔法もさすがに切れない。


 「それでも魔法を切れるなんて羨ましいぜ」


 それは俺も思う。俺も魔力を提供しているんだから自分もやっていると主張できるが、違うんだよな。どうしても自分でやったという気にはなれない。やっぱり実際に体を動かさないといけないんだろうな。

 こうして6月の終わり頃まで、俺達は実際の戦闘を繰り返すことで修行を積み重ねていった。




 夏を目前に控えた最北の森の中も気温は少し上がっている。ライナス達を見ていると、防具を次第に暑苦しく感じるようになってきているようだ。

 そんな中、真銀ミスリルの武具や星幽剣アストラル・ソードを使い慣れてきたと感じるようになった4人は、1つ迷っていることがあった。


 「なぁ、みんな。あの赤い玉なんだけどさ、そろそろ使おうか?」


 ある日の夕方、ライナスは夕飯後の談笑が一区切りついたときに、そんな話を提案した。


 「ライナス、星幽剣アストラル・ソードはもう使いこなせるの?」

 「ああ、もう大丈夫だと思う。それに、練習のしすぎでユージの魔力がなくなると困るからね」


 正確な魔力量がわからないので、ある日突然切れてしまう可能性だってある。そのため、星幽剣アストラル・ソードに関しては、修行を重ね続けるというのは良くなかったりするのだ。


 「俺も槍斧ハルバードはばっちりだぜ!」

 「うちもローラももう問題はないなぁ」

 (俺も特にやらないといけないことは思いつかないな)


 アレブのばーさんには、いけると思ったら赤い玉に魔力を注ぎ込めと言われている。その後、案内人が現れて最終試験をするらしいんだが、それに合格するといよいよ魔王と対決することになるわけだ。

 ライナス達が一人前の冒険者になった頃は、純粋に各地を回るのが楽しかった。魔王討伐隊なんて名乗っていても、そもそも魔界へ行く手段すらなかったからな。案外期待外れという烙印を押されて見放されるということも密かに考えていた。

 しかし、それが今やどうだろう。魔王討伐まであと少しだ。ばーさんは俺達ならできると言っているが、未だにそんな実感はない。

 だから赤い玉を使うのに不安がある。たぶん、これを使って案内人を呼んだら魔王の所まで一直線だろう。ばーさんは俺達次第なんて言ってたが、間違いないはずだ。


 「みんなもうやることがないんだったら、早く最終試験ってやつを受けようぜ!」


 あれ、バリーがあっさりと言ってのけたな。こいつは悩んでなかったのか?


 「バリーは迷いがないな」

 「不安はあるけどよ、どうせ魔王を倒さないといつまで経っても戦争は終わらねぇんだろ? だったらやるしかねぇよ」


 ばーさんの思惑はともかく、確かにこの戦争を仕掛けた魔王を倒さないと魔族に攻められ続けるのは違いない。ああそうか、最初から選択肢なんてなかったよな、確かに。


 「それじゃ、赤い玉に魔力を注ぐのね?」

 「ライナスが代表してやってや」


 メリッサに促されて、受け取った赤い玉にライナスは魔力を注いだ。あれだけ迷っていたのにやるとなるとすぐだな。

 しばらくすると、ぼんやりと光る。


 「これでいいのかな?」

 「後は待つだけなのよね」


 みんなはぼんやりと光る赤い玉を何ともいえない表情でしばらく眺めていた。




 ばーさんは、赤い玉に魔力を注いだら1日くらい待てって言っていた。だから翌日は野営した場所でずっと待っていた。もしもう1日待って誰も来なければ、緊急連絡用の水晶を使ってばーさんに相談するつもりだった。しかし、その必要はなかった。

 その日の夕方、意外な人物が俺達を訪ねてきたからだ。


 「やぁ、また会ったね」


 俺達の前に現れたのは、なんとあのフランク・ホーガンだった。ライナス達も思わず呆然としている。


 「あれ、どうしたの?」

 「どうしてあなたが……?」


 ローラが何とか声を出した。確か教会に調査依頼を出して……あれ、それから続報を聞いていないな。そういえば、ばーさんの方もだ。しまった、これじゃ何もわからないままだぞ。


 「どうしてって、アレブ殿に頼まれて君達を迎えに来たんだよ」

 「あんたはアレブさんの知り合いなのか?」

 「そうだよ。仕事を頼んだり頼まれたりする仲かな」


 つまり、ばーさんはこいつのことを知っているのか。

 俺達は警戒を解くことなくフランク・ホーガンと名乗る男と対峙する。


 「けど、どうしてみんなそんなに警戒しているんだい? 僕って何かした? 王都で1回会っただけのはずなんだけどなぁ」


 確かにそうなんだけど、旧イーストフォートで聞いた話や200年間で何度も聖騎士団に同姓同名の名前が載っていることなどが脳裏にちらついて、どうしても身構えてしまう。


 「あー、実はですね……」


 ライナスがフランク・ホーガンという人物についての話を簡単に説明した。それを聞き終わったホーガンは苦笑いする。


 「僕は人間だよ。80年前なんて生まれてすらいない。それに聖騎士団の名簿について何だけど……あー、もういいか。あのね、実は僕、王家側の密偵なんだ。いろんな言えない事情があって聖騎士団に潜り込んでいるんだよ」


 意外な事実が発覚する。王家が聖騎士団に密偵を潜り込ませていたんだ。


 「そ、そんなことをするなんて!」

 「おっと待って、聖女様。これはお互い様だよ。教会だって王家側に色々と探りをいれてるんだから」


 政治権力の話としては納得できる理由だ。俺達としては不満はあるけど、ホーガンに当たったところでどうしようもない。


 「潜り込むにあたってフランク・ホーガンって名乗ったのは、その人の席が空いたままだったからだよ。別に作ってもよかったんだけど、あるんなら利用しちゃえって思ってね」


 えらく軽いな。そんないい加減なことでちゃんと密偵としての仕事ができるんだろうか。


 「それじゃ、アレブさんが積極的にあんたのことを調べようとせえへんかったんは……」

 「自分の手駒をわざわざ表に晒すわけないでしょう? もっとも、教会が僕のことを調べ始めたようだからもう抜けたけど」


 もし仕事の邪魔をしたとしたら悪いことをしたのかもしれない。


 「僕のことはもういいかな? あんまり色々と話せる身分じゃないから、まだ信用できないって思うならアレブ殿に確認するといいよ」


 とりあえず事情はわかった。証明する術はないが、いや、ばーさんに確認すればいいんだが、本人がここまで言うなら本当なんだろう。


 「これからのことっていうのは、最終試験のことですね」

 「そうだよ。これから君達は魔界に行って、おびき出された四天王のダンと戦ってもらう」


 いきなり衝撃的なことを伝えられた。試験相手が巨人ジャイアントのダン?! しかもおびき出すって今言ったな。


 「これから魔界に行くっちゅーんですか?!」

 「それに、四天王をおびき出すって、そんなことできるんですか?!」


 メリッサもローラも驚いている。その反応を予想していたのか、ホーガンは説明を続ける。


 「魔界へはアレブ殿が作った転移魔方陣を使うよ。そして、四天王をおびき出すっていうのは、魔族に協力者がいてね、お膳立てをしてもらったんだ」


 魔王を恨んでいる魔族か。そういえば、オフィーリア先生も隔意があるって言ってたっけ。魔界を統一する途中で倒した相手もいるだろうから、その関係者なのかもしれない。


 「その話が本当だとしても、どうやって魔界の協力者と知り合えたんですか?」

 「ライナスの疑問はもっともだね。でも難しい話じゃないよ。魔王軍が王国に攻めてくる前は、ごくわずかだけど人間と魔族って交流があったんだ。そのときの伝手がアレブ殿にはあったってわけさ。戦争が始まってからは転移魔方陣や連絡用の水晶を使って色々やってるのさ」


 俺達は呆然とした。あのばーさんは手広いな。魔界にも知り合いがいるのかよ。


 「侵攻前に交流があったっちゅーことは、うちも本で見たことがある。主に人間が魔界に乗り込んどったようやけど」

 「どうだろう。納得してもらえたかな?」


 こちらの疑問には全て答えてもらえたし、密偵という立場である以上、秘密があるというのも理解できた。


 「それで、前に俺達がやった相手、えっと、四天王のダンっすよね。そいつをやればいいんすか?」

 「そうだよ。もし勝てたら、一旦別の場所に移って待機して、その後魔王と対決することになるよ」


 いきなり突撃じゃなくて、ワンクッション置くのか。こっちも傷の治療なんかもあるだろうしな。


 「結局、俺達が魔王と戦うんですね」

 「そうだね。僕からするとご愁傷様としか言いようがないよ」


 苦笑いしながら言われてもなぁ。


 「それじゃ、今から転移用魔方陣のあるところに案内するね。ついてきて」


 そう言ってホーガンは背を向けた。

 1時間後、整地された5アーテム四方の平地に複雑な文様が描かれた魔方陣があった。


 「はい、それじゃこの上に乗って」


 一番最初に魔方陣の上へと乗ったホーガンがライナス達を促した。4人はその求めに応じて上に乗る。


 「それじゃ、起動させるからね。じっとしててよ」


 そう言うと、目を瞑って呪文を唱える。転移の魔法は習ってないのでわからないが、これ、魔族語じゃないか?

 不思議に思っていると魔方陣が次第に輝きを増す。

 その中で俺は再度ホーガンに目を向けた。やはり何度見ても変わらない。なぜか輪郭がぼやけて見える。しかも、王都で会ったときと同じように妙な圧迫感もだ。

 話におかしなところはなかったが、俺にはそれが全部嘘のように思えてならない。なんて言うか、存在そのものが嘘みたいに思える。

 そんなことを考えているうちにも魔方陣の輝きはより一層強くなる。そして、最後には、俺達の姿は最北の森から消えた。

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